ヲタッキーズ156 さよなら絶対領域
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第156話「さよなら絶対領域」。さて、今回は"ノイズロックの女王"がプロモーションビデオ通りの光景で殺されますw
薬漬けの地下ロック業界の実態が明らかになる一方で重要参考人だったストーカーには鉄板のアリバイが。崩壊する自我領域の中で女王が見たものは?
お楽しみいただければ幸いです。
妄想スル人間は2種類だ。ヲタクかSF作家。僕は稼ぎの良い方。僕?僕はテリィ。やっぱり僕ってキモい?僕のSFに出て来るスーパーヒロインにはモデルが必要。推しが変身したムーンライトセレナーダー。秋葉原D.A.大統領のコネで彼女をリサーチ中だ。2人で事件を追ってる。僕達は良いコンビだ。え。忠犬ハチ公?誰がハチ公だょ!
テリィ様って…やっぱり犬っぽいモノね←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したら居心地良くて、客の回転率は急降下。メイド長はオカンムリだ。
「ギュイイイン!」
真昼間にオーナーの僕がエアトロンボーンの練習をしているから世も末だ。天井を指差しカメラ目線で走り飛び跳ねる!
「イェイ!…あれ?スピア、どうした?」
「彼女が死んだみたい」
「彼女が死んだ?"死んだ僕の元カノ"?」
スピアは常連のハッカー。"死んだ僕の元カノ"は、彼女がこよなく愛するシューゲイザー・ノイズ・ポップ・バント。
「"死僕元"のゴシップサイトに元メンバーのペイリが死んだって…遺体が見つかったって載ってたの」
「ゴシップサイトだろ?フェイクだょ。信用出来ナイ」
「でも、ペイリが"死僕元"を脱退した時は当たってたわ…そっか!確かに事実なら、とっくにテリィたんのトコロにラギィから連絡が来てるょね!」
スピアの顔が輝く…直後に僕のスマホが鳴るw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
雑居ビルの谷間。非常階段に死体が逆さ釣りw
「首が折れてる。恐らく死因は頸椎骨折ね。財布、スマホ、IDは無し」
「ルイナ、IDは不要だ。彼女は"死んだ僕の元カノ"の元ボーカル、ペイリだ」
「え。知り合い?まさか、また元カノ?彼女、恐らく別の場所で殺されてから、逆さに吊るされたと思う」
僕は自分のタブレットと話してる。超天才のルイナが鑑識を手伝ってくれてる。車椅子なのでラボからリモートだけどw
「で、死亡時刻は?」
「恐らく0時から午前3時の間ね…あら?何か聞こえる?まただわ…誰かリピート再生してる?」
「はいはい。ちょっと失礼…」
ビニ手で遺体のポケットからiPhoneを取り出す。
「"死僕元"の"排他的精神領域の彼方"だ。しかしヒドいな、この歪んだ轟音ギター」
「犯人が仕込んだのかしら。指紋を鑑識に見てもらって」
「ゴミ捨て場に捨てれば済むのに、非常ハシゴに逆さ吊りの演出?…コレは犯人からのメッセージだな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
現場から万世橋に戻ると来客1件w
「スピア?何しに来た?お店は?」
「今宵は"同伴デー"なの。テリィたん、後で付き合って…で、ペイリが死んだってホント?」
「残念ながら」
息を呑むスピア。
「ラギィ、"覚醒剤"のせいかしら?」
「違うと思うけど、どうして?」
「3ヶ月前、ペイリはハイになってリハビリセンター送りになった」
アキバに"リアルの裂け目"が開いて以来、腐女子の"パワー覚醒"が止まらない。一方で"覚醒"を促進スルとの触れ込みで怪しげな"覚醒剤"も出回って社会問題化しているw
「特にミュージシャンが"覚醒剤"に手を出す例が後を絶たない。ガキでも簡単に入手出来る。全くダークウェブには閲覧制限をかけるべきだ」
「はいはい、テリィたんのPCに閲覧制限をかけたのはハッカーの私。でも、ミユリ姉様に言われたからなのょ」
「解除しろ!元カノの立場をわきまえろ」←
「嫌ょ」
みんなが笑いを堪えてるw
「とにかく!現場に防犯カメラはナシ。犯人の足跡も特定出来ない。被害者の住所はデジマ法で登録されてるけど、3ヶ月前から行方不明」
「3ヶ月?ペイリがリハビリを始めた頃と重なるわ」
「警部!"排他的精神領域の彼方"を検索したら、こんな動画がヒットしました。見てください!」
大型モニターに動画が流れる。
「これPV?」
「うーん見覚えアル光景だわ」
「器用ねぇw」
何と彼女は非常梯子から逆さ吊りになって歌っている。スピアは、みんなに解説スル。
「あのね!"排他的精神領域の彼方"は、ペイリをストーキングしてるファンについての歌なの。この歌詞を聞いて!」
"無防備な自我境界をどうするコトも出来ない。捕まえようとしてもアナタには絶対に無理。私の自我境界が厄介なのはわかるけど、アナタの企みは犯罪よ"
「犯罪って…随分と危険な歌詞ね。あら、この後も…」
"約束の15メートルを守らない"
「15メートル?裁判所が出す接近禁止命令のコトね?彼女に接近禁止命令が出てる人を探して!」
「ソレとスピア。お前は出勤しろ。店には電話して同伴カウントにしてもらうから」
「何で?私、役に立ってるでしょ?」
このママ捜査に加わるつもりだw
「わかるが、生業優先だ。マトモに生きろ」
