ガブリエルの大失態
ジエルの話に出て来たその少年。『ガブリエル』と呼ばれていたし、髪の色から察するに恐らくレアンの事だろう。だとすれば、画面に映っていなかったというもう一人は、アルカ……? プラチナブロンドの髪の少年は、ファメールに間違いないだろう……。
そう考えて、ぐっと堪えて里桜は唇を噛み締めた。
込み上げたのは怒りだった。
彼らに対する残酷な仕打ちをした者への怒りと憎しみで、里桜は唇から血が滲む程に強く強く噛み締めた。
——レアンが何故エデンでヴァインパイアとして創成されていたのか、そして、何故女性に対してのトラウマを持ってしまったのか理由が分かった。ファメールさんが潔癖で、それなのに私に『僕に触れたら汚れる』と何故言ったのか。皮の手袋を身に着けていたのは、自分の汚れが相手に付かない様に……?
どちらの理由も余りにも残酷で理不尽過ぎる。余りにも、余りにもだ……!
もしも、その映像に映っていた女性に、レアンが少しでも想いを寄せていたのなら……?
もしも、養父に対して、ファメールさんが信頼を寄せていたのだとしたら…?
そう考えただけで、里桜の瞳には涙が浮かんだ。
いつだって相手を思いやって正義感の強いレアンの事だ。どれほどに辛かっただろうか。未だに抱えるトラウマが彼の心の傷を物語っている。悪夢に何度魘され、悲鳴を上げ、怯えたのだろうか。それほどの痛みを抱えながらも優しく微笑み労わってくれるレアンの強さに、里桜は敬服した。
そして、潔癖でありながらも自分こそが汚れた存在だと思い続けているファメールは、誰よりも聡明でありながらも矛盾した心と常に戦っているのだ。想像を絶する程の辛さに違いない。それなのに、レアンやアルカを支えようと奮闘する彼の強さには悲しくなるほどの自責の念すら感じる。
アルカは。まるで全てを背負っているかの様だ。彼が二人の前から姿を消したのは、そうした方が二人の為だと思ったから……?
離れたく無いのに、そうしなければならなかった……。きっと、帰りたいと思っているに違いない。孤独と戦いながら、兄弟の許へと帰る幸福を夢見て、それは叶わない事なのだと絶望しながらも、恐らく今も彼は笑顔を絶やす事無く過ごしているのだろう。
……私を救ってくれた優しい彼らにそんな仕打ちをした人を、絶対に赦さない。と、里桜は悔しさと怒りで瞳が熱くなった。
一体、どれほどに心が傷ついたのか想像もつかない。彼ら三人は傷ついた心を持っていながらも、私を救ってくれた恩人だ。私にとって、掛け替えのない大事な人達。その彼らに、残酷な事をするような人を、私は絶対に赦さない。
そして怒りと共に悲しみも強く押し寄せ、里桜の瞳から涙が溢れて零れ落ちた。
どうにかして少しでも心の傷を癒す事ができればいいけれど、私にできることはあるのかな。余りにも深すぎる傷なんだもの。きっと痛くて堪らないはず。ほんの少しでも和らげる事ができるなら、なんだってする……!
アルカ、ファメールさん、レアン。今までずっと気づかなくてごめんなさい。きっと凄く辛かったよね。私ってホント能天気だから、何気なく言った言葉でもしかしたら傷を抉ってしまっていたかもしれない。本当にごめんなさい!
突然ボロボロと涙を零し始めた里桜にジエルは戸惑う様に眉を寄せた。嗚咽を漏らし、手の甲で頬を擦り付けても、湧き上がる怒りと悲しみに同調するかのように涙が溢れ出てくる。
「えーと、リオ様? あー、刺激が強すぎちゃったっスかねー?」
肩を震わせながら涙を擦る女性を前に、ジエルはどうしたものかと狼狽えたが、まあ、気にしないようにしよう! と、強引に里桜の手を取ってブンブンと振り回した。
反動で涙がポタポタと落ちたものの、突然のジエルの行動に驚いて、里桜は瞳を丸くした。
「何にせよ、良かったっス! こうしてリオ様に逢えたんスから!!」
「え?」
「自分はこのままここに居ても全然いいっス!! ここに住むっス!」
ヘラヘラとして笑うジエルに呆気に取られた後、里桜は眉を顰めた。
……やば。この人やっぱりちょっと変かも?
