仲間、旅立ち
--------------------------------装備の新調--------------------------------
ゴブリン討伐を終え、40銀貨の報酬を手にした俺は、ギルドの外で改めて財布の中を確認した。
「……意外と、簡単に大金が稼げるな。」
もちろん、初心者向けの討伐依頼とはいえ、ゴブリンはそれなりに危険な相手だ。しかし、俺の場合はそこまで苦戦しなかった。レベル差があったとはいえ、スライムを倒した時よりも圧倒的に強くなっているのを実感する。
「せっかくだし、防具と武器を新調するか。」
今の装備といえば、ギルドで借りたショートソードと、布製の服。防御力なんて皆無だ。
「40銀貨あって、10銀貨ずつの分配か……。」
金の管理はパーティ単位でされるらしく、報酬はガイが持ち、各自の取り分が10銀貨ずつ支払われるらしい。
「9銀貨あれば、そこそこの装備は買えそうだな。」
俺は市場を回り、最低限の防具と武器を探すことにした。
--------------------------------夜の打ち上げ--------------------------------
装備の新調を終えた頃、ガイから声をかけられた。
「おう、ユーマ! 夜、酒屋で打ち上げすることになったぞ。初仕事の祝いってやつだ!」
「打ち上げ?」
「そうだよ。冒険者は戦った後に飲んで騒ぐもんさ。ちゃんと来いよ!」
オルフェとセレナも笑顔で頷く。
「今日の報酬もあるし、ちょっといい酒でも飲もうかと思ってさ。」
「ふふっ、ユーマも来てくださいね。」
セレナにそう言われたら断る理由はない。
「……わかった。じゃあ、酒屋で合流な。」
夜、指定された酒屋に行くと、すでにガイたちは盛り上がっていた。
「おーい、ユーマ! こっちこっち!」
「お疲れ!」
「今日の戦い、すごかったね!」
席につくと、すぐに今日の感想戦が始まった。
「しかし、お前ほんとにすげえな。まるで初めての戦闘じゃなかったぞ?」
「まあ……鍛えられてたからな。」
適当に誤魔化しながら、俺は酒を一口飲んだ。
「次のクエストはいつにする?」
そう聞くと、ガイは少し驚いた顔をした。
「いや、しばらくはやらねえよ。」
「え?」
「だって、今日の報酬だけでしばらくは暮らせるじゃん。毎日クエストなんかやってたら、命がいくつあっても足りねえよ。」
「……思ってたのと違った。」
俺は毎日クエストを受けて、常に稼ぎ続けるものだと思っていた。
「お前、毎日仕事するつもりか? 頭、大丈夫か?」
オルフェが呆れたように言う。
「今日のクエストだってな、普通の労働者が半月から一ヶ月かけて稼ぐ金額なんだぜ? それを命がけで稼ぐんだから、毎日やるもんじゃねえよ。」
「……なるほど。」
考えてみれば、俺の価値観は前世の社畜生活のものだ。こっちの世界の価値観とは違う。
「ただ、もっと稼ぎたいならランクアップ申請するのもありだな。」
「ランクアップ?」
「冒険者には個人のランクってもんがあるんだよ。お前は今F級だけど、実績をこなしたからE級はいけるんじゃねえか?」
「E級……。」
「ちなみに俺たちは全員E級だ。」
ガイが当然のように言う。
「……そうだったのか。」
俺の実力がパーティの足を引っ張らないレベルなら、E級へのランクアップも悪くないかもしれない。
「まあ、明日ギルドに行って申請してみればいいさ。」
打ち上げが終わり、俺は宿に向かった。
「とりあえず、明日ギルドに行こう……。」
そう思いながら、俺は眠りについた。
--------------------------------ギルドでのランク申請--------------------------------
翌朝、ギルドに着くと俺はすぐにカウンターへ向かい、受付のリリィに話しかけた。
「ランク申請をしたいんですが。」
「ユーマさんですね。申請にはテストが必要になりますよ。」
「テスト?」
「はい。まずは簡単な模擬戦闘を受けていただきます。その後、座学を受ける形になります。」
「なるほど。」
「今日は即日可能なので、すぐにテストを開始できますが、どうされますか?」
「やります。」
リリィが手際よく手続きを進める。
「では、模擬戦闘の相手はA級冒険者のジルさんになります。木剣を使った試合形式で行いますので、準備をお願いします。」
A級冒険者との模擬戦闘? いきなりハードモードすぎないか?
