第三十九話 恥じない呪い、混じり気のない
言い訳
大会が直近に2回もあった
三日もの間続いた風邪を引かせると、もう彼岸がとっくに過ぎていた。それほど暑いとは思わないが、湿度のせいか熱が籠って不快感が強い。まるで日本みたいだ、と苛立ちを抑えきれずに漏らす。
「何か不満があるようで。」
音もなく帰ってきた獣売り。慣れることは難しいと思っていてもすぐ慣れちゃうものだよなぁ、と僅かな人生経験から導く答えはそうだった。
(というかこの人…ヒト?は何をしているのだろう)
何かしら仕事をしているのかもしれないが、家に帰ってきた後、奥の部屋で糸を紡いでいたことから、恐らく布や和服を売っているのだろう。少しの間の付き合いではあるが、恐らく獣売りは食事を必要としていないきらいがある。捨食を是とはしないが、それならお金には困らないだろう、私を養うことができているのはその為のようだ。
「して、そろそろようござんす。」
「ん、どうしたの?」
何かしらの時間が来たのだろうか。まあそうだろう。風邪も治り、和服も仕立ててもらった。ここ何日かの食費やら諸々の出費を払ってあとは路銀を何とか……
(あっまっちょっえっ)
ギルドカードが無い。
どこかに落とした?何処に落とした?学校にいた頃には……あった。暴走した日にもあった。じゃあその後?何時だ?何時ごろだ?目が覚めたとき?コレに着替えたとき?それとも寝ていたときか?
(風邪のときだからあまり覚えがない……)
でもギルドカードが無いとギルドに預けたお金が引き出せない。薬草頼りの生活だったこと、少食だったことも相まって、その日のお金はその日のうちに稼ぐことが染み付いていた。多分宿代でそこそこ減ってはいるけど、諸々の経費を一括で払えるくらいは残っているはずだ。
(嗚呼……自分で稼いだお金たち…)
予想外の出費というのはこうも心を抉られるのか、トホホの文字と共に刻む。
「お金の事なら、今手元にないので後払いに……」
「いんや、お金の話ではありんせん。わっちがお話ししときたいんは魔法、についてでありんす。」
「魔法…!」
魔法、その言葉に、私の思考は一時的に停止を迎える。それは誰しもが夢みたであろう、ファンタジー、空想の世界のモノ。今まで身を投じていたこの世界は摩訶不思議と言えるが、魔法を使えていなかったからか、当事者という意識が無かった。だが今は違う。こうして魔法について教わり、第三者でなくその世界の住人として、新たに生まれ変わるかのようなそんな濃淡で言えば濃一色の期待を胸のうちにしまい込む。
「そ、それで…!さ、何をすれば良いわけ!」
「セイジョサマ、もう少し隠して」
「あ、」
(子供みたいって、思われてる)
心音が俄かに早くなる。ハッと気づけば身体は前にのめり込んでいたから。慌てて元の椅子に座ると、体の火照りを感じた。
火照りを感じさせないために、話を促す。
「はいはい、ようござんす。お待ちになんし。」
袖で口元を隠して目元を細めて、獣売りはそう話す。この口上が気に入ったのか、ここ数日でよく聞いている。
雰囲気が、変わった。
今までのような薄ら笑いを常に顔に貼り付けていない。仮面をとったのか、そう錯覚させるほどには。細かった目は大きく開かれ、吸い込まれそうなほど黒い瞳が見える。口角はやや上がっている。だが、獣売りは話をする際、口角が少し上がる癖がある。今までは一層笑みを深めた程度のものだったが、一文字に閉じられたであろう口が違和感を感じさせるのか。
「では、魔法について説明します。」
(言葉遣いが違う)
「まず、魔法というのはこの世界においては二つ存在します。自分自身にのみ作用するものと、自分以外に作用するもの。例えば、『火』」
ひ、と呟き指に指向性を持たせる。矛の向く先は天井だ。
バッ
音が鳴ると同時に光る。その光は揺らめき、不完全な赤を示す。
(コレが……)
「コレは火を出す魔法。五大元素のうちの一つ、[火]の基本。火の属性を持ってさえいれば誰でも使えます。そして、『炎』、『蒼炎』」
火が消える。指鉄砲は平たくなり、こちらに伸ばされる。唯一の違いは一つではないこと。
ボバッ
一つは、先ほどよりも大きな音を立ててこれまた不完全な赤色が揺れる。だが、先程のそれよりも大きく、赫い。火、よりかは炎という表現の方が納得する。
もう一つは先ほどと同じくらいの音。だが不完全でなく、揺れがほとんど起こらない。そうえん、青い炎で蒼炎か。
獣売りが口を開く。
「このように、同じ属性だとしても大きさが異なったり、振る舞いが違うものがあります。これを応用と言います。そしてこれらが自分以外に作用する魔法です。」
「次に、自分自身にのみ作用する魔法ですが、こちらは体験した方が早いでしょう。」
そう言うと、獣売りは私の胸を触ってきた。
「え?」
火属性
地の文にあった通り、五大元素のうちの一つ。モチーフは他の4つも含めて五行説。基本的に赤髪で、グルメが多い。火を放つ他に、リタがやってたような火を纏わせる、なんて芸当も可能。
解釈違いしても許してください。




