第四話 そうだ、ギルド行こう
『メイです』
「ほーん、メイちゃんね。ま、よろしく」
「は、はい…よろしくお願いします。」
「そう堅くなるなって、な?」
ニコニコと笑顔を向けてくるフェストさんは、何か怪しげな雰囲気を纏うことなく、こちらとの対話をしている。
「あんなところで、何してたのさ?」
「…黙秘します」
「ふーん?まぁいいけどさ、道のど真ん中で泡吹いて倒れてる女の子とかびっくりしたよ…しかも結構門に近かったよね?」
「は、はは…体力が無くて…」
「これからは気をつけてね」
「はい…すいません…」
そういって軽く注意をうける。こちらとしても、もうあんなことはこりごりなのでやめておきたい。
「そういえば、何か身分証のようなもの、持ってたりしない?手荷物も何も持たずにいるし」
「あー…」
僕はフェストさんから目を逸らす。何も持っていないが、山でカバンのようなものがあったような気がする。持ってきていなかったが、なかに身分証やらご飯やら入っていたのかもしれない。
(…そういえば、あれあのデカいオオカミに吹っ飛ばされてたな)
「無いです…ね」
「そっか、じゃあギルドに行くといいよ。」
「ギルド?」
「そう、ギルド。身分証を発行してもらったり、お店を建てたり、商売をしたり…まあ色々なことができるって感じかな?」
「なるほど…」
要は役所のようなものが存在するのだろう。医務室や鋼鉄製らしき鎧を見るに、時代はそれほど昔ではなさそうだ。
「身分証を持ってないとしても無くしたとしても、ギルドで発行してるから行った方がいいよ。場所は、この手当室をでてから下に階段で降りていくと廊下があるんだ。その廊下を右に進んでいって外に出たら、すぐにわかるよ。」
「…わかりました。ありがとうございます。」
「いや、これも傭兵の仕事だからね。じゃあ気をつけてな。ここにはもう来んなよー!」
その声かけには答えられなかった。
言われた通りに進んでいくと、ワイワイガヤガヤ、人の気配がした。一人二人の話ではなく、数百に近い数の人がいる。緊張しながら出口の門を潜ると、カッと太陽が照りつける。眩しさで目を細め、徐々に光に目を慣れさせる。光に慣れてきた頃には、街の全貌がみえた。
「うわぁ…」
僕はその街の雰囲気に圧倒される。たくさんの屋台には魅力的なアクセサリーや美味しそうなご飯があり、道ゆく人々は品定めをしたり買い食いをしたりとおもいおもいの行動をしている。しっかりと舗装された道を人混みに揉まれまくって進んだ先に広がる広場は、「美しい」 この一言に尽きる。広場の中心にある噴水を囲むように、ビルのように上に広がっている建物やこじんまりとした一軒家、横に大きな立派な建物があり、ちぐはぐながらも存在している建物に感嘆のため息をつく。
そんな建物のなかに、一際大きく、一際異質な建物がある。それ以外の建物とは比べ物にならない造形の細かさ。大きな窓は、私の身長の4倍はありそうな大きさながら、きめ細やかなステンドグラスがついている。中心に鎮座している重厚そうな扉には謎の威圧感があり、少し恐怖を感じた。
「さて、と。お邪魔しますか。」
ドアを開けてみる。その見た目とは裏腹に、すんなりと開く。私が異常なのかそれともこのドアの性質か。認めたくはないがここはファンタジーの世界のため、細かいところを気にしたら負ける気がするので気にしない。
中から感じた空気は居酒屋のそれみたいだ。それもそのはず、手前側には樽のテーブルがあり、その上で屈強な男どもが勇姿を語りながら酒を煽っている。朝だから人数は少ないはずなのにこんなにも圧迫感があるのはその筋肉と鎧のせいか。奥側を覗くとそこにはカウンターがいくつかあり、様々な女性がいる。猫や兎の耳が生えている女性もいるが、メカニズムはどうなっているのだろうか。
(いや、今はそれよりもだ)
ここに来ているのは身分証を貰うためだ。空いているカウンターにいる大人しそうだが強かさのある女性のもとへ向かった。
「いらっしゃいませ、こちらギルド受付です。本日はどのようなご用件でしょうか。」
「はい、ギルドカードが欲しくて。」
「では、ドマや何か価値のあるものはお持ちでしょうか。」
「…こういうのですか?」
そう言ってあの大きな狼の毛を見せる。女性の顔が一瞬ひきつったように見えた後、こう言った。
「ギルドカードはお持ちではないのですね。」
「はい、持ってません。」
「では、買取り価格よりも少し値段が下がりますが、大丈夫でしょうか。」
「はい、大丈夫です。」
そう言って奥の方へ黒犬の毛を持っていく彼女を横目に、少し考えを巡らせる。
…何かまずいことでもしたかなぁ?あの狼、反応からしてめっちゃ強いだろうからこんなちっぽけな体で倒せるわけねぇだろってなってんのかなぁ?
そう考えを巡らせている間に彼女が帰ってきた。少し息が上がっている。
「少々、お時間よろしいでしょうか。」
悪い予感というのは、どうしてこうも当たるのだろう。