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第二話 インサイダー達の騒がしい朝

 自衛隊特殊小隊、通称ベアー小隊副隊長、扇塚斧(せんづかおの)は上官、花園(はなぞの)アランに休暇届を提出した。

 花園アランは椅子にかけたまま休暇届を一瞥し簡潔に許可を出した。

 『水際の戦争』で莫大な戦績を収めたアラン、彼は小隊に二人しかいない『超人』の片割れだ。戦闘機を紙飛行機のように引き裂き、ミサイルを野球のボールのようにキャッチして、軍艦は鉛筆のように二つに割り、潜水艦を永遠に潜水させた。素潜りで。

 アランは小隊で最も鍛えられた肉体の持ち主だが、筋肉ダルマのようには見えなかった。そこらのモデルよりも長い手足に一目で知れる筋肉。彼は部下に恐れられてこそいたがその要因は外見ではなかった。

 女性のように伸ばした黒髪は(つや)やかで、それだけは彼の外見の美点といえた。

 アランは大きな目をなにげなく斧に向けた。それだけで、斧は逃げ出したくなった。アランと同じ部屋にいるというだけで寿命が縮んだ。方向性のない殺意に包まれているよう。彼の部屋自体もアランにいて欲しくないだろう。現実自体が彼から離れたがっているようだ。

「行っていいぞ、斧。左京丸(さきょうまる)によろしく言っとけ」

 安堵のため息を堪えて斧は敬礼。

「それでは失礼します、サー」

 扉を閉めて、息を吐く。自室に戻り私服に着替える。久しぶりの休暇、シルクの白いスーツを簡単に手入れして袖を通す。

 休暇の理由は決して愉快なものではない。家を追い出された妹に会いに行くのだから。それでも、一時でも隊長から離れられると思うと晴れやかな気分になってしまう。

 花園アランは死神だった。

「……そのお侍がマジで驚き……」

 かつての同僚と話し込んでいる左京丸を見つける。

「行くぞ、(ひずめ)

「アイアイサー、扇塚さん」

 探偵は敬礼、友人に挨拶して斧の後を追う。

 左京丸の車に乗り込む、左京丸は何も言わずにエンジンをかけた。出発。

「さっきのサムライというのはなんだ?」

「え? ああ、今別件の仕事をしてまして、目標が剣術家らしくめっちゃ勘がいいんですよ」

「サムライなんか探る仕事をしてるのか」

「依頼主を詮索しないでくださいよ、それでそいつ、でかい教会に勤務してるらしくて外から様子を見てたんですよ。すると二人ほど、シスターだったのかな、女が出てきて俺を探し出したんです。建物の外の俺の視線に気付いたってことになる」

「面白いな、在野の達人のようだ。依頼主は見つけ出して挑戦するつもりかな」

「さあ……」と左京丸は肩をすくめる。

「その二人の女は?」

「なんすって?」

「その二人の女は調べたのか? そのサムライの弟子かなにかか?」

「本格的には調べてないですけど、同僚ってとこでしょうね」

「シスターか」

「シスター、ね。妹さんに会って、どうするんで?」

「ネクロポリスから脱出させる」

 扇塚元老院の影響力を左京丸は知っていた。北海道から沖縄まで元老院の手は届くと。

 斧の考えは理解できなくもない。ネクロポリス、この世で最も物騒な街だ。勘当するにしても他に場所もあったろう、そう言いたいが。

「脱出させるはいいっすけど、その後は? まさかベアー小隊で(かくま)うなんて言わないですよね」

「うちで保護してどうする。ベアー小隊はネクロポリスより危険だろうが」

「扇塚さんが血迷ってなくて安心しましたよ。いつも通り、クールだ。するとどうするんですか」

「外国に送る。俺はアメリカ、イギリス、中国にコネがある」

「それは知りませんでした。扇塚元老院のコネですか」

「そうだ。俺は勘当なんてされてないからな、使えるものはなんでも使う。微風は英語ができる、どうとでもなるだろう」

「短期間とはいえネクロポリスで生活できたんすから外国生活くらいは余裕でしょうな」

 斧は頷く。

「住めば都、それも生きている都だ。この件はこれで落着する」

「イエッサー。左様で」普段から冷徹な男だったが、妹の話をする斧は鬼気迫るようで左京丸は深入りを避けた。家庭の事情に首を突っ込んでもろくなことにはならない。

「それより蹄、意外だったぞ」

「? なにがですか?」

「お前の商売は上手くいってないと思っていた。それが二つの依頼を同時に受けるとはな。見直したぞ」

「扇塚さんに褒められるのは珍しいな。でもどちらもコネで俺の企業努力はあんまり関係ありません」

「確かに片方は俺の依頼だが、もう一つもそうなのか、サムライを探すとかいう?」

「そうっす。最初、依頼人は絵柄津(えがらつ)さんを訪ねたんですよ。それで絵柄津さんは手が空いていないから俺を紹介したんです」

 元部下の口から有名人の名前が出て斧は感慨にふける。

「お前がまさか、『探偵王』にスカウトされるとはなあ」

「もう独立しましたけどね。花園さんほどじゃないけど、あの人の下で働くのは正直キツかったです」

 探偵王の二つ名の通り、絵柄津(つづら)は日本最高の名探偵だ。裏社会に属する者の中ではヒーローのマジスター・ハイエンドに並んで表の人々に好かれている。テレビにこそ出ないもののその知名度はほとんど芸能人に近い。

