第六話 戦闘!ギルド長!
「試験は裏手にある訓練場を使う。ついてこい。」
そう言うギルド長の背中を追いつつ、裏口から訓練場へと足を運ぶ。太陽は半分ほど沈んでいるような時間帯だ。誰もいない。
「この試験のルールは非常に簡単だ。ここに円があるだろう、これを出たら君の負け。私は、
武器を落としたら負け。簡単だろう?さて、キミはどんな攻撃ができるのかい?」
(…どうする、私。ティシィワズフェンリル…だったかな、ティシィワズフェンリルでしたことをするか。でも何で出来たのか分かんないんだよな〜!)
原理もわかないものに頼りたくはない。そう頭を抱えつつ考える。
「…」
(…ギルド長は待ってくれるんだ。聖人だなぁ。)
とはいえそんな呑気なことを考える暇はない。
「こちらから、仕掛けても良いか?」
しびれを切らしたのか、ギルド長はいつのまにか持っていた剣を構えて喋る。
「喋らないのなら肯定とみなす!」
そう言ってこちらに向かってくるギルド長。大きな体に似合わない素早さで距離を詰められる。
(…でも、あの黒い化け狼よりは遅い!)
『来ないで!』
高い声がさらに高くなる。そう気づいた時にはギルド長は、はっと何かに気づいたように目を見開き、そのまま退避する。
(…避けられた!?)
「なるほど、声を媒介とした魔法か。ずいぶんと珍しいものを使う!」
剣に力を溜めつつギルド長は喋る。
(…もっと詰めないとなのか)
あれ以上詰める、そう考えるだけでゾッとする。何せ何の攻撃を受けようと即死する可能性があるからだ。
審判をするために近くに待機していた受付嬢のチェガーさんが喋る。
「試験をする側の自身の強化は反則ですよ」
「…」
ギルド長はその言葉に固まる。ぴくりとも動かず、只々宙を見つめるのみ。顔には冷や汗が浮かんでいる。さてはこの人、ズルをしたというのか。否、何かしらのブラフ?
(いや、逆に言えばこちらからいけるということ!)
『シュトレンさん、剣を手放し…』
そう言い終わる前に体制を整え直したギルド長が剣を振るう。ゴトッと鈍い音がし、体から力が抜ける。痛みで頭が真っ白に染まるが、なんとか持ち堪えることができた。
息をひとつ吐き、調子を整える。鼓動はそう簡単に収まらない。今度はしっかりとギルド長に目を向け、先ほどよりも早口で話す。
『ギルド長、剣を手放して…』
そう言い終わる前に、ギルド長は剣を手放した。
「…え?」
剣はそのままチェダーさんが回収するが、一度剣を落とした。
「…この勝負、メイさんの勝ちです。」
チェガーさんが下した判断により、僕はあっけなく勝利した。
ギルド長はこちらを見てニヤリと笑う。
「…降参だ。」
「…ど、どうしてですか?…」
「はーーっはっはっはっはっは!!!」
ギルド長の高笑いが響く。
「いやーっ!凄い!メイくん、キミは実に素晴らしい!木刀とはいえ、この私の剣を受けて立っているとはね!」
「そんなに素晴らしいことなんですか?」
その問いにはチェダーさんがこめかみを抑えながら答える。
「シュトレンさんは、このギルドの中で2番目に強いのですよ」
「ええ!?そうなんですか!?」
「いってなかったか?」
「言ってません、でした…よっ…!」
あ、やばい。そう感じた頃にはもう遅く、僕は意識を失い、そこで倒れた。
「メイー!」
ギルド長、うるさいなぁ…