「テリィたんに言われたくない。ソレに今、JKコスプレしても気持ちは上の空ょ」
「そっか。どうせお客も集中してないし」
スピア、激ヲコw
「テリィたん!言っていいコトと悪いコトが…」
「出勤しないと店に風紀取締班を送るぞ!ラギィ、風紀班の出動だ!」
「リストラしたわ」
うーむ。運が良いな…
「警部!ストーカーがいました!フラン・バスケ。ペイリに何度も通報されてます。記録によると、自宅への侵入未遂もある。法廷で彼女を見てこう叫んだ…ズレアバ」
語尾を落とす同僚刑事のカポン・スキィ。
「カポン・スキィ、誰に気を遣ってるの?連行して!」
「スピアは出勤しろ」
「わかったわょ。じゃ同伴して」
デスクで笑って見ているラギィ警部。
「何だょ?」
「別に。テリィたんはいつも5才児みたいだから、一般人ぽいコトやると、何だか新鮮」
「ムラムラする?」
ラギィはスマホを抜く。
「やっぱり5才児ね」
「誰に電話を?」
「アイドル御用達の"覚醒剤リハビリセンター"。地下もメジャーもアイドルが通うならココしかナイわ。退院後ペイリが何処に住んでたかまでワカルと思う」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
秋の弱い日差しが"秋葉原マンハッタン"を照らす。
夫妻が経営スル音楽スタジオは摩天楼の一角にアル。
「ブシュさん。"覚醒剤リハビリセンター"からの紹介で、ペイリの入院費や退院後の面倒を見てたそうですね?」
「YES。私達夫婦は、彼女を家族の一員として迎えました」
「通常、プロデューサーとはソコまでやるモノなのでしょうか」
夫のイアム・ブシュは首を横に振る。
「逆だ。通常は、麻薬に溺れさせてほっとくだけさ。そもそも"センター"が"上玉だ"と斡旋して来るミュージシャンにはロクなのがいない」
「リラックスさせるために大麻を勧めたり、働いてもらうためにコカインを与えたりするプロデューサーも多いのょ」
「時にはヘロインもな。出会った時、彼女は既に依存症だった。でも、感性を研ぎ澄ますためには薬をヤメるしかない。我々も必死になって薬をヤメさせたょ」
「彼女はあのクソバンドにはもったい才能だった。薬を抜いて、元気になって、新譜も描けて、コレから儲けてもらおうと思ってた矢先にストーカーに殺されるナンて…全く大損ょ!投資が回収出来ないわ!」
夫婦がカワリバンコに意見を述べるが、述べれば述べるホドこの夫婦はどーしよーもナイなと思える。救いのナイ業界w
「件のストーカーが犯人かどうかはまだ分かりません」
「ウソだろ。彼女は奴に怯えて夜、叫びながら起きるコトもあったんだぞ。奴に何かされるんじゃないかって!」
「彼女が失踪した時に探して保護していれば投資も少しは回収出来たカモしれないわ」
彼女は失踪したのか?
「実は、彼女は先週の月曜日、スタジオに来なかった。家に帰ると彼女の姿がナイ。自分の持ち物だけ持ってドロンだ。
また"覚醒剤"かと思ったょ」
「スマホも通じなかったわ。突然消えるなんて何かに怯えたのよ。彼女らしくないわ」
「家族は?」
夫婦が異口同音に答える。仲が良いのか悪いのかw
「スカイと言う妹がいたな(わ)」
「どこにいますか?」
「さぁな。どーせ"覚醒剤"漬けだ。でも、いつもペイリはスカイを救いたいと言ってたょ」
ジャンキーだけど妹思い?
「でもね。スカイはスカイでペイリを敵視してたわ」
「あらあら。ペイリが何かしたんですか?」
「メジャーになった」←
ココでラギィのスマホが鳴る。
「失礼します」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
地下アイドル通りを"スマホ歩き"ならぬ"スマホ走り"をしながら、ヲタッキーズのエアリとマリレが駆け抜ける!
「ラギィ?例のストーカーだけど、夜逃げ同然の大荷物で家を出た!近隣住民が目撃してるわ!」
「行き先はわかる?」
「防犯カメラでトレースしたら、電気街口のターミナルで長距離バスのチケットを買ってた」
横からマリレの声。
「5分前に青森行きの長距離バスが出発してる!」
「だそうょ」
「ROG!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
首都高上野線を北上するハイウェイバス。首都高HPの高速パトカー2台が猛追。ソレに万世橋の覆面パトカーが続くw
「首都高HP!首都高HP!バスを右に寄せなさい!」
急停車したハイウェイバスの目前へ次々と斜めに突っ込む高速パトカーと覆面パトカー。
全車の全ドアが一斉に開いて、銃口を下に向け、音波銃を手にした警官を続々吐き出す。
対エスパー防御のヘッドギアを被った僕も続く(ヘッドギアのサイドには"SF作家"と大描きしてアル特注品ナンだ)。
「わかった」
エアリが見せる顔写真にうなずくラギィ。突入!
「手を上げなさい!」
怒鳴りながらバスに乗り込むラギィ。警官隊と"SF作家"が後に続いて殺到。バスの乗客は、全員一斉に手を挙げる!
「動かないで!」
先頭のラギィが音波銃を向けて、1人1人首実検して逝く。後からショットガン、短機関銃、ロケットランチャーが続く。
緊迫のシーンだ。怯える乗客。目をそらす乗客。挑むような目の中近東の男がいる。目深に帽子をかぶって顔を隠す男…
突然、飛びかかる男wラギィが足を払ってフロアに倒す!
