自己嫌悪
里桜をベッドの上に優しく寝かせると、陶器の様に白い肩にキスをし、彼女の細い指を軽く握った。桜色の爪先に舌を這わせると、ピクリと握る手に力が込められた。里桜のそんな僅かな仕草でさえ、狂おしい程に心臓がきゅっと鼓動し、ファメールは高揚する自分に驚きながらも、悪い気分ではないなと微笑んで、もっと彼女の反応が見たいと思った。
里桜の耳を甘噛みすると「ひゃっ!」と小さく呻いたので、思った通りの反応に失笑する。
咎めるようなブルージルコンの瞳を向けるので、その視線は好みではないなとわざとらしく瞳にキスをして閉じさせた。
里桜はムズムズするこの気持ちは何だろうかと考えたが、どうしても思い当たらなかった。本来であれば大切に愛されていると感じるところだが、彼女の場合は愛情に常に飢えていた為、自分に注がれる感情が何なのか判断がつかないのだ。
ただ、ファメールの行動の一つ一つが、乱暴さが微塵も感じられないことにむしろ不安を覚えていた。
——これって、特訓になるの……? なんか、違うような……。ファメールさんって、私の事どう思ってるんだろ? 好きなはず無いと思うけど、でも、優し過ぎてなんだか……。
ひょっとして、実はアルカ以上のものすっごい女誑しなのかな!?
里桜の背に手を差し入れて上体を僅かに起こし、ドレスのファスナーを下す。再び首筋にキスをした後に首筋に、胸元に、そして露わとなった胸にちゅっと口づけして、チラリと里桜に視線を走らせた。
声にならない声を上げ、里桜は恥ずかしさの余りファメールの手を逃れて自分の顔を両手で覆い隠した。ファメールはふっと笑い、その手を優しくどかすと、「隠しちゃダメだよ」と、唇にキスをした。
心臓が苦しい程に鼓動する。里桜はファメールとのキスに酔いしれながら、不安で脳内がいっぱいになった。
「ファメールさん、あの……!」
やっとのことで言葉を放った里桜に、ファメールは今更拒絶するのかと眉を寄せた。
「何?」
「わ、私、緊張して……」
里桜の手を取り、ファメールは自らの胸に当てさせた。トクトクと鼓動が掌に伝わる。
「僕もさ」
「え? どうして?」
「どうしてって……さて、ね」
ニコリと微笑んで金色の瞳を細めると、ファメールは再びキスをした。優しくとろけるようなキスに、里桜は不安が一層募った。
これって、やっぱりファメールさん、凄く女性慣れしてるよね? このあと、このままどうすればいいのかな? わかんないって怖い。すっごく怖い!
で、でも、どうしよう……拒絶する事なんかできない。だって、そしたらファメールさんが傷ついちゃうよね? ファメールさんだって緊張してるのに特訓してくれてるんだもの。無碍になんかしたら……でも、私、どうなんだろう。特訓でこんな事しちゃったらダメだよね? そもそもファメールさんの事好きなんだっけ? 嫌いじゃないし、好きなんだとは思う。襲われてもいいって言ったよね? 離れ離れになる方が嫌だって。でも、ちょっと待って。ファメールさんは私の事好きじゃないんだよね? じゃあどうしてこんなことするんだっけ。特訓だから? それとも揶揄ってるだけなのかな? どうしたらいいんだろう。凄く怖い。何に怖いんだろ。私、何が怖いのかな? ファメールさん? それとも……
「mon amour…」
耳元でファメールがそう囁いた後、ドレスのスカートの裾からするりと太ももに手を這わせるように差し入れた。
……やば!
里桜の体がぎゅっと強張った。柔らかい唇を噛みしめて耐える様なその姿に、ファメールはズキリと心が痛んだ。
『アルカ……!』と、声には出さないだけで、里桜は心の中で叫んでいるのではないか?
