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第二十一話 印刷までの道のり⑤

説教を終えた後、素早く持ち場について働き始めた狂信者のようになった男をみて、全く目に入っていなかった数名の男女も慌てたように働き出す。

洗脳まがいのことをしてしまったように見えるが、やったことは黙秘の強制と本の布教だけだ。何もおかしなことはやっていない。それに、こちらとしては勉強の意欲を持って学校に来てくれる子に対して最高のものを提供したいので、ここにいる人たちには頑張ってもらいたい。

(それに、今後のことを考えると印刷技術はあれば便利になるからね)

そんなことを思い、しっかりとした本を作り出すことができて、自然と頬が緩む。口角の上がった顔を直しながら、印刷所を去ろうとして踵を返す。

そこには、開いている扉と明らかに友好的ではない大衆の視線、ヒソヒソと話されている声があった。

(あー…やばいな…)

こちらに向けられる視線が痛い。視線を全身で感じるたびにジリジリと背中が丸くなっていき、中腰のような姿勢に近くなっていく。チラリと大衆に目を向けると視線の先にいた人たちは少々肩を震わせ、抜群のコンビネーションで機敏な動きを見せて通路を作った。

(…メッッチャ怖がられてる…マズいぞこれは)

こんなことを見られてしまったら、本は作れるしたくさんあるけど買い手が居なくなってしまう。そうなってしまうと子供への悪影響がーとかで折角作ってくれた学校に閑古鳥が巣を作ってしまう。それだけはなんとでも避けなければ。

今までのどんなスピーチやディスカッションよりも重い口を開き、喉を振るわせる。


「あ、あの…その、怖く、ないですよ?」


大衆は一斉にして耳を塞ぎ、目を瞑り、その場にへたり込んでワナワナ震えている。こちらの声は届いている、と思う方が難しいだろう。耳を塞がずにこちらの話を聴いてほしいが、多分そんなことをしたら(せいじょ)のイメージがダダ下がりするだろうし、ギルドの方にも間接的に被害を受けさせてしまうと考えに至る。

とは言え、人間とは言葉を創ってコミュニケーション能力を発展させてきた生物だ。会話の放棄は人間である利点の放棄。そう自分に言い聞かせ、聖女の声を響かせる。


『私の話を聴いてください!』


……

その言葉を皮切りに、大衆の人々は耳を塞ぐ手を離す。しかし、それは彼彼女らの意思には反しており、また塞ごうとしてもナニカに阻まれ出来ず、さらに力を加えても無音の世界を作ることができない。閉じることが出来なくなってしまった瞼の奥、彼彼女らの瞳孔にうつる一人の少女。こちらを覗き込むような上目遣いをする潔白な少女。一度触れて仕舞えば壊れてしまうような可憐な少女。しかし、先ほど見てしまった少女の力が、怒号が、言葉が、影響が、殺気に震える肩が。眼前に迫る小さく幼気な少女を畏怖の念を抱かせる人智を超えたナニカへと変貌させる。

そして、人はそのような場面に遭遇するとどうなるか。

答えは非常に簡単。誰もが本能でそうするだろう。


「「「「「キャァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」


老若男女入り混じった灰色の叫びが、響き渡った。

目の前で狂信者を作り出した幼女がこっちを向いて喋ってきたから耳塞ごう!

→ファ!?なんか耳塞げなくなった!それにこっちくる!

そらそうなるよ

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