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後悔の話

作者: めちま

一応ホラー要素有りというか、この話だけはどう分類すべきか悩みました。

率直に帰り道に彼女との良い思い出と、最悪な思い出、そして別れと言う感じですが、今でも思い出すと私はどうしても駄目ですね。

根っから弱い人間です。

 高校生最後の夏、1年後輩の彼女との下校中、帰りの山道で語らうのが付き合い始めてからの日課だった。

 本当に好きだった彼女だったのだが、何度も細い山道の裏道を俺と彼女は好んでそこで話をしていた。

 部活帰りに他愛もない話やTVの話で盛り上がってはそこで別れて帰るのだった。

 そしてある日俺は受験で悩んでいたのだが話せずにいた。


「どうしたんですか先輩?・・・ねえ先輩今日、家に来ませんか?」


 と彼女に誘われたのだが、俺は勇気がなく断ってしまった。

 今日は部活で疲れたからまた今度って。

 俺はヘタレも良い所だったが、彼女は一瞬悲しそうな顔をしたが、なら仕方ないと言って彼女は帰っていったが、そこでの別れが今生の別れとなった。

 山道を降りる途中でいつも俺と彼女は別の道を帰っていく。

 なので俺と別れた後、いつも彼女の帰り道は人通りの無い所だったのだが、たまたま若者のスピード違反のバイク乗りが彼女と接触。

 頭の打ちどころが悪く彼女は帰らぬ人となった。

 この時半身を切り裂かれた様な気持ちだと初めて思ったのだが、あの時俺が一緒に家に付いて行ったら、もしかしたら助かったのでは?と思うとどうしても根性無しの自分が腹立たしく、とても悔しくてたまらない。

 葬儀の際も、彼女を轢いてしまった若者が詫びを入れに来ていたが、彼女の両親に怒鳴り散らされて罵倒されていたのを今でも鮮明に覚えている。

 結局俺は次の日事故現場に花を手向けた。

 その翌年もあの事故があった時間、俺と彼女が語らっていたあの山道を彼女と共に歩いたその時と同じ日時、俺は彼女と話していた所を思い出しながらそこを眺めていた。

 すると耳元で彼女の声がする。


「先輩?どうしたんですか?」


 俺は驚愕した。

 あの頃のままの彼女がそこに立っていた。

 自分は恐怖心より、何で?という驚きと、1年ぶりに生きている時と同じ彼女を見て号泣してしまった。

 だが彼女がもう亡くなっている事は誰よりも良く分かっていた。


「ゴメンよ!俺が一緒に付いて帰っていれば、今でもこうして話していられたかもしれないのに!」


 そう叫んでしまうのだが、彼女は


「どうしたんですか先輩?・・・ねえ先輩今日、家に来ませんか?」


 と言う。

 俺はハッとして、これはあの時のままの映像を再生しているような感じに思えた。


「あ・・・・・・ああ!ああ行くよ!行くとも!」


 そう言って俺は彼女と山道を降りたのだが、事故現場の辺りで彼女の姿はすっと消えてしまう。

 そこに花が手向けられているのだが、俺は泣きながらそこで膝をついて


「あああ!ゴメンよ!本当にゴメン!俺があの時付いて行ってたら!ああー!」


 何度も俺はそこで謝るも、もう彼女の姿は見えなかった。

 翌年、俺はまたその日時に山道に行くと


「先輩?」


 そう言って彼女が出てきた。

 そして、あの時と同じ台詞を言う。

 

「どうしたんですか先輩?・・・ねえ先輩今日、家に来ませんか?」


 あの時と全く同じなのだ。

 いつだったか、この世に未練のある魂はその場に留まって同じ事を繰り返すと聞いた事があったが、まさにその通りだった。

 そこでやはり、彼女と山道を降りていくと、事故現場ですっと姿が消える。

 その前に俺は何度も彼女の手を取ろうとするのだが、触れる事などできはしなかった。

 俺はまた涙が止まらなくなる。

 事故現場に花を手向けて帰るのだが、どうしても彼女の事が頭から離れない。

 もう亡くなっているし、葬儀にも参列したのだから現実は変わらない。

 それでも目の前に彼女の姿があったことも本当だった。

 それを2年に渡って経験したが、俺はその彼女の姿を思い出すと、そう言えば一昨年に比べて今年は若干姿が薄くなっていた気がした。

 もしかしたら、魂が年々弱くなってやがては消えてしまうのでは?そうなると、何度も繰り返す映像のようにあの山道に留まっていたら成仏できないのでは?そう思うようになった。

 色々頭をぐるぐると色んな思いが巡るが、彼女をもしかしたら死なせずに済んだかもしれなかったのに、今度は魂まで救えないのか?などと考えたり、俺みたいなものに何ができるってんだ?と思ってみたりもした。

 そんな感じで悩みながら大学に通っていると、様子がおかしいという事で友人が相談してみろと言う。

 俺は彼女の話をすると、友人は馬鹿にするわけでもなく霊感の強い人を知っているから紹介すると言われた。

 まさか同じ大学内に、そういった事に長けた人がいるとは思わず、さっそくその人と話をさせてもらった。

 その人はAさんとするが、とある神社の神主の家系らしい。

 その人曰く、彼女は地縛霊になっているかもしれないという事だった。

 それは、その時に最も未練のある状態でその土地や場所に、その時のまま魂が定着する事があるらしいと言うのだった。

 それも色々タイプがあって、一部魂が定着しているだけで時間が経てば何事も無く消えるタイプで、元の魂はすでに旅立っているので問題無い場合と、強い未練の場合は魂がほとんどかすべてそこに残っている場合があるという事だった。

