第13話 皇帝と舞神
「皇帝陛下、舞神様がお見えです」
従者の声に、琉克は筆を置いた。広い執務室は、白檀の香で満たされていた。
「入れ」
入室した白蓮は、跪いて頭を垂れた。
その銀色の髪が、まるで月に濡れた睡蓮のように美しい。琉克は机から立ち上がり、ゆっくりと白蓮のもとへ歩み寄り、その姿を見下ろした。
「奏天雅集、巡業より帰還いたしました」
「報告せよ」
全員が美男で構成される「奏天雅集」は、国の繁栄を誇示し、刃を使わずして相手を懐柔する。
琉克が作り上げた最強の外交兵器である。
白蓮が語る成果は完璧だった。
だが、琉克にとってそれらは、手元の盤面で駒が予定通り動いたという確認に過ぎない。
「黎克は、随分と大きくなったな」
その一言が、静寂を切り裂くと、白蓮の身体が、微かに震える。
「だが、まだだな」
跪く白蓮の顎を指先で持ち上げた。その顔は青ざめ、愛する妻の香りは沈香に塗りつぶされかかっていた。
「黎克は優秀な子だろうが、跡継ぎ候補がひとりでは、心もとない。そう思わないか?」
「……陛下のご期待に沿えるよう、努めております」
絞り出すような声。
「そうか。それなら見せてくれ」
白蓮の舞衣の胸元に手を差し入れ、その下の熱い肌を指先で弄んだ。白蓮の身体は、びくっと震えたが、決して逆らわない。
愛璃や黎克のため、白蓮が自ら選び取った、屈辱の道だ。琉克は、その哀れな忠誠心に、深い愉悦を覚える。
「泣け、白蓮。愛璃がお前にしたように」
白蓮の舞衣が剥ぎ取られ、鍛え抜かれた裸身が月光にさらされる。
琉克は、彼のすべてを知り尽出だしたように、優しく、そして容赦なくその身体を貪った。
「……んっ、あ……」
白蓮から漏れる、甘い喘ぎは、いつも通り従順だった。
琉克は白蓮の細い首筋に噛みつき、そこに自らの牙の痕を刻む。
「いっ、あ!」
「こうやって、お前も愛璃の首筋に噛みついたか?」
白蓮の身体が、一瞬だけ、硬く強ばった。
『あっ……、白蓮……』
愛璃の恍悦の顔が脳裏をよぎる。
清らかな愛璃の身体。この琉克に汚された手で、自ら汚していく苦悩。止まらない後悔と背徳感。
「っあ、あぁ!」
琉克の侵入を悦ぶ自分は、吐き気がするほどおぞましい。
絶頂に達する直前、琉克は耳元で囁いた。
「白蓮。お前の身体も、心も、そしてお前の血を引く子供たちも、すべて俺のものだ」
白蓮の瞳には、僅かな抵抗の色が宿る。
それは、これまで決して見せたことのない、燃えるような怒りにも似た輝きだった。
その違和感に、琉克の愉悦は一瞬途切れる。だが、すぐにその瞳は冷酷な光を宿した。
「すべては――、白蓮、お前の業だ」
その言葉を聞いた瞬間、白蓮の瞳から、それまでの抵抗の色が消え失せた。
まるで魂が抜けたかのように、白蓮の身体は弛緩し、ただ皇帝の快楽を受け入れた。
夜が明けた。白蓮は身体を起こすと、白檀の香りが染み付いた衣を纏った。
「玄武殿に戻ったら、その熱が冷めないうちに愛璃を抱け」
白蓮の背中に、琉克が命じた。
「仰せのままに」
白蓮は一礼をすると部屋を後にした。
その姿を見送る琉克は、高揚した気分で眠りについた。




