読み専なのに神扱いされている ~俺のレビューで書籍化連発!? 「普通じゃない」って、俺のレビューが拙すぎるって意味だよな?~
寝る前に「小説家になろうぜ!」で小説を読んで、感想を書く。それが俺の日課だった。
ソファでくつろぎながら、スマホでホーム画面を開く。
すると、赤い文字が飛びこんできた。
『書籍化の打診が来ています』
俺は唖然として、そのメッセージを眺める。
おいおい。
嘘だろ……。
え……俺、何かやっちゃったのかな?
次の日、俺はさっそくメールに記された番号に電話をかけていた。
プルルルル……がちゃ!
『はい。こちら丸山出版です』
「えっと……小説家になろうぜ! のサイトで、書籍化の打診をいただいた者ですが。編集の朝星さんはいらっしゃいますか」
『!! はい、私が朝星です。もしかして、とんかつコロッケさんですか!?』
「はあ……ちょっとその名前で呼ばれるのは恥ずかしいですね。なろうぜ! では、その名前でやってます」
『わあ、すごい! 私、あなたの作品の大ファンなんです!!』
「はあ……それはどうも」
『新作も読みました! 読み終わる頃には、感動で涙がにじんでいました』
「はあ……そうなんですか」
『Tmitterでもすごく話題になってましたね! とんかつコロッケさんの作品が!』
「いや……俺、SNSはやっていないもので……」
『そうなんですか!? もったいない! とんかつコロッケさんのファンは全国にいらっしゃいますのに!』
「その……ところで、本当の話なんでしょうか? 詐欺とかではなくて? 俺の……その、書籍化したいって」
『はい! ぜひとんかつコロッケさんの作品を本にしたいと考えてます』
「そうですか……」
そこで、俺は昨日からの最大の疑問をぶつけた。
「でも……俺……読み専なんで、小説は1つも投稿していないですよ?」
朝星さんは快活に答える。
『はい! ですから、とんかつコロッケさんが書かれた名作の数々……レビューをまとめて本にしたいと考えています!』
………………マジか。
俺の顔は、きっと宇宙猫のようになっていたと思う。
「電話だけだと何ですので、一度お会いして打ち合わせをしましょう!」との言葉で、その3日後。
俺は丸山出版社を訪れていた。
すげー……デカいビル。
びくびくとしながら受付で「とんかつコロッケです」と告げて、中にいれてもらう。
俺は打合せブースに通された。
「とんかつコロッケさん! こっちです!」
と、女性が手を振っている。彼女が朝星さんだ。
普通のOLさんのような恰好をしている。ふわりとなびく髪が美しい。
俺がそちらに向かうと、彼女は頬を紅潮させた。
「わ、本物! 本物のとんかつコロッケさんだ! お会いできて光栄です! 大ファンです!!」
「はあ……」
「サインいただいてもいいですか!?」
よくわからないテンションに呑まれて、俺は彼女の手帳に「とんかつコロッケ」と書いた。
朝星さんは嬉しそうにそれを豊満な胸に押し付ける。
「きゃー! 神のサインをもらっちゃった! 帰ったら友達と妹に自慢しよ!」
「はあ……恐縮です」
「あ、すみません、はしゃいじゃって……!」
てへ、とかわいらしく舌を出す。
そして、彼女は「どうぞ座ってください」と言った。
「書籍化って、本当の話なんですか? 詐欺ではなくて?」
俺はまた尋ねていた。
「はい。とんかつコロッケさんが今まで多くの作品に書いたレビューをまとめて、本にしたいと考えています」
「いや……でも。小説じゃないですよ? ただのレビューですよ?」
「ただの、レビュー!!?」
彼女はカッと目を見開いた。そこには「何てことを言うんだ!」と書かれていた。
「とんかつコロッケさん! あなたはご自分が『なろうぜ!』の界隈で、神レビュワーとして称えられていることをご存じないんですか!?」
「か……神レビュワー……?」
「はっきり言って、あなたのレビューは普通じゃないんですよ!」
「普通じゃないって……俺のレビューが拙すぎるって意味ですか?」
「ちがいます!!」
と、彼女は鼻息荒く喚いた。
