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ドジっ娘錬金術師は失敗から最適解を導く 〜なぜか私の爆発だけが世界を進化させる〜  作者: same_freq
なぜか私の爆発だけが世界を進化させる

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ランチタイムの秘密

研究三日目の昼。

「エリカさん、お昼にしましょう」

リオンが実験器具を片付けながら言った。

「そうですね……お腹空きました」

エリカは疲れた様子で伸びをした。朝から五回も爆発させていた。

「学校の食堂に行きますか?」

「あ、でも……」

エリカは少し躊躇った。

「どうかしましたか?」

「いえ、食堂だと……また、変な目で見られそうで……」

確かに、エリカは学校中で有名だった。「爆発娘」「落ちこぼれ」。三年間、そう呼ばれ続けてきた。

「では、外に行きましょう」

リオンは提案した。

「学校の近くに、美味しいシチューの店があります」

「シチュー……」

エリカの表情が少し曇った。

「どうかしましたか? シチューは苦手ですか?」

「い、いえ! 大好きです! 行きましょう!」

エリカは慌てて笑顔を作った。

しかし、心の中では不安が渦巻いていた。

(シチュー……大丈夫かな……)

二人は学校の門を出て、石畳の道を歩いた。

「あの店は、『黄金の鍋亭』といいます」

リオンが説明する。

「クリームシチューが絶品なんです。野菜もたっぷりで」

「美味しそうですね」

「ええ。私もよく通っています」

十分ほど歩くと、こぢんまりとした店が見えてきた。木造の温かみのある外観。看板には鍋のマークが描かれている。

「ここです」

店に入ると、昼時で賑わっていた。

「いらっしゃい! リオン君じゃないか!」

店主——恰幅の良い中年男性——が笑顔で迎えた。

「こんにちは、マルクさん。今日もクリームシチューを」

「おう! お連れは?」

「私の研究助手です。エリカさん」

「はじめまして……」

エリカは小さく頭を下げた。

「おう! 可愛い娘さんだね! ゆっくりしていきな!」

二人は窓際の席に座った。

「ここの店、雰囲気いいですね」

「ええ。料理も美味しいですし、静かで落ち着けます」

しばらくして、シチューが運ばれてきた。

大きな陶器のボウルに、湯気を立てるクリームシチュー。じゃがいも、人参、玉ねぎ、鶏肉がたっぷり入っている。

「うわ、美味しそう……」

エリカの目が輝いた。

「どうぞ、召し上がってください」

リオンがスプーンを取る。

エリカも——慎重にスプーンを手に取った。

(大丈夫……混ぜなければ、何も起こらない……)

エリカには秘密があった。

シチューを混ぜると、爆発する。

正確には、シチューを混ぜ(シチューを食べるためにすくうことすらも混ぜるに含まれる)、何かをトッピングすると、小規模な爆発が起こる。

それを知ったのは、一年前。自宅でシチューを作った時、母の形見のハーブをトッピングしようと混ぜた瞬間——ボンッ! と小さな爆発が起きた。

以来、エリカはシチューを食べる時、絶対に混ぜないようにしていた。

そもそも、シチューを混ぜるのは行儀が悪い。出来上がった料理に勝手に何かを加えるのも、料理人に失礼だ。だから、普通に食べていれば、誰にもバレない。

(そっと、上から食べれば……)

エリカは慎重にスプーンで表面をすくった。

口に運ぶ。

「美味しい……!」

濃厚なクリーム、柔らかい野菜、ジューシーな鶏肉。全てが完璧だ。

「でしょう? ここのシチューは最高なんです」

リオンも嬉しそうに食べている。

エリカは安心した。このまま、普通に食べ切れば——

「おい、何見てんだよ!」

突然、店内に怒鳴り声が響いた。

隣のテーブルで、二人の男が立ち上がっていた。どちらも学生服を着ている。

「見てねえよ! 勘違いすんな!」

「嘘つけ! さっきから俺の彼女をチラチラ見てただろ!」

「被害妄想だ! 誰がお前の彼女なんか……」

「何だと!?」

男の一人が、相手の胸ぐらを掴んだ。

「やめろ! 店の中だぞ!」

「うるせえ!」

周囲の客が騒然となる。

「これは……」

リオンが立ち上がった。

「仲裁に入らないと」

「え、危ないんじゃ……」

「放っておけません。エリカさんも来てください」

「え!? 私も!?」

「ええ。女性がいた方が、落ち着くかもしれません」

リオンは二人の間に割って入った。

「落ち着いてください! 暴力は……」

「邪魔すんな!」

男の一人が、リオンを押した。

「わっ!」

リオンがよろけた瞬間、エリカが慌てて支えた。

「リオン先輩! 大丈夫ですか!?」

「ええ、平気です……」


「この野郎!」

リオンを押した隙をみて、相手の男が、拳を振り上げ殴りかかる——


ぢゅぽんっ!!


