序章
「くっそ~、なんでこんなことに・・」
「クロ!そこ右だよ!」
獣人の女と男の二人は白虎に追われていた。
「先生!大人げないぞ!獣化まで使うなんて!」
「ふっ・・・おぬしが、サボったりするから親切心で厳しくしているのではないか!」
「サボるのは、クロが悪いと思うけど、先生、獣化はさすがにズルいと思う・・・」
けもの道から少し開けた場所へ出た。
獣人の女性は、木の上から隙を伺い、男は白虎の正面で対峙している。
男が問いかける。
「先生!」
「なんじゃ?」
「俺がただ追われていたと思ったか?」
「なに!?」
「クロ、やっぱりあれをやる気だね・・・」
男はただ追われていたわけではなかった。
森への被害を避けるため白虎を誘導していたのだ。
「炎の精霊よ、我の前に現出せよ!〈炎嵐柱〉」
「なん、だと・・・」
「くらえー!」
「ふっ、なんのこれしきっ‼」
「うぇっ、これでもダメなのかよ」
「黎斗、わしをなめすぎだぞ?」
「黎斗!よけて!風の精霊よ。われの求めに応じよ!〈原始の(・)風〉」
「ユナ、サンキュー!」
俺がまだ赤ん坊のころ、母親に森へ捨てられていた。
その森は、精霊や妖精・エルフなどが暮らす、人間界から隔絶した森・・・人々は、この森を「惑わせの森」と呼んでいた。
今から語られる物語は、森に捨てられた子供が防人になるまでの物語 ――――
《惑わせの森 近郊》
曇天の森。
白銀髪の獣人が、森を見回っていた。獣人は森の生き物達から情報を集めていた。そこに二羽鳥が飛び込んできた。
「ん? そうか。そのあたりなら間に合いそうだな」
二羽から聞いた場所へ行ってみると・・・
「・・・ん? あれは・・・赤ん坊?」
草の陰には、赤ん坊が乳母ぐるみに包まれて捨てられていた。
「なぜこんなところに赤子が捨てられておるのだ。・・・そろそろ雨が降りそうだな。ひとまず、里に連れて帰ろう。」
そこへ、茶髪の獣人少女が茂みから出てきた。
「師匠!雨が降りそうだったから・・・ん?先生その子どうしたの?」
「ああ、この子はだな~・・・、後で説明する。」
「えぇ~~、気になるんだけど~」
「そんなことよりも、雨が降りそうだから迎えに来たのではないのか?」
「あっ!?そうだった!!」
「早く、里へ戻ろう。」
「はい。師匠!」
「さて、急いで戻らんとな。しかしユナがおるからのぉ・・・仕方ない、あれを使うかのぉ。」
「えっ!?もしかして・・」
「獣化じゃよ。少し疲れるがその方が早いからの。ユナ、赤子を持っといてくれぬか?」
「わかった!」
茶髪の獣人少女〈ユナ〉が赤子を受け取り、白銀の獣人が見る見るうちに白銀の虎へと変貌を遂げた。
ユナは獣化した師匠の背にまたがり、赤子をしっかり抱きかかえ振り落とされないように構える。
「うむ、準備ができたようじゃのぉ」
獣化した師匠は疾風のごとく走り出した。そして、ユナが想像していた以上のスピードで振り落とされそうになった。
「ちょっ・・・、師匠っ‼スピード出しすぎっ!」
「うん?はっはっはっ、すまぬな、なんせ久々の獣化だからのぉ。ちゃんとつかまっておるのじゃよ‼」
わざと飛んだり跳ねたりしながら走る。
「久々の獣化で師匠、私で遊んでるでしょ?」
「そんなことはないぞっ?」
さらに加速する
「やめて~~~もう無理~~~~落ちる~~~~~~~!!!!」
その声は森に響き渡っていた。