「フラン・バスケ!ペイリ殺人容疑で逮捕する!」
「立て!」
「わかった!わかったょ。痛いって」
第2章 女を殴る神様
万世橋の取調室。
「警察はなんてバカなんだ。ペイリは俺のソウルメイトだぞ?その俺がなぜ彼女を殺す?」
「じゃ逃げないでょ面倒くさい」
「アンタらに疑われるコトがわかってたからだ。何しろ俺の曲まであるンだからな」
胸を張るストーカーのフラン・バスケ。翠色の長髪w
「昨夜の12時頃、どこにいた?」
「昨夜はペイリの新曲披露のシークレットライブがあった。サプライズで俺は行けなかったが。ソコで俺は…」
「ソレは良いから、貴方がどこにいたかと聞いてるの」
他人のヲシ活の苦労自慢ほど退屈な話はナイ。
「早々にダークウェブにアップされたライブ音源を部屋で聴いてた。彼女の最後の歌だから逃せないと思った」
「最後?卒業ソングになるって何で知ってたの?」
「みんな知ってたさ。ペイリ自身もだ。昨日の晩、自分が死ぬってな」
僕とラギィは思わず顔を見合わせる。
フランは尻ポケからデバイスを出す。
「コレが新曲さ。聞くか?」
"配られた手札は二度と消えない。死の女神がユックリと近づいてくる"
「"死の女神が近づいてくる"…ペイリは"奴"に殺されるとわかってたんだ。俺は"奴"にハメられた!」
「"奴"って誰ょ?」
「接近禁止命令は食ったが、俺は彼女のコトを尾行してた。すると、彼女は"奴"に怒鳴られてた。お前を殺すぞ!ってな」
色めき立つ僕達。
「誰に怒鳴られてたんだ?」
「"奴"って誰?フラン、答えなさい!」
「ザック・メッツ。"死僕元"のギタリストだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のモニターにクタびれた長髪男子の顔。
「ザック・メッツは"ノイズギターの神様"と呼ばれてる。非行少年だった悪ガキの頃から、複数の犯罪歴アリ。どうやら女性を殴るのが趣味みたいだわ」
「うーんコイツなら、腐女子だって簡単に殴り返せそうな気がスルけどな。犯人に見える?」
「誰もが犯人に見えるわ。職業病ね」
溜め息をつくラギィ。僕は意味もなく壁ドン←
「僕も犯人に見える?」
「うざいって罪ね」
「ラギィ!あ、あら(何なの、この2人w)?もしかして、お邪魔でした?池袋の乙女ロード署の知り合いから先日ペイリが来たと連絡があったンだけど…」
同僚刑事のカポン・スキィだ。
「それで?」
「失踪の当日、届を出しに出頭したそうです」
「何の届け?」
急転回か?
「不明。応対した警官が担当刑事を探しに目を離した隙にいなくなったらしい」
「何らかの犯罪に巻き込まれてたんだ」
「ソレか危険を察知したのカモ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田リバー沿いの廃倉庫。折れた鉄骨、錆びた屋根。ラギィが覆面パトカーごと突っ込むとサスガに轟音ギターが止む。
「ペイリの件なら聞いたよ。最悪だ」
「お前、見るからに悲しそうだな。見てて泣けるょ」
「貴方、彼女と喧嘩してたわね」
僕を制してラギィが突っ込む。
「だから?」
「事件と何か関連はアル?」
「俺は殺してない」
そりゃそーゆーだろー笑。
「まぁ待てょ。実はちょっちハイになって、つい手を出した可能性は?」
僕がチラ見スルと…ザックの腕は注射の痕だらけw
「マジで殺してない」
「はいはい。日曜の夜、午前0時から午前3時の間はどこにいた?」
「ライブやってた。町内会のハロウィンパーティで夜中の1時半まで演奏してた。片付けて会場を出たのが午前2時。その後シンセのニッギと乗ったタクシー代はカードで払ってる。東京無線だ。もう良いか?」
最近の町内会って過激だな。全く油断ならないw
「しかし…ペイリの脱退前に比べて、随分と落ちぶれたな」
「おい!挑発しても無駄だ。確かにペイリがソロになって、俺達は散々な目に遭った。バンドをめちゃくちゃにしやがった。憎んでいるのは確かだ。だが、殺しちゃいない」
「じゃ喧嘩の原因は?」
ノイズギターの神様は真っ赤になって怒る。
「自分勝手なクソ女だからだ!新しいボーカルのオーディションをヤルと言ったら、バンドの"命令停止"の書類を送ってきやがった!」
「ソレは"停止命令"だ。命令を停止したらバンドの名前は使い放題だぞ」
「ソレはホントか?!おまわりさん、今度、相談に乗ってくれ…"死んだ僕の元カノ"というバンド名は、ペイリが所有している。アイツがおかしくなって勝手に脱退したのに、俺達はバンド名を使えない。必死にウケるバンド名を考えてるが…コレで完全に無名だ」
真剣に悩んでる。意外に良い奴カモ。力を貸そう。
「でも、この事件のお陰で有名になれるさ。元気出せ…新しいバンド名だけど"僕等は餅つき"ってどうだ?」
ザックの目が輝く…が、ラギィのスマホが鳴る。
「…了解。ペイリの妹が遺体確認に来るって。ザック、秋葉原を出ないで」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の検視局。
「警備を呼べ!あ、警部w」
青いオペ服の男達が逃げ出して来る。
「どうしたの?」
「妹のスカイが姉の死に感情的になって暴れてる!」
「姉貴!どうして死んでるの??!!」
完全に…酔っ払ってる?まさかラリってる?
「スカイ!」
ラギィが一括スルと、姉の死体が載ったストレッチャーの横で床にペタンと尻を落とす。片手に酒瓶。片手に…ナイフw
全身黒ずくめの長い髪の女。酒瓶を持ち上げる。大吟醸?