 除隊し、探偵でも始めてのんびりするかな、と思っていた左京丸を捕まえて「探偵に興味あるんだって?」と絵柄津はにんまり悪そうに微笑んだ。初対面だった。

 いつの間にか探偵学校の生徒にされ、卒業すると絵柄津の助手にされた。辞めます。勘弁してください。何度も訴えたが、その度にはぐらかされて辞めることはできなかった。彼の助手を務めていると何度も死ぬような目に逢い、これでは軍を辞めた意味がないと左京丸は危機感を募らせた。

 それが突然、ある日、絵柄津に肩を叩かれた。「独立していいよ」

 その時の意地の悪そうな笑顔を、左京丸はときおり思い出す。俺の運命を知っていて、愉悦のために黙っているような気がする。まさか人の不幸を楽しむ男ではないが、彼の力能ならそれができる。未来視。全てを見た男。最強の力能者。

「最強の力能者か。左京丸、絵柄津葛に花園アランは倒せるかな」

「倒せるかもしれませんね。あの人なら、最強の超人でも殺せる、かも」

 ですけど、と左京丸。

「あの人たちを会わせるのは怖いっす。絶対やばいことが起こるっすよ」

 そう言う左京丸の声はこわばっていた。なるほど、花園アランは恐ろしい。では絵柄津は?

「あの人なに考えてるかわかりませんよ。花園さんと接触して何しだすか、知れたもんじゃありません」

「しかしあの名探偵は悪党じゃなかろう。いや、何人もの犯罪者を捕まえた、英雄だろうに」

「そりゃ、理屈はそうですけれど、扇塚さん、あの人の下で働いたらそんな認識分解されますよ」

「分解? 変わった表現じゃないか」

「物事の最小単位まで見透かせるってのもあるけれど、とにかくエキセントリックな性格してるんすよ」

 花園アランが左京丸の人生を襲った第二の衝撃なら絵柄津葛は第三の衝撃といえるだろう。

 自分の心を見透かされるという経験はありふれたものではない。自分自身気付いていない想いや未来と過去をも知り尽くしている者と働くという体験は愉快とはいえない。

 全てを観たと言われる男のキャラクターは左京丸に強い影響を与えた。

「ま、とにかく、花園さんを刺激したくなけりゃ絵柄津さんを遠ざけておくのが吉だと思うすね」

「……覚えておこう」左京丸の声に混じった恐怖を斧は聞き逃さなかった。

 左京丸の危機察知能力を彼は認めていた。また、隊長を刺激したくないというのはベアー小隊全員の総意なので異論をはさみはしなかった。

「見えてきましたよ。あれが『教会』です」

「……おお」

 その大きさに斧は思考を一時手放した。こんなものが。その向こうにはネクロポリスを仕切る木材の壁。

「停めろ、蹄」

 教会の百メートルほど手前で停まる。助手席から降りる斧。

「妹さんの正確な場所は……」

「いや、自分で探す。ご苦労だった。蹄一等兵」

「イエッサー」軽く敬礼。助手席に封筒があるのに気付く。

「それは報酬だ。何かあったらまた依頼するかもしれん。いつでも連絡できるようにしておけ」

「アイアイ、扇塚さんの健闘を祈りますよ。無事妹さんを保護できるようにね」

「例のサムライがお前に気付くかもしれない。もう行っていい」笑って手を振る斧。

「それでは」そう言って車を出す探偵。そのまま教会を見張る予定だ。

 バックミラーに映る斧を確認して道を曲がる、適当に走ったあと教会が見える道に出て車を停めた。また目標に勘付かれるだろうから遠くから見張る。

 そのとき、助手席をノックする音。そちらを見ると黒装束、よく知っている男、ではない、女。

「ぎろ……!?」

 黒い全身タイツ、外套(ケープ)は正確に星空を描いている。頭部を保護するヘルメットは強化ガラス、真正面の十字架を除けばサイケデリックで無秩序なスタンドガラスの色彩。

 自然に助手席に乗り込むギロチンムーン。トレードマークのギロチン剣とシミターは身につけていない。

 ヒーローの大ファンである左京丸ではあるが、一度は共に仕事をした仲ではあるのに、ギロチンムーンと一対一で顔を合わせるという体験に背筋が凍った。冷たいビールが飲みたい。

「喉が渇いたの? 後部座席に冷蔵庫があるわね。何かとろうか?」

「……リンゴジュースがあるからそれをくれるか。ギロチンムーンも飲んでいいぜ」

 体をひねって冷蔵庫を漁る姿は見事なボディラインを強調して、何故か人間的に見えて左京丸を安心させた。そうとも、こいつは敵じゃない。俺は悪党じゃないもん。ていうか人間的に見えるって、俺はギロチンムーンを非人間的に見てるってこと?

