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夢現逃花 —ムゲントウカ—  作者: ふぁる
アルマゲドン編
80/170

天の川

 里桜が「ここなんだけど…」と、不安気に案内した別荘は、古い洋館をリフォームした建物だった。庭には小さな噴水があり、玄関を開けるとエントランスから緩やかにカーブを描いた階段が二階へと続いている。敷き詰められたクリーム色のカーペットはリフォームしたての為、少しの汚れも無く清潔だった。

 吊り下げられた大きなシャンデリアも綺麗に掃除されており、曇りもなくキラキラと輝いている。


 里桜が心配するような虫が発生するような印象は全く受けないものの、ファメールとレアンは一瞬だけ顔を見合わせて咳払いをした。

 アルカと共に、養父に与えられ、三人で過ごした邸宅に似ていると思ったからだ。とはいえ、洋館などどこも似通った作りに違いない。深く考える事は止めようと思ったものの、つい『アルカも居たら良かったのに』と考えてしまうのは致し方ない。


「管理人さんが、浴室にお湯を張ってくれたみたい。温泉を引いてるの」


 洋館という外見に似合わず、サウナルームや、岩作りの露天風呂までついているという温泉旅館の様に広く立派な浴室だった。


「なんだか嫌に浴室に力を入れているね。和風だし」

「お父さんが温泉好きなの」

「総一朗は妙な拘りがあるんですよね」


ヴィベルがそう言って案内した部屋は、洋館だというのに純和風の部屋だった。畳が敷き詰められ、彫刻の施された見事な欄間(らんま)があり、(ふすま)には水墨画が描かれていた。


「おお!! すっげぇ! 俺この部屋で寝たいっ!!」


アダムが大はしゃぎで畳に寝そべると、ゴロゴロと転がり、「草っ原の匂いすんなぁ!」と、気持ちよさそうに深呼吸をした。


「総一朗は海外生活がほとんどだからか、日本に来た時くらいは和に囲まれたいみたいなんです」

「だったら洋館じゃなく、日本家屋を別荘にすれば良かったじゃないか」

「私もそう思います。が、何故かこの建物が気に入った様で、中古で買い取ってリフォームしたんですよ。あ、浴衣もありますよ?」


ヴィベルが人数分の浴衣を持って来ると、アダムが瞳を輝かせて着ている服をポイポイと脱ぎ捨てて、颯爽と袖を通した。


「アダムさん、左前だよ。それじゃ死人になっちゃう!」

「あ? どうやるんだ? これ」

「ちょっと待ってね、着付けしてあげるから。袖持ってくれる?」


 里桜が手際良くアダムに浴衣を着付けた。藍色に青白磁(せいはくじ)の線が入ったしじら織りの浴衣だ。黒髪のアダムに和服はピッタリと良く似合うので、里桜は思わず感嘆の声を上げた。


「アダムさん、すっごく良く似合ってる!」

「お! 惚れた?」

「惚れない……でも、素敵だよ」

「アルカには日本人の血が入っているらしいからね。似合って当然と言えば当然さ」


 面白く無さそうにファメールが言うと、里桜が白練(しろねり)(かすり)の入った浴衣をファメールに差し出して、「ファメールさんにはこれが似合いそう!」と、言ったので、ファメールは片眉を吊り上げた後、満更でも無さそうに微笑んだ。


「僕にも着付けてくれるかい?」

「うん、勿論!」

「ミシェル、ガブリエル、風呂入ろうぜっ! なぁ、早く!」


アダムがぐいぐいとファメールとレアンを引っ張り、ファメールが慌ててその手を振り払った。


「どうして僕がキミなんかと一緒に入らなきゃならないのさ!?」

「ここの風呂、めちゃんこ広ぇし、別にいいじゃねぇか。日本には裸の付き合いってのがあるって言うぜ?」

「僕は他人に裸を見せる趣味は無いよっ!」

「固ぇ事言うなよ! 兄弟じゃねぇか!」

「クズアダムと兄弟になった覚えは無いね!」


プイッ! とそっぽを向いたファメールに、残念そうに唇を尖らせた後、アダムがチラリと里桜に視線を向けたので、里桜は嫌な予感がする、と、顔を背けた。


「じゃあ小娘、一緒に入ろうぜ? 混浴、な?」

「絶対嫌っ!!」

「何だよっ! 風呂くらい一緒に入ってくれたっていいじゃねぇかっ! ケチっ!」

「いいわけ無いでしょう!!」


レアンがアダムの腕をぐいっと引くと、「全く、世話をやかせないでください!」と、言いながら浴室へと連れて行った。


「アダムはレアンに任せて、お茶でも淹れましょうか」


今にもアダムを殴りつけようとしていた拳を震わせながらヴィベルが言うと、里桜が「私が淹れるね!」と、ニコリと微笑んだ。


 リビングに向かい、里桜がお茶を淹れると、ヴィベルはいそいそとノートパソコンを開き、キーボードを叩き始めた。無茶なスケジュール調整をしたため、どうしても片づけなければならない仕事が残っているのだろう。