僕という穢れが、彼女に触れてしまってはならない。
僕は、悍ましい存在じゃないか。
そうとも、僕は……。
ファメールは金色の瞳を寂しげに伏せた。
パッと手を放し、里桜の額に優しくキスをした後に、その身を放した。
呼吸を荒げ、胸を上下させる里桜に困った様に笑みを向けた後、ベッドから離れた。
「すまない。ちょっと調子に乗りすぎた。キミは自宅が燃えたばかりだっていうのに」
ネクタイを締めなおし、自らの身だしなみをさっと整えながら、「僕はキミを傷つけたいワケじゃないんだ」と、ため息をついた。
自分の自制心の無さを不甲斐なく思い、けれど彼女を欲する気持ちの強さを実感しながら、眉を寄せた。先ほど発した「mon amour(僕の愛しい人よ)」の言葉を、まさか自分の口から放った言葉なのか、と、信じられず、思わず恥ずかしくなって顔を背けた。
できれば聞かなかった事にしてくれないだろうか、と、考えて、フランス語があまり得意ではない里桜が聞き取れなかった事を願う自分が情けなく思った。
しかし、この痛みを伴う程の強烈な感情は一体何だというのか。自分を狂わせてしまうような、まるで体が支配されてしまうような、けれど、甘いその果実を欲して止まない。
——困ったな……里桜を、アルカに会わせたく無い……。
ファメールは自分の蟠りを制御する為にぎゅっと拳を握りしめた。
「ファメールさん」
乱れた衣服を直しながら、里桜が起き上がった。潤んだブルージルコンの瞳を向けられて、ファメールは罪悪感が増した。咎められ、嫌われても仕方が無いと思った。アルカがまだ帰って来てもいないのに、不安な気持ちのままでいる彼女を欲してしまったのだ。
「すまない、里桜。僕は……」
「あの、ごめんなさい! 私、すごく怖くて。変だよね? もう二十歳なのに」
咎めるどころか、謝罪してくる里桜にファメールはえっと小さく驚いたが、里桜があまりにしょんぼりとしているので、思わず微笑むと、「別に変じゃないさ」と、ベッドに腰かけて、彼女の背のファスナーを上げるのを手伝った。
「怖がらせてしまってすまなかった。嫌な思いをさせてしまったね」
悲し気な表情のファメールに、里桜はズキリと胸が痛んだ。違う。ファメールさんを拒絶したかった訳じゃないのに。
「嫌じゃなかったよ! その、とっても恥ずかしかったけど……」
「……嫌じゃなかったのかい?」
「うん。その、こんなこと初めてでどうしたらいいかわかんなくて。あの、私にがっかりしちゃった?」
「いいや、そんなことないさ」
「じゃあどうして……?」
どうして、途中でやめてしまったのかという言葉を言いきれず、里桜が言葉を止めると、小さくため息をつき、ファメールは優しく里桜の髪を整えた。
「……もしもキミが、アルカと再会した後も変わらずに僕を拒絶しないのなら、そうしたら、もう遠慮はしないよ。特訓だなんて言い訳も必要ない」
瞳を見開き、困惑の色でファメールを見つめる里桜の頭を優しく撫でた。
『アルカの代わり』扱いをしている、と、ファメールに思わせてしまったのだと思ったのだ。
「……ごめんなさい。私……! そんなつもりじゃ!」
「いいよ。この状況なんだから仕方のない事だよ」
里桜の言葉を遮る様にファメールは言葉を発した。
「気にしないでいい。キミが知っている通り、僕はいくらでも狡猾に立ち回る事ができる。キミを落とす為に巧みに事を運ぶなんていくらでも可能さ。けれど、そんなことはしたくないんだよ。僕の気が収まらない。それだけの事なんだ。キミに責任は無いよ」
里桜の乱れた髪を丁寧に整え直した後に優しく頬を撫で、ファメールは寝室から出て行った。
里桜は深いため息をつき、ベッドの上で両ひざを抱えた。
——ファメールさん、それって、むしろポイント高すぎ……
と、項垂れる。
アルカに逢いたいと思う気持ちは確かにある。でも、会うのが怖いとも思う。だって、アルカが自ら消える事を望んだということは、もう私とは会わないと決めたということなんじゃないかなって、そんな不安がつきまとうから。
