第七話、交渉成立、おとなのかけひき。
前回の天才的なあらすじ。
アカリンことあたしの死相を見る猫能力によると。
近日中に、目の前のおっさんと巨乳美女が死ぬらしい。
同時ということは、たぶん何者かに襲われ殺されるのだろう。
ゲームやアニメにハマりすぎ。
現代日本で何をアホなと思うかもしれないが。
あたしたち兄妹だってさ?
異能力やファンタジー的な力を扱うのだから仕方がない。
誰かがどうにかしないと、だけど。
この二人は間違いなく、死ぬ。
……。
だぁああああああああぁぁぁぁ! なんで見ちゃったかなあ!
気づいていなかったら、どうでもよかったのだ!
で、でも!
やっぱりこれ!
見捨てたら一生後悔する……わよね!?
あたしは彼らに事情を説明することにした。
語ろうと思った理由は単純。
やっぱり見捨てられないってこと。
そしてもう一つは、こっちは偶然。
幸いにも、嘘を見抜く能力者。
巨乳姉ちゃんの大黒さんがいるからだ。
いきなり、あなた死ぬわよ?
なんて言っても信じてもらえないだろうが。
彼女がいるなら話は別。
死相が当たるかどうかは別としてだ。
少なくともあたしはそう思っている。
そう証明できるからである。
あたしは口を開いた。
「ねえ、ちょっと真面目な話なんだけど――いい?」
あたしはその辺をざっくり説明するべく。
《吟遊詩人》や《語り手》系のスキル、《かくかくしかじか》を発動する。
効果は単純。
かくかくしかじか――というだけで。
説明したいことが伝わる超便利スキルである。
「というわけで、信じる信じないは別にそっちに任せるけど。あなたたち、このままだと死ぬわよ?」
聞き終えた二人は、考え込んでしまっていた。
まあ次にやることは決まっているだろう。
ウソを見抜く能力の大黒さんが、巨乳を揺らしつつ能力発動。
ハッとした様子をみせる。
無精ひげのイケオジ未満ことミツルさんに目をやったのだ。
「少なくとも、アカリさんがそう思っている――ということは事実のようですね」
「だから、そういってるじゃない」
あたしも大概、お節介ではある。
無精ひげをじゃりっとなぞり、ミツルおっさんが言う。
「うへぇ……、マジか……?」
「少なくとも、あたしの能力だと死の兆候が確認されてるわね」
これでたぶん、あたしの能力もバレた。
まあ、バレたことがお父さんに気付かれないならセーフだから、別にいいけど。
人の命には代えられない、というやつである。
ミツルさんは声のトーンを変えつつ。
あたしの瞳をじっと見る。
「アカリくん、聞かせてくれ。君は猫と会話ができる能力、そして魔術による自己強化の異能ではなかったのか?」
「まあ、もう喋っちゃったから言うけど、あたしの能力はネコの能力もコピーできるのよ。ほら? 聞いたことないかしら。海外の話だけど、終末介護の穏やかな施設で、お迎えが来る直前の患者さんの前に座って、看取るように眺めてるネコちゃんの話。あれと一緒よ」
まああれは、安らかな老衰、いわゆる寿命による肉体の香りの変化。
死の間際の匂いを感じている。
という学説がでているらしいが。
本当かどうかは知らない。
「なにか死にそうなことの心当たりとかは?」
巨乳姉ちゃんが資料を眺めながら呟く。
「この後、もう一件。異能力発生現象について、別口の調査があるのですが――」
「ワタシの口から語る――あぁ、これはオフレコで頼みたいんだが」
あたしは頷いていた。
さすがにあたしにもそういう分別はあるのだ。
「まあ確定じゃねえんだが――公安からの連絡でな、最近未成年の連続行方不明事件が起こってやがるんだ。で、ウチにも調査依頼が来てるんだが」
「ん? そういうのもあなたたちの仕事なの?」
問いかけるあたしに、おじさんは言う。
「まあ待てよ、実はな――その行方不明になってる未成年ってのが、みーんな十五歳前後のガキ。で、だ。どうやら調査してみる限り、その子達にはなんらかの異能力の発現が確認されている。つまりだ」
「犯人は異能力者、それもあたしぐらいの歳のカワイイ子を狙う、外道。で、仮にも異能力者を行方不明にできるっていうのなら、犯人も異能力者である可能性が高い――そこであなたたちにも話が回ってきた。こんなところかしらね」
名推理に頷き。
「お嬢ちゃんの面談の後に、公安の知り合いと待ち合わせをしていてな。行方不明者がでた現場に向かうことになってたんだが――タイミング的には、ばっちり……まあそういうことだろうな――」
そこで何か事件が起きるのだろう。
「なるほどねえ、その異能力犯罪者に殺されちゃうのかもね、あなたたち」
「だがなあ。お嬢ちゃんの能力を信じてねえわけじゃないが――ワタシはレベルSSだぞ? アカリくん、君だってこのレベルにまで到達しているのなら、分かるだろう? 簡単に死にはしない」
まあ、実際。
一般人や、一般人に毛が生えた異能力者同士の戦い。
いわゆる現実世界で起こった異能力バトルの中でなら、そうなのだろう。
あたしは言葉を探すように視線を下げ。
「少なくとも、あたしはあたしよりも強い存在を知っている。この世界は広いのよ? 自分より強い存在が絶対にいない、なーんて、過信するほどあなたもバカじゃないでしょう?」
おお! なんかイイ感じのセリフである!
