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凱旋、領地経営

--------------------------------英雄の帰還--------------------------------


王国の城門が開かれると、見渡す限りの人々が街道に並び、歓声を上げた。


「勇者アレクト様!」「ユーマ様、万歳!」「魔王を討伐した英雄たちだ!」


頭上には無数の旗が翻り、花びらが風に舞っている。子供たちは飛び跳ね、大人たちは涙を流していた。


俺たちは馬車に乗せられ、街を進む。


「すごいな……これが、英雄の凱旋か。」


アレクトが感慨深そうに呟いた。


「ちょっと落ち着かねぇな。」


カインが小声でぼやく。


ロイエンは「いやぁ、こんなに注目されると照れるな」と苦笑し、ミリアは俺の隣で誇らしげに微笑んでいた。


——俺たちは、本当に世界を救ったのだ。


--------------------------------王の称賛と爵位授与--------------------------------


勇者パーティの全員が貴族であるため、俺たちはすでに王国の上流階級に属していた。それでも、今回の功績は計り知れず、さらなる爵位の授与が行われることとなった。


王宮の大広間に通されると、王が玉座の上から俺たちを見下ろし、威厳ある声で告げた。


「勇者アレクト、そしてその仲間たちよ。」


王の声が荘厳に響く。


「汝らの偉業は計り知れぬ。この国の歴史に、永遠に刻まれるであろう。」


彼の手が掲げられ、俺の肩に銀の紋章が置かれる。


「これより汝ら全員に、爵位を授ける。アレクトには公爵位を、ユーマには伯爵位を、ロイエンとカインとミリアには侯爵位を授ける。」


——伯爵。


新たな称号が俺のものとなった。


「ありがたき幸せにございます。」


膝をついて、形式通りに応じる。


拍手が響き渡る。


「ユーマ伯爵様か、すげぇな。」


カインがニヤつきながら言う。


「敬語で喋るべきか?」


ロイエンが冗談めかし、アレクトは静かに頷く。


ミリアは俺の手を握り、そっと微笑んだ。


「おめでとう、ユーマ。」


その言葉に、俺は心から微笑んだ。


--------------------------------ミリアとの結婚--------------------------------


結婚式は、王都の大聖堂で盛大に執り行われた。


「英雄の婚礼」として、貴族や王族、さらには民衆までが祝福を送る。


純白のドレスに身を包んだミリアは、この上なく美しかった。


「……本当に、夢みたい。」


彼女は小さく呟きながら、俺の手をぎゅっと握った。


「ずっと、一緒にいようね。」


「……ああ、もちろん。」


俺はそう誓った。


この時、俺は確かに幸福だった。


--------------------------------違和感の始まり--------------------------------


だが、日々が過ぎるにつれ、俺は気づき始めた。


最初はほんの些細なことだった。


食事をしていても、以前ほど味を感じなくなった気がする。

仲間との会話も、妙に退屈に感じることがあった。


最初は「疲れているだけだろう」と思っていた。


しかし、ある日、ミリアが笑いながら話している時、ふと気づいた。


——彼女の表情の変化から、次に発する言葉が浮かんでくるのだ。


--------------------------------戦争の勃発--------------------------------


そんな折、王都に届いた報せは、王国の未来を揺るがすものだった。


「魔王もいない今、王家の支配は不要。我々がこの国の支配権を握る!」


北部のヴァルト辺境伯が独立を宣言し、王都からの統治を離れることを公言した。

さらに、彼は周辺の諸侯と手を組み、新たな国家を築くと宣言。

すでに王国軍の要塞の一部は占拠され、交易路も封鎖されつつある。


その報せが王宮に届いたのは、独立宣言からわずか数時間後のことだった。


--------------------------------王国の緊急会議--------------------------------


王宮の大広間では、王を筆頭に貴族たちが集まり、重苦しい空気が漂っていた。

王国の軍部、重臣たちが列席し、さらに勇者パーティも呼ばれていた。


「緊急事態だ。」

王の声が響く。


「ヴァルト辺境伯が王国に反旗を翻した。すでに北部の要塞を押さえ、王都との交易路を封鎖しつつある。周辺諸侯の動向は不明。対応を誤れば、我が国は戦火に包まれることになる。」


