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第二十四話 十人十色な生徒たち


「…えーっと、お名前は何かな?」


僕はそう尋ねてみる。リタじゃない方の女の子は下を向いて小刻みに震えている。じゃあと男の子の方に目を向けると


「俺か!?俺の名はムンドボーデン!土魔法が得意だ!よろしくな!チビ!」


大きな、それはもう大きな声で自己紹介をしていた。デリカシーだとか遠慮だとかが全くない、よく言えば常日頃から腹の見える正直者。悪く言えば口を塞がない騒音。

(というかチビって…先生ですよ、あなたの…まあでもこの見た目じゃね)

というか待て。土魔法が得意って言ってたな。この世界に魔法があることには慣れてきたから驚きはしないが、得意な魔法が判明している、つまり何かしらの法則性、もしくは判明方法があるのか?

(いや、今は置いておこう)


「じゃあキミの名前も教えてくれるかな?」

「…わ、わたしのなま、名前は…シャウンです…」

「シャウンちゃん…ね、よろしく。」

「よ、よろしくお願いし、します…」

「おいチビ!俺には挨拶も何もなしかよ!?」

「ごめんね、ムンドボーデンくん…だっけ?よろしくね」

「応!よろしくな!チビ!」


(チビかぁ…)

リタが「私もやる?」みたいな顔してるけど、この二人の反応からして多分一緒にここに来たな?ここにいる全員があんたの名前を知ってるから要らない、と首を横に振る。

めっちゃガッカリしてた。なんかごめんね、でもやることあるから…


「じゃあ着いてきてね。案内するからね。」

「あ、ありがとうご、ございま、す…」

「お前チビなのにそんなこと知ってるのか!すげえな!俺も負けてらんねぇぞ!」

「ん…」


三者三様な反応の仕方、これこそが学習に良い影響を与えられる。それまで歩んできた人生による価値観の違い、それはそのまま知識や考え方に影響する。本をたくさん読んでいたのならばたくさんの本の知識が身につくし、伝聞をよく見聞きしていたのならば伝聞の知識がたくさん身につく。

そんなことを思いながら廊下を歩き、三つ目の扉をの前に立つ。因みに一つ目と二つ目はそれぞれ職員室と準備室だ。引き戸を開けて中に入る。

そこは教室と変わらない雰囲気を漂わせる場所だった。大きさは目視で大体5×7m程度で、一般的な教室よりも二回り程小さいサイズになっている。教室を作るために興味を持っている人がどのくらいいるのかのアンケートを取り、そこから考えたサイズだ。二、三人くらいならオーバーしても良いようにしてある。


「さてと、それじゃあ背が大きい人は後ろの方、小さい人は前の方に座ってくれる?」


僕はこの場にいる三人に…一人増えてる。


「それで、キミは誰かな?」

「…僕?」

「そうだよ」

「僕はファリントワ・ワサファイ。水魔法が得意だ。」


そう言って黒髪をおかっぱに整え、黒を基調とした服と首が隠れるほどの長さの立襟を身に包む男の子がいた。しかし、僕はそれには目も…耳もくれない。

(え?苗字?絶対なんか苗字あったよね?あったよね!)

そう、苗字だ。色々な人と話してみて思ったが、ここにいる人は基本苗字と呼ばれるものがない。ここにいる人たちには無いというのが普通の線もあるが、チェガーさんやギルド長の話を聞くに、貴族なんかはいるらしい。つまり、苗字を名乗る人は貴族、或いはもっと高貴な方々だ。そもそも立ち振る舞いから何か違うものを感じる。他二人よりも一つ一つの所作がゆったりとしているからか、少し大きめの服に見え隠れする刺繍によるものか。明らか前者だろう。

(というか刺繍が綺麗…洗練されたデザインだけどしっかりと身分の差を見せつけている…)

僕の目と耳に入る情報の中には、日本や他国に身分制度があると知っているのはインドくらいだ。


「へぇ、ここが学校?随分とまぁ貧相だね」

「え!?こんな馬鹿デケェものが貧相!?あんた!ここまでデケェものはな!そうそう無いんだよ!俺とそんなに歳離れてなさそうなのに!そんなことも知らんのな!変なの!」

「も、モンドくん…やめて…相手は、お貴族様だ…よ?」

「え!?あんた貴族なのか!?すげぇ!ほんとにいるんだ!てっきり母ちゃんの作り話かと!」

「全く、無礼な奴だな。これだから平民と一緒にいたくないんだ」


よそ様の教育方針に口出しをするつもりは毛頭ないが、差別的な思考は良くないな。基本思考停止で貴族側(こちらがわ)を尊重、重視して平民側(あちらがわ)は無視、軽視する。この形に思考が凝り固まっていると、視野が広がるものも広がらなくなるのでとても宜しくない。

(いや、それよりもまずは)


「はい、それじゃあ皆さん、席に座ってください。」


そう声をかけると四人は席につく。…一人すごい忌々しいって顔してるが。

ムンドボーデンくんとシャウンちゃんは5×5にある席の前の方に固まって、お貴族様は窓側一番後ろの席にそれぞれ腰を下ろす。リタはちょうどど真ん中。これを確認した上で、続々と来ている生徒を迎え入れるために玄関へと向かう。

誰も来なかった。そりゃそうだ。前日に結構なことをやらかしたので、ここに何人か人が来てくれていることがもう奇跡みたいなものだ。

(これ以上待ってても仕方ない、戻ろう)

トボトボという言葉が多分最も似合っていたのだろうその姿で教室に戻り、教壇の前に立つ。

そして軽く息を吸い込み、伽藍堂の教室にいる生徒を見渡してこう言う。


『それじゃあ、授業を始めます。』

ようやっと始まりました学校編(仮名)

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