 あ、これね、とギロチンムーンは冷蔵庫を閉める。紙パックのリンゴジュースを左京丸に渡してやる。

「ありがとう。ギロチンムーンは飲まないのかい?」

「けっこう。左京丸さんは仕事? 誰を調べているのかしら?」

 黙っていようと一瞬思ったが、懐から似顔絵を取り出した。

「人を探してる。帯刀(たてわき)だるまという奴。あの教会にいると思うんだが確認できてないんだ」

 似顔絵を覗き込んだギロチンムーン、その視線が左京丸に移った、と左京丸は直感した。ギロチンムーンのヘルメットは視線と表情を完全に隠している。

「依頼人は、誰?」

 デフコン2、微かな危険を感じて探偵は車を飛び出す。懐のアイスピックを手探る。そんなものでギロチンムーンから逃れられるはずもないのに。

 車内にギロチンムーンはいない。 

「ギロチンムーン! 依頼人の情報は言えない! 理由があれば別だが!」

 恐怖でひび割れた声。ギロチンムーンを敵に回す? 悪夢だ。だがギロチンムーンは聞き分けのない人物ではない。はずだ。

 突然背中に痺れが走る。「動くな、蹄左京丸」

 背後に回られている。左京丸はこの瞬間になんでも吐く決意をした。

「帯刀だるまは」とギロチンムーン。

「政府に連なる仕事をしている。それを探るあなたの依頼人は反政府的な人物かもしれない。テロリストかも」

「そんな風には見えなかったよ。茨城だが栃木だかからきた田舎のネズミみたいな娘だったよ。地元で帯刀に会ったと言ってた。つーか政府と関係あんのあの教会が?」

「直々に調べた、間違いないわ。田舎の?」

「そう言ってたし、訛りもあった。俺の憶測だが依頼人は帯刀だるまと会って剣の勝負をしたそうだった」

「それで彼を探している?」

「そうだよ! テロリストなら絵柄津さんが俺にそんな仕事回すわけないだろ! そう、依頼人の身元は絵柄津さんが保証してるようなもんだ!」

「絵柄津? 『探偵王』絵柄津葛の仕事なの?」

 背中の痺れが消えた。探偵は振り返る。

「よく仕事をくれるんだよ。どうせ俺の略歴も調べてあるんだろ、名探偵さん」

「まあね。絵柄津葛に師事していたとは知っていたけど、今も付き合いがあるとは」

「あの人はすげー付き合いいいよ。俺がこうなることを黙ってたのは腹立つけど!」緊張で声を荒げてしまう。絵柄津葛の力能はあらゆるものを観る。未来視などお手のものだ。

「ふむ。今私たちのことも見ているのかしら?」周囲を伺うギロチンムーン。

「少なくとも知ってるよ。今遠隔視してるのか、過去に未来視したのかわからないけど、大した違いじゃないだろそんなこと。それより、信用できたかよ」

「私は信用で判断しない。あなたの話はあとで裏を取る。あなたの略歴といえばだけど、富山県の南会(みなえ)村で育ったのね」

「そのくらい簡単にわかる。それが?」

「南会村の虐殺事件、その生き残りが、あなた」

 はいはいその話ね、とうんざりした顔を見せる左京丸。南会村といえばあの事件の話しかない。

 中学時代の虐殺事件、それが蹄左京丸第一の衝撃だ。山に囲まれた小村が一夜にして炎と鮮血に包まれた。左京丸の母親は喉を切られ、父親は両腕を落とされて心臓を貫かれ二人とも即死していた。左京丸の友人たちもそのほとんどが死んだ。あの事件がなければ左京丸は上京し自衛隊に入ることはなかったろう。墓石(はかいし)かなめが血迷いさえしなければ。


「墓石かなめが、東京にいるわよ」


 ギロチンムーンの言葉で左京丸の意識は吹き飛びかけた。

「は!?」

「いつかの事件で接触したの」

「あいつは精神鑑定に引っかかって富山精神病院にいるはずでしょーが!?」当時のかなめは未成年で少年院にいながら重度の精神病で治療困難と診断され、治療の目処が立つまで半永久的な強制入院の処置が下っていた。