「いや、ちょっと待って。全然良くないよ! こんなところに居たらダメだよ!」
エデンも然り、アルマゲドンも然り。こんな世界に居てはいけない。一秒たりとも早く現実世界に戻るべきなのだと、里桜は嫌悪感でいっぱいだった。
「リオ様、ここで自分と結婚して末永く幸せに暮らしましょう! そうっスねぇ。子供は九人欲しいっス! 野球チーム作れる位!」
「は!? どうして急にそんな話になるの!?」
ジエルは掴んだ里桜の手をぎゅっと握り締め、目をハートマークにした。
「急にじゃないっス! やっと念願叶ったんスよっ! 社長とも約束したっス!」
「お、お父さんと!? 何を!?」
「リオ様との結婚っス!」
「へ!? 勝手に!? ちょっと待って、何も聞いてないよ!」
「そうか! 自分を連れて来たのはそういう事だったっスね!? 社長ったら素直じゃないんスからぁ!」
「えーと……? ジエルさん、何を言ってるのかさっぱり……」
「つ・ま・り! 社長は自分とリオ様を会わせようとしてあの屋敷に潜入したっスよ!」
……絶対違うと思うけれど。この人、これでよく社会人として仕事ができるなぁ……と、里桜は苦笑いを浮かべた。総一朗やヴィベルがよく愚痴をこぼしていたのも納得できる。技術は素晴らしいはずなのに……。
「さあ! とりあえず誓いのキスするっス! 今すぐっス!」
「は!? ちょっと、無理に決まってるでしょ!?」
「無理なワケないっス!」
「無理ったら無理!! 離してっ!」
「離さないっス! 一生離さないっス!」
「変態!?」
「変態でも何でもいいっス!」
「良くないーー!!」
「さあほら、早く、ぶちゅっとして式を挙げるっス!!」
「……式とは何のことです?」
レアンがぬっとあらわれて、里桜とジエルを見下ろした。里桜は涙目になってレアンを見上げ、なんてタイミング良く来てくれたのだろう! 流石大天使ガブリエル様っ! と、助けを求めるかの様に見つめた。
先ほどまで怒りと悲しみに震えて涙を零していた里桜の瞳は明らかに潤んで赤くなっており、レアンはジエルが里桜を泣かせたのかとカッと怒りがこみ上げた。そして里桜の手を握るジエルを殴りつけたい気持ちをぐっと抑え込み、一度冷静になろうと小さく咳払いをした。
「カフジエル、とりあえずその手を離しましょうか」
「嫌っス! 自分はリオ様の旦那になるっス!」
ジエルの言葉にレアンはマリンブルーの瞳をパチクリとさせ、里桜を見た。
「……え? どういう事です?」
「違う! 全然違う! ジエルさんはお父さんの会社の社員さんでしょ!?」
「社員っスけど、旦那っス! リオ様の親父さんが認めてくれてるっス!」
「お父さんから何も聞いてないよ!」
「聞いて無くてもいいっス。自分がそう決めたっス!」
「無理!」
「無理とか言ってもダメっス!」
「嫌っ!!」
「嫌もダメっス!」
「嫌ったら嫌っ!! レアン、助けてっ!」
良く分からないが、とりあえず里桜が困っている事には違いない、と、レアンはジエルの手を掴み、里桜から強引に引き離した。
「あ! た、た! ちょっと何するっスか! ガブリエル様のバカ力っ! 結婚を妨害するだなんて酷いっス! 鬼っ! 悪魔っ!」
「カフジエルが現実世界から来た、ということは話の流れで理解しました。ですが、少なくともこの世界でリオと結婚することはできません」
「えー!? なんでっスか!?」
「貴方は大天使でしょう!? 人間の女性とは結婚できません」
「そうだった……!」
へぇ? そんなルールがあるんだ? と、里桜はポカンとした。
するとジエルがちょっと考えた後、閃いたとでもいうかの如くポンと手を叩いた。
「あ、じゃあ、自分結婚しなくてもいいっス! リオ様とHできればそれでいいっスもん。それで、子供沢山作って野球チーム作るッス。愛があれば式なんか要らないっスよ!」
ケロリとしてジエルがそう答えたので、レアンはわなわなと震わせた拳でそのままジエルを殴りつけた。
「ったぁ! 何するっスか!!」
