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「やっと仕事が終わった……」
四月の春。
町は桜のピンク色で賑わっている。だけど古谷絵里の心はどんよりとしている。
(どうして私が不倫相手になってるのよ……蒔村とは三年前から私と付き合ってたのに)
広告代理店の会社の営業課で同期の蒔村 蒼士とは仕事内でコンビを組んでいてそのままの流れでプライベートでも付き合うようになった。でも蒔村と顔を合わせるのは今日で終わり。
私の仕事の引き継ぎは蒔村の新しい彼女らしく、私が引き継ぎをしようとしたらその女性からは「蒼士に教えてもらうので結構です」と言われてしまった。
そんなことで私は営業課の部長に話をして引き継ぎをすることなく明日から有給消化をする。
心と同じ灰色の雲が空一面に覆っていて今にでも雨が降り出しそうだ。
「結構楽しく仕事にはやりがいがあったのに」
なんて言葉を呟いたらいきなり雨が降り出した。
「えっ、ゲリラ豪雨じゃん⁉︎」
傘を持っておらず地面は一瞬で大きな水溜まりができて全身に雨粒が強くあたる。走っても雨で微かに前が見えない。信号が青になってるのが薄らとわかるぐらい。
必死に走って信号を渡り切ろうとしたところ私に何かの光が集中し、その瞬間ものすごく強い衝撃で全身を強打した。
(ーーうっ)
地面に叩きつけられた私の体はすぐには動かなかった。
(なに、これ……私の最期ってこういう運命だったのかな)
死にたくないと思えば嘘になるけど、この世界で最期を迎えるのなら別にそれでもいい。
目を閉じて、雨の音と微かに聞こえてくるサイレンの音でこれは事故にあったのだとわかりスッと目の前が暗くなったーー。