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第5話 香辛料

「魔法使いさんが言うには魔力切れじゃないかなって」


 見舞いに来たシャルがそう言った。確かにゲームのように魔力切れというのは聞いたことがある。ただ少なくとも、私が覚えている限りでは、体力も尽きていないのに魔力だけ切れた――なんて人を見かけたことはない…………ような記憶があった。


「母さんに、明日は行っちゃダメって言われたよ……」

「明日は火魔法を教えてくれるって」


「えええ、いいなあ……」


 火を起こすには火口箱という道具を使う。火打石と金やすり、火口の入った防水の容器だ。けど、火魔法があれば火を起こせる。魔法で作られた火はすぐに消えてしまうが、火種としては使える。家事手伝いも捗る。山奥の村に魔法を教えてくれる人が気まぐれでやってくる機会などそうあるものではない。



 ◇◇◇◇◇



 翌日の朝は大人しい振りをして家で過ごし、日が十分高く上ってから母の目を盗んで広場へ出かけた。


 二日目は流石に人が減っていた。ただ、それでも交渉した商品の受け渡しで大人たちは忙しそうにしていた。それを考えると客引きついでに子供の面倒を見てくれる大道芸人や魔法を教えてくれる魔法使いというのは役に立っているのだろう。


「こんにちは。儲かりましたか?」


 私は暇そうにしている香辛料売りの男に声をかける。容姿は南方の旧帝国民によくある黒髪をしていた。黒髪と言っても日本人ほど黒くはない。この辺の人間は明るい髪色が多い。金から茶色の髪がほとんどで、アニメみたいな青とかピンクは居ない。


 私の髪も黒髪の事が多い。ただ、いつもなぜか微妙に青っぽかった。何度生まれ変わってもそこだけは同じだった。


「ん?…………ぼちぼちだな。みんな、お目当ての物は手に入ったと」


 男は話しかけてきたのが少女だからか、気怠そうに答えた。ただ、商品はたくさん残っている。つまり、彼が言いたいのは――こんな田舎の村じゃ、みんな目新しい香辛料には手を出さない。お決まりの物しか売れない――という意味だろう。


「山村の人は山で薬草が手に入るので、そっちの味に馴染んでるんですよ」

「薬草か。あれは扱いが難しいからなあ」


 薬草はただの香草ではない。魔法の植物だ。扱い方は現地の人間にも口伝で伝えられてるだけだから、商人にはノウハウがない。私はもちろん知ってるけど、どこのだれだかもわからない相手に教えてあげる義理は無い。ただ――


 鑑定――そう頭で念じると、並べられた香辛料に名前のタグが表示される。


「この首狩り草(シュターフェル)って王国の北の山で採れる薬草ですよね」

「嬢ちゃん、よく知ってるな。割と安く手に入ったが、この辺りじゃだぁれも知らなくてな。匂いも苦手なのか、興味も持たない」


「これ、兎肉に葡萄酒と合わせればこの辺の人の口にも合いますよ」

「そういう食べ方があるのか?」


 そういう食べ方はある。鑑定でレシピが出ているのだ。そしてこのレシピなら南部の山村の人間の舌にも合う。確かどこかで昔、そんな光景を見たことがあったから。それと、鑑定で出てくるレシピは意外と取捨選択される。その土地で手に入るものや、食べたい、或いは食べさせたい相手に見合ったものを。


「この辺の北向きの斜面じゃシュターフェルは育ちません。火にかけた時の香りも食欲をそそるので、この場で作って味見させてみてはどうです? きっと売れますから」

「ま。暇だしやってみてもいいが……」


「もし上手く行ったら香辛料を分けてもらえませんか?」

「ちゃっかりしてるな。構わんよ」


 私は男に調理方法を教え、店を後にした。







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