「とんかつコロッケさんは、1月14日にこの作品……『平凡な僕に魔王スキルが開花!? ~僕を捨てたパーティが今さら後悔しているらしいけど、もう遅い~』という作品にレビューを書いていますよね」
「はあ……書きましたね」
「その作品のPV数を見てください。これがレビューを書かれる前の数字です」
彼女はスマホで『アクセス解析』というページを見せてくれる。その作品がどれだけ人に見られているのかを確認できるページだ。
その作品のPVは……はっきり言ってひどいものだった。1日に100も満たない。平均すると、50くらいといったところか。
「そして、とんかつコロッケさんがレビューを書いた直後のPVがこれです!」
と、彼女がスマホを操作する。
PV数は棒グラフで表示される。
その棒の長さが1月14日以降……とんでもないことになっていた。
「え……PV500,000……? 一日で……?」
「そうなんです! とんかつコロッケさんのレビューのおかげで、この作品の閲覧数は実に1万倍も増加したのです!」
「ちょっとよく意味がわかりませんね……」
「ちなみにこの作品は元々、総合ポイントが100もありませんでした。しかし、あなたのレビューのおかげで、日間ポイントが5万ポイントを超えて、次の日には月間1位にランクインしたのです!!」
「はあ……それって、すごいことなんですか?」
俺がきょとんとしていると、朝星さんは目を剥いた。
「自分のすごさがわかってないんですか!? 1日で月間1位とるんですよ!? あなたのレビュー効果で!」
「いや……俺、ランキングとか、あんまり見ないんです。読む作品は検索から探しているので」
「何と! スコッパー勢でしたか!!」
次に、彼女はスマホでTmitterの画面を見せてくれる。
「そして、これがとんかつコロッケさんがレビューを投稿した直後の、タイムラインのスクショです」
そこにはコメントがずらりと並んでいる。
『新作のレビューきた』
『やばい! 今回もやばい!』
『泣いた』
『待って、ちょっともうほんと無理……動悸が止まらないんだけど。とんかつコロッケさん……マジ推せる……神』
などなど。
「小説家になろうぜ!」のレビューは、400文字以内で書かなければいけない。俺が書いたレビューもそれくらいの文字数だった。
「いやいや。さすがに大げさすぎるでしょう。たかがレビューで」
「たかが、レビュー!!?」
朝星さんが鬼の形相に変わる。美人の怒り顔は迫力があった。
「もっと自覚を持ってください! あなたは神レビュワーなんですから! あなたの新作レビューを皆が心待ちにしてるんですよ! あなたのレビューのおかげで、書籍化やアニメ化できた作品がこの世にいくつあるかご存じですか!?」
「いや、でも俺、ほんと普通の人間だし。確かに3歳の頃から読み専してたけど」
「3歳の頃から!? 神童!!」
「俺、小説を読むのもそんなに早くないんですよ? この作品の50万字を読みきるのにも、10分もかかったし」
「神じゃないですか!!」
「え……みんな、これくらいは普通にできるよな?」
「普通はできませんよ!」
朝星さんは興奮した様子で、俺の手をガッと握る。
「とんかつコロッケさん! あなたの素晴らしい作品はもっと世に広めるべきです! 本にすればベストセラー間違いなしですから! お願いします! ぜひ書籍化しましょう!」
「は…………はあ」
その時の俺は、まだ半信半疑だった。
その後、俺は朝星さんに言いくるめられて、今までに書いたレビューをまとめ、本として出版した。
帯には『絶対に泣ける』と書かれたし、書店のPOPでは『感動間違いなし! これを読めば人生が変わる!』と宣伝されていた。
俺のレビュー本は100万部を売り上げる、大ベストセラーとなっていた。
……ちなみに。
朝星さんに「そんなに素晴らしい文才があるのなら、ご自分で小説も書けるのでは?」とそそのかされて、俺はその後、小説本も出した。
その本の実売数はわずか50。
――無事に大爆死した。
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