「脱走したってことね。あなたには耳に入れておいたほうが良いと思って」

 左京丸は運転席に飛び乗ってドアを閉めようとし、ギロチンムーンに妨げられた。

「ちょっと、どこいくの!」

「かなめのいないとこですよ!」

「そのかなめがどこにいるかもわからないのに? なにか心当たりはない!?」

「あんなイカれ女の考えることわかるかよ! 断言できるのはあいつは俺に会ったら殺しにくるだろってことだけです!」

「恨みでも買ってるの!?」

「恨みなんてあいつには関係ない、狂ってんですから。俺を逃してよー!」

「落ち着きなさい、蹄左京丸! 彼女はあなたの居場所も知らないのよ!」

「でもいつか見つけるでしょうが。こんなことなら偽名でも名乗ってりゃ良かった!」

 取り乱すとは思っていたが、ここまでとは。

「では聞くけど、墓石かなめの『いないところ』とはどこ? あなたの逃げ場所は?」

 そう問われて、やっと左京丸は落ち着いた。

「そ、それこそわからない。あの女はイカれてるから。くそ、どうすれば……」

「どうしてそう怯えるの? あなたは、最強のベアー小隊のメンバーなのに」

「怖いんだよぉぉぉ!」

 左京丸の絶叫。まるで魂を剥き出しにしたよう。

「最強? あの部隊(、、、、)の任務はな、隊長、花園アランの暴走を防ぐことなんだ。確かに、俺以外のメンバーは優秀さ。化け物揃いさ。でもその化け物たちが花園さんの小さな癇癪で死んでいったんだ。花園隊長は人の命なんてなんとも思ってない。味方でも関係ない。ベアー小隊の任務は隊長から他部隊を保護する消耗品の緩衝材なんだよ」

 それも調べたんだろ、と左京丸は吐き捨てる。その顔には絶望がベッタリとこびりついていた。

 中学生時代の惨劇を忘れたことは一日たりとてない。

 あの事件が山火事なら花園アランは火を吹き飛ばす嵐だ。比較にならない。しかし、記憶の中の山火事は今も消化していない。いや、それは現実的な脅威となって左京丸を焼きつつある。

 頭を抱えて震える左京丸を見下ろしてギロチンムーンは認識を改めた。

 優秀ではあるが、腰抜けだ。これでよく『水際の戦争』を生き延びられたものだ。こんな男がどうしてベアー小隊に配属され、『探偵王』の目に止まったのか。

「とにかく、左京丸、私は墓石かなめを探している。必ず捕まえてあげるから安心して」

 探偵は顔をあげる。虐待する親からやっと離れられたと確信する子供のような安堵が見てとれた。

「ほ、本当に!?」彼の涙から恐怖の匂いがするようだ。

「そのためにも、そしてあなたの安全のためにも、彼女の情報を収集するの、いいわね? 連絡を密にとって彼女を逮捕する」

「オーケーだ。でもどう連絡する?」

「少年課の朝兎友槍(あさうさぎともやり)に話せばいい」

 探偵はヒーローをじっと見つめた。

「ありがとう。ギロチンムーン……」

 運転席の左京丸は教会を双眼鏡で見る。ギロチンムーンも。その正門から男女が出てきた。スーツの女、紅南海(くみなみうみ)はバイクに、帯刀だるまはサイドカーに乗り込む。

「確認できた。本当に帯刀だるまだ。でも勘付かれた」

「撤収したら? ここは私が引き受ける」

「面目ねえ。この借りはいつか返すよ」

 車を出す。遠くなる車にギロチンムーンは手を振った。

 すぐにバイクが来た。「……ギロチンムーン」と海。

「帯刀博士、それに紅南さん」

「よう、ギロチンムーンか」とだるま。

「最近教会を探ってたのはお前だったか」

「そのとおり、ご明察」

 私がこの教会を監視していたからこそあの探偵はだるまから上手く隠れられたわけだ。

「私たちのことが信用できないの、ギロチンムーン?」おずおずと海が尋ねる。ギロチンムーンは敵ではないが、ギロチンムーンはそう考えていないと思うと背筋が凍る。犯罪者のように手足を落とされたくはない。

「政府の金がここに流れていることは確認している。つまり『教会』は政府の管理下にあることがわかった」

「それでは」

「違うのよ、紅南さん。興味があるのは、帯刀博士、あなたよ」

 やっぱりな、とだるまは偉そうに肩をすくめる。海と違ってギロチンムーンを前にしてだるまは余裕を保っている。 

「俺の言葉を鵜呑みにせず調べて、仰天した、というところだろう」

「私はギロチンムーン。驚きはしない。『だが予想外だったろう?』、とあなたは言いたい」

「聞きしに勝る読心術の冴えだな。その通り。お前さんは俺を何者だと思う? 二百年前の研究者の名を借りたマッドサイエンティストかな」

「当時の画像データも見つけた。そこには間違いなくあなたの写真があった。あなたは帯刀だるま本人か、そのクローンか、どちらにせよ興味深いわ」

 だるまは愉快そうだ。しかし、会話はむしろだるまの予想外の方向へ転がっていく。

「調べていてもう一つ予想外の要素に当たった。あなたの研究チームに知っている名をみつけた。ルシアン・オブライエン・ハーレムルート」

「な、なに……?」

 だるまの動揺にギロチンムーンは手応えを感じる。ルシアンの姿もまた過去の写真に映っていた。この二人は何者なのだ。

「少し前にルシアンと接触した。私はすぐに倒されたので彼のことはよくわからないが、私たち『トゥモロー・パイオニア』と敵対している。足取りも掴めない。彼は、何者?」

 絶句。あの男がギロチンムーンと接触?

