第11話 縁談
私の成人の儀式を終えた夜、宮殿で晩餐会が催された。
現皇帝の隣には、長男で皇太子の琉克がいる。
それを、野心を隠し持った側室たちと、その息子である異母兄たちが妬ましそうに見ていた。
「愛璃様、我が領地を継ぐ息子は、剣術の腕も確かでございます。ぜひ、お見知りおきを」
「我が国の第一王子こそ、愛漓様の美しさに相応しいか。ぜひ一度ご来訪くだされ」
「一人娘が遠方に嫁がれては、皇帝陛下も淋しいでしょう。他国へなど嫁がせてはなりませんぞ」
地方貴族や他国の来賓たちが、次々と縁談を持ちかけてくる。彼らにとって、私はただの「価値ある商品」に過ぎないのだ。
「そうだなぁ、愛璃の伴侶を真剣に考えないとなぁ」
皇帝の言葉に、さらに話が加速する。
私は愛想笑いを浮かべることしかできず、喉の奥に苦いものがこみ上げるのを感じていた。
――そんな喧騒を断ち切るように、楽の音が響き渡る。
「今宵の余興は、我が国の至宝、舞神の舞を堪能していただきたい」
琉克の合図とともに、楽の音が響き渡る。
そして、白銀の装束を纏った白蓮が現れた。
彼が指先を動かすたび、その場にいる全員が息を呑む。静謐でありながら、どこか狂気を孕んだその舞は、観る者の魂を削り取るような美しさがあった。
異母兄たちも、このときばかりは、毒気を抜かれたように杯を置いている。
白蓮が最後の静謐を演じ終え、床に跪いたその時だった。
「父上。この佳き日にお願いがあります」
琉克がゆったりと立ち上がり、皇帝の隣に歩み寄った。
「ほう、琉克からの願いとは?」
「愛漓とこの白蓮。二人の婚姻を認めていただきたい」
――広間がざわつく。
でも、一番驚いているのは私だ。そんな話、聞いたこともない。白蓮を見ると、涼しい顔をして琉克を見ている。
なぜ?知っていたの?
「待たれよ!」
真っ先に異を唱えたのは、二人の異母兄だ。
「愛漓は皇后の忘れ形見。父上の大切な一人娘ではないか。いくら舞神と称えられても、所詮は踊り手。そのような卑しい出自の男に、降嫁させるというのか?」
「そうだ、よい縁談は山ほどあるというのに」
激昂する兄たちをよそに、私は血の気が引くのを感じていた。
白蓮と結ばれる。それは私の願いでもあったが、それも兄の「命令」として告げられることに、言いようのない不吉さを覚える。
白蓮は顔を伏せたまま、微動だにしない。その拳が白く震えているのを、私は見逃さなかった。
その時。
「……う、ぐ……っ」
玉座に座っていた皇帝が、突如として胸を押さえ、前のめりに倒れ込んだ。
「父上!?」
「皇帝陛下!お気を確かに!」
悲鳴が上がり、会場は一転して混沌の渦に叩き落とされる。駆け寄る侍医たち、怒号を上げる皇子たち。その騒乱の真っ只中で。
私は見てしまった。混乱を鎮めようと立ち回る琉克が、倒れ伏した父を見下ろし、冷ややかな眼差しを向けているのを。
祝宴の灯火が、不気味に揺れていた――。




