勇者、終幕
--------------------------------基礎戦闘術と知識の習得--------------------------------
翌日から始まった養成講義は、戦闘技術の基礎から魔王と呼ばれる存在、この国の歴史、さらには遠征先の人心掌握術に至るまで、多岐にわたるものだった。
だが俺は、すべてを瞬時に理解し、情報を整理できる能力を持っていた。
「……こんなに簡単に理解できるのか?」
戦闘訓練でも、座学で学んだ技術を即座に実践し、驚くほどの精度で応用できた。
「ユーマ、君……本当に初めてやったのか?」
指導教官すらも驚きを隠せない。
「まぁ、なんというか……すぐ覚えられるんですよね。」
最初は驚かれていたものの、次第に俺の異常な習得速度は周囲にとって「そういうもの」と認識されるようになった。
--------------------------------空いた時間でさらなる学習--------------------------------
半年のカリキュラムが組まれていたが、俺には時間が余りすぎた。
「せっかくなら、この世界の哲学や神話も学んでみるか。」
そう考えた俺は、王立図書館に通い、古代から続く哲学書や神話、料理本などを学び始めた。
学べば学ぶほど知識が蓄積され、俺の思考力や理解力は、まるで賢者レベルにまで高まっていった。
「なんて便利なチートなんだろう……異世界転生バンザイ。」
知識が増えるほど、自分がこの世界においてどれほど異常な存在なのかがよくわかる。
--------------------------------半年後の合格と勇者パーティへの編入--------------------------------
「ユーマ君、君はすべての課程を最高評価で修了した。」
半年後、講師陣から告げられたのは当然の結果だった。
「これにより、正式に勇者パーティへの編入が決定する。」
ついに、俺は王国最強の冒険者集団の一員となる。
「明日、ギルドの一室で初顔合わせを行う。」
--------------------------------勇者パーティとの初顔合わせ--------------------------------
翌日、ギルドの一室に向かうと、すでに勇者パーティのメンバーが集まっていた。
「おお、新入りか!」
最初に声をかけてきたのは、豪快な雰囲気の斧使い、ロイエン。
「俺はロイエン。まあ、よろしく頼むぜ!」
「ユーマです。よろしくお願いします。」
続いて、陽気な雰囲気のカインが軽く手を挙げた。
「俺はカイン。情報収集と偵察担当。よろしくな!」
「よろしくお願いします。」
そして、最後に目が合ったのは——
「……あの時の。」
銀髪ショートカットのミリアだった。
「やっぱり君だったんだね。」
「ええ、あの時はどうも。」
自然に挨拶を交わしたが、内心では心臓がドキドキしていた。
(やばい、可愛い……いや、どストライクすぎる!)
まさか、あの時偶然出会ったミリアが勇者パーティのメンバーだったとは。
「へえ、ユーマはミリアと会ったことがあるのか?」
勇者でありパーティリーダーのアレクトが興味深そうに尋ねた。
「はい、街で偶然……。」
「ふふっ、まさかこうして一緒のパーティになるとはね。」
ミリアが微笑む。
(うわぁ……本当に幸運すぎる!)
一緒にパーティを組むことになったことを心の中でガッツポーズする。
その後も和やかなムードで自己紹介が進み、談笑しながらお互いの得意分野や役割について話した。
皆、気さくで強者揃い。期待に胸が膨らむ。
--------------------------------国王との面会と装備の一新--------------------------------
翌日、城にて国王との面会が開催された。
荘厳な雰囲気の中、国王が王座に座し、俺たちは厳粛な空気の中で面会を迎える。
「勇者パーティの諸君、よくぞここまで鍛錬を積み重ねてきた。」
国王の声には威厳があり、場内の誰もが神妙な顔つきでその言葉を聞いていた。
「本日をもって、汝らに正式な命令を下す。」
国王令として、勇者パーティへの正式な魔王討伐命令が提示される。
「国家として、諸君の任務を支援する。必要な装備と物資はすべて支給し、遠征の準備を整えるように。」
この言葉と共に、宮廷付きの武具職人や王国騎士団の指揮官が俺たちの元へと寄り、装備の新調が行われた。
俺はこれまでの軽装ではなく、より高性能な防具と武器を手に入れることになった。
「すげぇ……。」
ミリアやロイエン、カインもそれぞれ専用の装備が支給され、パーティ全員の戦闘力が飛躍的に向上した。
「これで、ようやく本当の勇者パーティって感じがするな。」
アレクトが剣を構えながら笑う。
「いよいよ旅立ちの準備が整ったな。」
