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それぞれの想い

「アルカとデートですか!?」


 仕事を終えて帰宅したレアンが瞬きしながら声を上げ、レアンからマントを受け取りながらデュランがため息をついて頷いた。


「すみませんお止めできず。殴りはしたのですが」

「まあ、いくらアルカと言えどリオに手を出すとは思えませんが」


 それが、そうでも無さそうだから困るのだ、と、思ったが、レアンに余計な心配をさせまいと、デュランは言わないでおいた。


「勝手にごめんなさい。私、なんだかすごく寂しかったの。今思うとどうしてあんなことを言ったのか!」


顔を真っ赤にする里桜にレアンは優しく微笑んだ。


「大丈夫ですよ。アルカはあれで優しいところもありますし、色々な遊び場も知っていますから。きっと楽しい一日になると思います。日程はいつです?」


「その、アルカは暫く忙しいらしくて。日程が決まったら連絡するって」


 里桜はシュンとしてすっかり落ち込んでいた。

 ——もう、どうしてあんなこと言っちゃったんだろう! この世界の文化はよく知らないけれど、アルカや皆の反応からして、きっと私はかなりのヘマを犯したに違いない。なんて恥ずかしい! 

 と涙が滲み、瞳を擦った。


「リオ、心配要りませんから、泣かないでください」

「レアン、私、男の人とデートなんて初めてなの。どうしたらいいの!?」


 それは、女性が苦手でデート経験等ほとんどないレアンに聞くのは酷だろう、と、デュランは頬を引きつらせ慌ててフォローを入れた。


「イリアナとのデートの時同様に思えば良いのでは?」

「でも、イリーはお姉ちゃんみたいな存在だし。アルカとは全然違うもの」


 確かに、あの男とイリアナとでは比較できる部分が一つも無い。と、デュランはため息をついた。


「では、アルカ様とのデートの前に邸宅の使用人と予行練習をしてみては?」


デュランの提案にレアンはふむ、と、顎に手を当てて小首を傾げた。


「デートの練習ですか。……え? リオ、今『男の人と』と、言いませんでした?」


里桜は少年なのだから、デート相手は女性であるのが普通のはず。もしやアシェントリアで奴隷であった時、男の相手をさせられていたのかと、レアンはゾッとして里桜を見つめた。


「イリーと今日お買い物に行ったでしょう? 私、誰かと二人きりで出かけるのって今まで経験無くってすっごく嬉しかったし楽しかったから。それで、アルカともっと話す時間が欲しくってつい……」


 なるほど、と、レアンはホッとして小さく笑うと里桜の頭を優しく撫でた。里桜にとっての『デート』とは、男女関係なく誰かと二人きりで出かけると言う事を指しているのだろうと分かったからだ。

 アシェントリアでどういった生活を送っていたのかは分からないが、里桜は本当に純粋で守ってやりたくなる程に良い子だ。


「分かりました。では、私と予行練習をしましょうか」

「本当!? 有難う! レアン!」


デュランはレアンの言葉に驚いてむせて、それを誤魔化そうと咳払いをした。


「次の非番の日は空けておきますから、王都を案内しますよ」

「うん!」


 微笑む里桜の顔が余りにも嬉しそうで、デュランは少しホッとしたようにイリーを見たが、イリーはデュランを避けるように目を合わさずに言った。


「予行練習の準備はお任せください。それにしてもレアン様、今日はお早いお帰りでしたね」


ドキリとしてレアンはイリーを見て誤魔化す様に頭を掻いた。


「ええ、まあ……」


 里桜が気になって早く帰って来たと何となく言えず、曖昧に返事をするとフワリと甘い蜜の香りが室内に漂っている事にレアンは気づいた。


「おや? 何の匂いです?」

「リオがレアン様にと菓子をお作りに」


里桜は照れて頬を掻くと、チラリとレアンを見つめた。


「何もしないでいるのは気が引けて。レアンは甘いものが苦手だと聞いていたのだけど、私、お菓子くらいしか作れないの」

「レアン様、すっごく美味しいんですよ! 甘さ控えめなので、いくらでも食べれますわ」


イリーの言葉に里桜が照れながらお礼を言い、デュランも頷いた。


「ええ。レアン様もきっとお気に召すかと」

「それは楽しみですね」

「食後に用意しますから、さあ、早くお召し物を変えてください」


騎士の甲冑を着込んだままのレアンは頷くと、「急いで着替えてきます」と、自室へと駆けて行った。



 そぉーっと足を忍ばせて廊下を歩く。群青色の絨毯を踏みしめながら、王室の立派な扉に手を掛けて、音が鳴らないようにとゆっくりと押し開けた。室内に入り込み、開いた時同様に扉をゆっくりと閉じると、アルカはホッと安堵のため息をついた。


「やってくれるじゃないか。アルカ」


突然背後から掛けられた声にびくりとしてジャンプした後、アルカはギギギと軋む様に室内へと振り向いた。


「ふぁ……ファメールさぁん。いらっしゃったンすか」

「まあね」


 ファメールの背からもやもやとした怒りのオーラが見えている様な気がし、アルカはだらだらと汗を垂らした。


「あー、えーと。怒ってる? よな? な、なんでかなー? なんて……」

「どうしてだと思う?」


 ギロリと金色の瞳を光らせたあとファメールは瞳を閉じ、紅茶を優雅に口にした。そしてゆっくりとカップをテーブルに置き、アルカを手招きした。

 ——嫌な予感がする。逃げたい! 