「何の用なの?今、姉貴と話してるの」
「ラギィ警部ょ。いくつか質問したいんだけどOK?」
「おまわりさんは、警察?」
「えぇそぉね。で、ソレはナイフ?」
「持ってちゃダメなの」
「えぇダメょ」
「重罪?」
「えぇマァね」
すると、ナイフと酒瓶を両手で子供のように差し出す。おやおや。意外と良い奴…って今回は良い奴のオンパレードだw
「おまわりさん。秘密があるんだ」
「まぁ何かしら?」
「姉貴は…私が殺したの」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
とりあえず、場所は取調室へ移動。
「ペイリをどう殺したの?」
「私が姉貴に死ねと言ったの。そしたら死んだ。普通は言うこと聞かないのに、こーゆー時だけ死んだのょ!」
「じゃ何でお姉さんに死ねなんて言ったの?」
どーやら戯言のようだ。溜め息つくラギィ。
「バカだからょ!」
「どっちが?」
「テリィたん黙って。最後に会ったのは?」
いや。本心で知りたかったンだが。
「水曜か木曜。今日は何曜?」
「土曜ょ」
「見つかっちゃったんだ。誕生日に姉貴にもらったブレスレットを売ってるトコロ。"覚醒剤"を買うお金が欲しかった」
泣ける話だ。アキバのマッチ売りの少女w
「ペイリの住所は?」
「ブシュのスタジオハウスを出てからは知らない。天使のような夫婦ょね。スマホを捨てて世界に背を向け、スナフキンみたいに暮らすって言ってた。女なのに…"覚醒剤"もヤメてパンピーとして生まれ変わルンだって」
「壮大なプランね。でも、なぜ失踪を?理由は?」
スカイは肩をスボめる。フランス人かょw
「いつものコトだわ」
「ペイリは、先週君のコトを探してた」
「知ってる!何か重要な話があったみたい」
ラギィが突っ込む。
「話って何?」
「知らない!追い払ったから。私は姉貴に助けてもらう必要はナイの。守れない約束をさせられるのもウンザリ」
「約束ってナンだ?」
僕も突っ込む。
「一緒に組んでバンドをやろうと誘われた。2人で頑張ろうって。でも、その前に"覚醒剤"を止めないと、いずれ死んじゃうわよって。皮肉な結果だょね。自分だって薬をヤメられなかったのに、何で私だけヤメ…」
「え。ペイリは、また"覚醒剤"に手を出してたの?」
「だって、ペイリはニートとモメてたわ」
ニート?自宅警備員?
「売人ょ。お金を渡してた」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「ペイリが、天使のようなブシュ夫妻のスタジオハウスを飛び出したのは、また"覚醒剤"を始めたからか…」
ラギィのマグをデスクに持って来る。
「…でも、殺された理由も警察に逝った理由も不明とはな…そんな顔をされるほど、複雑なコトは逝ってナイつもりだが」
「実は、ルイナから検視結果を聞いたの。ペイリから"覚醒剤"は検出されなかった」
「ならナゼ売人に金を渡してたンだ?」
小皿から国民的チョコバー"ブラックパンダー"のハロウィンミニバーを摘んで2人で食べ始めたら1袋空けてしまうw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室のニートは饒舌だ。
「"覚醒剤"じゃなくて音波銃を売ったんだ」
「音波銃を?」
「しかも38Hz口径。殺傷能力は充分だ。確実にスーパーヒロインを殺せる。ただし、間違ったコトはしちゃいねぇ。彼女は何かに怯えてたンだ」
壁にもたれた、恐らくシンジケートが雇った弁護士が肩をスボめてみせる。どーやら、ラギィは彼とは顔馴染みらしい。
「彼女は怯えてた?何に?」
「理由は聞いてない。ただ音波銃が欲しいってだけだ。なぁおまわりさん、帰って良いか?」
「ええ。でも、秋葉原から出ないで…ソレからシャワーを浴びて。臭うわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラギィがデスクでスマホ相手に苦戦してる。
「確かなの?」
「YES。ラギィ、ごめんなさい。長短金利操作が柔軟化されて、YCCコントロールが…切るわね!」
「ルイナ!可能性として…」
ガチャ!
「もしもし?電話を切られたんだけど?」
「ラギィ。ルイナは秋葉原D.A.大統領の首席補佐官だ。死体には優しいけど時間にはシビアだょ。で、何だって?」
「犯人が塗りたくってた口紅は、ダニエル・ボランの"ベルベット・キス・リップ"。色はレッドで…」
僕は首を振る。
「そーじゃなくて。音波銃だょ」
「そっちのこと?ペイリの手から音波反応があった」
「あの硝煙反応みたいな奴か?つまり、ペイリは発砲した。でも、音波銃はどこに?」
ラギィは両肩をスボめ両手を上に向ける。
「彼女が殺された場所かも?例えば、犯人はペイリを襲ったけど、音波銃で反撃された。彼女の音波銃を奪おうとモミ合いになる内に殺してしまい、遺体を移動して逆さに吊るしたら、あーら不思議。偶然にもソレはPVの1シーンに偶然ソックリ…なーんてワケないか」
珍しくラギィの"妄想"が炸裂w
「最初は順調だったのに、着地が決まらなかったな」
「じゃあ人気SF作家の妄想仮説は?」
「犯人は金星人だ」
急に息苦しくなるラギィ。
「金星人?」
「古典的なSFだと大抵金星人が登場スル…犯人はスピアかもな」
「え。スピア?」
「事件に近いしアリバイもナイ」
「じゃあ御帰宅してスピアが自白したら呼んで」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「スピア。殺人を起こしたら、必ず相談してくれ」
「モチロン!死体を隠すの手伝って…で、"死んだ僕の元カノ"には会ったの?」
「会ったょ。でも、ファン以上の関係にはなるな。遠くから見るだけにしろ。コレ、なんの曲?」
カウンター席でスマホからユルいバラードが流れてる。
「"死僕元"の曲ですって。"さよなら絶対領域"。最後のシークレットライブだったンですって。スピアったら、ずっと聞いてます」
「ミユリさん。このユルい2拍子も"シューゲイザー・ノイズ・ポップ・"なのか?チューニングの合ってない轟音ギターは?」
「合ってないのではなく"歪んでる"だけです。甘美なツインボーカルはシューゲイザーの世界観と一致します」
カウンターの中のメイド服は僕の推しのミユリさん。
彼女は"blood type BLUE"のスーパーヒロインw
「死の女神が近づいて来るなんて、ちょっとしたホラーだ」
「テリィたん、その死じゃないわ」
「あら。死にも種類があるの?」
カウンターの内外から質問が飛んでスピアは得意気だ。
「この歌で言う"死"とは、すなわち比喩的な意味や寓話、記号としての意味を表現しているの」
「え。え、何だって?ソレ、美味しいの?」
「つまり、この死は"記号"。彼女はニューエイジが好きなの。例えば、数霊術や占星術、タロット。タロットでは死神は変化も意味スルわ。聞いて」
スピアのスマホからバラードが流れる。甘美と逝えば甘美だけども…"配られた手札は二度と消えない"手札って何だ?