あれから二年だ。時間は私にもアルカにも平等に流れている。アルマゲドンから帰って来ない様子から、アルカはもう私の事を忘れてしまっているのかもしれない。
それにファメールさんは、私の身体に傷があることも受け入れてくれた。アルカはどうなのかな? もし、眉を寄せて目を反らされでもしたらと思うと、恐ろしくて仕方がない。
……私ってずるい。私には誰かとつきあったりする資格なんか無いのに、一人になりたくないからと、寂しさを紛らわせる為に求められる相手は迷惑だよ。
自己嫌悪に陥りながら項垂れていると、インターホンのコール音が鳴り響いた。ファメールが受話器を取り、会話しているところへと里桜が行くと、困った様に金色の瞳を向けてアイコンタクトを送った。
何か問題だろうかとソファに腰かけると、受話器を置き、ファメールは凍り付いた様な笑顔のまま言葉を発せずに足を組んだ。
「どうかしたの?」
と、里桜が小首を傾げた時、けたたましく部屋のドアが何度も叩かれて、里桜は驚いて振り返った。
ファメールが嫌そうに顔を顰めてネクタイを正すと、ドアノブに手を掛けた。
ドアが僅かに開いたと思った途端にバン!! と激しく開け放たれて、早口のフランス語をまくし立てる様に話しながら金髪の女性が部屋へと押し入って来た。ファメールがうんざりした調子で無言のまま苦笑いを浮かべていると、その女性の後ろにファメール同様に苦笑いを浮かべたレアンとアダムの二人が見えたので、里桜は遠慮がちに二人に手を振った。
金髪の女性はキッ!と里桜にサファイアの様な瞳を向け、ジロジロと上から下まで見つめた。里桜は「こ……こんばんは」と、控えめに挨拶をしたが、女性は全く里桜に言葉を返す事無く再びファメールを責め立てる様に言葉を放った。
ファメールは咳払いをし、やれやれとため息をついた後、「アリエル」と、金髪の女性に声をかけた。
「少し落ち着いて話してくれないか」
ファメールが日本語でそう言うと、アリエルと呼ばれた女性も今度は日本語で返した。
「落ち着けですって!? どう落ち着けと言うのよ! 婚約者の私に何も言わずに突然消えて、落ち着けですって!? 会社にも研究所にも電話をしても貴方は不在だと言うし、ガブリエルもなかなか電話に出てくれないから私がどれほど心配したと思っているのよ!?」
婚約者? 誰の? ファメールさんの……? と、里桜はポカンとしてその女性を見つめた。
サラサラの金髪に白い肌。キリリとした瞳の形にサファイア色の瞳孔。スラリとした細身の体。ファメールの隣に居ても見劣りすることのない美しい女性だ。
耳で揺れるピアスはゴールデンイエローのトパーズがはめ込まれており、ファメールの瞳の色によく似ていた。
——ファメールさん、やっぱりつきあってる人いたんだ。当然と言えば当然か……と、里桜はポカンとしてアリエルを見つめた。
私なんかよりずっとおしゃれで、スラリとして綺麗な人。ホント、ファメールさんにお似合いだな、と、納得せざるを得ない反面、そうだとしたら、私とキスしたりするのは、ファメールさんにとってはどういう位置づけなんだろう? と、もやもやした気持ちが沸き起こった。
「勝手に心配してくれなくて結構だよ」
ファメールがうんざりした様にそう言うと、アリエルは髪の毛を逆立てて喚き散らした。
「なんですって!? 心配するに決まっているじゃない! 婚約者の心配をしない人が一体どこにいるのよ!? 突然消えて、しかも日本に来ているだなんてっ! 一体どういうつもりなのよ!!」
唖然として見つめる里桜の様子に視線を走らせて、ファメールは苛立ち、ジロリと金色の瞳で喚き散らすアリエルを睨みつけた。
「大体貴方はいつもいつも私に何の相談も無くどうして勝手に何でも決めてしまうの!? 新惑星発見の記者会見の時だってそうだわ。あの後どれほど大変だったか分かっているでしょう!? 少しは私の事を気にしてくれたっていいでしょう!?」
——いつもならば、何を言われ様とも「キミには全く関係ないね」と一喝で流す。いつもならばね……と、ファメールはプラチナブロンドの髪をパッと後ろへ追いやると、アリエルを見据えて大きなため息をついた。
