第三十五話 怪獣
「これでよし…っと」
風邪が治ったという旨の伝言を鳥に伝え、待機している間に学校の準備をする。昨日、多分だがギルドから派遣された人が何かしらの行動をとっただろう。なのでその引き継ぎと本来の業務から多かれ少なかれ離れているソレの修正案を(原案知らずに)考え出す。
鳥はすぐに伝言を伝えて別の言葉を口に含み、また舞い戻ってきた。
「了解しました。こちらからギルド長へと伝えておきますので、お気をつけて。」
鳥が含んだ言葉を聞き、毎度の如く脳を酷使一歩手前まで持っていく。ギルド長が出なかったのは少し驚いたけれど、受付嬢と言える人たちが何かしらの報告に向かったときに偶々いなかった、且つ鳥がきた、のならば合点はいく。それにしてもチェガーさんにしては少し声が高いような気がする。チェガーさんが母親がよくやる「なんかお母さんが電話するときにさよく声を作ってて若いと思われたいのかなって感じちゃってちょっと気まずいよねなんかね」というやつか、別の人が受け取ったのか。前者の可能性の方が高いと思うが、後者の可能性も考慮しておいた方が身の為だろう。
考えは粗方纏まった。本来ならばもう少し詰める必要があるが、柔軟に対応するためには目が荒い方が良い。そう結論付けて部屋を後にする。
…
……
何も勉強は学校でしか出来ない、なんて事は断言出来る。嘘吐きの所業か未経験者の戯言だ。何せ努める力、なんて言葉が存在しているのだから。では、反転してみよう。学校は勉強しか出来ない。これはそうだろう。人生日々勉強だし、学校や塾といった大人数で勉強することは中々難しい。それに、自分とは別の視点というものが手に入る。一つの物事を多角的に見ることは大事だが、一つの視点からだとせいぜいよくて三面。残りの三面は見えないし、面が増えれば増えるほどに見えない面は増えていく。だからこそ必要なのだ。
所で、この世界では祝日は基本的に週一だ。そんな中で学校が二日連続で無し、となると休みの日が二倍となることと同義。羽を広げる、羽目を外す、交わり垂らし振りが良くなる。十人十色、千差万別。そのうちの一色、万に一つ。そのたった一つの黒点は、周りを染め上げ、堕とす。ではその黒が、勉学嫌いならば。その黒点が、個性を示す一色が聖女を憎み、黒く染まった鋒が目をつけたならば。黒は悪意に染まり、その黒は滲み、他を侵し、馴染ませる。自分色に染め上げられた大衆が聖女を見つけたのならば。答えは簡単。たったの、そうたった一つ。だがその線は、余りにも太く、長く、そして濃い。
…
……
「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」「帰れ!」
轟く音。揺らめく空気。僕を飛ばさんとする程の圧。何千と集まった一人一人が僕に鋒を向ける。刃には致死性、遅効性、即効性、様々な毒が仕込まれている。
(何処で間違えた?何で?如何して?何も解らない、何故?)
電気信号は答えを出さない。否、出せない。この状況で冷静に考えることができるほど僕は凄い人間ではないから。冷静さを失い、心も体も動揺に揺れている。何も考えられない。瞬きも、呼吸も、声の出し方も。この一瞬の時の間、忘れてしまった。
「お゛ぅ゛ぅ゛え゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛え゛え゛え゛っ゛っ゛゛」
涙が出てくる。吐瀉物が出てくる。鼻水が出てくる。汗が出てくる。いけない。服が汚れる。鞄も、手も、足も、顔も、心も、何もかも。呼吸は未だ覚束なく、酸欠で脳も働かない。
コレが人間か。人か。依頼といえど、頑張って集めた薬草。命を張って守ろうと奮起したスタンピード。この街のためを思った学校。何もかもがうまくいくとは思っていない。ここにいたのはせいぜい二ヶ月程。まだ愛着は薄い。それでも。それでも、この仕打ちは。
ど
う
し
て
。
…
……
怒声は、悪意は、まだまだ止まらない。
要は悪意を持って人を炎上させるような感じ
「炎上」たった一つの言葉で片付けていい事態ではないけど、まあいいよね