思いを込めた白い羽
早とちりは損をする
雪がこんこんと降る日。
エス氏は家族と一緒に暖房の効いた部屋で優雅に暮らしていた。
突然、夜更けにインターホンがなった。
目の前には全く知らない白髪の人が映し出されていた。
「あら、こんな時間に尋ねるなんてだれかしら。怖いわね。」
と最初はお互い無視していると、一回、また一回と鳴り続け、ついには連打の域にまで達してきた。
「あなた。怖いけど息子が起きちゃうし、なんとか帰らせてきて。」
「しょうがないな。」
酔っ払いが自分の家と勘違いしてるか、謎の宗教団体の勧誘か。
ドアを全力のしかめっ面をしながら開けた。
「あなた!今何時だと思ってるんです!?いい加減迷惑ですよ!」
直接見るとなかなか儚げな美人だったが臆せずに言うと、女は焦って、
「違います!私はあの時助けて頂いた鶴です!」
と言ってきた。
世界は残酷だ。この美人が自分を鶴だと思い込む精神異常者だったとは。
「噓おっしゃい。私は貴方を助けた記憶などかけらもない。お帰りいただこう。」
「待って下さい!それは私が鶴の姿だったからです!私はなんとかして恩返しをしようと10年修行して人に化けて・・・。」
エス氏はより一層あきれ返った。
「ははあ。もしかしてあんたは鶴の恩返しにかこつけて、家に入って強盗をしようというのだな。なんというばかな極悪人がいたもんだ。今回は見逃してしてやるから、さっさと精神科医か警察に行って来い。」
と、ドアを勢いよく閉めた。
女は小鹿のようにふらふらと歩いて、新雪のなかに倒れこんだ。
そして雪の中でやがて美しい鶴へと変じた。
鶴は翼を大きく広げ、エス氏の家を未練がましく見つめた後、夜の雪空に飛び去って行った。
その身から一枚の羽が、ひらりと抜け落ちた。
ひらひらと舞い落ちた白い羽は朝にはすっかり雪に埋もれてしまった。




