第十三話 スタンピード③
特大小鬼がこちらへと近づく。足元で仲間の血と土煙が舞う。僕は近づいてくる特大小鬼の前に出てくる。
さぁ、ボス戦の始まりだ。
『ウガァァァァァァァァアアアアアア!!!!!』
咆哮が響く。風圧により少し後ろに下がってしまうが、なんとか堪える。
そして手に持つ大きな棍棒を叩きつけてきた。
『ウオオオォォォォォォアアアアアア!!!!!』
予備動作が長く、見て回避することはできる。しかし、体力的にそう何度も回避はできない。なので、ここで決めるしかないのだ。
『止まって』
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薬草を採集しているときに、ふと思いついて実験したことがある。
それは私の能力のことだ。
近くにいた魔物から逃げつつ試してみたところ、
•半径3メートル程の射程範囲
•心をこめる(ピンチを演じる)
これらが発動条件…だと思う。相手の強さがとても高い、などではない限りこの条件は変わらないと考えた。
また、効いている時に目の色が変わり、それを見ての体感の効き目には時間差があり、数秒〜十数秒という長い間の行動不能を引き起こすことができる。さらに、効き目の短い魔物は共通して身体能力が高かったことから、何かしらの差があると効き目が薄れるとも考察できた。
このことから、言葉を相手の近くで心を込めて言わないと通じないことがわかる。
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…どうだ……
極大小鬼は棍棒を振り下ろそうとしたタイミングで固まる。目の色は相手側の背が高すぎて見えない。だが、その風貌から動きを止めることができた。
「ヒーラー攻撃準備!」
ポカンと口を開けてこの状況を見ていたヒーラーはハッと我に返って武器を持った。
「打て!」
ヒーラーが魔法を唱え、攻撃をする。効いているのかはみていて微妙な感じだが、何十の軍勢が一斉に攻撃しているため、数秒と経たないうちにパッと見てわかるくらいにはダメージがでた。
『ウガァァァァァァァアアアアアアア!!!!!』
極大小鬼の咆哮が鳴り響く。もう解けたようだ。ヒーラーの安全を確保し、攻撃を届かせるために門とは別の方向に後ずさる。
しかし当たり前といえば当たり前だが、極大小鬼は、ヒーラーには目もくれず、こちらにどんどんと近づいてきた。ときどき、ヒーラーからの攻撃が飛んでくる。しかし、それらも効果はないようだ。また、罠師の爆弾も喰らっても効果は少ないため、こちらに近づく極大小鬼を止められない。
『止まって』
もう一度そう言ってみた。
動き自体は止まるが、攻撃はここまで届かないだろう。それに、小鬼もまた異常な数湧いてきているため、手が回らないそうだ。
そして、前より早く解ける。
『止まって』
動きは止まらない。
『辞めて』
振るわれた武器は弧を描く。
『辞めて!』
何も起きない。
『誰か!助けて!』
しかし
だれも
こなかった。
極大小鬼の攻撃が見える。動けない。動かない。ただただ見つめるだけ。呼吸を忘れ、力は消え、脳は働きを止める。
…こんなときに、きぜつするなんてな
声にならない声は
確かに届いていた
『誰が動いて良いと言った?』
因みに、魔法の名前は翻訳したものの空耳です
え、日本語のやつは何かって?さあ?(すっとぼけ)