「黙りなさい! バカな事を易々と口にしておいて反省の一つも無いとは!! そもそも人間の女性と交わる事は堕天使にでもならなければ不可能だと言っているんです!」
「堕天使にだろうとなんだろうとなってやるっスよ! 自分はリオ様とHできるなら地獄にだって喜んで堕ちるっス!! リオ様、自分の子供うじゃうじゃ産んでくださいっス!!」
「絶対嫌っ!! レアン、この人怖すぎ!!」
うわああ! っと、涙目で里桜はレアンにしがみつくように抱き着いた。
「怖い事なんか一つも無いっス。自分は結構Hには自信あるっスもん! 天国に行けるっス!」
「意味わかんないからっ!!」
「またまたぁ~。ウブなフリしてもダメっスよ? 副社長と毎日ヤリまくってたんじゃないんスかぁ? 自分はもう羨ましくて羨ましくて!」
「してないよっ!」
「大丈夫っス。自分は副社長より上手いに決まってるっス!」
「こっち来ないでっ!!」
レアンはコメカミにそれはそれはぶち切れそうな程の血管を浮き立たせ、怒りを込めた目でジエルを睨みつけた。
「カフジエル! いい加減にしてください。リオが怯えているじゃないですかっ!」
「武者震いじゃないっスか? リオ様だって自分と一緒に居たら幸せに決まってるっスもん!」
「私には嫌がってるようにしか見えませんっ!」
「あーっ! ガブリエル様、横恋慕しようったってそうはいかないんスからねっ!!」
「よ……よこれん……?」
「自分はず————っとリオ様に憧れ焦がれてやっと念願通りに会えたんスから! 突然現れたガブリエル様にとられちゃ、たまんないっスよ! ちょっと男前で格上天使だって、自分の方が絶対Hは上手いに決まってるっスからっ!」
「何の話をしてるんです!?」
ジエルはキッ! とレアンを睨みつけて、レアンの胸板をペタペタと触った。
「ちょっと胸板厚いからって女の子は皆筋肉好きとは違うんスからねっ!? アレが大きいと痛いし入らないし不利なだけっスよ?」
「ですから、何の話をしているんです!?」
「大体、好きでも何でもない女性相手にポイント稼ごうだなんて、自分は赦さないっス! Hは愛があってなんぼっス!」
ジエルの言葉にレアンはカチンと来て反論した。
「好きでも何でもないとはどういうことです!?」
「堅物ガブリエル様が恋なんてするハズないっスもん!」
「決めつけないでください!」
「リオ様を好きでもないし、どうせ身体目当てに決まってるっス! 自分はそうじゃないっスもん!」
「バカをいいなさいっ! 私はずっと以前からリオを愛していますよ!!」
「ずっとっていつからっスか? 何年何月何日何曜日っスか!?」
「リオに初めて会った時からずっとです!」
「でもHしてないなんておかしいじゃないっスか!!」
「どうしてすぐそんな話に繋がるんです!?」
「好きならHしたいじゃないっスか! 二人で気持ちよくなりたいじゃないっスか! 子供わんさか作りたいじゃないっスかっ!! まさか、ガブリエル様不能っスか!?」
「何をバカな事を!!」
「はぁ!? 健全男子が好きな女の子とHしたくないって、そう言うつもりっスか!?」
「したくないと誰が言ったんです!?」
「えー!? じゃあどうして何にもしてないんスかぁ!? やっぱり好きじゃないんじゃないっスかぁ!? それともその顔とその肉体で愛人たっぷり誑し込んでるんスかぁ!? うーわ、羨ましいっ! でも自分はリオ様だけいれば十分っス!」
「リオ以外に愛している人などいませんっ!!」
「じゃあやっぱり役立たずなんじゃないっスか!」
「ちが……」
ハッとして、レアンは里桜に視線を向けた。里桜は顔を真っ赤にして、ブルージルコンの瞳を見開いてレアンを見つめていた。しまった! と、レアンはその場に崩れ落ちたい気持ちをぐっと堪え、片手で口を塞いだ。
「いや、えーと。これは、その……ですね」
決して、里桜には自分の想いを伝える事はすまい、と、レアンは考えていた。自分の様な者は里桜には相応しくない。傷つけてしまう恐れがある。それならば、自分は騎士のように彼女を守る事ができれば、それで良いのだ、と。
——それだというのに、この男のせいで、しかもこんな最低最悪な形で!