 夕食を終えた後も仕事を続け、モニターと睨めっこをしながら、時折誰かと会話をする為、皆に気を使わせては申し訳無いからと、ヴィベルは早々に別室に引き籠ってしまった。

 

「ねぇ! 花火やろうよ!」


 赤紫の生地に紫陽花の柄が描かれた浴衣を身に纏い、里桜が線香花火を手に皆を庭に誘った。結い上げた髪から僅かに零れる後れ毛がなんとも色っぽく、白い項をついじっと見つめたくなる。

 浴衣の(たもと)や袖を押えたりする様子が、流石日本舞踊を習っただけあると納得する程に気品に溢れていた。すっとしゃがむ時に裾を押えた白く揃った指先をレアンとファメールが見つめて、二人同じ視線を向けていた事に気づき、お互いに気まずそうに目を反らした。


「いいな、花火! やろうぜっ! 爆発させようぜ!」

「爆発させちゃダメっ!」

「なんだこの紙切れみてーな花火」

「線香花火」

「は!? 線香って、日本の死んだ奴にぶっ刺すヤツだろ!?」

「死んだ人には刺さないよ。そういう名前の花火なのっ!」


アダムは「もっとド派手なヤツねぇのか?」と、つまらなそうに文句をつけたが、「どっちが最後まで火が残ってるか競争!」と、里桜が言うと、途端に闘志を燃やし始め、火玉が落ちると声を上げて悔しがった。


「んだよこの花火っ! 俺のやつ火薬少ねぇんじゃねーか!?」

「当たりはずれあるかもね~」

「くそっ! 選んでやるっ!」


 二人の様子を見つめた後、ファメールは月を見上げた。高い位置にある白い月を瞳を細めて見つめ、葉巻にじっくりと火を灯し、浅く吸った。


「兄上」


レアンがブランデーの入ったグラスを持って来ると、ファメールがお礼を言って受け取り、一口含んで舌になじませた。寂しげに瞳を伏せるファメールに、「どうしましたか」と形ばかりに問う。


「……どうしてアダムなんだろう、って考えずにはいられないんだ」


ファメールの言葉にレアンはやはりと思いながら、里桜と花火を楽しむアダムに視線を向けた。


「これがもしもアダムなんかじゃなくアルカだったら……」


……アルカだったら。


 楽し気なその様子を、心の底から祝福して見守る事ができただろう。何気なく里桜に触れるその手も、眼差しも、微笑みも、苛立つ事無く受け入れる事ができただろう。


「もしもアルカならば、ここには来ないと思います」


レアンの言葉にハッとしてファメールは眉を寄せた。


「……アルカなら、アダムの様に純粋に楽しむ事などできませんから」


『え? 海? んー……オレはいいよ。お前らで行って来いよ。楽しんでな!』


遠慮して妙に気を使って周りの事ばかり気にして自分の楽しみは二の次。アルカは強引で自己中心的な様で、実のところ誰よりも他に気を使う性分だ。


「誰にでも愛想振りまいて八方美人なくせに、突然嫌に遠慮するんだからね。苛つくよ」

「やる事成す事は大雑把ですが、人の気持ちには敏感に反応しますからね」

「つまらない事ですぐ泣くし、あんなだから周りは罪悪感に苛まれるんだ」

「すぐ泣くところは、アダムも似ていますね」


 ファメールはレアンの言葉に声を上げて笑った。


「そういえば、エデンで『理想の自分』を創成したのが『アダム』ということなんだよね? つまり、無遠慮で感情のままに行動するバカ。それなのに泣き虫のままだなんて。アルカは自分の泣き虫癖は気に入っていたということなのかな?」


