虹を描く少年 3
休日のわんわんお広場はたくさんの人で賑わっている。中央には雄々しくも、どこか愛嬌のある顔をしたわんわん像があって、春の麗らかな陽気に当たって、ひなたぼっこをしている。そこから少し離れた場所に噴水があって、いつものようにアルバが似顔絵を描いている。だがこの日はいつもと違った。今まさに情熱を燃やしている少年の前に、いつしか忘れていた路傍の花が歩いてきた。そうとも知らず、アルバはただ少女を見ては惚けている。遠慮深げに少女が口を開いた。
「あの」
「あ……、はい!」
「似顔絵、やってますか?」
「はい、やってます」
「どんなものか見せてもらえますか?」
「わかりました」
言ってアルバが横にいたオメガを描いたスケッチブックを見せる。ショートヘアーの黒髪から犬耳を垂らして、深紅のメイド服を着た少女が言った。
「描いてある子、可愛いですね」
それを聞いてオメガが照れ臭そうにしてはにかんだ。
「おいくらですか?」
「一アール以上、戴ければ」
「一アール以上?」
「お客様に値段を決めてもらっています」
「どのくらいで出来ますか?」
「十五分で出来ますよ」
「ではお願いします」
「あ、ありがとうございます!」
嬉々とした声でアルバが言いながら立ち上がった。そしてハンカチでいつもより念入りに丸椅子を磨き、少女を座らせて描き始める。そうしてアルバの言った通りに十五分で似顔絵は完成して、色紙を手渡した。
「これ、わたし……、ですか?」
持っている色紙には少女の肩から上が描かれ、目の輝きや輪郭の線、髪や睫毛の質感が濃淡のみで表現されている。
「ダメ……、ですか?」
アルバが自信なさげに聞くと少女が、
「ううん、凄くいいです」
そう言って笑顔の花を咲かせた。
「あの……」
「はい」
「この右隅にある文字は?」
「ああ、それはぼくのイニシャルです」
「良ければ、お名前教えてもらえますか?」
「アルバ、アルバ=アージェンティーク」
「だからA.Aと書いてあるんですね、わたしはシャノワ=ミネット、よろしくね」
「よろしく」
「またお願いしてもいいですか?」
「もちろんですよ」
「良かった、じゃあこれ」
言ってシャノワが財布から一アール銅貨を取り出して、アルバに手渡した。
「それじゃあ、また来ますね」
「ありがとうございました」
アルバが立ち上がって言うと、シャノワは軽くお辞儀をして、それから広場を去っていった。恍惚とした表情でアルバが余韻に浸っていると、ふいにオメガが呼んだ。
「ニーニ」
「うん?」
「あの子、かわいかったね」
「うん、可愛かった」
「また来るって言ってたね」
「また来るって言ってたなあ……」
「よかったね」
「うん……」
「ニーニ、顔がニヤけてるお」
「う、うるさいな」
「ニーニが恥ずかしがってるおっお」
「オ、オメガ!」
「おっおっおっ」