 魂がほとんど残っていると、成仏できずに未練だけ残し、やがてはただそこに憑りついているだけになったり、実際にはどうなるか分からないが、それは決して良くはない事だと言う。

 なので、その彼女の様子はどうだったかと聞かれたので全て答えた。

 彼女の姿がはっきり当時の映像そのままの様に見え、話しかけてくる声も聞こえたと言うと、普段から霊は見たり霊感はあるかと問われ、俺はそういった事は今まで無かったと言う。

 だとしたら、相当未練が強かったんだなと言われ俺は自然と涙が出てしまう。

 すると、俺と彼女の山道でのやり取りを一通り説明したら友人が


「彼女の未練て、先輩で彼氏のお前を家に呼んだのに断られたってのが一番未練だったのでは?」


 と言われ、俺はどうしても涙が止まらなくなってしまった。

 彼女にとっては、自分から家に誘うのは勇気のいる事だっただろうし、何か悩みを打ち明けたかったのかもしれない。

或いは、俺が悩んでいた様子を見抜いて、少しでも話を聞こうとしてくれていたのかもしれなかったのではと思った。

 今となってはそういった事を彼女と話す事は出来ず、山道で命日の日時に彼女の霊が出てくるのはその時の映像の様に同じ台詞と行動を繰り返すだけだった。

 もう亡くなっているのだから、当然その時の思いを知る事は出来ない。

 そしてAさんは悪い事は言わないから、来年の命日にその山道にその時間私も付いていくと言う。

 すると友人も、高校からの付き合いで俺も彼女は知ってるから俺も行くと言う。

 俺はこれで心のつかえが一部取れた気がした。

 そしてまた1年が過ぎ、彼女の命日がやってきた。

 俺は、いつもにも増して緊張していた。

 一体、Aさんはどうすると言うのだろうか?と思うと、段々と不安が高まってきたのだが、そんな事を考えている間に彼女が出てきた。


「どうしたんですか先輩?・・・・・・ねえ先輩今日・・・・・・家に・・・・・・来ませんか?」


 俺はついハッとしてしまった。

 去年と少し違う。

 明らかに彼女の喋り方と言うか、台詞がおぼつかなくなっているし、姿が前年より薄くなっていた。


「あ・・・・・・ああ!行くよ!行こう!」


 俺はそう言って彼女と共に歩いて山道を降りる。

 そこで一緒に来ているAさんが俺に


「彼女はもう不安定になっているから、今もう祓って成仏させてあげた方が良い」


 そう言われるので、俺もそれは彼女の昨年との違いからどうしてもそれは確かだとは思っていた。


「そうなんですけど・・・・・・もう彼女とは会えないんですか?もう来年は・・・・・・」


 と思わず口をついて出てしまうが、それを聞いた友人が


「お前・・・・・・彼女をこのまま魂が現世に留まり続けて彷徨う事になるかも知れんぞ?」


 そう言われ、Aさんもそれは駄目だと言う。

 俺も分かってはいる。

 分かってはいるのだが、彼女と今年も僅かばかりの時間、例え霊であっても、もう少しだけ一緒にいたかった。

 だが、もう事故現場まで直ぐだった。

 Aさんは俺に向かって


「気持ちは痛いほど分かるが彼女をもう送ってやれ!」


 そう言われるので俺は泣きながら


「Aさん、お願いします」


 そう言って頭を下げると、Aさんは数珠を持って経を唱えた。

 すると彼女がこっちを振り返って笑った。


「先輩!またね!」


 俺は驚いた。

 彼女は淡く光り、一昨年と去年見た彼女とは違う事を言ったのだが、その様子は鮮明に思い出の中に記憶されたものと同じだった。

 それは、部活終わりにいつも楽しく語らってから、帰り道で別れる際に笑顔で手を振る彼女の姿そのままだった。

 俺はその様子を見て、ああ彼女はもう旅立つんだなと、それが分かり俺も別れの挨拶をあの時の様にする。


「ああ!またね!」


 すると彼女は、Aさんの唱える経と共にキラキラと輝いたように見えて消えていった。


「またね・・・・・・いや、さようなら・・・・・・・」


 俺はこれが本当の別れで最後だと思うと、自然とさようならと言う言葉が出てきた。

 そして俺は、Aさんと友人に頭を下げて礼を言う。


「彼女は君の事が本当に好きだったんだな、それが伝わってきたよ」


 とAさんに言われ、友人にも


「確かに高校時代、彼女は本当にお前と一緒にいる時は楽しそうだったもんな~」


 としみじみ言われると、俺はもうどうしようもなく涙が止まらなくなってしまった。

 そんな俺を、Aさんと友人はずっと落ち着くまで見守ってくれていて、俺がもう大丈夫ですと言うと、じゃあ花を手向けようと言って事故現場に向かって手を合わせた。

そんな事を毎年続けていたが、10年ほど前からの度々の豪雨が原因で、そこから地盤が悪くなってその山道は徐々に崩れ、一旦廃道となってから山を崩して改修工事が施され、事故現場はもうすでに無くなってしまった。

その事でAさんに話をすると、彼女はもうちゃんと旅立っているから、今後は彼女のお墓の方に花とお線香をあげに行こうと言ってくれた。

それ以来、度々Aさんと友人とは年に数回あっては遊ぶ仲になっている。


友人は高校時代からの付き合いで、今も飯を食いに行く仲です。

Aさんと友人は、元々両親が同郷の友だったらしく、公私に渡って一家で付き合いがあるそうです。

ただ、このAさんと友人が物凄く霊媒体質で、特にAさんの力が物凄くえぐいです。

それまで幽霊とか一切信じなかったんですが、この一件とAさんに出会って私は考え方を改めました。


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― 新着の感想 ―
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