こうして、俺たちは魔王討伐のための準備を本格的に進めることになった。
--------------------------------勇者パーティの快進撃--------------------------------
俺たち勇者パーティの快進撃は止まることを知らなかった。
旅立ってから数ヶ月、魔王討伐のために各地を巡りながら、無数の魔物を倒し続けた。
人々を苦しめる悪しき存在を討ち、村や町を救い、安全を確保していく。
「また一つ、平和が戻ったな。」
アレクトが両手剣を収めながら言う。
「まったく、討伐するたびに俺たちの名が広まっていくな。」
ロイエンが豪快に笑う。
「それだけ俺たちが強いってことさ。」
カインがニヤリと笑いながら戦利品を回収していた。
ミリアもまた、次第に俺との距離を縮めていった。
--------------------------------ミリアとの関係の変化--------------------------------
旅を続ける中で、ミリアとの仲は次第に深まっていった。
戦いの合間に二人で食事をすることが増え、時には夜空の下で語り合うこともあった。
「ユーマって、不思議な人ね。」
「そうか?」
「うん。すごく強いのに、まるで普通の人みたいに接してくれる。」
ミリアの言葉に、俺は少し照れながら笑った。
「ミリアも、すごくしっかりしてるけど、時々可愛らしいところがあるよな。」
「……そ、そう?」
ミリアは少し頬を赤らめながら、照れ隠しにスープをすすった。
そんな日々が続き、気がつけば、俺たちは自然と恋仲になっていた。
「ユーマ、これからもずっと、一緒にいてくれる?」
「当たり前だろ。」
互いに微笑み合いながら、俺はミリアの手をそっと握った。
--------------------------------戦闘の変化とユーマの圧倒的な成長--------------------------------
しかし、戦いの中で俺の異常さは次第に際立っていく。
最初はパーティ全員で力を合わせて戦っていたが、ある時を境に、俺一人で決着をつけることが増えていった。
「……ちょっと待て、ユーマ、今の戦い……」
ロイエンが驚愕した顔で俺を見る。
「一瞬だったな……。」
アレクトも驚きを隠せない。
ふとステータスを確認してみると——
Lv.1021 HP.????? MP.不明
(……え、さすがにおかしくないか?)
俺は知らぬ間にレベル1000を超えていた。
「もはや戦闘と呼べるレベルじゃないな……。」
カインが呆れたように言う。
たしかに、俺の力は尋常ではなかった。
魔族の精鋭部隊が現れても、俺が剣を振るえば瞬く間に消し飛ぶ。
ゴーレムの軍勢が押し寄せても、一撃で粉砕できる。
「これもう、俺たち必要ないんじゃ……?」
ロイエンが苦笑いしながら言う。
しかし、俺は決して戦いを退くつもりはなかった。
--------------------------------守るべき存在--------------------------------
ミリアが、そこにいた。
「ユーマ、私は……君のことが好き。」
「……俺もだよ。」
そう言いながら、俺は彼女の手を握った。
守るべき者ができた。
俺の力がどれほど異常であろうと、仲間たちがどれほど俺を羨望の眼差しで見ようと、それでも俺は、ミリアを守るために戦う。
それが、俺の新たな戦う理由となったのだった——。
--------------------------------最終決戦--------------------------------
そして、ついに魔王城へとたどり着いた。
黒き雲が空を覆い、不気味な気配が漂う漆黒の城。
門の前に立つと、異様なプレッシャーが全身を包んだ。
「これが、魔王の城か……。」
アレクトが剣を握りしめる。
「気を抜くなよ。ここからが本番だ。」
ロイエンが斧を肩に担ぎ、鋭い眼差しを向ける。
俺たちは慎重に城内へと足を踏み入れた。
奥へと進むにつれ、無数の魔物たちが立ちはだかる。
「うわっ、数が多いな……!」
カインが素早く敵をかわしながら、暗器を投げる。
ミリアが後衛から魔法を唱える。
「フレイム・スパーク!」
炎の奔流が敵を焼き払う。
しかし、俺はというと——
「……もういい、俺がやる。」
一歩前に出る。
剣を振るえば、一撃で魔物の群れが吹き飛ぶ。
「こっちが大変だっていうのに、また一瞬かよ……。」
ロイエンが苦笑いしながらぼやく。
ついにたどり着いた最奥の間。
そこには漆黒の鎧を纏い、禍々しいオーラを放つ魔王が玉座に座していた。
「ようこそ、勇者ども……。」
魔王の声が響き渡る。
「お前たちの力、見せてもらおうか……!」
戦いの火蓋が切って落とされた。
最初はパーティ全員で挑んだ。
アレクトが果敢に斬りかかり、ロイエンが猛攻を防ぎ、ミリアとカインが援護を続ける。
だが——