「魔王討伐が終わったばかりだというのに……。」

アレクトが歯噛みしながら呟く。


「奴らは、王国の支配を根底から覆そうとしている。魔王なき今、我々がこの国を導くべきだと……」

王の言葉に、参謀たちは苦い表情を浮かべる。


「この戦争は、王国の存亡をかけたものとなる。」


大広間に緊張が走った。


____。

______。

_________。



しかし、ユーマの頭の中では、まったく異なる情報処理が行われていた。


—— 兵力差は3対1、王国軍は圧倒的不利

—— ヴァルト領の穀倉地帯は供給過多、兵糧は1年以上持つ

—— ただし補給線は脆弱、交易路を断てば持久戦には不向き

—— 王国軍の侵攻ルートは三方向、うち東側の防備が甘い

—— 戦争が長引けば、内政の崩壊が先に訪れる

—— この戦争は、三ヶ月以内に決着がつく


「……。」


情報が流れ込むように頭に浮かんでくる。

まるで俯瞰視点で戦場を見ているかのように、全体の流れが鮮明に理解できる。


--------------------------------ユーマの戦略提案--------------------------------


「王都の防衛戦は不要です。」


ユーマのその一言が会議の空気を変えた。


「……何?」


参謀の一人が顔を上げ、眉をひそめる。


「敵はすでに北方の要塞を制圧し、交易路も封鎖しているのだぞ。王都が孤立すれば、持ちこたえられるはずがない。」


当然の反応だろう。だが、ユーマはすでに全てを見通していた。


「王都が孤立する? いいえ、違います。」


静かに首を横に振り、ユーマは続ける。


「ヴァルト伯の領地は豊富な農地を持ち、兵糧は十分にあります。しかし、長期戦になった場合、その生産力が維持できるかは別問題です。なぜなら、彼らの流通網は王国に依存しているからです。」


参謀たちの間でざわめきが広がる。


「交易路を断つのは向こうの方では?」


「ええ、ですが、それは彼ら自身の首を絞める行為でもあります。」


ユーマは続けた。


「彼らが王都を孤立させる前に、我々が彼らの補給線を完全に封鎖する。交易を断ち、周辺諸侯の協力を引き剥がせば、ヴァルト伯の軍は時間と共に衰弱していきます。さらに——」


ユーマの目が鋭く光る。


「内部崩壊を誘発させます。」


「内部崩壊?」


「ヴァルト伯の軍勢は、全てが彼に忠誠を誓っているわけではありません。彼の元には数多の諸侯が名を連ねていますが、その中には王国に忠誠を誓う者もいる。彼らを動かせば、戦うことなく瓦解を狙えるでしょう。」


王が静かに聞いていたが、やがて低く尋ねる。


「……成功するのか?」


「確実に。」


ユーマは迷いなく断言した。


--------------------------------沈黙と決断--------------------------------


大広間は静まり返った。


その場にいる者たちは、ユーマの策を吟味するように沈思し、互いに視線を交わす。


「……お前は、どこまで見えている?」


勇者アレクトが呟いた。


ユーマは一瞬、言葉を選ぶように息を飲み、静かに答えた。


「この戦争は、三ヶ月以内に終結します。」


王が長く息を吐く。


「……ユーマの案を採用する。」


その瞬間、会議室の空気が変わった。


--------------------------------戦争の終結--------------------------------


戦いは、ユーマの予測通りに進んだ。


王国軍は、ヴァルト伯の補給線を断つための封鎖線を構築し、

外交工作により、ヴァルト伯の配下の諸侯を次々と離反させ、

士気が低下した敵軍は戦う前に瓦解を始める。


戦いはほとんど起こらなかった。


ユーマの戦略は、事前に勝利を決定づけていた。


三ヶ月後、ヴァルト伯は王国に降伏を申し出た。


王国の存続が決定する。


--------------------------------ユーマ、公爵となる--------------------------------


戦争終結後、王宮にて再び爵位授与の儀が執り行われた。


「ユーマよ。」


王の声は堂々と響いた。


「汝の知略なくしては、この勝利はありえなかった。」


場内が静まり返る。


「ゆえに、汝に公爵位を授ける。」


その瞬間、どよめきが広がった。


——ユーマ、公爵となる。


貴族の最高位のひとつに、名を連ねたのだ。


しかし、ユーマの胸には、言い知れぬ違和感が広がっていた。


(……これで、いいのか?)


