第10話 約束の口づけ
私の成人を祝う祝宴が、今夜、宮殿の大広間で執り行われる。
私は周囲の目を盗み、白蓮の部屋を訪れた。
重い扉をそっと押し開けると、そこには白銀の舞衣に身を包んだ彼がいた。
「……愛漓様?なぜここに」
振り返った白蓮と視線が合う。
あの情熱的な記憶が脳裏に甦る。
私の肌を蹂躙した彼の指、そして、抗えずに漏らしてしまった私の声。急に顔が火を噴くように熱くなり、私は思わず視線を泳がせた。
「は、話をしたくて……。今は、お兄様の目も気にせずにすむから」
「だからって」
「お、怒っているの?それなら、いいわ」
引き返そうと、背中を向けたときだ。
白蓮が音もなく近づいてきた。彼は私の顎を細い指先でそっと持ち上げ、逃げられないように私を見つめる。
「男の部屋をひとり訪れるなんて、いつのまに悪い娘になったんですか?」
悪戯っぽく、けれど低く熱を帯びた声。彼はそのまま、私の耳たぶを甘噛みするように唇を寄せた。
「それは、あなたのせいだわ……っ」
敏感な場所を刺激される。
白蓮は逃がさないと言わんばかりに、私の腰を強く引き寄せ、自身の身体にぴたりと密着させた。
舞衣の薄い布越しに、彼の逞しい胸の鼓動が伝わってくる。その鼓動に触れると、いつもあの日々の記憶が蘇る。
「愛漓様。今夜、僕は宴の席で舞を披露します。それは、あなたのために舞います」
「わ、私のため?」
「そうです」
白蓮が私の鎖骨に消えかかった痕を、愛しげに指先でなぞった。その指の感触だけで、腰の奥がズキンと疼く。
「この魂も、身体も、すべてあなただけのものです」
彼は切実な瞳で私を射抜くと、唇を深く重ねてきた。
無理やりな口づけとは違う、愛を確かめるような、甘くて深いキス。
彼の舌が私の口内を優しく、けれど執拗に這い回るたびに、頭が真っ白になって溶けてしまいそうになる。
「……んっ……ふ、白蓮……」
もっと触れていたい。
このまま祝宴なんて行かずに、この人と閉じこもっていたい。けれど、外からは無情にも、開宴を告げる鐘の音が響いた。
「そろそろ行かないと、宴が始まるわ――」
私は名残惜しさに震える唇を引き離した。
白蓮は最後にもう一度だけ、私の額に優しく口づけを落とすと、凛とした表情で前を見据えた。
甘い余韻と、拭えない嵐の予感。私は火照る身体を衣で隠し、運命の渦巻く大広間へと一歩を踏み出した。




