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千紫万紅  作者: リゾット
13/42

僕と生徒会長と学校と ~演説~

 一年前の五月。

 高校に入ってまだ一月しか経っていなかった頃。

 まだまだ高校生活の勝手が分からず、クラスの中の人間関係も定まらないような微妙な時期である。

 そんな時に、僕は岩千鳥先輩と出会った。

 当時――まだ生徒会が現在の体制になる前、岩千鳥先輩は生徒会執行部の会計を務めていた。

 ぶっちゃけ。

 その当時、僕は生徒会というものに対する関心を、殆ど持っていなかった。

 僕の通っていた中学校にも生徒会はあったが、しかし存在感のない、先生に言われたことをやるだけの、お飾りのものだった。

 高校でもそうなのだろうと、僕は思っていた。

 生徒会なんて、ごっこ遊びのようなものなのだろうと、当時の僕は考えていたのだ。

 実際、生徒会なる組織がどれだけのことを出来るというのだ?

 生徒会役員選挙なんてものがあるけれど、誰が役員になったところで一緒ではないのか?

 僕のみならず、このように考える人間は多いのではないかと思う。

 実際、生徒会の仕事なんて地味なものだ。教師をも上回るような権力を持っていたりするのは漫画やアニメの中でだけ。

 生徒の自主性を重んじる、なんてのは上っ面だけ。実際に生徒会が自主的にやれることなど、本当にたかが知れているのだ。

 無理もない。だって生徒会役員は所詮、ただの学生に過ぎないのだから。

 生徒会役員に権力など、ない。

 はっきり言って、他の生徒と差など無いのだ。

 仕事が。

 責任が。

 義務が。

 ほんの少し、他の生徒より多いだけの存在に過ぎない。

 誰が生徒会に所属しているかなんて、皆知らないし、気にもしていない。せいぜい、人前に出ることの多い生徒会長の名前と顔を知っているくらいだろう。

 そのくせ、仕事は割と面倒だし、当然自分の時間を削られる。

 大体、生徒手帳に書いてある生徒会規則なども知らない生徒が殆どだろうし。

 と、まあ。

 散々生徒会と言う組織をディスってきてしまったわけだけれど、しかし僕は、今生徒会執行部役員として活動しているわけだ。

 岩千鳥先輩との出会いがきっかけで、僕の中にある種のパラダイムシフトが起きたのだ。

 否、出会いという表現は語弊があるかもしれない。

 僕が、岩千鳥携という人間を知った時から、彼女は僕に影響を及ぼし始めていたのだ。

 


 それは、今から一年近く前のこと。

 五月の生徒総会の時のことだった。

 生徒総会――全校生徒が所属する生徒会の最高議決機関。

 などと言ってみると格好いいけれど、これもまた、ほとんどお飾りの機関である。

 生徒総会は定期的に開催される。毎年五月の生徒総会は、主に生徒会役員選挙についてだ。

 生徒会役員は志願制で、要するに『やりたい奴がやる』形式である。

 毎年、志願者はそう多くなく、規定枠以上の希望者はまずいないらしい。そうなると選挙は、信任投票となる。候補者はそれぞれ演説を行い、全て終わった後で、候補者が信任か否かを選ぶのだ。

 候補者の演説をまともに聞いている人間はごく少数派で、皆後で適当に信任にしておく――それがいつもの生徒会選挙だった。

 僕も、そうするつもりだった。

 だって、誰でも同じことだから。

 お飾りの選挙に、自己満足の選挙ごっこに、微塵も興味を抱いていなかった。

 そしてそれは僕だけでなくて、殆どの生徒がそうだったのだ。

 体育館に集められた全校生徒は、候補者の演説など聞かず、お喋りをしている者も少なくない。教師もいつものことだと特に注意もしない。当の候補者でさえ、だ。

 例年通りのそんな状況を、一人の候補者の一言が変えた。

「静かにして下さい。話を聞いて下さい」

 ――その候補者こそ、誰あろう、当時二年生だった岩千鳥携先輩だったわけである。

 体育館の壇上に立った彼女は、マイクを通じ、そのくりくりっとした萌えヴォイスで以ってして、全校生徒の喧騒を打ち破った。

 今までの候補者は、誰一人、生徒たちの私語を咎めることもせず、半ば諦め半分で喋っていた。候補者とて、本音を言えば演説などしたくないのだが慣例だから仕方が無い、というスタンスだったのだろうけれど。