「あ、あのアホめ……!」

 呻くだるまの顔を覗き込んで海は驚いた。これほど感情を露わにしただるまははじめてだ。憎しみで歪んだ顔。

「ルシアンは研究メンバーなのね。彼は殺人犯である女性と行動を共にしていた。庇いたいでしょうけど……」

「庇う? とんでもない」顔を歪ませて、だるま。

「ヤツに限って容赦をする必要はない。探し出してぶっ飛ばしてしまえ。お前がやらないなら俺がやりたいくらいだ。もっとも、簡単には見つからないだろうが」

「仲間だったんでしょう?」だるまの研究を調べて、ルシアンはチームのNo.2であったことがわかった。それなのにこれほど敵意を見せるのか。

「今でも仲間だ。だが手加減してはこちらがやられる。こちらの胃が」とだるま。

「ルシアンは何を企んでいる?」

「知るもんか。いや、失礼。具体的な予測は不可能だが奴の目的は昔と変わるまい、『よりよい世界』だ。それだけはお前らヒーローと変わらん」

 事実ヤツは熱烈なアメコミマニアだ、と付け加えるだるま。

「しかし、彼は殺人鬼と……」

「そう、目的はわかるが手法となるとまるで見当がつかん。お前は理解できるだろうから言ってしまおう。悪を極めながら善人でいられるヤツが、世の中にはいるのだよ。ギロチンムーン」

「それではまるで、まるで一般人のような……」

「そう。一般人なら悪事も善行もする、それをルシアンは極端な形で表現している。誰とつるんでいようと、あいつはあいつだ。それだけは決して変わらん」

「彼の武器や弱点は?」

「俺と同じく専門分野はないが、得意分野はある。物理学、人文学、西洋哲学、西洋魔道全般、理論より実験に比重を置いている。俺以上の不死身だ。ヤツは実験で吸血鬼の力を手に入れた」

「それじゃあ日光や銀の弾丸が弱点なのかしら?」と海。

「いや、吸血鬼の弱点など持っていない。だから不死身なんだ」

「私は電撃を受けた。それは魔道? それとも吸血鬼の能力?」

「電撃?」そう聞いただるまは明るく笑う。

「不幸中の幸いだな。どちらでもない、それは俺の妹の仕業だ」

「妹さんまで生きてるんですか!?」

「そう、俺の妹、まくらだ。あいつも生きていると思っていたよ」

「帯刀まくら、新電磁力学を提唱した物理学者だったわね」二百年前の。

「まくらはルシアンのブレーキ役だ。最悪の事態にはならないだろう」

「保証はあるの?」

「保証が欲しいのか? 保証のある戦いをお前はしているのか、ギロチンムーン?」

「…………」

「まくらがついていようといまいと手心など加えなくていい。弱点、強いて言えば笑いを取らずにはいられないこと、そしてまくらがついていること、この二つだ。ヤツを見つけたら教えてくれ、二百年ぶりにぶん殴ってやりたい」

 研究者が研究者について話しているとは思えない内容だ、と海は思う。だるまだけでもよくわからないのに、その相棒はヒーローと戦いたいらしい。

「情報提供感謝するわ」

「ルシアン、奴のことは、戦えばわかる。それとギロチンムーン。ギロチン刃剣(はけん)は持ってるか?」

「いいえ。ロケットロッカーで用意できるけど」

「それには及ばないよ。いつか見せてくれ」

「いいけど、あなたが作ったの?」

「俺の妹がだ。あの刃剣は『打首姫(うちくびひめ)』という」自慢するようにだるまは笑った。

「…………」

 彼方から轟音、だるまと海は空を見上げた。棺桶? 空飛ぶ棺桶ではない。ギロチンムーンのそばに着陸したそれは武装を納めたロッカーだった。

 ロッカーが開かれ、ギロチンムーンは『打首姫』をとりだした。

「先代ギロチンムーンが殺されたとき、『打首姫』は破壊されていた。これは私がそれを回収して修復したもの。知らなかったとはいえ、壊してしまってごめんなさい」

 だるまは打首姫を受け取り点検した。

「いいんだ。戦闘で壊されたのなら剣の本懐というもの。うむ。僅かながら、確かに修繕の跡が見られる。さすがはギロチンムーン、修理の腕も素晴らしい」

 そう言って打首姫を返す。

「万一、あなたの妹と敵対した場合、私は手加減できない。それはわかってるわね」

「当然だ。だがまくらは立ち回りの下手な女じゃない。まして悪党でもない。お前と戦おうとは思わないだろう。おまえはまくらではなくルシアンの動向に注意すべきだ。おまえならもしかしたら奴の狙いを読めるかもしれない」