「手札はタロット。だから、死は変化を意味するワケ」
「何だか懐かしいな。昔、ビートルズの歌詞を分析したモンだ。レコードを逆回転させて、レノンの死の真相を確認したくてね…スピア、スマホ鳴ってる?」
「いいえ。"死んだ僕の元カノ"の掲示板ょ…え。バンドが再開?!ねぇ見て!」
ダークウェブにアル"死僕元"の"闇掲示板"だ。
"ペイリの代わりはスカイがやる。ほぼ決定らしい"
"リハーサルが既に始まった"
"マジ?マジ?マジ?"
「コレも見て。"マクギ・ニテォ事務所に電話して確認した"ですって!」
「Twipperか。"死んだ僕の元カノ"と逝うバンド名の所有権はペイリにアル。でも、ペイリは死んだから、所有権は家族であるスカイに移ったんだ」
「じゃスカイが犯人なの?」
僕は激しく否定スル。
「あんなか弱い人には、姉の首は折れない。自分の首を折っちゃうょ…そもそも、このマクギ・ニテォって誰?」
「元マネージャー。"覚醒剤"が抜けると同時にペイリが解雇した。先月の雑誌("ノイズマガジン")のインタビューで、ペイリは自分が"覚醒剤"を始めたのは彼のせいだと暴露してるわ」
「なるほど。バンド再開で得をスルのもコイツか…」
スピアがマクギの画像を示す。爽やかな笑顔w
「この人が犯人に見える?」
「今は、誰もが犯人に見える。職業病さ…」
「何ソレ?口説いてるの?」
思い切りラギィのマネだったが…決まった、か?
「も少し浸らせてくれ」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室に爽やかな笑顔が溢れるw
「日曜は仕事で盛岡にいた。夜はモテルに戻って、ちょっとポルノを見て、ソレから寝た。確かにスケベな男ではあるが、犯人ではない」
「ところが、貴方は爽やかな笑顔の割には、シッカリとした犯罪歴がアル。薬物所持が6件。販売目的が2件。割と重罪だわ」
「アーティストに"覚醒剤"を覚えさせ、自分から離れられないように仕向ける古い手法だ」
僕が看破スルと、マクギは心の底から感心してるw
「業界通だな!とにかく、プロデューサーの仕事は、アーティストの夢をかなえてヤルことだ。あの姉妹は俺に会う前、乙女ロードのショボいコーヒーショップで歌ってた。そんなペイリにレッスンやスタイリストをつけ、秋葉原の地下からメジャーに押し上げたのは、この俺ナンだ。その恩も忘れ、彼女は去ったンだぞ!」
「彼女が死ねばバンド名の所有権は妹に移る。だから、スカイを丸め込もうとしたワケだ」
「おい!バンドが復活すれば、お金がたくさん入って、みんながハッピー。ウィンウィンになるだろう?」
ラギィが釘を刺す。
「死んだペイリ以外はね」
「だが、彼女の不幸のお陰で、次のツアーはさらに儲かる」
「へぇ。だから殺したの?」
爽やかに鼻で笑うマクギ・ニテォ。
「答えないぞ。黙秘権を行使だ。怪しいと思うんなら、逮捕してくれ。マスコミが騒いで良い宣伝になる」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室を出てからボヤく僕。
「下劣って表現がピッタリな奴だな」
「一般的な業界人じゃナイの?通話記録はどう?逮捕しろ、ナンて強気だったけど、ハッタリじゃナイかしら。他の誰かと通話してないかしら?」
「ラギィ。奴は乙女ロードにいたんだぜ?」
ラギィは歌うような口調だ。
「殺人ナンて、スマホ1本で頼める時代ょ」
「ビンゴ!ラギィ、事件の前日マクギが通話したのは、ギタリストのザックょ!」
「何で?しばらく、会ってないハズょ。とっくにマネージャを辞めてるのに、何で事件前日に電話を?」
ラギィはデスクから立ち上がる。
「話を聞きましょう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田リバー沿いの廃倉庫。
「なんだ?おかしくなったか?」
「アンタ!何様のつもり?」
「待て!逃げる気か?」
激しくモノを投げ合う音…そして、モノが壊れる音w
「来ないで!私に触ったら殺してやる!」
「このアバズレが!」
「きゃー!」
ラギィと踏み込むとザックがスカイに襲いかかるトコロだw
「やめろ!」
「スカイも離れて!」
「ほっといてょおまわりさん!」
2人を引き離す。
「スカイに何をした?」
「何もしてねぇ!野郎が先に手を出した。一緒にペイリの曲を練習してたら、急に姉貴の曲を盗むな!ってコレだ。イカレてるぜ全く!」
「姉を殺し、妹に手を出したワケ?」
挑発するラギィw
「だから、言っただろ?俺は殺してない!」
「座りなさい!」
「おっと」
鼻先にラッパ型に開いた音波銃の銃口w
小さく手を挙げてソファに座るザック。
「話して」
「…全部、話した通りだ。俺はライブをしてた」
「町内会のハロウィンパーティょね?その間、バンドは30分休憩を3回とってる。休憩中、誰も貴方の姿を見てないわ。抜け出して、ペイリを殺してたでしょ?」
ザックはウンザリって顔だw
「町会長から隠れて薬をやってたんだ」
「スゴい良識に富んだ行動だな」
「悪いかょ?」
場合に拠る。ラギィにタッチ←
「前日、マクギと電話をした?」
「マネージャーと電話しちゃマズいか?」
「元マネージャーでしょ?ペイリの脱退後、残されたアンタ達とは関わりはなかったハズ。ねぇ電話の内容を当てましょうか?バンド名を取り返すためにペイリを殺す作戦を立てていたのね?」
思い切り揺さぶるラギィ。コレは見ものだw
「半分当たり。でも、奴の提案はスカイを探すコトだった」
「何でょ?」