レアンは「そう言う事になりますね」と言いながら笑うと、「日本のことわざで『雀百まで踊り忘れず』と言いますから」と、更に肩を揺らして笑った。


「それって、アルカは百歳になっても泣き虫ということかい?」

「そうなりますね」

「……見たくないよ、そんな年寄り」


はぁ、と、溜息をつくと、ファメールは葉巻を浅く吸った。薄闇に紅色の明かりが俄かに強く浮かぶ。


「それでも、里桜だけは譲ろうとしなかった」


いつも周りに気遣ってばかりいるアルカが、ファメールにもレアンにも唯一譲らなかったのが里桜だ。積極的には動かなかったものの、アルカにしては珍しく手を退く事をしなかった。


『好きあってるなら、オレは邪魔しちゃいけねぇって思ってたんだ』


エデンでファメールが里桜の処女を奪おうとした時にアルカが言った言葉だ。アルカは、その言葉の後何と続けようとしたのだろうか。


「……大切な人を(ゆず)るのは、正しい事なのでしょうか」


ため息交じりに言ったレアンに、ファメールは「さぁて」と、肩を竦めた。


「覚えているだろう? エレーヌの時も、彼女がキミを想っているのだと気づいた途端、すぐに手を退いた」

「……あれは、少し違和感がありましたが」

「うん。アルカはエレーヌがキミを気に入っている事を最初から知っていたんだろうね。勿論、彼女が婚約破棄していたことも。僕がそれを知っているとは思わなかったから、指摘されて意外そうな顔をしたんだ」

「ですが……だとすればアルカは、エルネストのプロジェクトに一枚嚙んでいたということですか?」


 初めてエレーヌが邸宅に訪れた時、アルカは驚愕の表情を浮かべた後に誤魔化す様に目を反らした。アルカの性格を考えれば、喜んでエレーヌを迎えただろうに、それをしなかったのは、恐らくあの後に()()()()()()()を予想していたからだろう。


「アルカは知っていたんじゃないかな。エデンの事も、アルマゲドンの事もね。だからこそ、必死になって僕達を庇おうとしていた。エレーヌの事も、本当は庇いたかったんじゃないかな……けれど、それができなかった」


だから、一人で出て行った。後は全部オレに任せろと言わんばかりに、ファメールとレアンの二人を残して。


「お節介ですね」

「うん」

「庇うのではなく、エルネストの目的を教えて頂けたら良かったのに」

「そうだね。もしかしたら、『エルネストの目的』もアルカにとっては大事な事だったのかもしれないけれど」


 ファメールが葉巻を浅く吸い、ふわりと煙を吐いた。甘い香りがレアンの鼻をくすぐる。


「けれど、里桜は譲ろうとはしなかった」


それが何を意味しているのか。彼女を現実世界に戻す事を考えれば、あのエデンでの状況的にはそれも自然な事なのだろう。だが、アルカはそういう理屈で行動する様なタイプではない。


「初めてですね。アルカがそういう意思表示したのは」

「全く、現実世界じゃなく、あんな世界で本心出されたってね。どうしろっていうのさ?」

「では、兄上は遠慮するのですか?」

「それとこれとは話が別さ」


ふっと笑ったレアンに、ファメールはしまった! と口をへの字に曲げた。


「ちょっと! 何笑っているのさ!?」

「いえ、何も」

「何さっ! 面白く無いなっ!」

「別にいいではありませんか。ほら、今宵はこれほどに月が綺麗なのですから」


そう言いながら、レアンはアダムと花火を楽しむ里桜へと視線を向けた。


「……ああ、綺麗な月だね」


ファメールも里桜を見つめながらそう言うと、葉巻を浅く吸って煙をふわりと吹いた。


 月は心を落ち着かせてくれる。もしもそれが太陽ならば、見上げる事などしないだろう。


……養父の葬式の時に参列した日を思い出すから、と、考えて、葬儀用に漆黒のスーツに身を包み、苛立つ程の炎天下の中、養父の棺に土を掛けた時の様子を思い浮かべ、ファメールは眉を寄せた。


 軍人であった養父の葬儀には、当然の如く軍服を身に(まと)った同胞達が集まり、生前親身にしていた孤児院の職員達、会社の社員達と、それは多くの人々が列をなした。

 葬儀の間、ファメールとレアンはほとんど口を利く事も無く、押し黙ったまま淡々と儀を進めた。一秒があれ程に長く感じた事も無かっただろう。

 晴れ渡る青く澄み切った空に、いかにも聖人が天に召されたと口々に言葉にする参列者に虫唾を走らせながら、無表情のままでいる養子二人は、どれほどに異様に見えただろうか。