 俺には無理だった、とだるま。

「あくまでも彼らを援護しないというの? 仲間なのでしょう?」

 ギロチンムーンの疑問に海はこくこくと頷いた。

「奴らは生え抜きというやつだ。地上最高の研究者だ。俺の心配など大きなお世話に過ぎない。繰り返すが、ルシアンを止めてくれ。俺の用は済んだ」

「こちらもよ。情報提供感謝するわ」

「さらば。海、帰ろう」

 ギロチンムーンに無防備に背中を見せ、研究者は教会へと帰っていった。

 ルシアン・オブライエン・ハーレムルート。トゥモローパイオニア最初の事件に介入し、それ以来全く姿を現さない。 その彼とだるまに浅からぬ因縁があるというのは驚くべき偶然だ。もっとも彼ら自体が驚くべき存在なのだが。

 帯刀だるまは敵ではない。しかしまだギロチンムーンの理解の及ばない領域を隠している。

 私はギロチンムーン。全てを見通す。

「……いずれは、だけど」


 同じ頃、ネクロポリス、教会からそれほど遠くない商店街跡で扇塚微風はうんうん唸っていた。目をつぶって一心不乱。

「むむむむ……」

 頭の中は動物のイメージでいっぱいだ。私はカピバラだ。だれがなんと言おうとカピバラなんだ。

 そんな自己流の自己暗示をかけても彼女の体は少しも変わらなかった。可憐な十代の女の子のまま。

「ちっとも変身しないねえ」デスタッチの横の目取眞。彼女は動物図鑑を持っている。

「こっちが正解じゃないの?」その横の涼が恐竜図鑑を振った。どちらも図書館跡から借りてきたものだ。

「恐竜にしかなれないのかも」

 三人は微風から距離をとっていたが涼とデスタッチは微風の方へ。

「微風。お前の『力能』は多分、動物への変身ではなく恐竜への変身だろう」とデスタッチ。その横で涼がペラペラと図鑑のページをめくる。

「お、こいつなんかどう? 草食動物。ステゴサウルス、だって」

 涼が指差したのは四足歩行で背中に剣のような骨状の板が連なる恐竜。巨大な尻尾、後ろ足が太く頑丈な印象を受ける。

「これ見てみたいなっ」

「涼、遊びじゃないんだぞ」デスタッチが突っ込む。

 微風は写真を睨むようにしてステゴサウルスの姿を頭に焼き付けた。

「さて上手くいったらお慰み。鬼が出るか蛇が出るか。ひひ」と目取眞。

「恐竜が出たら大当たり、だな」とデスタッチ。

「むむむむ」

 微風は唸る。

 力能の訓練をしよう。そう言いだしたのは目取眞だった。

「あのバケモンに変身するのをか? 力能なんて使わなきゃいいだけじゃないか」

 デスタッチ、涼、目取眞、そして微風が食卓を囲む朝食の場だった。

「そういうわけにはいかないよ、デスタッチ。力能を暴発させて酷い目に遭ったヤツを俺はよく見たし」と涼。

「たしかこの前はチンピラに襲われて変身したんだっけ」あの時の微風は恐竜そのものだった。そうでなければ俺を食べようとするわけないもんな。

「やっぱりちゃんとコントロールしなければ、危険ですよね」困った顔で微風が言う。

「だな。朝起きたとき食われてないのは涼だけでした、ではたまらん」とデスタッチ。

「うう、ごめんなさい、二人とも」

「気にすんなよ」

「おおらかだな、涼」涼の無敵ぶりは我が身で知っているデスタッチだった。シビアな生き方を強いられるこのネクロポリスで、超人たちだけは余裕たっぷりでいられた。

「お前は恐竜とトカゲの区別もないだろうがあたしやデスタッチには死活問題だよ」と目取眞。

「食うか食われるか、それが問題だ。なんてね」

「シェイクスピアですね」微笑む微風。しかし話題自体は笑い事ではない。

 というわけで朝食を済ませて四人は市役所前の駐車場で力能の練習をすることになった。

 力能を有効利用できる力能者は多くない。日常生活に支障を来たす力能は珍しくないし、使い方がわからず『正統人』(オーソドキシー)と変わらない人生を送る者もいる。

 デスタッチのように制御できない力能もある。訓練でコントロールできるならデスタッチこそそうしたいだろう。

「むむむ!」

 微風の身体がみるみる大きくなる。肌に鱗が生え、二本の足で立っていられなくなる。両腕が前脚と呼ぶべき形に変わり地響きを立てる。