「スカイを通してペイリを説得しようとしたのさ」
僕は頭を抱えるw
「口下手なお前に出来るのか?」
「何だと?!」
「まあまあまあ」
ザックは詰め寄るが、あっさりラギィに逆手に取られるw
「イテテテ、放せ…マクギの作戦はこうだ。スカイを"覚醒剤"で釣って、バンド名を返すよう、姉を説得させる。妹からならペイリは話を聞く。ところが、スカイは肝心の時にラリっちゃって、とても話せる状態じゃなくなった。だから、結局、俺がペイリを説得に行ったのさ。"口下手"な、この俺様がな」
「あらあら。アンタ、事件当日ペイリに会ったの?何でソレを黙ってたの?」
「ソンな話をしたら、余計に疑われるだろ?ちょっとしたコトで、現場の警官は直ぐに幼稚な先入観を持ち、近場にいる1番気に入らない人間をムリヤリ犯人に仕立て上げる。警官は低能だ」
ラギィは心の底から感心スル。
「誰から聞いたの?その通りかどーかはワカラナイけど、黙秘は逆効果ょ全部吐きなさい。早く!」
「仕方なく、地下アイドル通りのコーヒーショップでペイリと会った。口下手な俺だが心を込めて話してたら、彼女のスマホが鳴って…」
ナゼか泣き出すザック。何なんだコイツw
「何で泣くの?早く!ソレでどうしたの?」
「ペイリは、震え上がってた。無視しても何度も鳴ルンだ。着信の度に怯えてたンだ…」
「誰からなの?」
もはや泣き虫小僧だ。"ノイズギターの神様"なのにw
「何度も鳴るからスマホの着信画面が見えた。俺もビビったぜ。だって、着信は…"死神"からだったンだぜ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
廃倉庫を出てラギィとリバー沿いを歩く…デートではナイw
「ペイリはスマホを持ってたンだな。プロデューサーのブシュ夫妻が"覚醒剤"と一緒に取り上げたと思ってたけど」
「多分プリペイドね。ニセの住所で契約出来るから」
「死神から逃げるために必死ナンだな」
その時、川面を1羽のカモメが飛ぶ。
「でも"死神"の正体は人間だ。何しろペイリを見つけ出して殺した犯人だからな」
「裏を返せば、ペイリが"死神"だと思ってた人が犯人ってコトょね?でも、それって誰?」
「歌詞に"死の女神が近づいて来る"とある。だから、恐らく女子だ」
立ち止まり、考え込むラギィ。
「確かにそうね…」
「スピアの話だと、ペイリはタロットにハマってたらしい。タロットでは、死は"変化"って意味らしいょ」
「つまり、変化から逃げようとしてたのね」
僕は叫ぶ。
「きっとキカイダーだ!チェンジ!」
「…(コレが無ければ貴方は優秀なプロファイラーになれるのにw)ペイリの人生で"変化"を象徴した女子は誰かしら?」
「リハビリを進め、彼女を助けた人か。プロデューサーのブシュ夫妻の奥さんの方?ブリィ・ブシュ?」
その時…夕闇の中からススリ泣く女子の声w
「誰か泣いてる?」
スカイだ。物陰で膝をかかえて泣いているw
「リハで姉貴の曲を歌ってたら姉貴の声が聞こえたの。姉貴がココにいたような気がして、なんだか…」
「貴女のお姉さんは強かったわ。お姉さんが再び"覚醒剤"を始めたと言うのは貴女の完全な誤解。遺体から"覚醒剤"は検出されなかった」
「マジか」
目を見開くスカイ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「スカイは、更生施設に入れたらどーかな?」
「彼女の意思がないと、誰も助けるコトは出来ないわ」
「テリィたん、ブリィ・ブシュについて調べてみたわ。ラギィ、令状 thank you ね」
ヲタッキーズのエアリだ。因みに彼女はメイド服w
「事件当夜の10時48分にカードで買い物をしてた。10時に帰宅したと言っていたのはウソね」
「何処で買い物してたンだ?」
「19丁目の薬局」
現場の近く、3ブロック先だw
「で、薬局に令状を見せたら、その時のレシートのコピーをくれた。ホントはソンな義務はナイんだけど」←
エアリが薬局のレシートを見せる。
「なになに?ミネラルウォーターとエナジーバー。ソレと"ベルベット・キス・リップの口紅。色はレッド…ビンゴだ!ペイリの唇に塗ってあった口紅じゃナイか!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
スタジオにブリィ・ブシュを訪ねる。
「確かに、私は事件当日にペイリと会いました」
「なぜソレを黙っていたの?」
「その日、彼女からオフィスに連絡があった。ギターとか置いてったモノがアルから、引き取りに行きたいと」
腕組みするラギィ。
「そうだったの」
「私からコールバックしても全然出ないから、留守電を何件も残したわ。私は不在だから自由に取りに来てとウソまでついた。で、私が待ってると、彼女が現れた」
「ソレは何時?」
核心に迫るラギィ。
「11時頃。失踪した理由を言わないと何も渡さないと伝えた。でも、彼女は私を見もしない。彼女の新曲には、かなりの投資をしてるの。今、彼女に失踪されたら、私達は、このスタジオを失うコトになるわ」
「おいおいおい。ソレで何をしたんだ?」
「彼女にいてもらわないと困る。逃げないようにしないと。どうせ使ってたんだし…」
口ごもる"天使のような"プロデューサー。
「まさかペイリに"覚醒剤"を与えたのか?」
「たった1袋よっ!確かに、欲しいならまだあるわって言ったけど…だって、新譜が完成したら、またリハビリすれば良いでしょ?今は居てもらわないと…」
「呆れた。でも、ペイリの遺体から"覚醒剤"は検出されなかったわ」