と、レアンはジエルをキッ! と睨みつけ、手を翳した。
「あ! ちょっ! 待っ……」
ジエルがパッと消え、レアンは肺の中の空気を全て吐き出すような長い溜息をついた。
「あの者にはもう関わらないようにしましょう。ええ、そうしましょう……」
「……レアン?」
「おや? また菓子を焼いたのですか? リオの焼く菓子は美味しいですからね! 私も一つ頂いても?」
「……それは勿論いいんだけど」
里桜の焼いた菓子をパクリと頬張り、「やはり、美味しいですね。流石リオ。前よりも更に腕を上げたのではないですか?」と、上ずった声でレアンは言った。
「ありがと……」
ブルージルコンの瞳で見上げられ、レアンはコホンと咳払いをした後に観念した様に項垂れ、唇を噛み締めてサッと素早く里桜の前に跪いた。
「え!? あの、レアン!?」
深く頭を垂れるレアンを前に里桜はオロオロとし、レアンは申し訳ない気持ちを吐き出す様に声を放った。
「すみません、あのカフジエルめが余計なことを! 不快に思ったのなら謝ります。ですからどうか、私を避けたりしないで頂きたい!」
「え!? 避ける!? どうして!?」
「気味が悪いとお思いでしょう? 私は、ずっと貴方を想っていたのですから」
「ぜ、全然!! ちょっとびっくりしただけだよ! どうして気味が悪いなんて思うの!?」
「こんな、妙な形で! 本当にすみません。リオが今、私など何とも思ってはいないと分かっています。ですから、私の事は気になさらずに。私は貴方の側に居られるだけで十分なのです。それ以上の事など決して望んだりしません! このような気持ちを伝えるつもりは一切無かったのです!」
最悪だ……と、レアンは頭を下げながら唇を噛みしめた。こんな事を突然言われても、里桜は困るだけだろう。避けるなと言われたところで、自分に気があるのだと分かった以上警戒するに決まっている。自分の気持ちを押し殺し、ただ側に居ることすら許されないのか、と、我ながらなんと女々しいと情けなさがこみ上げた。
ぎゅっと唇を噛み締めて項垂れるレアンに、里桜はズキリと心を傷めた。
——出会った時から私を想ってくれていたのだとしたら、今まで一体何度傷つけてしまったのだろう。
と、苦しくなった。
特訓だと言って、恋人ごっこに強引に付き合わされて、どれほどにレアンは苦しかっただろうか。
里桜はレアンの前に両ひざを付き、彼を抱きしめた。
「私の方こそごめんね! 全然気づかなくてレアンに甘えてばっかりだったから。嫌だったでしょ? きっと沢山傷つけちゃったよね」
里桜の柔らかい胸がレアンの肩に当たる。
……里桜、逆効果です! と、レアンは顔を真っ赤にして俯いた。
何故だろうか、里桜には拒絶反応なく触れる事ができるのは。エデンで里桜のことを男性だと勘違いしていたからかとも思ったが、女性だと発覚し、自分が彼女を想っていることを自覚した後も、里桜に対してだけは拒絶反応が現れない。こうして抱き付かれても緊張で顔が赤くなるものの、彼女を愛しいと思う気持ちだけが増々膨れ上がるばかりで、離れたいと一寸たりとも思わないのだ。
もしも彼女の側に居られるのなら、カフジエルの言うように地獄に突き落とされ様とも構わない。どんなことでも耐えられるだろう。その幸せ一つがあれば、他は全て闇でも構わない。
震える手が自分の意思とは裏腹に……いや、抵抗することなく、素直な思いのままに彼女の頬に触れる。白く柔らかいその頬は、手袋越しでもその感触がよくわかる。マリンブルーの瞳で真っ直ぐと里桜を見つめると、レアンは意を決して言葉を放った。
「愛しています。リオ」
まるで別れの言葉でも発してしまったかのように寂しげに微笑むレアンを見つめ、里桜は困惑し、瞳から涙が零れ落ちた。
「すみません、泣かせてしまって。私はこうしてリオと居られるだけで本当に幸せでした」
——どうして過去形なの……?
