戦争、断絶
--------------------------------静かに迫る戦争の影--------------------------------
ユーマにはわかっていた。
王国とこの領地の溝は、もう修復できるものではない。
交易の偏り、流民の流入、王都の経済の停滞——
すべての歪みが、徐々に臨界点へと近づいている。
(戦争は、避けられない。)
そう確信したユーマは、ミリアの家族を領地に呼ぶよう打診した。
戦が始まれば、王都に残る彼女の家族は人質にされるだけだ。
「お前の家族を、こちらへ移せるか?」
「……そんなに危険なの?」
ユーマは肩をすくめてみせた。
「危険かどうかは保証できないけど、まぁ、安全な方がいいだろ?」
ミリアはじっとユーマを見つめた後、静かに頷いた。
王国はすでに不安定だった。
貴族間の権力争い、経済の格差、民衆の不満——すべてが噴火寸前の火山のように、
静かに、しかし確実に崩壊へと向かっていた。
--------------------------------"理解不能な者たち"--------------------------------
ユーマは戦争を回避するために、王国内の有力貴族との外交を試みた。
一部の者たちは、この変化を受け入れ、共存の道を探ろうとした。
だが、その中に、どうしても理解し合えない者たちがいた。
言葉を交わしても、議論が成立しない。
計算すれば明らかに間違った選択をするのに、それを頑なに正しいと信じ込んでいる。
こちらの言葉が届いていないのか——いや、理解しようとする意思そのものが欠落している。
「なぜ、お前たちはそう考える?」
問いかけるユーマに、貴族の一人は曖昧な笑みを浮かべた。
それはまるで、"人間"が"獣"に微笑むような、隔たりを感じさせる表情だった。
(——この感覚、どこかで……?)
ユーマは思い出す。
魔王との対峙。魔物の群れ。奴らの異質な思考。
それと同じものを、いま目の前の"人間"に感じている。
彼らは、事実を受け入れない。
現実を拒絶し、過去の栄光にしがみつき、変化を悪と決めつける。
それは知性ではない。
それは、進化の道を閉ざした者の思考だ。
(……話が通じない。)
ユーマは心の中でため息をついた。
--------------------------------"彼らは、本当に人間なのか?"--------------------------------
同じ形をしている。
同じ言葉を話している。
だが、思考の構造が違う。
ユーマは確信した。
彼らは、自分たちとは決定的に異なる生き物なのだ。
もはや「人間」ではない——
そう、進化の過程が分岐した別種の存在のように。
自分の中で世界が二層に分かれ始めていることを、ユーマは確かに感じていた。
--------------------------------王国の激変と新たな支配者--------------------------------
そんな最中、王国の中心で大きな変化が起こった。
現国王の崩御。
突如として伝えられたその報せは、王国全土を揺るがした。
これまで微妙な均衡を保っていた勢力図が、一瞬にして不安定になる。
「……そう来たか。」
ユーマは静かに報せを聞いた。
もはや避けられぬ戦いを示唆するかのように。
新たに即位したのは、亡き王の息子ロムノ。
だが、彼は父とは異なり、即位するや否やユーマの領地の存在を問題視し始めた。
「辺境領は王国の一部であり、貴様が独立国家のように統治するのは許されぬ。」
国王の発した命令は、単純だった。
「ユーマ、領地を返上せよ。」
王宮では、ロムノ国王が強硬な支持を集める貴族たちを前に、演説を行っていた。
「我らが王国は、かつてない危機に瀕している。王国の土地を不当に占拠し、王の命を拒む者がいる限り、この国は安定しない!」
大広間に響き渡る声。
その場にいる貴族たちは、一斉に頷いた。
彼らにとって、ユーマは異物だった。
王国の伝統を揺るがし、貴族たちの権益を脅かす存在。
そして、彼を排除することこそが「正義」だった。
(まるで別種の人間との対話だな。)
ユーマは呆れながらも、予想通りの展開に軽く肩をすくめた。
--------------------------------拒絶と膨らむ緊張--------------------------------
ユーマは冷静に答えた。
「悪いが、それは承諾できない。」
一方的な要求に従う理由はない。
この領地は荒れ果てた地を自ら開拓し、築き上げたもの。
それを「王の命令」という理由だけで差し出せというのか?