大きくうなずくブリィ。
「当然ょ。だって、その時にペイリは、隠し持ってた音波銃で私を脅した。また"覚醒剤"を使う位ならアンタを殺すって…」
「ちょっ、ちょっと待って。一度整理させてょ。貴女はウソをついてペイリを誘き出し、再び"覚醒剤"で薬漬けにしようと企んで口論になった。ソレでも殺してないと言うの?」
「ねぇこの消音パネル。いつ張り替えた?」
ラギィとブリィが振り向く。僕はスタジオの四方の壁にハメ込まれたウレタンスポンジで出来た吸音材パネルを指差す。
「3年前ょ。最近は張り替えてないわ」
「1枚だけ新しいな」
「何スルの?!気をつけて!高いのょ!」
何と1枚、簡単に外れるパネルがアル。奥のコンクリートに音波銃の弾痕、音波痕と呼ばれる穴が開いている。新しい。
「音波痕を発見した!」
「この大きさは、恐らく38Hz口径ね」
「つまり、ペイリの手についた硝波音波反応は、ここで発砲されたモノってコトだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。
「私、いきなり容疑者?さっぱりワカラナイわ!」
「ブリィ・ブシュ。貴女は、ペイリを逃さないように羽交い締めにした。彼女が音波銃を撃つと、貴女はさらに強く、彼女を締め上げた。気づくと彼女はグッタリしている。知らずに首を折ってた…」
「そうじゃない!全然違うわ!最低!」
諭すように話すラギィ。
「事故や自己防衛なら、罪は重くならない。だから、先ずは真相を話して」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マジックミラー越しの隣の部屋。
「白状すれば5年で済むのに。ざっと20年かしら」
「コレは弁護士の腕が悪いんじゃナイ?」
「可哀想だな」
僕とヲタッキーズの無責任な会話。一方、取調室では…
「20年服役するコトになるぞ!」
「でも、アナタ。殺してないのに私にウソをつけと?」
「まぁまぁ落ち着いて」
夫のイアムの説得は失敗。僕はつぶやく。
「後は弁護士次第だな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
結局ブリィはゲロしない。取調室を出たラギィと話す。
「疲れたわー。テリィたんは御帰宅?また面白おかしくミユリ姉様に話すンでしょ?」
「まぁな。でも、その前に少し散歩スルょ」
「どこを散歩スルの?」
僕は、長い長い長ーい溜め息をつく。
「スカイが1人ぽっちでいそうなトコロ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再び神田リバー沿いの廃倉庫。変身したミユリさんに来てもらう。コレはデートかな?案外コスプレがセクシーなんだw
「スカイ!」
「何処にいるの?」
「ココで寝泊まりしてるとザックから聞いたぞ!」
廃倉庫でライトを片手にスカイを探す。
鉄骨にもたれかかってるスカイを発見。
ライトを当てると苦しそうに喘ぐ。禁断症状か?
「大丈夫?"覚醒剤"を打ったの?量は?」
「幻覚?目の前にムーンライトセレナーダーがいるわ…契約したら、マクギ・ニテォが"覚醒剤"を買え、とお金をくれた。でも、私は買わなかったの。だって…姉貴が反対スルから」
「ペイリが?スカイ、しっかりして!」
スカイは、弱々しく猫パンチを繰り出す。開くと握り締めてクシャクシャになった紙幣。苦しげに喘ぐスカイ・ダイバ。
「ほらね。だから、お姉ちゃんは私を見守ってるょね?死んでも私を見てるょね?」
「今も見守ってる。貴女を助けてくれてるわ」
「さぁ。ココから出よう」
第4章 ATフィールド全開
その夜遅く。ほとんど夜明け前の"潜り酒場"。
「ミユリさん、スカイは大丈夫そう?」
「恐らく。彼女にとって最悪の時は去りました。今後の人生は彼女次第です」
「結局、万世橋は、ペイリ殺しを事故で済まセルみたいだ。何だか力が抜けちゃった。ヲタッキーズも失業だ」
アキバで"リアルの裂け目"絡みの事件は警察とSATOの合同捜査になるが、僕達はSATO傘下の民間軍事会社なのだ。
カウンター席で、僕の横では、スピアがペイリの"さよなら絶対領域"を流しながらアイスをバカ喰いしているw
「25才だったのょ。これからの人生もズッとペイリの歌を聞けると思ってたのに。結局彼女が"覚醒剤"を始めたとBブリィが勘違いしたせいで、こんなコトに?」
「ブリィは、天塩にかけたアーティストに失踪されて、何か裏切られた気持ちになったンだろう。真相は誰にもわからない…夜が明ける前に寝ようょ。灰になっちゃうぞ」
「テリィ様。も少し歌詞を聞いていたいのですが」
え。残念←
"聞いてくれるなら、理由があるのに"
印象的なリフレインが流れる。
「"聞いてくれるなら、理由があるのに"ですって」
「ミユリさん、どうしたの(寝ナイの?)」
「(後でw)コレって、失踪してから死ぬすぐ前に書いた歌詞ですょね?失踪の理由を歌詞で説明してるのカモ。"沈黙に閉ざされた生き地獄"って歌詞も気になります」
真正面に来て絡んでくれるミユリさん。眼福だー。
「ペイリの薬抜きのリハビリの暗喩かな」
「ブシュ夫妻のスタジオハウスのコトでしょうか?」
"私を救おうと暗闇が重くのしかかる"
「やっぱり鍵はブシュ夫妻だ。今、何の暗闇だって?」
「テリィたん、ココ?」
「も少し前からリピートしてくれ」
"彼の暗闇が重く、のし掛かる。頼んでもいないし、したくもなかった。貴方は私のATフィールドを破った。どうしてなの?"