「……あー、煩い煩い煩いっったらないね! どうしていちいちキミの許可が要るんだ! 婚約者だなんて養父が勝手に決めた事だし、とっくにあの世に行っているんだ。プロジェクトは終了、キミとのことだって関係無いね! もう沢山だ。養父に縛られるのもキミに縛られるのも!」
普段は何を言ってもサラリと受け流すファメールが珍しく言い返してきたので少し驚いたものの、アリエルは負けじと食い下がった。
「貴方が何と言おうと私達は婚約者同士よ!」
「僕は一度たりとも認めた事なんかないねっ! 勝手に婚約者気取りして気味が悪いったらない! いいかい? キミが何を言っても放っておいたのは、はっきり言って興味も無いし面倒だったからさ。僕はキミを想った事なんて一度だって無い。もう必要無いから視界から消えてくれよ、うんざりさ!」
「な、なんですって!?」
「大体まともにキミと会話すらしたこともないのに、ただ養父に言われたというだけでどうして僕の婚約者なんだと思えるのか意味不明ったらないね。キミ、頭のネジ飛んでるんじゃないのかい!?」
……うわ。修羅場。と、里桜は先ほどのファメールの様に笑顔が凍り付いた。
「ネジが飛ぼうがなんだろうが関係ないわっ! 私はミシェルの婚約者なのっ!! 何を言われても絶対に離れないわっ!」
「ホント、死んでくれないかな……」
いい加減にしてくれと言わんばかりに顔に手を当ててため息をつくファメールが、なんとも不憫に感じた。恐らくずっとこの調子で彼女は勝手に付きまとっているのだろう。
話がややこしくなっても困るので、自分はこの場に居ない方が良いだろう、と、里桜はそっとその場を立ち去ろうと、アリエルの横を通りかけた時、アリエルが長い脚をドン!! と、壁に押し当てて里桜の行く手を塞いだ。
ひいいいい!?と、里桜は恐怖してアリエルを見つめると、アリエルがニッコリと微笑んだので面食らった。
「お嬢ちゃん、貴方はどこのどなた様なのかしら!?」
「え……? えーと……」
「アリエル。里桜に構うな。キミにそんな権利は無い」
「あら? ミシェルが他人を庇うだなんて、珍しいわ。ふーん。『リオ』というのね?」
アリエルは里桜をマジマジと見つめた。里桜はどうしたら良いのか分からずにただおどおどとしていると、アリエルは突然里桜をぎゅっと抱きしめた。
「かわいい! 素敵! 小さい!」
「……え」
「こんなに可愛い女の子と知り合いになれるなんて夢みたいっ! お人形みたいに綺麗だわ! 欲しくなっちゃう!」
「アリエル、里桜に気安く触るな!」
「ねーえ、ミシェル。この子私にちょっと似てなぁい? ひょっとして私が居なくて寂しくって、日本に居る間の愛人にしていたのかしら?」
「ちっとも似ていないし、彼女は愛人なんかじゃないよ。バカなこと言うのはいい加減止めてその汚い手を離せって言っているんだっ!」
アリエルはファメールの言葉もお構いなしに里桜の両手を強引に掴むと、満面の笑みを向けた。
「私、アリエルよ! ミシェルの婚約者なの! 仲良くして頂戴ね!」
「あ……里桜です。宜しくお願いします」
なんか、変……と、里桜は困った様にチラリとファメールに視線を向けた。ファメールは苛立った様にプイとそっぽを向いてアリエルの横を素通りし、ドアの外で気まずそうにしているレアンとアダムを部屋へと招き入れた。
「里桜って名前も素敵! 美しい響きだわ! ブルージルコンの瞳もブラウンの髪もとっても美しいわね! まあ! なんて華奢で小さな手なのかしら! そのドレスも似合ってるわ。とっても素敵っ!」
アリエルが早口で次々と里桜を褒めちぎり、里桜は恐縮して「そ、そんなこと、ありがとう……」と、返すだけでいっぱいいっぱいで、ファメールが見かねた様に皮の手袋を手にはめると、割って入った。
「アリエル、里桜に触るなと言っただろう。いいからもう帰りなよ。キミという存在が僕には不愉快でしかない」
サクっと言い放つその言葉に、里桜はヒヤリとし、脂汗が噴き出すような心地でファメールを見上げた。
——ファメールさん、絶対零度よりも更に冷たいよ!?