唐突な爆音は、喧噪を爆ぜさせ、静寂をまき散らした。



——時は戻り、エリカとリオンが店に入った直後

店には、先客がいた。

同じ学校の制服。長い金髪、整った顔立ち。エリカの同期、クラリッサ・フォン・ハイデルベルクだった。

「あら、リオン様。こんなところで」

クラリッサは甘い声で言った。

「クラリッサさん。こんにちは」

リオンは礼儀正しく挨拶した。

しかし、クラリッサの目は冷たい。特に、エリカを見る時は。

(この女……リオン様と二人で食事なんて……)

クラリッサはリオンに密かに想いを寄せていた。しかし、最近リオンは、落ちこぼれのエリカとばかり過ごしている。

(許せない……)


——「おい、何見てんだよ!」

突然、店内に怒鳴り声が響いた。

クラリッサは迷惑そうに一瞥をしたが、すぐに興味を失った。

しかし、リオンは席を立ち、ケンカを止めに入ろうしている。忌々しいことにあの女も一緒だ。

(この騒ぎに乗じて……)


クラリッサは、彼らの席に近づき横を通り過ぎる振りをして——

さっと、小瓶からエリカのシチューに何かを振りかけた。

タバスコだ。大量に。

(これで、リオン様の前で恥をかくがいいわ……ん?)