「ようするにだ。お嬢ちゃんはこっちを心配してくれているってことか」
「今こうして会話ができている相手が死ぬかもしれない。そう思ったら、誰だって少しは心配するでしょ」
再びじゃりっと無精ひげを摩り。
イケオジ未満なおっさんが言う。
「それができる人間は意外に少ないだろうさ、お嬢ちゃんが思っているより、世界ってもんはもっと汚い部分だらけだよ」
「リーダー……」
大黒秘書も、いや秘書かどうかは知らないけど。
ともあれ。
後ろに控える巨乳姉ちゃんも、ちょっと意味ありげな声を漏らしていた。
まあこういう異能力を調査している連中なのだ。
死人もたまには出るのだろう。
「話を戻すけど、知り合いに死の運命を変える能力者はいないの? あなたたち、異能力者を専門に扱っている政府機関なわけだし」
「残念ながらそういう能力者は登録されていないな」
あぁぁぁぁぁ!
もう、これ完全にあたしがどうにかしないと駄目な奴じゃん!
露骨に肩を落とし、あたしは言う。
「分かったわよ、あたしがついて行ってあげる。あたしの勘違いならそれで済む話だし」
「おいおい。あの時みたいに、ついうっかり助けちまっていいのか? 言っちゃなんだが、こちらは政府組織。協力してくれるのはありがたいが、何かを隠したがってるお前さんにとっては都合が悪いんじゃねえか?」
まあ実際、その通りなんだけど。
てか、こっちが隠したがってることがあるって、わかってるんじゃない。
「お母さんに言われてるのよ、自分が正しいと思うことをやりなさいって」
「ふむ。しかし、まいったな……」
ミツルのおっさんは、煙草を探すしぐさをして。
じぃぃっぃいと考え込んでしまう。
「なに? ガキのあたしじゃ信用できないってこと?」
「おまえさんを、いや――未成年を危険な目には遭わせたくない。それだけだ」
言葉には重みがあった。
おそらく過去にそういう事があったのだろう。
ようするに、あたしの身を心配してくれているのだ。
なんだかなあ。
これじゃあ余計に情が移るし。
しゃーなし!
ここで引くのは、あたしのプライドが許さない!
「決めたわ。あたしは嫌って言われてもあなたたちに同行する。勝手に死なせてなんてあげない! このあたしが関わった以上、絶対に死人なんて出させないわ!」
「おいおい、断ったらどうするつもりなんだ」
「警察に駆け込んで、ストーカー被害を訴えるわ。無精ひげのおっさんに、付きまとわれてました~って」
そうすれば逮捕とはいかないが、調査はされるだろう。
しばらく拘束される可能性もある。
それで死の運命を変えることができるはず。
おじさんがジト目で言う。
「おまえさん、ぶっとんだ性格って言われてねえか?」
「そう? 最近の女子高生ってみんなこんな感じよ?」
ウソはいってない。
あたしの学校の友達は、だいたいこんなノリだし。
ま、まああたしの友達になるって人が――。
みんなちょっと変わっている、というパターンはあるかもだけど。
「ったく、分かった分かった。変な嬢ちゃんを釣っちまったな。でもまあ、頼りにしてる。よろしく頼むよ、アカリくん」
「こちらこそよろしく……って言いたいんだけど、現場に向かいながらひとつだけいい?」
大黒さんとおじさんがキョトンと目線を合わせる。
「そりゃ構わねえが」
「なにかあるの? アカリさん」
「大事なことよ、とぉぉぉぉぉっても大事なこと!」
あたしはひそかに、ほくそ笑んだ。
◇
現場が車両通行止めの時間帯、歩行者天国の奥。
ということもあり徒歩。
あたしたちは隠匿状態、いわゆる人目を遮断するステルス状態で移動中。
この辺ならいいかな。
にひひひっとあたしは邪悪スマイル。
隠れていた眷属猫の黒白三毛を、三匹同時に召喚してみせた。
別に裏切ったりとか、襲ったりとかするわけじゃないわよ?