第十六話 聖女症候群
「……はぁ?」
「いや、だから言ってるじゃあないですかー。あなたは聖女症候群、なのです」
…違う、問いたいのはそこじゃない
聖女症候群、初めて聞く単語だ。何かこの世界に…転生?転移?した理由が分かるかもしれない。
心臓がイキイキと鼓動し、血が体中を巡らせる。
この町、この世界に愛着がある訳でもなく、『家出した子供を一時的に保護してくれた知らない人』みたいな感じなので、帰れる機会があるのなら藁にも縋りたい気分だ。
「えー、では、聖女症候群に着いて説明してもいいですか?」
「はい…お願いします」
家に帰れるヒントがあるのだろうか、もし、なかったとしたら…
…いや、今はこのチャンスを信じよう
「まず、聖女症候群にかかっている患者さんは基本的に治りません。これだけは伝えておきます。」
女医さんの雰囲気がガラリと変わった。今までのゆったりおっとりした感じが抜け、真剣に話をしている。
「なぜ、聖女症候群と呼ばれるようになったのか。それには今から1000年ほど前に遡ります。今から1000年前のこの国は絶賛魔物との全面戦争をしていました。ですが、魔物側に強い魔物が多く、物資も少しずつではありますが、少なくなってきたのです。
その時、ある少女が魔物に取り囲まれたところにいきなり現れました。その少女は魔物を全て手玉にとり、逆に魔物の巣に向かって突撃させたのです。その少女は、後に取り調べで『言葉を発したら、なぜか魔物がこっちに従った』と述べているらしく、大昔の伝承に登場する、『破滅の危機を救う聖女』に顔がとてもよく似ているため、その事を聖女症候群と呼ぶようになります。」
ふぅ、と一息つき、もう一度話し始める。
「そこから、聖女症候群にかかっている人のことを『聖女』と呼び、いつしか崇め奉られるようになりました。そして、その聖女が魔物の巣窟…魔王城と呼ばれるところに向かい、そこで戦死したという報道を受けてから数十年後…誰もが忘れていた、聖女症候群にかかった少女がまたいきなり現れたのです。またもやその少女も『聖女』と呼ばれるようになりました。…分かりずらいので、最初の聖女を初代、そこから2代目、3代目と続いていって…あなたで確か7代目なのかな?で、その2代目は医療技術を底上げし、3代目は兵器の技術を底上げしました。4代目は文化の発展に貢献し、5代目は魔物に関するほぼ全てを調べ上げ、6代目は魔物討伐を騎士団と一緒にしていました。
…そして、あなたは7代目です。…これが何を意味するか、わかりますね?」
僕は喉を鳴らす。私がすること?なんだろう?今まで勉強しかしておらず、その勉強も教科書のないこの時代だとーー
「すみません、」
「なんですか?」
「本と印刷の技術、ありますか?」
女医さんはフッと優しい笑顔でこちらを見つめた。
女医さんの名前はエチゼンさんです