「……ダメだ、俺がやる。」
俺が剣を振り下ろした瞬間、城全体が揺れるほどの衝撃が走った。
魔王の身体が砕け散る。
「ば、馬鹿な……。」
魔王の断末魔が響く。
魔王の身体が霧散し、その瞬間、あたりが静寂に包まれた。
誰もが息を呑み、戦いの終わりを実感する。
「……終わったのか?」
アレクトが剣を収めながら呟く。
「終わった……の?」
ミリアが俺の隣で安堵したように息をつく。
しかし、その瞬間——
眩い光が空間を満たし、突如として女神が現れた。
「チュートリアルお疲れ様でしたー!」
朗らかな声が響く。
「……は?」
俺は思わず目を瞬かせる。
「……えっ? チュートリアル……?」
女神はにこにこしながら、手をひらひらと振る。
「はいー、チュートリアルです! 体験してみてどうでしたー?」
「いや、え? これで終わり? 魔王倒して、世界救って、それで?」
「いえいえ、あくまでチュートリアルが終わっただけなので……。あ、でもこれで終わらせて他の世界にも行けますよ!」
「いやいやいや……。」
俺は思わず頭を抱える。
「仲間もいるし、恋人もできたし、それは結構なんですけど……なんか、簡単すぎましたね?」
「あーね。ちょっとした手違いで……あなた神になっちゃいました……。」
「…………は?」
俺は思わず聞き返す。
「神……? 神って……。」
女神は頷きながら、さらっと衝撃的な事実を続ける。
「なので、あなたは不滅でいて高次の存在なんです。今はまだ人間っぽい感じですけど、ほっといたらその……生命では無くなってしまいますね。」
「…………。」
頭の中が真っ白になった。
「もちろん、私も元々は生命でした。でも、科学レベルが一定を超えちゃって、不滅の存在になってしまったの。今は生命っぽい見た目で活動している、生命以外の何か。それを神って呼んでるの。」
「……情報生命体とかってことですか?」
「うーん、それはAIってこと? まあ、そう思うのも無理はないわね。でも違うのよ。AIは人間の自然言語で学習して、人間の思考設計で作られた人工物でしょ?感情とかを神格化しちゃう。そうではなく私たちは、サイエンスを追求し神と呼べる存在へと変化してしまったの。気づいたら、生命とは言い難い別の何かになっていた。だからこそ、私たちは自らを神と呼ぶようになったのよ。」
「じゃあ、俺は……?」
女神は俺を見て、ニッコリ笑う。
「あなたの生きてた頃の世界の俗称だと、『ホモ・デウス』って呼び方が妥当かしら。」
「なるほど、わからん。」
脳内の情報処理は勝手に進んで、意味は理解できる。
理屈では納得してしまう。
でも、心情が追いつかない。
いや、理解したくない。
「え、もしかして今、心では理解したくない的な状態? いいなぁ、初々しいなぁ。」
「……。」
「まぁ、それはさておき……どうする? 続ける?」
女神が楽しそうに俺を見つめながら問いかける。
「ちなみに、私のおすすめはねぇ——」
「続けさせてください。」
俺は女神の言葉を遮るように即答した。
「僕には、守るべき人たちがいます。やっと社会に認められたんです。生きてきて初めてのことでした。」
女神はしばらく俺を見つめ、そして目を細める。
「……まぁ、そうね。まだ貴方は“人間”だものね。」
その言い方が、妙に引っかかった。
「いいわ、一旦続けてみなさい!」
そう言って、女神は指を弾く。
「それじゃあ、戻すわね!」
「え、ちょ……」
その瞬間、視界が光に包まれた。
時間が止まったような感覚が広がり——
——そして、世界は再び動き出した。
--------------------------------帰還と新たな自覚--------------------------------
「……おい、終わったぞーー!!!」
ロイエンの勝どきが響き渡る。その声に、俺はハッと我に返った。
周囲を見渡すと、皆が肩で息をしながら戦場の静寂に浸っている。
——その間も、俺の頭の中では情報解析が進んでいた。
レベルが異常に上がる理由。
一度見たものを完全に記憶できる理由。
すべては「神化」した影響だと、脳が淡々と結論を出していく。
「ユーマ!」
ミリアが駆け寄ってきた。その顔は、安堵と興奮が入り混じっている。
「私たち、やったんだよね!? 世界を救ったんだよね!?」
「……ああ。」
そうだ、魔王は倒した。俺たちはやり遂げたんだ。
「まぁ、実際はユーマの大将がほとんどやったんだけどな。」
カインが肩をすくめながら苦笑する。
「俺って必要だったのか、って感じで……勇者なの、ちょっと恥ずいな。」
アレクトも申し訳なさそうに言う。
ロイエンがどっしりと腕を組み、にやりと笑った。
「まぁ、勝ちは勝ちだ。人類に平和が訪れるさ!」
俺はゆっくりと深呼吸し、最後に一言、確かめるように言った。
「——帰ろう、王国へ!」
こうして、勇者パーティのクエストは幕を閉じた。