 既に人間の骨格ではない。腰部から尻尾が伸びて背部に立派な骨板が生える。

「こりゃ、まあ……」巨体を見上げて目取眞は絶句。

「ほえ〜」まぬけな声を出す涼。

「やっぱすげえな」デスタッチは素直だ。

「う、ウウウ……」と微風は唸る。脚を曲げて伏せるステゴサウルス。

 微風の様子の変化を目取眞までもが察した。

「やばい。扇塚、気をしっかりもて!」

「わかって……います」息が荒くなっている。車のように巨大な胴体が震えながら大きくなり小さくなる。その間隔が短くなっていた。

「ふうっふうっふうっ!」

「こ、こりゃ洒落ならなそうだね。大人しくさせるんだよ、男衆たち」目取眞は弱った足に鞭打ってその場を離れた。

「おーい、微風。しっかりしろ! 返事できるかー!?」

「水澄さん、は、離れて……!」

 手に取るようにはっきりと、理性が薄れゆくのを微風は感じ取り警告を発した。薄くなるというより本能か獣性と呼ぶべきものが彼女の意志を圧迫している。その意志が押し潰されたとき、多分私は暴走する……。

「扇塚!」そう叫んでデスタッチは涼と目を合わせる。

「よっしゃ。コロンゾン、レシーブオール、演習モードだ」

 パスワードで右腕のドラゴンスレイヤー、『悪魔』(デビル)を演習モードにする。

 異世界からの脅威に備えるために開発されたアーマーの一つであるデビルは着用者の動きに完全に追従するように人工知能を積んでいる。そのBLAIビヘイビアラーニングエーアイであるコロンゾンは涼の命令で演習開始。全周囲情報収集、同時に着用者、スレイヤーの動作と自身の動作状況をモニタリング。正面に全長は十メートル以上、全高は四メートル程の熱源を探知。それは鼓動を打っていた。光学センサーで視認し記録。

 コロンゾンはそれを敵味方不明体と判断。

 ステゴサウルスは周囲にいる三人の人間に刺激されて興奮し鳴き声をあげる。嫌なものを聞いちまった、よくわからない後悔をするデスタッチ。

「扇塚、俺がわかるか!」

 叫ぶデスタッチに向けて恐竜は丸太のような尻尾を振り抜いた。

 デスタッチはその下を潜り抜けた。爬虫類特有の匂いと殺気が暴風になって彼を包む。バランスを崩して転んだが怪我はしていない、もちろん、微風を砂の山にしてもいない。

「起きれ、微風!」悪さをした子供を叩くように平手で頭を叩く涼。予想以上に首が強い。四つ足の獣は人間と違い二本の足、丈夫な脊椎で頭部を支えているわけではない。突出して重力の影響を受ける頭部を強靭な首の筋肉で支えている。しかもライオンやヒグマと比べ物にならない大きさ。筋肉の質量も推して知るべしである。現代の野生動物を嗜めるような平手では手加減のしすぎだ。

「やるじゃん!」そんな涼の軽口に付き合いの長いデスタッチでも驚く。

「気楽じゃないか、涼?」

 突進してくるステゴサウルスの横っ面を蹴飛ばして反動で距離をとるデスタッチ。

「ディオゲネス・クラブのカバさん(ヒポポタムス)に比べたら楽勝だからね!」

 答えながら涼は恐竜の胴体を横から叩いた。

「ブオッ!!」

「! 手応えありだ! コツをつかんできたかもさ」

 脇腹の痛みが微風の自我を回復させた。自分の置かれた状況を理解したときにはしかし、彼女の意志は再び恐竜の怒りにかき消されてしまった。

「駄目か? 扇塚、しっかりしろ、自分を取り戻すんだ!」涼が叩いたのとは反対側に蹴りをいれるデスタッチ。恐竜は絶叫。

 激昂したステゴサウルスの体当たりを受けて涼はよろける。しかし衝撃を殺しながらステゴサウルスを持ち上げて地面に叩き落とした。

 超人の怪力というのは何度見ても慣れない。

 目取眞などはあやうく腰を抜かすところだった。

 ステゴサウルスは起き上がり今度はデスタッチへ突進。

「俺!?」

 迫り来るステゴサウルスの頭部を踏みつけ頸部の剣板を蹴って右手へ逃げる。

「フォオオオ!」

「このあたりが潮時かね」

 言いながら涼は左手をおたまのように丸め腰を落とす。

明獣爪苑流めいじゅうそうえんりゅう螺羊角(らようかく)