理不尽な要求を受け入れるほど、ユーマは愚かではない。
そして、王国内もこの問題を巡って不穏な空気が流れ始める。
王権を絶対視する貴族たちは王の要求に賛同し、ユーマの存在を危険視する。
だが、すでにユーマの領地と交易で利益を得ている者たちは、一方的な強制に反対する立場をとる。
「王国が滅びるとすれば、理由はただ一つ変わるべき時に、変わることを拒んだからだ。」
ユーマは呟いた。
(……王国は、割れ始めている。)
表向きはまだ平和だが、内側では火種が燻っている。
戦争へのカウントダウンが、確かに始まっていた。
--------------------------------開戦の引き金--------------------------------
王国とユーマの領地の関係は、もはや「緊張状態」と呼ぶにはあまりに危うかった。
表向きは平和を装っているが、王国の貴族たちはユーマの存在を認める気はなかった。
彼の領地が発展し、商業が栄え、民衆が豊かになればなるほど——それが彼らの権威を脅かしていく。
(遅かれ早かれ、何かが引き金になる。)
ユーマはそう考えていた。
そして、その“引き金”は、思ったよりも早く引かれることになった。
--------------------------------交易キャラバン襲撃事件--------------------------------
ある日、ユーマの領地と王都を結ぶ交易キャラバンが、王都近郊の貴族領で襲撃された。
荷馬車は焼かれ、商人たちは打ち据えられ、護衛の兵士たちは武器を奪われて捕縛された。
「王国の法に則り、不正な交易を取り締まったまでだ」
犯行を主導した貴族は、堂々とそう言い放った。
彼の領地では、すでに王都の指示のもと「ユーマの領地との交易は違法」とする布告が出されていたのだ。
つまり、この襲撃は"国の命令"によるものであり、事実上の経済封鎖だった。
(……なるほど、戦争を始めたいってことか。)
ユーマは、報告を受けた瞬間にそう察した。
--------------------------------報復と対抗措置--------------------------------
ユーマは即座に兵を動かした。
交易路の安全を確保するため、王都近郊の貴族領に小規模な部隊を派遣し、略奪された物資を奪還する作戦を決行。
しかし、その際に王国軍の駐留部隊と鉢合わせするという事態が発生する。
「貴様ら、王国軍に刃を向けるつもりか!」
王国側の兵士たちはユーマの軍に剣を構えた。
もはや戦闘は避けられない——そう思った次の瞬間。
最初に斬りかかったのは、王国軍の方だった。
--------------------------------開戦の口実--------------------------------
戦闘は数時間で終結した。
ユーマの軍は規律を持って戦い、最小限の犠牲で撤退した。
しかし、この戦闘を王国側は「ユーマの軍が王国軍を襲撃した」と発表した。
「ユーマ公爵軍、王国軍に対し明確な敵対行動をとる!」
「もはや反乱であり、王国に対する重大な挑戦である!」
王国はこの事件を理由に、ユーマへの正式な宣戦布告を行った。
--------------------------------戦争の幕が上がる--------------------------------
ユーマは、王国軍の動きを確認しながら静かに呟いた。
「……結局、こうなるわけか。」
ミリアが不安げな表情を浮かべる。
「どうするの?」
「もう、決まってる。安心しろ。」
王国軍がどれほどの兵力を持っていようと、ユーマはただ無策に迎え撃つつもりはなかった。
彼には、この戦争に勝つだけの準備がすでに整っていたのだから。
--------------------------------勇者パーティの参戦--------------------------------
戦争が本格化する中、王国軍は次なる一手として勇者パーティの参戦を発表した。
「……嘘でしょ?」
ミリアの声はかすれていた。
戦場に立つ自分の目の前に現れるのは、かつて共に旅をした仲間たちだ。
だが、彼らが向けるのは懐かしさではなく、剣の切っ先だ。
ユーマは静かに報告を聞きながら、肩をすくめる。
「だろうな。予想通りだ。」