 それでも、昏睡状態にいるもう一人の養子の事を気にかけている為なのだろう、と、事情の知りえない人々は納得した様に頷く。


『寂しがる事は無い』


参列者の一人が言った言葉を思い出し、ファメールはぎゅっと眉を寄せた。


『エルネストさんはきっと、空であなた方を見守ってくださっている。太陽のように行く道を照らしてくださるだろう』


「太陽になんか、なるものか……」

「兄上?」


 レアンに声を掛けられて、ハッとしてファメールは金色の瞳を上げた。

 里桜とアダムの手元で弾ける花火から、ふわりと火薬の臭いが風に乗って運ばれてきた。


「大丈夫ですか? 少しお疲れなのでは?」

「久々に陽の下に長く居たからね。危うく灰になりそうだったよ」


ファメールの冗談にレアンは笑うと、「私より先に灰になられては、ヴァンパイアの面目丸つぶれです」と肩を竦めた。


「そうそう、気になる事と言えば。里桜がエデンで創成したエルティナも、彼女の理想の自分なんだよね? 里桜らしくないとは思わないかい? 女性らしい服装すらも毛嫌いするくせにさ。男になってた方がらしいくらいさ」

「幼少の頃に母に読んで貰った絵本なのだそうです。オーロラの国の姫エルティナと、火山の国の王子ラウディの恋物語でした」


レアンの説明にファメールは「へぇ?」と、眉を吊り上げた。ラウディは、エデンでは里桜の父、総一朗の容姿だった。


「なるほどね……エルティナの様であれば、父親にも愛されるだろうと、親の愛に飢えた少女の悲しい願い、か」


葉巻を浅く吸い、ファメールはふぅっと煙を吐いた。

 里桜の父親は出所後、直ぐに海外へと行ってしまったと聞いたが、里桜の事をヴィベルにまかせっきり過ぎるなとファメールは思った。


「親の考える事なんか、僕には分からないな」

「私もです。エデンでのラウディは人格者に思えましたが」

「表面上だけじゃ人は分からない」


レアンが苦笑いを浮かべると、ファメールがあっと唇を尖らせた。


「キミ、今僕を『どこから見てもわけがわからない奴が何を言っている』って思っただろう!?」

「少し思いました」

「何さっ! 心外だなぁ!」

「兄上、自分で言って怒らないでくださいよ」




 ファメールとレアンが仲良さげに会話している様子を遠目に見て、里桜は嬉しくなって微笑んだ。『ここに、アルカも居たらいいのに』と、考えて、子供の様に無邪気に花火を楽しむアダムを見つめた。しかし、里桜の場合は二人の考えとは大きく異なる点がある。それは、()()()()()()()()()()が居れば良かったのにという事だ。


 きっとアルカとアダムの二人は気が合うはずだ。二人揃ってはしゃぎすぎて、ファメールとレアンに叱られて、里桜とヴィベルが宥める。そんな光景を思い描いて、里桜はクスクスと笑った。