と、里桜は疑問に思った。レアンは自分から壁を作ってしまったのではないか。遠くへ行ってしまうのではないかという不安に駆られ、思わずレアンを離すまいとギュッと抱きしめた。
「や、やだ! ちょっと、どこにも行っちゃ嫌っ!」
「リオ?」
「お別れみたいな言い方しないでよ!」
抱きしめたつもりが、抱きしめられている事に里桜は気づいた。鍛え抜かれた分厚い胸板の感触が里桜の頬に当たり、力強く逞しい腕が包み込んでいる。
「私を赦してくれるのですか?」
「赦すも何も! レアンは何も悪い事してないじゃない!」
「側に居ても嫌ではありませんか?」
「まさか! 嫌なはずないじゃない。レアンは私にとって大切な人だもの!」
「貴方の優しさに感謝します……」
逞しく包容力のあるレアンの腕の中は不思議と落ち着く……ところが、心臓が激しく鼓動すると共に、里桜は顔がみるみる熱くなる感覚を覚えた。
——あれ? なにこれ……。
カァっと顔を赤らめて、里桜は唇を噛みしめた。
——わ、私。レアンに緊張してる。どうしよう、変に意識しちゃってるんだ!
「リオ? 大丈夫ですか?」
顔を真っ赤にしている里桜を心配そうに見つめるマリンブルーの瞳。サラリと零れるアッシュブロンドの髪。
——やば……知ってたけれど、レアンってやっぱり素敵な人だ。なんか、改めて男性として意識すると、これはまずい!
「体調が悪いのですか? リオ?」
レアンは手袋を外し、里桜の首筋に触れて熱があるかどうかを確認した。レアンの手が直接肌に触れ、里桜は増々顔を真っ赤にし、レアンから離れた。
「な、なんでもない! 平気っ!」
里桜に拒絶された様な気がし、マリンブルーの瞳を悲し気に曇らせたレアンを見て、里桜は増々困惑した。
——どうしよう。私、なんか変っ!!
「ご、ごめんねレアン。なんか、意識しちゃって! 私、バカみたいだよね。その、レアンが余りにも素敵過ぎて緊張しちゃって!」
「……え?」
「ガブリエルさまぁ!! 酷いっス! 自分だってリオ様といちゃこらしたいっス!」
バン!! っと、ドアをけたたましく開くと、ジエルがぷんすかと怒りながら割り込んできた。レアンは大きなため息をつくと、困った様にジエルを見つめた。
「いちゃついてなどいません!!」
「嘘は良くないっス! おっぱいもんでたじゃないっスかっ!!」
「貴方の目はどうなっているんです!?」
「狡いっス! ガブリエル様だけずる過ぎっス! 卑怯者っス! 自分もリオ様とHしたいっス!」
「してませんっ!!」
里桜とレアンが顔を真っ赤にして同時にジエルに怒鳴ると、ジエルは増々唇を尖らせてふてくされた。
「息ぴったりじゃないっスか、なんなんすか、出来てるんすか、そーっスか、あーそーっスか」
「ジエルさん……?」
「いいっスよ別に!? 自分は3Pでも」
「な、何言ってるの!?」
「自分は諦めませんからねっ! リオ様は皆のリオ様なんスからっ!」
「だから、それ何なの!?」
「さあほら、女神様らしく皆のリオ様として皆の目の保養になるために今すぐ脱いでください! さあ、さあ!!」
「……」
サラサラだったはずのアッシュブロンドの髪を逆立て、マリンブルーの瞳を三角にして鬼の形相を浮かべるレアンを見上げ、これはまずいと里桜はオロオロとした。
普段温厚な人程キレると怖いものだ。里桜は必死に話題を変えようと脳内を目まぐるしく回転させた。
——えーと、ジエルさんはお父さんと一緒に居て、そしてアルマゲドンにダイブしちゃったんだよね!?
「じ、ジエルさん! えっと、お父さんは? きっと探してるんじゃないの?」
咄嗟に放った里桜の言葉に、ジエルはハッとした様に瞳を見開いた。
「あっ!! しまった! 社長をほっぽってた!! やばいっス! 叱られるっス! 埋められるっス!」
「お、お父さん怒ると怖いよ? たぶん……給料下げられちゃうよ!?」
「それはまずいっス! これ以上下げられたら生きていけないっス! マイナスになるっス!」
「……一体今まで何をどのくらいしたの……?」
「社長~~~!!」
ジエルはくるりと踵を返すと、大慌てでわたわたと駆けて行った。ホッとして里桜は胸を撫でおろし、今にも沸点を超えそうな勢いだったレアンを宥めた。