 という衝動に駆られながらもアルカは従い、ファメールの前へと赴いた。


ガンッ!!!!


「#$&%☆!!!!!」


 声にならない声を発しアルカは両手で殴られたばかりの頭を抑えた。ファメールは殴ったばかりの固い杖をドン! と床に立てて立ち上がると、瞳を三角にしてアルカを怒鳴りつけた。


「全くバカな事してくれちゃって!! 一体全体どういうつもりなのさ!?」

「いてぇーよ!!」

「痛いくらい何だっていうのさ!? 死ね! 今すぐ死ね!!! 千回死ね!!!!」

「また無茶言う……」

「どうしてそうキミは僕の考えの斜めばかり行こうとするのさ!? 人間を魔国に入れるだなんて信じられないったらないっ!」 

「べ……別にいいだろ? リオが初めてじゃねーしさぁ。何気に結構住んでるだろ? 騎士団にもなんかライオンみてーなの居たじゃん」

「あの男だってキミが不法侵入してきたのを見つけて勝手にレアンに押し付けたんじゃないか! 規律を守らないからってレアンがとっくに解雇したよ! 人間なんてろくなもんじゃない!」

「いや、リオはそんなタイプじゃなさそうじゃん。それになんか行くとこねぇって困ってたし。かわいそうじゃねーか。良い子だぜ?」

「バカな事言うなよ!! かわいそうだから何だって言うのさ? 良い子なものかっ! 気が触れたとしかおもえないねっ!」

「仕方ねぇだろ!? どうしろってんだよ!」

「あのね、他の魔族達が黙っているとでも思っているの? 考え無しにも程があるよ!」


息つく暇もなく喚き合った後、ファメールの言葉にアルカはきょとんとして小首を傾げた。


「は? どういう意味だよ。そりゃあ、リオは確かにガキだから美味そうって思われるかもだけど、皆そこまで餓えてなんかねーだろ? 処女ならともかく」


ファメールは「あーもう!!」と、声を荒げると、杖先をアルカに突き付けた。


「この大馬鹿者っ! あの子は処女だよ!!」

「……へ?」


 瞳を点にしてファメールを見つめると、アルカはたった今ファメールが放った言葉を反芻(はんすう)するかのように繰り返した。


「処女? リオが? なんで?? だって、男だろ? 確かにかわいいけど……」

「彼女が自分で男だって言ったの?」


 ——ハテ、言ったっけ? いや、言ってねぇな。

 首を左右に振ったアルカにファメールは大きくため息をついた。


「じゃあ完全にアルカの勝手な勘違いじゃないか。最悪だ」

「……やべ!!」


慌てて立ち上がったアルカを杖で止めると、ファメールはフンと鼻を鳴らした。


「手は打っておいたよ。竜の鱗を渡して守りの術も施しておいた」

「あっぶね……!!」

「全く、やらかしてくれるよアルカ。よりによってレアンに預けるなんて。対策が遅れたら最悪な事態になるところだった」


ふぅとため息をついてファメールが肩を竦めると、アルカが両手を合わせファメールに頭を下げた。


「ごめん! 悪かった。恩に着る!」


冷や汗を垂らしながら謝るアルカを一瞥した後、ファメールはため息をついた。


「……僕だって見たく無い。キミがレアンを殺す姿なんてね。頼むから軽率な事をしないでよね」


金色の瞳を細め悲し気に長い睫毛を伏せた後、ファメールは立ち上がった。


「遅かれ早かれあの鈍いレアンでも彼女が女性だと気づくだろう。……ねえ、アルカ。僕はどうすればいい? 今のうちに彼女を殺しておくべきかと思っているけれど、キミはそれを赦さない。勿論レアンもそうだろう」

「ゴメン。いつもヤな役させちまってる。今回はオレが何とかする。任せてくれねーか?」

「分かってるなら……!」


 ぎゅっと杖を握りしめてファメールは言葉を切った。そしてアルカの横を素通りし、部屋の扉に手を掛けてため息交じりに言葉を放った。


「……僕はただ、キミやレアンを守りたいだけさ。その為にならどんな代償も(いと)わない。そんなこと、当に分かっているだろう?」


 そう言い残して部屋から出ると、パタリと扉を閉じた。


 アルカは深いため息をつくと窓の外へと視線を向けた。そしてガラス戸に手を掛けて開け放つと、テラスへと出た。

 騎士団の稽古をする威勢の良い声が聞こえる。城下へと視線を向けると、太陽の光に反射してキラキラと輝く街並みが見えた。その一つ一つには人々が住み。それぞれの生活を日々送っているのだ。


「ゴメン皆。それでもオレの気持ちは変わらない。ゴメンな」


ホロリとアルカの頬を涙の雫が零れ落ちた。


「もう、終わらせよう……この世界を」


唇を噛みしめて、アルカは眼下に広がる平和な国を愛しそうに見つめた。まるで大切な宝物を見つめるかの様に。

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