白濁の火口

平穏を湛えていたシチューの表面に、ふつりと粘り気のある泡が持ち上がる。

それは一瞬、完璧な真珠色の半球を形作り、次の刹那、堪えきれなくなった熱量に内側から肺を突き破るようにして「爆ぜた」。


飛び散る白濁した液体は、重力に逆らう無数の「白き火花」だ。

砕かれた陶器の欠片のように、あるいは行き場を失った星屑のように、クリームの飛沫は宙で鮮やかな弧を描く。

それは無秩序な星座を空間に刻み、頬や口元、シャツの胸元へと、情け容赦なく、そしてどこまでも優雅に「着弾」した。


肌に触れる熱は、驚くほど生々しく、それでいてどこか遠い出来事のように静かだ。

布地に吸い込まれていく白濁した液体の輪郭は、刻一刻と形を変え、未知の地図を広げるように白い肌と白い布地を白く濁らせていく。


「きゃああああ!」

悲鳴が上がる。

「いやああああ! 何これ!? 熱い! 汚い!」

クラリッサは顔も服もシチューまみれで、絶叫している。


静寂から一転、店内が騒然となり、目線は喧嘩からクラリッサの方へ。

喧嘩していた二人の男も、爆発音に驚いて動きを止めた。

「な、何だ今の!?」

「爆発か!?」

店主が慌てて駆けつける。

「だ、大丈夫か!?」


「す、すみません……」

エリカは真っ青になっていた。

リオンも、唖然としている。

「一体、何が……」


クラリッサが怒り狂って、エリカに叫んだ。

「あなた! わざとやったんでしょ!」

「ち、違います! 本当に事故で……」

「嘘よ! 私がリオン様と親しくしてるのが気に入らないんでしょ!?」

「そんなこと……」

リオンが冷静に状況を観察した。

シチューの残骸を見ると、タバスコの小瓶が近くに転がっている。

「クラリッサさん」

リオンが静かに言った。

「このタバスコ、あなたが?」

「え……」

クラリッサの顔が強張った。

「いえ、知りません……」

「僕たちのテーブルには、タバスコがあり、あなたのテーブルには無いようですが。」

「それは……偶然……」

「偶然にしては、タイミングが良すぎます」

リオンの声は冷たかった。

「あなたが入れたんですね」

周囲の視線が、クラリッサに集中する。

「ち、違います! 私は……」

「でも、爆発するとは思っていなかった」

リオンは続けた。

「ただの嫌がらせのつもりだった。それが、予想外の結果になった」

クラリッサは言葉を失った。

そして——泣き出した。

「だって……だって……リオン様が、こんな落ちこぼれとばかり……」

「クラリッサさん」

リオンは厳しく言った。

「エリカさんは落ちこぼれではありません。優秀な研究者です」

「でも……」

「そして、私の大切な助手です」

その言葉に、エリカは驚いた。

「リオン先輩……」

「嫌がらせは許しません。謝罪してください」

「……ごめんなさい」

クラリッサは小さく謝った。

そして、シチューまみれのまま、店を飛び出していった。

店内に、気まずい沈黙が流れる。

「あの……」

エリカが申し訳なさそうに言った。

「本当にすみませんでした。掃除します……」

「いや、いいよ」

店主は苦笑した。

「お嬢ちゃんのせいじゃない。それより、代わりのシチューを持ってくるから別のテーブルで食べて行ってくれ。うちの自慢のシチューだ。」

「は、はい……あ、ありがとうございます……」


店主が厨房に戻った後、リオンがエリカに尋ねた。

「エリカさん、一つ聞いていいですか」

「は、はい……」

「シチューが爆発したのは、初めてですか?」

エリカは躊躇した。

嘘をついても、バレるだろう。

「……いえ」

「やはり」

リオンは興味深そうに言った。

「前にもありましたか?」

「一年前……自宅で……」

エリカは小さく答えた。

「シチューを混ぜて、ハーブをトッピングしたら……」

「爆発した」

「はい……」

リオンは目を輝かせた。

「つまり、あなたの『特性』は、錬金術だけではない」

「え……」

「料理でも発動するんです」

リオンはノートを取り出し、書き始めた。

「シチューを混ぜ、何かを加える。その行為が、あなたの無意識的な魔力と反応する……」

「あの、リオン先輩……」

「これは重要な発見です。つまり、あなたの能力は、錬金術という枠を超えている可能性がある……」

「リオン先輩!」

エリカが少し大きな声を出した。

「私、もうシチュー食べられないんですか……?」

リオンは書く手を止めた。

そして、エリカの悲しそうな顔を見て——笑った。

「大丈夫です」

「え?」

「混ぜなければいいんでしょう?」

「はい……」

「なら、普通に食べれば爆発しません。問題ありません」

リオンは優しく言った。

「あなたの特性を理解すれば、対処できます」

「本当ですか……?」

「ええ。それに」

リオンは窓の外を見た。

「あなたの爆発は、もはや私たちの日常です。シチューが加わったところで、驚きませんよ」

その言葉に、エリカは少しほっとした。

「ありがとうございます……」

新しいシチューが運ばれてきた。

「ほら、熱々だよ!」

「ありがとうございます!」

エリカは慎重に——混ぜずに——スプーンですくった。

口に運ぶ。

「美味しい……」

「良かった」

リオンも自分のシチューを食べ始めた。

二人は静かに食事を続けた。

外では、さっきの喧嘩していた男たちが、爆発の衝撃で仲直りしたのか、肩を組んで去っていくのが見えた。

「あの二人、仲直りしたみたいですね」

「ええ。爆発のおかげかもしれません」

「私の爆発が……喧嘩を止めた……?」

「そうですね」

リオンは笑った。

「あなたの爆発は、時として予想外の効果をもたらします」

「それって……良いことなのかな……」

「良いことです」

リオンは断言した。

「少なくとも、私にとっては」

エリカは頬を赤らめた。

「あの……リオン先輩」

「はい?」

「さっき、『大切な助手』って……」

「ああ、言いましたね」

リオンはあっさりと答えた。

「事実ですから」

「そ、そうですか……」

エリカは嬉しくて、もう一口シチューを食べた。

(大切な助手……か……)

その言葉が、心に温かく響いた。

食事を終え、店を出る。

「ごちそうさまでした!」

「また来いよ!」

店主が手を振る。

「でも、次は爆発させないでくれよ!」

「が、頑張ります……」

エリカは苦笑した。

二人は学校へと歩き始めた。

「エリカさん」

「はい?」

「今日の爆発も、後で記録に残しましょう」

「え……シチューも……?」

「ええ。全てがデータです」

リオンは真剣に言った。

「あなたの能力の全容を解明するには、錬金術以外の事例も重要です」

「はあ……」

エリカはため息をついた。

「私、一生爆発と付き合っていくんですね……」

「おそらく」

「食事すらまともにできない……」

「大丈夫です」

リオンは励ました。

「混ぜなければいいだけですから」

「でも、カレーにチーズとかスープに胡椒とか、混ぜた方が美味しいものもあるんですよ……」

「それは……確かに問題ですね」

リオンは考え込んだ。

「混ぜても爆発しない方法を、研究しましょう」

「本当ですか!?」

「ええ。『エリカさんの食生活改善プロジェクト』です」

「なんか、研究対象みたいな扱いですね……」

「まあ、ある意味そうですが」

二人は笑った。

午後の日差しが、二人を照らしている。

研究室に戻る道。

エリカは、ふと思った。

(リオン先輩と一緒なら……爆発も、悪くないかも)

そして——

(でも、デートで爆発は勘弁してほしいな……)

と、少し先のことを想像して、顔を赤らめた。

「どうかしましたか? 顔が赤いですが」

「な、何でもありません!」

「そうですか? 体調が悪いなら、今日は休憩しても……」

「大丈夫です! 元気です!」

エリカは慌てて否定した。

(デートとか……まだ早すぎるよね……)

(でも、いつか……)

そんなことを考えながら、二人は廃棄実験室へと戻っていった。

午後の実験が、また始まる。

爆発と共に。

研究と共に。

そして——

少しずつ深まっていく、二人の絆と共に。


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