第三十話 思考は深く、インクは垂れる
実はぁー2000字程度をー目指してぇー最近わぁー書いているんですよぉー!
「…不味い。午前中のことしか覚えていない。」
肩を落とし、溜息を吐く。肺は軽くなったが心と体は軽くならず、寧ろ重く響く。
無理もない事だ。シャウンちゃんの誤解を解く為に頑張って説得をしたが、野次馬としてやって来たリタのその視線が脳裏に焼き付いて離れなくなっている。なんならその後にリタから色々軽口を叩かれていた。
「ああ…そうだ…書類書かなきゃ…」
そういって羽ペンの先に墨を付け、文字を書いていく。そういえば、と少し思考する。いつから僕は文字を書くことができるようになっていたのか。というか、いつからこの文字を文字として認識していたのか。
(特に何か特殊な事はしてないし…でも多分、今までの行動に何かしらのヒントがあるかもしれないなぁ)
思考は進み、墨が紙の上に垂れる。染み込んでいく墨と共に、僕の思考はさらに深く潜っていく。
(先ず、この文字を認識できていたのはいつ頃から…スタンピードの前に読んだ本はしっかりと文字を認識していた。読むことができ、書くこともできた。いや待て。コレはいつ貰った?)
ハッと気付いたようにギルドから貰ったカードを取り出し、そこに記されて有るであろう文字を見る。
「…銀級」
僕は文字をそう読めた。認識出来たのだ。だが、コレを最初に見た時にも、僕はそう読むことができた。
(あれは初日…ではないな。確か二、三日程壁の中で寝てたんだっけ。)
その前までは森に居て、文字を一つも見ていない。つまり、僕は前情報無しで文字を読むことが出来ているということだ。
(いや、それはおかしい。あの時の僕は、言わば赤ちゃんと同じだ。あの時に独り言で呟いていた言葉がこの国の言葉で有るかどうかが分からない。あの時と同じ様に話すことが出来ていて、あの時耳に入って来た自分の話す言葉と同じ言葉が耳に入る。あの時の言葉がこの世界での一般言語なのか、将又違う言語なのか。違う言語だとしたら、あの二、三日の間に何があった?僕の頭が変化しているのか?)
コツコツ。木材を小突くような足跡が、僕の意識を戻らせる。そう言えば、と思い出す。
(確かチェガーさん…じゃない人が来るんだったかな)
少しの不安と好奇心を胸に抱き、席を立つ。引き戸に手を掛けドアを開ける。
「こんにちは。貴女が…メイさん、でよろしいでしょうか。」
そこには長身の、それはそれは長身の男性が居た。ギルド長よりも身長が高い事が目視で確認できた彼は、アイツが良く描いていた所謂執事服と呼ばれる服装に身を包んでいた。少し垂れ眉の下にある目は丸く、黒に近い瞳は柔和な印象を抱かせた。金に近しい色合いの黄色い髪をセンター分けで纏めているためか、全体的にパリッとした[出来る人]の風貌となっている。
(…僕が言える立場でない事は重々承知の上だけど、細いね。)
服装と髪型だけではその様に思えるが、余りにも貧相な身体が、骨だけの様な肉体が、[出来る人]から[見てるこっちがハラハラする]くらい心配になる程ガリガリに痩せている人に近しい印象に上書きしてしまう。
「こ、こんにちは…」
「先日、チェガーからの伝達があったと聴いておりますが、まさかつたわっていなかったのでしょうか。」
「あ、いえいえそうではなく!身長ですよ、身長。大きいですね」
「おっと、申し訳ございません。コレでは少しお話が難しいですね。では、少々失礼して」
そういってこの人は膝をつき、こちらと目線を合わせ、何かを確認してから口を開く。
「本日は先日と同じく、報告を確認するために参りました。報告書が書けているのであれば、提出をお願いいたします。」
「報告書…ですか。少し待ってて下さい」
「いえ、少し早く来てしまっているだけですので、お気になさらず。」
服装に違わず礼儀正しい言葉と柔和な話し方、そして何よりこちらに目線を合わせると言う行動。自らを腐っていると評したアイツなら、多分鼻血を出しながら指を動かしていただろう。
(…って、そんな事は今は考える時間は無い!早く書かなきゃ)
机に向かい、報告書を作成する。少しだけ書かれているので、その続きを記入する事七、八分。完成した報告書を提出しようと墨を乾かして持っていく。
「こちら本日分です」
「はい。……確認しました。お疲れ様です。」
「いえ、こちらこそ。お疲れ様です。」
「では、まだ明日。」
「はい。では…」
そう言って去り行く背中を見送る。何か大事な事を聴き忘れているような気がするが、まあ大丈夫だろう。明日の分の書類を用意しつつ、ギルドの宿に戻る支度をする。十分程度の時間が掛かるが、明日明後日の分としては十分な量の書類を用意できた。
(それじゃあ、帰るとするか。)
閑散としてきた道を歩き、露店を覗きながらの帰路に着く。美味しそうな串焼きがあったので買って食べる事にした。お肉と何か野菜の様なものが一緒に串に刺さっている品だ。
「美味しいー!」
鶏肉の様な見た目だが、脂の甘さが塩とこれ以上ないほどに相性が良く、それでいて食べ応えのあるお肉。野菜も、そんなお肉の脂を吸い、野菜独自の味を残しつつもお肉の脂との絶妙な味のバランスがしっかりとお肉に隠れずに存在、且つ目立ち過ぎていない為、とても美味しく頂く事が出来た。
「ご馳走様でした。」