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月夜譚 【No.101~No.200】

希望の人 【月夜譚No.194】

作者: 夏月七葉

 ここでは、血筋など何の意味も持たない。王族だろうが貴族だろうが平民だろうが、この場においては一律ただの人間だ。

「オ、オレを誰だと思っている……!」

「知らない。知るわけがない。誰だって構わない。お前たちは皆、ただの食料だ」

 淡々と述べる声は感情がなく、見目は人だが、どうやら中身は違うようだ。怯えながらも虚勢を張った男は青い顔を更に悪くして、息を飲んで足を引く。

 先ほどの見解を訂正しよう。人間どころか、我々は肉塊でしかないらしい。

 襤褸を着た青年は腕を組み、壁際で胡坐を掻いて天井を見上げた。腐りかけた梁を見るともなしに眺めて、目を細める。

 彼は下級の平民だ。時には奴隷のように扱われたこともあったし、腹を空かせて盗みを働いたこともあった。別に、この世界に未練はない。寧ろ捨ててしまいたいくらいだ。

 だから、化け物に食い殺されても良いと思っていた。王族も貴族も平民もごったになったこの状況で、自分が誰だったかも知られないまま死ぬのも悪くはない。

 そう思っていた。

「――さぁ、もう大丈夫」

 光を背に差し出された手に、青年は目が離せなくなった。それは温かくて、優しくて、こんなどうしようもない自分を包み込んでくれるような気がした。

 その時、心に決めたのだ。この人の為に生きようと。今までの自分を捨てて、新しい人生を歩もうと。今度は、この人に恥じない生き方をしたいと思った。

 清潔で整った衣服に身を纏った青年は、今日も背筋を伸ばして凛々しく立ち続ける。

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