「"彼"が"私のATフィールドを破った"って?」
「嫌だ。もしかして…」
「つまり、そーゆーコト?」
目を見開くスピア。立ち上がる。
「らめぇ!ラギィは犯人を間違えてる!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝焼けに染まる"秋葉原マンハッタン"。
首都高の渋滞が始まり電気街が覚醒スル。
「何?テリィたん、歌詞で犯人がわかったの?」
「ココから聞いてくれょラギィ」
「でも、ペイリは犯人を事前に知っていながら殺されたの?」
「少なくとも、全てが順調な時にペイリが失踪した理由がわかった。全部歌詞にアル。キーセンテンスは"聞いてくれるなら、理由があるのに"だ」
デバイスのイヤホンをラギィに渡す。
耳に当てるラギィ…彼女は僕を見る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「コレでホントに自由なの?」
「ええ。自由の身ですょ、ブリィさん。何枚か書類にサインしてください」
「信じられない!しかし、ホントに妻が無罪で良かった。でも、何故ムーンライトセレナーダーが来てルンだ?しかし、ホントにメイド服を着てルンだな」
口々に驚きの声を上げるブシュ夫妻。
「私もムーンライトセレナーダーのモノホンを見るのは初めてだわ。きっと、シン犯人はスーパーヒロインなのね?だから南秋葉原条約機構が絡むんだわ。で、もう捕まえたの?」
「いいえ。逮捕は今からです」
「今から?そう、とにかく良かったわ!」
顔を見合わせ手を取り合って喜ぶブシュ夫妻。
「捜査陣をシン犯人に導いたのは、皮肉にもペイリ自身だ」
「あら、テリィたん。どうやって?」
「事件のあった夜に、ペイリがシークレットライブで演奏した最後の曲"さよなら絶対領域"だ。今ならネットで聴ける」
"歯科医文書で縛られたこの人生で"
「この歌詞に秘密が隠されている。私達も、何度も聞き込んで、やっと気がつきました」
「最初は、単なるリハビリの歌かと思ってた」
「コレはリハビリの曲だ。違うのか?暗闇から抜け出て、生きる勇気を歌っている」
やや焦り気味に反対意見を述べるイアム・ブシュ。
「"暗闇"の意味が違うのです。ココです」
"頼んでもいないし、したくもなかった。貴方は私のATフィールドを破った。どうしてなの?"
「"私のATフィールドを破った"?イアム、コレどういう意味?」
「私達は、ペイリは誰かに襲われたと考えています」
「ただの歌詞だ。コレだけじゃ何もワカラン」
今や完全に焦ってるイアム・ブシュ。
「もっと明らかな部分もアルが…分析すれば見えて来る。父親的存在。裏切り。暴行。実に不愉快だ」
僕は、プロデューサーを睨みつける。
「アナタ、なぜ黙っているの?ペイリから何か相談を受けていたの?」
「いや、何も知らん」
「イアムさん。事件当日の奥さんとペイリのイザコザについては、何か御存知ですか?」
イアムの前にブリィが答える。
「モチロン知ってるわ。だって、私は帰宅してからイアムに全て話したモノ。その後、私は睡眠薬を飲んで寝たわ」
「イアム・ブシュ。その後貴方は奥さんのスマホと口紅を持ち出しましたか?」
「ウソをついてもムダだぞ。スマホの記録が残ってる。君がペイリに送ったメールもな」
それぞれ狼狽するブシュ夫妻。妻が口火を切る。
「何のメール?私のスマホから何か送信されてるの?」
「YES。貴方のスマホから11時52分にメール送信されてます。"イアムに全て聞いた。今すぐスタジオに来て"」
「そんなメール、知らないわ!」
絶叫するブリィ・ブシュ。明後日を向くイアム・ブシュ。
「まだアリます。"夫とは別れるわ。ごめんなさい。会いに来て"11時56分。11時59分、ようやくペイリから返信。"今から行く"」
「アナタ!ペイリに何をしたの?」
「"私を救った愛の腕は強すぎた"…イアムは、貴女のフリをしてペイリをスタジオに呼びました。彼女が不倫のコトを話すのを恐れたのです。しかし、ペイリがイアムのウソに気づいた時は、既に"死のワナ"は閉じた後だった」
ブリィは顔面蒼白だw
「イアム!ねぇ何か言って!」
「襲ったワケじゃない。彼女が誘惑してきたんだ!私への話し方やカラダへの触れ方で気がついた時には、もう遅かった。我々夫婦に助けられた恩も忘れて、我々の結婚やビジネスをウソで台無しにしようとしたんだ!」
「だから、首の骨を折ったのか?ペイリが音波銃を抜いた時と同じように、力任せに奪ったンだな?」
今回は、必殺技"雷キネシス"の出番がなくてココで口を挟むムーンライトセレナーダー。まぁ彼女の気づきだからな。
「そして、貴方はPVのイメージどおりに遺体を置いて、ストーカーの仕業に見せかけたのですね?」
「父親みたいに慕ってた。アナタは、彼女に尊敬されてた。だから、私も愛した。だのに…ねぇこっちを見てょア・ナ・タ!」
「…弁護士を呼んでくれ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
解散が決まり、後片付けの始まった捜査本部。
「ブリィは、証言台に立つそうです。もちろん、夫婦は離婚です」
「結局ペイリは、ブリィには不倫を話せなかったのね」
「打ち明けられる人がいなかったから歌詞に秘めた。悲しい歌だわ」
ミユリさんとラギィのシミジミ女子トーク。
「僕が"太陽系海軍シリーズ"を描いてた頃を思い出す。あのシリーズを執筆中ちょうど僕は…まぁどうでもいいか。司法取引は?」
「無理ょ。イアムのコートからも火薬が検出された。司法取引は不可能…テリィたん、スピアには何て話すの?」
「真実を話す。いつも通りさ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
真夜中に開催されるシークレット・レイブ。
ビルの谷間。キャンドルを手に集まる人々。
「ヘイ、ペイリ。愛してるわ。アンタに捧げる」
ガールズバンドをバックに歌い始めるスカイ・ダイバ。
"死海文書で縛られたこの人生で。私は目を閉じ、語るために生きる"
気のせいかな。ステージから僕達に微笑みかけるスカイ。
"配られた手札は二度と消えない。死の女神が近づいてくる。人は誕生と再生を繰り返し、文明は栄えて滅ぶ。私は、昔のママの少女じゃない。全ての記憶が消えるコトも無い"
スピアが僕の肩に頭を載せる。
"聞いてくれるなら、理由があるのに"
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"ロックミュージシャン"をテーマに、ノイズロッカーの女王、その妹、薬漬けのアーティストから薬を抜いて校正させる天使のようなプロデューサー夫妻、ストーカーと紙一重のグルービー、金に塗れたマネージャー、プロモーションビデオ通りに殺人する犯人を追う超天才や推し活中の凄腕ハッカー、ヲタッキーズに敏腕警部などが登場しました。
さらに、薬まみれの地下ロック業界などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、エレベーター待ちのインバウンドがラジオ会館の外まで行列するようになった秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。




