第二十七話 魔の二時間目
なろうくんさぁ…(ニコニコと同じ感じかと思って半ば諦めかけてた)
まあ実害はなかったからいいけども…
休憩時間も終わり、僕は職員室をでて教室へ向かう。流石はお貴族様だ。周りをよく見ている。僕が来たタイミングで席にもう座っており、それを見たシャウンちゃんが慌てて座り込む。リタは背後に立っているし、ムンドボーデンくんは帰ってこないようなので、実力を行使する。
『ムンドボーデン、戻ってきなさい。』
わああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!
情けない雄叫びを上げながら戻ってきたムンドボーデンくんを席に座らせ、二時間目を始める。一時間目に学んだ躾の確認と、また別の躾を行う。
「さっきまで外で遊んでいたムンドボーデンくん、さっきまでやっていたことは何かな?」
「知ってるぞ![ひとのはなしをしっかりきく]だ!」
「正解です。流石ですね」
「ふふん!そうだろうそうだろう!」
ここまで典型的な舞い上がっている人を見かけた事があるだろうか。否、無い。
そんなことをは置いておいて、授業を始める。
「さっきまでやっていた事は覚えていますか?」
「ああ!あれだろ![椅子に座って話を聴く]だ!」
「正解です!流石ですね」
「はっはっはー!そうだろうそうだろう!」
(こいつ結構ちょろいな)
ムンドボーデンくんの人物像がかなり浮き彫りになってきた。それもそうだ、我先にと発言をし、いろんな人に話しかけまくって、いつの間にかコミュニティを築いている。愛すべき馬鹿…そんなタイプだ。
「覚えているのならば、しっかりと実行して下さいね」
「?あ!すまん!」
あと素直。
まあそんなことは置いておいて、僕が二時間目にするべき事はまたもや躾になるが、この感じでは結構五教科の授業を行えそうに思えてきたので、やってみる。
「本当はもう少しこのことをしようと思っていたのですが…」
「お!?」
「今から勉強したいと思います」
「おお…」
反応がわかりやすすぎる。しかしながら、そんな反応をしたとしても、僕の考えは変わらないのだ、無惨にも。
「そんなこと言っても変わんないよ…モンド君…」
「そうだな…」
二人による寸劇を見届けながらこの瞬間の為に用意したと言っても過言にならない教科書を用意して皆に配る。
「コレは今のところ一人一つのみですので、無くしたり壊したりしたらいけませんよー」
「そうか!わかった!」
皆に教科書が行き届いた事を目視で確認し、授業を開始する。
「まず今回やる事は…計算です」
「ケイサン!?なんだそれ!?」
「計算かぁ…」
「ん、アレね」
「一体どのレベルなのだろうか」
計算という言葉によって四者四様の反応を見られる。計算は得意苦手がはっきりしやすく、それでいて難しくなると今まで得意だった子も苦手意識を持ち始めるため、数学Ⅲや数学Cを理解して数学の面白さに気づくのはこのクラスの1%いくかどうかだ…らしい。僕はまだ数Ⅲや数Cをした事がなく、なんならまだ数Ⅰや数Aも十分にやっていない。
(ああ、高等教育が恋しい…)
思いがけないところでまたもや喰らってしまうダメージ。バネにするには少し硬いそれで無理矢理跳ねる。
「まず、皆さんに配ったこの本、コレは教科書と言います。」
「キョウカショ…覚えたぞ!」
「ではまず、最初に教科書の4pを開いて下さいね。」
はらり、紙の擦れる音が一斉に鳴る。電子書籍だったりデジタル教科書なんてものもあるが、僕はアナログ本の方が好きだ。紙の擦れる音、一枚一枚丁寧に捲り黙読する様。デジタルでは味わうことのできないアナログならではのこの感覚に浸りつつ、教師という建前に則り、教える。
「まずやっていく事は加法…足し算です。」
「ん、足し算…アレ」
リタは何故か知ってそう。まあギルドで色々お金の計算をしているだろうし、あそこ窓口で簡単な四則計算くらいなら教えてくれるから、知っているのもやむなしだ。なんなら先生に教えを乞うより友達や同級生に聴く方が聴く側の心理的な負担も少なく、教える側もさらなる記憶定着が出来るから、Win-Winの関係だ。
「足し算を知っている人もいるけども、教えていきます。」
「よ、よろしくお願いし、しまさ、す…」
「はい、まずは4pに載っているこの 1+2 はどうやってやるかわかるかな?」
「はい!」
「早かったムンドボーデンくん、答えは?」
「答えは 3 !」
「流石、正解です!」
「やりぃ!」
「どうやってやったのか、皆に説明できますか?」
「お、おう」
そう言ってしどろもどろながらも説明する。何かが一つ、何かが二つ。それらを合わせて何かが三つ。この考え方が出来ているので、褒める。
「へへっ、」
先程の不安そうな表情は何処へやら、安堵と歓喜とちょっとの恐怖がちゃんぽんされた笑顔でこちらを見る。
(お、可愛いところあるじゃん)
今までの五月蝿くて素直なガキから五月蝿くて素直な男子小学生にランクが上がった。
「それじゃあ次は、 3+3 。コレを…じゃあシャウンちゃん、出来る?」
「あ、あの、えっと……… 6 ?」
「正解!凄い、よく分かったね!」
「あ、ありがとうござい、まふ…」
(噛んだね)
さっきまでやってた事が二つある気がしますが、類義語ですので。