第四話 三女ソフィアとローザ母上
マリアンが長兄アンダーソンとの密談を終えた翌日、彼女は七人の姉妹の中で最も冷静沈着で、実務能力に長けていると知られる三女のソフィアに話を持ち掛けた。
ソフィアは、父から『社交界で最も有利な縁談を引き寄せる道具』として育てられてきたが、その知性は政務や帳簿整理といった、父が軽視する領域でも密かに発揮されていた。
マリアンは、夜が更けた後、ソフィアの部屋を訪れた。
「ソフィア姉様。私から、とても危険で、しかし、私たちの未来にとって必要な話があります」
マリアンが父の侮辱の言葉と、アンダーソン兄との密約、そして自身の計画をすべて打ち明けると、ソフィアは蝋燭の火を見つめたまま、長い沈黙を保った。
ソフィアは感情を一切表に出さない人物だったが、その心の中には、父に利用されることへの冷え切った怒りが渦巻いていた。
「……危険すぎる計画よ、マリアン。もし露見すれば、私たち女性陣全員が、一家離散か、それ以上の罰を受けることになる」ソフィアは静かに言った。
「しかし、父上の侮辱は、もはや武人の家系の『腐敗』を意味しています。武人の家系で最も尊い、犠牲と献身を、父上は踏みにじりました。これ以上耐えることのほうが、私には危険に思います」マリアンははっきりと言った。
ソフィアはため息をついた後、マリアンをまっすぐに見つめた。
「父上は私たちを『役立たず』だと言う。ならば、この『役立たず』が、父上を失脚させるに足る『役割』を担うと証明してさしあげましょう。私は公爵家の表向きの出納帳と、裏の資金の流れを全て把握している。私なら、父上の不正の証拠を『金』の中から見つけ出せる」
三女ソフィアは、計画の「財務担当」として、不正を暴くという重要な役割を引き受けた。
次にマリアンが向かったのは、エルドリア兄様の母、ローザ母上の部屋だった。ローザは、息子が「欠陥品」と罵られた、最も直接的な被害者である。
「ローザお母さま。私たちは父上を断罪するために立ち上がりました。そして、お母さまの悲しみを、怒りという力に変えて、私たちに貸していただきたいのです」
マリアンが再度、父の言葉を告げると、ローザは激しく泣き崩れた。
「私の……私の愛しい子が、命を賭して家名を守ったというのに! 武人の家系でありながら、その勲功を『不完全』という理由で貶めるなど、あの男はもはや公爵ではない! 彼は武人の……人間の魂を失っています!」
ローザの悲憤は、最も激しい怒りとなった。
彼女は、三男が負傷で帰還した後、父から受けた冷遇と、その裏で三男が軍部の有力者たちからどれほど敬愛されているかを、マリアンに語った。
「マリアン。私は、社交界もお金のこともわかりません。けれど、私にはエルドリアという『息子』がいる。あの子は、戦場での負傷で、逆に国王直属の軍部の人間と極めて太い人脈を築きました。彼の右腕と右足は失われても、その『武勲』と『人望』は、父上の権威を根底から崩せるほどの『切り札』になります」
ローザは涙を拭い、決意を滲ませた目で言った。
「私は、エルドリアにあなたが立てている計画を密かに話します。そして、あなたたち女性陣が、私たち母子を侮辱した父をどん底に突き落とすまで、精神的な支柱として、全てを支えましょう」
第三の母ローザは、計画の『精神的支柱』となり、三男エルドリア兄様に最終的な『軍事的切り札』になってもらえるよう道筋を開くと、誓ってくれた。
こうしてマリアンは、表の顔と最終的な断罪者たる長兄アンダーソン、財務・証拠収集を担う三女ソフィア、そして精神的支柱と三男への連絡役となる第三の母ローザという、初期の布陣を築き上げた。
マリアンは、公爵家で最も見下されていた七女から一転して、今や計画の総指揮官となった。
「姉様、母上。私たちの戦いが始まります。父上が最も想像しなかった、『女性の連帯』の力で、この公爵家を正常に戻しましょう」
マリアン、ソフィア、ローザは、夜の闇の中で、静かに固く手を握り合った。




