来世の記憶を思い出した私は、悪役令嬢が勝つ様に物語を書き換える
「はい!学生時代に力を入れたのはプログラミングと小説書きです!この経験で御社の乙女ゲーム部門のシナリオ作りに貢献したいです!」
大学三年生までは、私の第一志望は銀行だった。しかし、今私はそれまで興味の無かったゲーム開発会社への就活をしている。それは、三年生の冬に来世の記憶が蘇ったからだ。
来世の私はとある乙女ゲームの様な世界に悪役令嬢として転生し、卒業パーティで断罪されて処刑される。それを回避しようと考えた私は大急ぎでプログラミングと乙女ゲーム系シナリオ制作のスキルを磨き、件の乙女ゲームが開発される会社に就職する事にしたのだ。
専門外の分野に挑むのは大変だったが、自分の命が懸かっているという重圧が良い方に働き、私は例のゲームが開発される会社に就職出来た。
就職したからと言ってまだ油断は出来ない。寧ろここからが本番だ。あのゲームが開発される時に、私が重要なポストに就いてないと意味が無い。私は必死に働いた。あのゲームが生まれるまでの間、皆が嫌がる仕事も、自分とは関係無い仕事も喜んでやり、その全てで結果を出して会社からの信用を得ていた。
私が開発室長になった頃、遂にあの乙女ゲームの開発が始まった。
「ボツ」
ピンク髪のシナリオライターが提出したネームを、私は笑顔で突き返す。
「室長、この話のどこが悪いんすかぁ!男爵と愛人の間に生まれた少女が地位を得るために王子を寝取る展開は絶対にウケますよぉ!」
「んー、ヒロインに清潔感が無いのよねえ。あーた、他人から男を奪ってハーレム作る女って共感得られると本気で思ってるの?」
私の指摘を受けてピンクは俯いた。本来の歴史なら彼女は悪役令嬢断罪テンプレのブームを作り大ヒット請負人として業界に名を残すのだが、今はただの下っ端。私の来世の為に、彼女の好きにはさせない。
「シナリオもヒロインもウンコだけど、この悪役令嬢だけは良いキャラしてるわ」
「え?」
「こっちを主人公にして、一本書いてみて。面白かったら新作候補にするから」
「あ、あざっす!」
翌週、ピンクが提出したシナリオは、公爵令嬢(来世の私)が周囲の嫉妬から来る嫌がらせや冤罪を跳ね除け、婚約者やその愛人をケチョンケチョンにして隣国の皇帝と結ばれるというものだった。よし、これなら来世助かる!それに、ちゃんと話として面白い!やっぱこのピンク才能あるわ。
「…どっす?」
「本当にありがとう、今年の看板に、いえ、歴史を変える作品にするわ」
こうして、本来の歴史とは善悪が真逆となった作品が発売され、それは元となったゲームと同じぐらいヒットした。
王子の婚約者がある日裏切られるも、ざまぁする展開は乙女ゲームのテンプレと化し、『悪役令嬢』とは頭の悪い作中人物がヒロインを汚そうとして流布する名称として定着していった。
その後、私は社長になったり銀行員と結婚したり悠々自適な老後を過ごしたりしながら今回の人生を終えて、『皆が良く知る乙女ゲームの悪役令嬢』へと転生したのだ。
■ ■ ■
「…と言う訳でこの勝負私の勝ちよ」
私が前世でやった事を告げると、王子も男爵令嬢も取り巻きも一斉に膝から崩れ落ちた。
「お前、どこまで死に戻ってんだよ!」
「前世にまで戻ったのなら、他にやり方あったでしょ!」
「待て待て待て!俺たちが勉強出来なかったり友達いないのもお前のせいじゃねーかよ!」
「やっぱ室長だったんすね!ナイスファイト!お疲れ様っした!」
口々に文句を言いながら衛兵に引きずられていく雑魚ども。彼らの言葉など私には届かない。だって、ここは私の為に作られた世界で、これからメインキャラ達との素晴らしいイベントが待っているのだから。
【パーフェクトゲーム】