「ユーマ……本当に、戦うつもり?」
ミリアの瞳には、まだ彼らとの絆を信じたいという気持ちが残っていた。
だが、ユーマはすでに悟っていた。
「お前は、まだ"話せば分かる"なんて思ってるのか?」
ミリアは言葉に詰まる。
「彼らは、王国の命令で俺を討ちに来る。それが答えだ。」
ユーマの声は冷静で、どこか達観していた。
もはや"かつての仲間"ではなく、戦場で向かい合う敵。
しかし、ミリアはまだ信じたかった。
自分たちが築いた絆が、"ただの命令"で塗り潰されるはずがないと。
--------------------------------戦場での再会--------------------------------
数日後、王国軍は大規模な攻勢に出た。
そしてその先陣を切ったのは——勇者アレクト率いる勇者パーティだった。
「ユーマ……! ここで止まれ!」
アレクトが叫ぶ。
ユーマの軍勢の前に立ちはだかる彼らは、王国の軍旗を背負っていた。
かつて共に旅をした仲間たちが、剣を向ける。
ミリアが震える声で言った。
「お願い……戦わないで……!」
ユーマは一度、彼女を見た。
そして、淡々とした声で言う。
「お前は下がれ。」
「でも——」
「お前が彼らと戦いたくないなら、それでいい。ただ、俺の邪魔はするな。」
ミリアは、ぎゅっと拳を握る。
ユーマの目に、"迷い"はなかった。
「はぁ……。」
ユーマは剣を抜きながら、小さくため息をついた。
--------------------------------戦いの結末--------------------------------
戦闘が始まった。
ユーマはアレクトと剣を交える。
かつての"勇者"は、王国の命令を受けた"兵士"へと変わっていた。
「ユーマ……! 俺はお前を止める!」
「お前なぁ……俺に勝てると思ってるのか?」
ユーマは、軽く剣を交わしながら呆れたように呟いた。
「お前は"王国のため"に俺を殺すつもりなんだろう?」
ユーマが問う。
「そうだ! 俺は、王国を守るために——!」
変わらぬ真っ直ぐな目で応答するアレクト。
残念だと言いたげな表情でユーマが応える。
「なら、俺がお前を殺すのも正義だな。」
アレクトの動きが、一瞬止まる。
ユーマはその隙を逃さなかった。
剣が、アレクトの胸を貫いた。
「……ッ!」
アレクトの身体が揺れ、膝をつく。
「そうだよな……適うわけないよな……。」
アレクトは理解していた。
敗北することも、その運命を受け入れるしかないことも。
それでも、やるしかなかった——そう悟ったように、穏やかに微笑んでいた。
「あぁ、こうなるのは決まっていた。」
ユーマは剣を払う。
彼にとって、アレクトは"戦場で倒すべき敵"でしかなかった。
「……楽に死なせてやる。せめてもの情けだ。」
ユーマは無言で剣を構え、残る二人にも容赦なく斬りかかった。
ロイエンは最後まで歯を食いしばりながらも、斧を振るう余裕すらなく膝をついた。
カインは素早く立ち回ろうとしたが、ユーマの動きの方が一枚上手だった。
刃が閃き、戦場に静寂が訪れる。
ミリアは、目の前で繰り広げられた光景を見ていた。
かつての仲間が、ユーマの手で殺された瞬間を。
「ユーマ……」
彼女の声は震えていた。
ユーマは彼女を静かに見つめた。
「これしか、平和への道はない。」
ミリアは涙をこぼしながら、震える手で拳を握りしめた。
その言葉が何よりも重く、そして冷たく感じられた。
それでも彼女はユーマのもとを去らなかった。
「……分かった。でも、私は……忘れないから。」
ユーマはそれを聞いても、何も言わなかった。
ただ、戦いが終わったことを確認すると、次の行動へ移る。
--------------------------------新国王の排除と王国掌握--------------------------------
ユーマはすでに計画を立てていた。
防衛戦の勝利と同時に、新国王を排除し、王国の体制を変える。
- 親ユーマ派の貴族を動かし、王都でクーデターを実行
- 新国王は粛清され、王国は混乱状態に
- ユーマが選んだ新たな王を即位させ、"影の支配者"となる
ユーマは、戦争だけでなく、"統治"までを見据えていた。
「……さて、あとは新しい王を決めるか。」
ユーマは空を見上げ、ため息をついた。