表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄に調教された舞神が私を抱く夜 〜囚われの皇女が箱庭を壊すまで〜  作者: はなたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/7

第2話 遠い記憶

深い蓮の花の香りに包まれる夢を見ていた。



どこまでも無垢で、光に満ちていた頃。まだ恋も知らない幼い私。



舞の稽古場に行くと、見慣れない男の子がいた。



「お兄様、あの子はだれ?」


「ふふ、磨けば光る原石さ」


「ピカピカの宝石?」


「そうだよ。――いずれ、愛漓のものになる」



琉克の言葉に首をかしげる。あのときは、その言葉の意味は分からなかった。



「白蓮、こちらへ」


「はい」



私は、その姿を一目見た瞬間、言葉を失った。



「わぁ、すごいきれいなお顔ね」



銀糸のような艶やかな髪。陶磁器のような白い肌。折れそうなほど細い華奢な身体。伏せた睫毛の奥には、吸い込まれるような静けさが宿っていた。



「今日からここで舞の稽古をする。いずれは奏天雅集に入れる逸材だ」


「はじめまして、愛漓と申します」



私が微笑むと、白蓮は顔を赤らめ、控えめにうつむいた。



「皇女様、は、はじめまして……」



鈴のように澄んでいて、どこか儚げな声だった。



その日から、嫌いだった舞の稽古に行くのが、楽しみになった。



「愛漓様、ここはこうだよ。……ほら、手を出して」



2歳年上の彼は、いつも丁寧に教えてくれた。



「こう?」


「いいえ、こうです」



指先に触れるたび、胸が苦しくなる理由も分からなかった。



「白蓮の舞は、本当に綺麗だわ」


「ありがとうございます」



照れたように笑う。その横顔を見た瞬間。胸の奥が、きゅっと締め付けられた。



――ああ、これは。



尊敬でも、憧れでもない。やがて、これが恋だと理解した。



「お兄様が白蓮のこと、宝石みたいだって褒めてたわ」


「え、琉克様が……?」



一瞬だけ、その瞳が揺らいだ。


白蓮の表情が強張り、指先が、かすかに震えたのが分かる。



「それは……、とても光栄です」



影を落とす横顔。


あれから10年も経つのに、私は何も知らなかった。何も見えてなかった。



――そう、昨夜までは。



◆◆◆



後宮の私室には、柔らかな朝の光が差し込んでいた。



「愛漓様、お目覚めでございますか」



侍女が静かに声をかけ、寝台の帳を開ける。



「顔色がすぐれませんね」



差し出された白湯に口をつけても、喉を通る感覚は曖昧だった。


鏡に映る自分は、目の下に淡い影が落ち、唇の色もどこか頼りない。



こんな顔では……、白蓮に嫌われてしまうわ。



白蓮――。



その名を心の中で唱えるだけで、頬に血色が戻る。



昨夜の光景が、脳裏にフラッシュバックする。

兄の指に蹂躙され、恍惚とした表情でのけ反っていた、あの高潔な舞神。



思い出すだけで下腹部が熱く疼き、意識が遠のいた。



「きゃあ! 愛漓様、鼻血が!」


「だ、大丈夫ですか?」



そのとき、侍女たちの叫び声を割るように、低く通る声が響いた。



「何事か」



その場の全員が、即座にひれ伏した。



「皇太子殿下!ご機嫌麗しゅうございます」


「よい、下がれ」



琉克は侍女の前を優雅に通り過ぎた。



「おはようございます、お兄様……」


「ん?どうした、その顔は。可愛い顔が台無しではないか」



そう言って、懐から手巾を取り出すと、そっと顔を拭いてくれた。白い布が紅く滲んだ。


昨夜とは違う。いつも私を見守ってくれる、優しく穏やかな眼差し。



私には琉克を含め兄が3人いる。その中でも、長男の琉克は私を可愛がり、幼い頃から何かと面倒を見てくれた。



「朝早くから何かご用意ですか?」


「用がなければ会いに来ることもできないのか?大人になるとは寂しいものだな」


「いえ、そんなことは」



20歳の誕生日を迎えた私。来週には成人の儀が執り行われる。世間知らずで、とても大人だなんて自覚はないけれど。



「今夜は白蓮と食事をする。愛漓も同席するよう」



はっと息をのむ。



「今夜、ですか……」


「なにか不都合があるか?」


「あの、お邪魔ではありませんか? その……とても、おふたりは仲が良いようですから」



核心を避け、慎重に言葉を選んだ。


だが、琉克は私の動揺を見透かしたように、笑みを深める。



「仲が良い、か。間違いではないがな。白蓮も久しぶりに愛漓に会いたがっていたぞ」


「え……?」


「場所は玄武殿だ。必ず参加するように。これは命令だ」



私の混乱を面白がるように、琉克は意地悪く、私の鼻先を軽く突いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