 涼は高く跳び新体操のようにきりもみ回転、旋風が生じるほど早い。恐竜の首、その付け根めがけ羊の角に見立てた丸い手刀を突き立てた。

 螺旋回転のエネルギーと涼の体重が手刀の先端に乗って首にめりこんだ。

 聞く者の心を痛めさせるような痛ましい悲鳴をあげ、ステゴサウルスは倒れた。

「コントロールできなかったか」

「急いだって結果はついてこないぜ、デスタッチ。コロンゾン、演習モード終了」

 元の姿に戻る微風の周りに涼。デスタッチ、目取眞が集まる。

「怪我させてないだろうね、涼?」老婆は言いながら気絶している微風を診る。

「手加減させたら俺は世界一だぜ。かすり傷一つ無いと思うよ」

「……確かに。ときどきあんたには本当に畏怖の念を感じるよ。ほら涼、微風を背負っておくれ、帰ってお茶にしようよ」

 言われた通りに微風を背負って涼は歩き出した。涼と微風を見ながらデスタッチは己の左手を見た。萎びて動かない、ミイラのような左腕。

 帯刀だるまの誘いを思い出す。力能のコントロール。

「クソが」


「申し訳ありません。なんとか自分を失うまいとはしたのですが、努力が足りませんでした」

 レクリエーション室だったろう和室で微風は深々と頭を下げた。

「堅苦しいコだねえ、息子の嫁を思い出すよ、ひっひっ」

「最初から上手くいくとは思ってないよ。慌てず練習することだ」ぶっきらぼうなデスタッチ。

「そうそう、デスタッチの言う通り。ここだけの話、俺ら三人いきなり成功とは思ってなかったし」

「こら、涼! デリカシーのない子だよ! ごめんね微風ちゃん。でも力能を使いこなすってのはそのくらい難しいことなんだよ」

「そんなに難しいのですか?」

「なんでもありの不思議な力だから例外はあるけどね。なんでもありだけに誰にも通じるコツってもんがないんだよ。若い子には難しいけどね、とにかく忍耐さ。気を長くして練習すること」言いながら老婆は皿を並べていく。

 いただきます。そして軽食。

「このままいつまでも力能を使いこなせなかったらどうしましょう?」

「そんな落ち込むこと?」と涼。

 この馬鹿は、と内心で息を吐く目取眞。

「もし力能を使いこなせないなら」と目取眞。

「こいつに身の振り方を学びなね」デスタッチを指差す。

 そういうこと。と頷くデスタッチ。

「俺はまさに暴走させた力能と共存する力能者だからな」

「ほれ、デスタッチ、あーんしな」

「サンキュー、目取眞の婆さん」

 クッキーを味わうデスタッチ。

「力能を制御できないからって死ぬわけじゃない。そりゃこの右腕は不便だってのは認めるがね」

「ドラゴンが暴れたら俺がなんとかするって。しかも無傷でさ」涼はVサイン。

「泣きごと言わずに練習重ねりゃいいんだよ、小娘ちゃん。そのためにもほら、たくさん食いな」

「いえ、もうお腹いっぱいですから……。ごちそうさまでした」

「ごちそーさんっ。微風、皿洗おうぜ」

「そうですね、水澄さん」

 二人は空いた皿を重ねて台所へ。

「あの二人が来て助かるよ」

「婆さんがそう言うなら何よりだぜ。……む?」

 デスタッチが廊下のほうを見ると目つきの悪い子供がこちらを睨んでいた。無表情、無愛想。

「たしか、ちびか。黒髭とつるんでいた」ちびは父親である黒髭を『ディオゲネス・クラブ』に殺され、涼と同じく『教会』に身を寄せていたはずだ。

「今の俺は瓶底だ。こいつが人を探してるって」

 瓶底が指差す彼の後に人影。男性。ネクロポリスでは異質なシミ一つないシルクの白スーツ。細いメガネ。

 デスタッチは警戒レベルを上げる。誰だ? 咄嗟に目取眞を背後に隠した。まずいな、喧嘩になるなら外でやりたい。

「デスタッチ、涼は?」我関せずといった感じの瓶底だ。

「奥の台所だぜ」顎で台所を指してやる。一瞬、この男もインサイダーか、と考える。無愛想さはインサイダーの特徴だ。しかしそれにしては着ているものが上等だ。

 男の方もデスタッチを観察している。萎びた左腕を。その目にはしかし同情の色はない。

「最近ネクロポリスに女が来た筈だ。俺はそいつを探している」

 用があるのは扇塚微風か。

「おたくはどちら様だい。人探しにしたって名乗ってもバチは当たらないと思うね、お若いの」

 デスタッチの背中から出てきて目取眞がそう言った。

「これは失礼」その男、斧は態度を和らげた。

「私は扇塚斧、妹の扇塚微風を探しているのです」

 咄嗟にとぼけることもできず目取眞はバンバンとデスタッチの背中を叩いた。隠し事のできない女である。

「その様子だと妹を知っているのですね?」

 出ていきな、わけもなくそうですたは言おうとしたがおそすぎた。

「お兄様……ですか?」

 台所から微風が戻ってきていた。

「……微風」

 白いスーツの斧は数年ぶりに再会した妹を抱き寄せた。

「え、なにこれは? 誰? オニイサマって?」

 遅れてきた涼の疑問が場違いで、どことなく間抜けに聞こえた。

新ミダス王奇譚第二話でした。

今回から尺を短くしてみようとしたのですがまあ話が動かない。とはいえそろそろデスタッチや微風の話も動き出す頃合い、楽しみに待っていてください。

それではまた次回。

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