「冒険者の素質のチェックになるので安心してください。変に同レベルの者との戦闘になると危ないので……。準備できましたら、闘技場へどうぞ。」
ギルドの闘技場に移動すると、そこにはすでに待機しているジルという男がいた。長身で、身体のバランスがよく鍛えられている。
「俺が試験官のジルだ。よろしくな、新入り。」
「お願いします。」
木剣を構え、試合が開始される。
しかし、試合開始直後、俺は無意識にスライム討伐のときと同じ動きでジルの攻撃を捌き、瞬く間に間合いを詰めた。
「——っ!?」
ジルが驚いた表情を浮かべる。
木剣を振るう俺の動きが速すぎて、ギルドの関係者が騒ぎ出した。
「おい、あれ大丈夫か!?」「ちょっと待て、手加減しろ!」
試験官の判断により、試合は途中で中止となった。
「……お前、何者だ?」
ジルが息を整えながら俺を見つめる。
俺は自分の力が異常であることを、改めて実感した——。
--------------------------------座学試験と新たな異変--------------------------------
模擬戦闘が終了し、続いて座学試験が始まった。
内容は冒険者の活動内容や、薬草の種類とその効能、法律に関する基礎知識など、多岐にわたるものだった。
しかし、俺はなぜか——
すべてを一度で覚えられてしまう。
説明を聞くだけで、その情報が脳内に整理され、必要な部分だけが簡潔に抜粋されて記憶されるような感覚になる。
「……なんだ、この感覚……?」
試しに思い出そうとすると、まるで記録されたデータのように詳細な情報がスッと蘇る。
「これもチートか……?」
自分でも異常な感覚だったが、異世界転生者なので「まあ、そういうものか」と納得してしまう自分がいた。
座学を終えると、リリィが驚いた表情で俺を見つめていた。
「……ユーマさん、すべての問題を完璧に正解されましたね。」
「え、ああ……そうですね。」
「正直、このギルドでは測定不可能なレベルの知識習得能力です。一度、本部で正式なスキル測定を受けてみてはどうでしょう?」
「本部?」
「はい。この街のギルドは地方支部ですが、中央ギルドにはより詳しいスキル解析の設備があります。もしご興味があれば、推薦状をお出しできますよ。」
思わぬ展開になったが、とりあえず今は——
「それはまた考えます。今はランクアップの結果を知りたいですね。」
「……承知しました。結果として、ユーマさんはD級冒険者に認定されました。おめでとうございます!」
こうして俺は、正式にD級冒険者となった——。
--------------------------------パーティとの別れと新たな旅路--------------------------------
D級冒険者になったことをガイたちに報告すると、予想外にも気まずい空気が流れた。
「そっか、お前D級になったのか……」
ガイが腕を組みながら、少し複雑そうな表情をする。
「実は、中央ギルドに行かなきゃならなくなったんだ。」
俺がそう伝えると、オルフェとセレナも顔を見合わせる。
「……そっか。でも、俺たちE級のままだし、お前の足を引っ張っちゃ悪いよな。」
「ユーマさんの才能を考えれば、むしろ私たちと一緒にいる方がもったいないかも。」
あっさりとした二人の反応に、俺は少し驚いたが、彼らの言うことはもっともだった。
「いや、そんなつもりじゃ……」
「いいんだよ。俺たちもそのうちD級になれるさ。」
ガイが笑って肩を叩く。
「中央ギルドに行っても、元気でな。」
「ユーマさんなら、きっともっとすごい冒険者になれます!」
「またどこかで会おうな!」
こうして俺たちは握手を交わし、パーティを解散した。
--------------------------------中央ギルドのある王国へ--------------------------------
俺は単身、中央ギルドのある王国へ向かうことにした。
王国までは山を二つ超えた先にあり、道中にはモンスターも多い。
「一人旅って、意外と悪くないかもな……」
そう思いながらも、行く手を阻むモンスターを何匹も討伐しながら進んだ。
戦うたびにレベルは上がり、経験値も溜まっていく。
そして、旅を続けること10日目——
ついに王国の城壁が見えた。
「ようやく着いたか……」
疲れもあるが、それ以上に達成感がある。
「まずは宿を探そう。」
俺は王国の大通りへと足を踏み入れた。
--------------------------------可憐な女性との出会い--------------------------------
宿を探して歩いていると、一人の女性とぶつかりそうになった。
「きゃっ!」
「おっと、すみません。」
俺が謝ると、彼女はフワリと微笑んだ。
「いえ、大丈夫です。」
目の前に立っていたのは、銀髪が美しく揺れる可憐な女性だった。
--------------------------------中央ギルドでの衝撃的な計測結果--------------------------------
翌朝、中央ギルドに向かい、久々にステータスを確認することにした。
魔法水晶に手をかざすと、表示された数値に思わず息をのんだ。
Lv.125 HP.5000 MP.不明
「……は?」
その場が一瞬で慌ただしくなり、周囲の冒険者たちの視線が集まる。
「おい、今の数値、本物か?」
「A級の平均が50くらいなのに……」
逃げようかとも思ったが、逃げたところで今後の予定も何もない。
仕方なく、その場に留まることにした。
すると、中央ギルド長のマークと名乗る男が現れた。
「君が……ユーマ君か。すごい数値だな。」
落ち着いた雰囲気のマークが、俺をじっと見つめる。
「A級冒険者の平均レベルが50程度だということは知っているか?」
「ええ……そうなんですか?」
「正直、この数値ならS級登録でも問題ない。そして、なんなら勇者パーティに編入させることも考えられる。」
「……え?」
あまりの展開に、さすがの俺も呆然とする。
「勇者パーティって……実在するんですか?」
俺は、異世界の知識がほとんどないことを正直に打ち明ける。
「……なるほど、君は本当に何も知らないのか。」
マークは少し考え込むと、説明を始めた。
「冒険者のレベルは一般的に50を超えればA級と認定される。S級となるのはその中でも数名ほど。そして、勇者パーティは王国が認めた最強の精鋭たちで構成されている。平均レベルはおよそ100……君の数値は、それをはるかに超えている。」
「……マジか。」
「正直、君は即座にS級認定しても問題ない。しかし、基礎的な知識もなく、実戦経験も乏しいとなると、扱いが難しい。」
「なるほど……。」
「だからまずは、君には基礎的な座学を受けてもらう。それが終わったら、正式な判断を下そう。」
こうして俺は、中央ギルド内の一室を借りて、翌日から養成を受けることになった——。