 アルカとアダム。二人同時に存在する事ができるのかどうかは分からないが、可能であればいいのにと思わずにはいられない。


パチリ……パチ、パチ……


 綿毛の様に弾ける線香花火を見つめる里桜の白い頬が、月明かりと花火の灯に照らされる様を、アダムはじっと見入った。


「綺麗だな」


アダムの言葉に、里桜は線香花火の事を言っているのだろう、と、「うん」と返事をして顔を上げると、アダムが自分に真っ直ぐと視線を向けている事に少し驚いた。


「里桜」

「……え……?」


アダムに名前で呼ばれ、僅かに戸惑うと、大きな手で肩を掴まれた。


「アダムさん?」

「連れて来てくれてありがとな」

「ううん。楽しんでくれて良かった」


——アダムさんが喜んでくれて良かった。良かったけど……どうして肩を掴むのかな? なんだか緊張しちゃう。と、里桜は戸惑いながらアダムを見つめた。

 艶やかな黒く長い睫毛を揺らし、灰色の瞳を細めるその表情はいつものぎらつかせるアダムの目とは打って変わり、アルカと見間違える程に穏やかだった。


()()の願い、叶えてくれてありがとナ」

「願い? ど、どうしたの急に」

「あいつらサ、長い事仲良くしゃべるなんてし無かったし。ずっと気になってたんだ」


アダムの口調がいつもと少し違う。と、里桜は直感的に感じた。


「あのさ、やっぱりオレ、どうしても……」


躊躇うように間を空けたアダムの灰色の瞳に、里桜は吸い込まれるように見入った。


「里桜、オレはお前が好きだ」

「え?」


ふわりと香木の様な香りが鼻を擽った。ぐっと首を伸ばし、アダムが里桜に顔を寄せた。


……あ、キス。される……


里桜がそう思った時、スパァアアアン!!!!と、辺りに音を響かせて、アダムの頭が思いきりスリッパで叩かれた。


「里桜に何をしようとしてるんです!? このケダモノ!!」


フルフルと震える手にスリッパを握りしめて、ヴィベルが怒り狂って叫んだ。


「お前、部屋に引き籠ってたんじゃあ?」

「仕事がやっとひと段落ついて来てみたら、一体何なんです!?」

「どうかしたのかい?」


ファメールがレアンと共に来ると、ヴィベルがビッと人差し指をさした。


「ファメール、レアン! このケダモノをちゃんと見張っておいてくださいよっ!」

「アダムが何かしたんですか?」

「里桜にキスしようとしたんですっっ!」

「い、いいじゃねぇか、ちゅーの一つや二つ。減るもんでもなし!」

「減りますよっ!」


ヴィベルは里桜を庇う様にサッと自分の身をアダムの前に寄せて遮ると、憤然と鼻息を荒くして睨みつけた。


「嫁入り前の女性においそれと破廉恥な事をするものじゃありません!」

「もう二十歳超えてんだろ? ちょっとくらいいいじゃねぇかっ!」

「歳など関係ありませんっ!」

「ケチケチすんなよ。過保護過ぎだぜ、小娘の叔父っ! あーうぜぇっ!!」

「だまりなさいっ! 私の目の黒いうちは絶対に許しませんからねっ!」

「お前、目ぇ黒くねぇじゃねぇかっ!!」

「生きている間って意味ですよっ!」

「じゃあ何か? おめぇが死ぬまで小娘は一生処女ってことか!?」

「貴方の様なケダモノには絶対に許さないと言っているんですっ!」


 言い合う二人に里桜は顔を真っ赤にして、慌ててヴィベルの服の袖を掴むと、「私、大丈夫だから、そんなに怒らないであげて」と、涙目になって訴えた。


 アダムからキスをされそうだと分かった時、それを受け入れる様に身動きがとれなかったことに里桜はショックを受けていた。どうしよう。無償に恥ずかしい!! と、里桜は困った時のレアンへと視線を向けた。

 里桜に助けてといわんばかりの視線を向けられ、レアンはコホンと咳払いをすると、アダムの肩をコツリと軽く小突いて、「アダムが悪いですよ」と叱った。その途端アダムは急にシュンと小さくなった。


「だってよぉ。俺も小娘が好きなんだもんよぉー……」

「里桜の気持ちも考えてください」

「考えたってわかんねーし……」

「分からないのに行動に移してはいけません」


 その様子は飼い主と飼い犬の様で、ヴィベルは先ほどまで噛みついて来ていた犬が急に従順になった姿に呆気にとられた。


「里桜、すまなかったね。ちゃんと見張っておくべきだった。アダムは後でたっぷりと懲らしめるとして……」


 ファメールが軽く謝罪をすると、スッと片手を掲げた。


「ヴィベルも来た事だし。僕からの花火をプレゼントするよ」

「花火のプレゼント?」


 小首を傾げた里桜に頷くと、聞いたことの無い言葉でファメールが詠唱をした。その瞬間、パッと空が明るくなり、緑白色の光が現れた。その上には沢山の星々が煌めく天の川があり、ゆらりと流された絵具が折り重なったリボンの様に広がるその光景は幻想的で、うっとりとして見惚れた。


「すご……ファメールさん、これ、オーロラ? こんなところで見れるなんて」

「ああ。ちょっと魔術で磁力を操作したのさ」

「一度見てみたいって思ってたの! 絵本で見て憧れてて……」

「でも、あまり長くはもたないよ」


 ファメールの言う通り、光のカーテンは段々と薄くなって消えていき、後には瞬く星々が残った。吸い込まれそうな漆黒に散りばめられた幾億の星々は、見上げた者達に何かを問いかける様に煌めいた。


「気づかなかった。こんなに星が綺麗だったんだ……」

「そうさ。自然は美しいだろう?」


ファメールの言葉にその場に居た全員が納得しながら星々に見入った。


「星は、誰をも平等に慰めてくれる」


 この美しい星々が、アルマゲドンにも存在していたのなら、アルカも見ているだろうか。現実世界に絶望し、すべてを投げ出してしまいたくなるほどに心が傷ついた彼を、少しは癒してくれるだろうか、と、里桜は夜空を見上げながら思った。

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