「お言葉ですけれど! 貴方がここに居るなら私にもここに居る権利があるわ! 私は貴方の婚約者なのよ!?」
「だから、さっきも言ったけど、婚約者なんかじゃない」
「心配しなくても、愛人の一人や二人居たって構わないわ。ミシェルは私だけには勿体ないもの」
「だから! キミのものなんかじゃないと言っているだろう! いい加減分かれったら!!」
ファメールさん、怖すぎる……と、里桜は助けを求める様にレアンを見つめた。子猫の様にうるうるとした瞳で里桜に見つめられ、レアンが居てもたっても居られず手招きをしたので里桜は安心したようにパッと走ってレアンに抱き付いた。
「里桜、怪我が無く安心しました。自宅の事は残念でしたが」
「ヴィベルさんが残って対応してくれてるの」
母親の事件の事もあり、里桜を警察から遠ざける為、ヴィベルはわざと一人残ったのだろう。レアンはヴィベルに感謝しながら里桜の頭を優しく撫でた。
「ヴィベルはしっかりしていますから、任せて大丈夫ですよ」
レアンと里桜の様子をアリエルは唖然として見て、「何? 彼女はミシェルの愛人じゃなくガブリエルの恋人なわけ?」と、小首を傾げ、ファメールが唇の端をぴくぴくと動かした。
「女性が苦手なガブリエルが平気だなんて、まさかそんなキュートな顔して男性だなんて言わないわよね?」
「んなわけあるかっ!」
唖然とするアリエルの前に、何を思ったのかいきり立ったようにアダムが割り込んできた。
「おい、小娘は正真正銘の巨乳女だっ!」
指さすアダムの指先が、アリエルの胸を一直線に指していた。手足が長く美しい顔立ちながら、アリエルの胸の小ささをアダムがあからさまに指摘したのだ。
本来ならばそんな失礼な態度を取ろうものなら殴られて当然と思いきや、アリエルはさほど気にした様子も無く、アダムの言動よりもアダム自身に興味があるようにじっと見つめた。
「カイン、元気になって本当に良かったわね!」
「……んあ?」
「その様子だと身体の不調も無さそうじゃない。長い間寝たきりだったのに、凄いわ!」
「俺はカインの野郎じゃねぇ! んなことよりな! 小娘は俺のモンだっ!!」
スパコーン!! と、ファメールがアダムの頭を思い切りスリッパで叩き、「バカな事言ってるんじゃないよ! クズアダム!!」と怒鳴った。
「ってえええええ!!!」
「少なくとも絶対にキミのものでないことは確かだよ! 指一本でも触れたらある指全部へし折ってやるんだからね!!」
「んだとぉ!? 俺にだってちょっとくらい分けてくれたっていいだろっ!?」
「一ミリだって分けるものか!」
「ケチくせぇこと言ってんぢゃねーよっ!」
「死ねっ!!」
二人の様子を唖然と見た後、アリエルはお腹を抱えて笑い、「ミシェルったら、可愛いわ!」と言った。
——ああ、最悪だ。
と、ファメールは発狂しそうな気分だった。折角里桜との甘い時間に酔い、感傷に浸っていたというのに全てぶち壊しだ。こんな姿をアリエルなんかに晒すだなんて、もしも爆弾の起爆スイッチをこの手に握っていたのなら、躊躇う事なく押していただろう。
「貴方でもヤキモチを妬いたり口喧嘩したりするのねぇ!? 貴方のそんな姿、初めて見たわ! 可愛いわっ!」
「うるさいっ!」
顔を真っ赤にするファメールを里桜もなんだか可愛いと思い、あれ? でもファメールさんってしょっちゅうアダムさんと口喧嘩を繰り広げている様な……? と、不思議に思った。
「いつも冷静でほとんど口も利かない貴方しか見た事無かったもの! 日本に来て良かったわ!」
「ホント、100万回死んでくれ……」
見かねてレアンが咳払いをすると、「とりあえず、皆さん落ち着きましょうか」と、ため息をついた。