 岩千鳥先輩は、ただ一人の生徒会長立候補者は、違った。

「ありがとうございます」

 しーんとしてしまった体育館を一瞥して、岩千鳥先輩は笑顔でそう言った。

 堂々としたものである。

 当時の僕は、「お、何か変わった先輩出てきたな」などと興味津々に壇上の先輩を見ていた。見かけがまるっきり小学生なので、より強く印象に残っている。

「さて、私が生徒会長になったら、やりたいことがあります」

 それは、

「――生徒会を変えます」

 迷い無く。

 先輩は、言い切った。

 その言葉の意味するところを、僕も含め、殆どの生徒、いや、教師までも、理解できなかったことだろう。

「どういうことなのか、ご説明させて頂きますね」

 幼い容姿に反して、先輩はよく通る声(萌えヴォイスだけど)ではきはきと喋る。演説、というものに慣れた話し方だった。

 つか、むっちゃ滑舌が良い。

 声優とかになれるんじゃないかな。

「……皆さん、生徒会というものがどんな組織なのか、ご存知ですか? 生徒会執行部というものがどういう組織なのか、ご存知ですか?」

 先輩の問いに対し、はっきりと答えることの出来る人間が、体育館の中にどれだけいたことか。

 少なくとも、僕には無理だったろう。

「生徒会は全校生徒が所属する生徒自治のための組織であり、今ここで行われている生徒総会は生徒会の議決機関です。そして生徒会の事務を行うのが生徒会執行部であり、この選挙はその生徒会執行部の役員を選出するためのものです」

 どれほどの人間が。

 今、岩千鳥先輩の言った内容を頭に入れた上でこの選挙に臨んでいたのか。

 言葉にこそしなかったけれど、岩千鳥先輩はそういうことを言いたかったのかもしれなかった。

「私は去年、会計として執行部の仕事をさせてもらいました。ですが、執行部が何をしているのか、なんて全校生徒の皆さんには全く伝わっていないのが実情です。

 生徒会とは、全校生徒の皆さんがより良い学校生活を送るためにあるはずです。ですが、全校生徒の皆さんの内どれだけが、『生徒会のお陰で学校生活が良くなった』と実感しているでしょうか」

 気づけば、皆が岩千鳥先輩の演説に聞き入っていた。

 ある者は真剣に。

 ある者は興味本位で。

「それじゃ、駄目なんです。

 私は生徒会執行部役員として、皆さんの高校生活を一生の思い出に出来るようなお手伝いをしたいと考えています。ですが、私の目標を達成するためには、今のままじゃ駄目なんです」

 だから、

「私は、生徒会を変えます。変えてみせます」

 強く、先輩は言い放った。

 そして先輩はその目線を、全校生徒から、壇上に控える立候補者たちに移した。

「そのためにまず、立候補者の皆さんにお願いしたいことがあります」

 壇上に並べられた椅子に座っていた立候補者たちは、一様に戸惑った様子で、互いに視線を交し合ったりしていた。

「私は真剣に生徒会の運営に当たっていきたいと思っています。

 私のこの一年を、捧げる覚悟で。

 だから、立候補者の皆さんにお願いしたいのです。当選した暁には、生徒会役員としての仕事に全力を尽くして欲しいと。

 もし、受験対策の内申点目当てだとか、誰かに言われてしぶしぶ立候補したという方がいたら」

 一息。

「すみません、そういう方々には、『降りて』頂きたいです」

 流石に、この先輩の一言にはざわめきが生じた。

 そりゃそうだろう。他の候補者に対して『やる気が無い奴は降りろ』だなんて言う人間は、まずいない。だってこれ、生徒会の選挙なんだぜ。

 ともすれば傲慢とも取られかねない、岩千鳥先輩の言葉。

 だけど、先輩は誰よりも真剣だった。

 それくらいは、僕でもわかった。

「そして、全校生徒の皆さんにもお願いがあります」

 岩千鳥先輩は、視線を僕ら全校生徒に戻す。

「もしも、今日お話した私の指針に対して、ご理解を頂けない場合、どうぞ、不信任にして下さい。

 是非、皆さんに考えて欲しいのです。ちゃんとした『選挙』を、私はしたいのです。ですからお願いします、どうか、適当に信任にするのだけは、止めてください」

 そう言って岩千鳥先輩は、頭を下げたのだった。


あれ、何か真面目な話してる……?

もっとパンツの話とかしようぜ!


くどいようですが、この作品は生徒会モノではありません。


それはさておき、まだ続くのです。


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