戦争の勝敗を見通し、策を打ち、勝利を確定させた。


しかし、それが本当に「勝利」と呼べるのか——


ユーマには、それがわからなかった。



--------------------------------辺境領の現状--------------------------------


ユーマに与えられたのは、王国の北西部に位置する広大な辺境領だった。

この地は肥沃な土地と豊かな森林を抱えていたが、開発が進んでおらず、政治は腐敗していた。


「……なるほどな。見た目以上に荒れてるな。」


馬車から降りたユーマは、目の前に広がる街を見渡した。

道路は整備されておらず、都市はどこか荒廃している。

だが、それでも人々の暮らしには活気があった。


「発展する余地は十分ある。」


それがユーマの第一印象だった。


さらに、領地の経済や軍備状況を詳しく調査すると、軍事力の弱体化、交易網の未整備、行政機構の崩壊といった問題が次々と浮かび上がる。

治安も悪化しており、盗賊や賊軍の出現が頻発している状態だった。


--------------------------------行政改革:腐敗の粛清--------------------------------


城に入ると、出迎えたのは領内の高官たちだった。

彼らの態度はどこか横柄で、ユーマを「戦場上がりの若造」として侮っていた。


「我々は代々この地を治めてきた貴族の末裔。領政についてはお任せいただきたい。」


「もちろん、ですが——」


ユーマは静かに言葉を続けた。


「まずは財務状況を確認させてもらおう。」


その言葉に、場が凍りつく。

重臣たちの顔がほんのわずかに歪んだのをユーマは見逃さなかった。


——調査の結果、財務報告のほぼ半分が虚偽であることが発覚した。


高官たちは領民から不当な税を搾取し、それを私腹に流用していたのだ。


「……さて、どうしてくれる?」


ユーマの声は冷たく響いた。


「財務の透明化を拒む者は、一族郎党、公開処刑だ。」


——次の日、城の広場で十数人の貴族が晒し者にされた。

これにより、貴族の支配層は完全に一掃された。


恐怖の統治。

だが、その翌日、ユーマは領内全域の税制改革を発表する。


- 不当な課税の廃止

- 公平な徴税制度の導入

- 年貢の引き下げと生産奨励策

- 収税官の監査システムの確立


結果、民衆の支持はユーマに一気に傾いた。


--------------------------------農業改革--------------------------------


ユーマは、輪作農法や灌漑設備の強化を提案。


特にこの領地では、気候がブドウ栽培に適していることに目をつけた。


「ここを酒造の中心地にする。」


こうして、ユーマはワイン醸造産業を立ち上げ、領内の商業を活性化。

さらに、薬草や高品質な羊毛などの特産品も奨励し、交易品の価値を高める。


農業従事者の技術向上のために農業学校を設立し、最新の農法や管理技術を学ばせることで、長期的な発展を狙う。


--------------------------------交易の拡大:世界とつながる--------------------------------


生産が軌道に乗ると、次は交易の拡大。

ユーマは貿易を管理する商会を創設し、周辺諸国との交渉を開始する。


- 特産品を輸出し、鉄や紙などの資源を確保

- 港を整備し、物流を効率化

- 貨幣経済を安定させ、経済を成長させる

- 交易路の警備強化、盗賊対策の軍事展開


交易の結果、領地にはこれまで不足していた資源が流れ込み、さらに発展の余地が広がっていった。


--------------------------------教育と科学の発展--------------------------------


経済が安定すると、次は知の時代へ。


ユーマは領内に学問所を設立し、識字率向上と教育の普及を推進。


「読み書き計算ができるだけで、人生は大きく変わる。」


その考えのもと、子供から成人まで、広く学問を学べる環境を整える。


さらに、学問所の中から特に優秀な者たちを選抜し、医学・科学を発展させる機関を創設した。


- 医学研究:感染症対策・手術技術の向上

- 科学技術:水力発電・印刷技術の導入

- 軍事技術:鉄製武具の改良と戦術研究


こうして、ユーマの領地は、王国随一の知の都へと変貌を遂げていった。


かつては王国の端に追いやられた辺境であったこの地は、今や発展の中心となりつつある。しかし、それに伴い、王国の他の地域との差は次第に広がり始めていた。


貴族の統治する地域では依然として封建的な制度が続き、民衆は重税に苦しみ、交易の発展も滞っていた。一方でユーマの領地では、豊かな資源と自由な経済体制が確立され、識字率の向上や医療の発展により、生活の質が格段に向上していた。


やがて、「ユーマの領地に行けば、誰もが豊かになれる」という噂が広まり始め、王国中の農民や職人がこの地へと流れ込むようになった。流民の増加により、王国の他地域では労働力不足が深刻化し、統治者たちは新たな問題に直面し始める。


領地内の繁栄と、それ以外の地域との格差——その差は日を追うごとに拡大していった。




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