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第四十三話、連鎖クエスト:石油マネーとリンクする闇



 吹っ飛ばしたバカ息子。

 鑑定結果名ホークアイくんを運んだのは、会談もできるいつもの場所。

 キャットタワーがそびえる応接室である。


 傷も治療してあげたのに、お相手さんはソファーに深く腰掛け腕を組み。

 ムスー。

 なぜか不機嫌なまま。


 名前と同じ鷹の目を細め、あたしを恨むように睨んでいる。

 ともあれだ――駆け付けた大黒さんと池崎さんに事情を説明したのだが。

 池崎さんが呆れ顔であたしに言う。


「なるほどなあ、それでこのお坊ちゃまを吹っ飛ばしちまったと?」

「あたしがじゃなくて、あの子達がね」


 キャットタワーの上で、うにゃはははははは!

 消しゴムのコレクションをていていっと飛ばして遊んでいるシュヴァルツ公達を見て。

 しれっと言い切り、あたしは紅茶を一口。


「今回に限っては、あたしは悪くないわ」

「異能力で使役している連中なら、その主人であるお前さんのせいになるんだよ。校則に書いてあっただろ?」


 そう、校則ねえ。

 ならばこっちも正当性を主張するのみ。


「言っておくけど、襲ってきたのはあっちが先よ。証人もいるし、裁判にも勝つ自信があるわよ?」

「裁判とかはやめてくれ、話が面倒になる。で、沢田、おまえも一緒に見てたんだろう? 実際はどうだったんだ」


 沢田ちゃんはギャルでーすといった感じの片手ピースをして、バカ息子と記念撮影。

 スマホをササササっと操作し、SNSにイケメンとお茶中♪

 なーんて、呑気に画像をアップしながら彼女が言う。


「んーとね、池崎せーんせ。あーしも見てたけど、たしかに襲ってきたのはこのイケメン坊ちゃんの方だったっしょ。本人も言ってたけどさあ今回に限っては、アカリは悪くないっぽいじゃん? あれは間違いなく、異能での攻撃だったっぽい感じだし?」

「そうか。証人がいるなら今回は信じてやるよ」


 池崎氏、タバコに指を伸ばし露骨なため息である。


 まあ、同席している大黒さんの咳払いでタバコは封じられたのだが。

 新人教師を吹っ飛ばしたり。

 テロリストを”いしのなか”に埋め込んだ事件を、まーだグチグチと気にしているのだろう。


 池崎さんがタバコを諦め、ちょっと不機嫌そうな顔で。


「それで、名前を言えないどっかの外国の御曹司様は、どうしてこのような騒ぎを? 問題を起こさないから特例でということで、海外に籍を残したままのあなたをこの高校に転入させた――その筈だったのですが?」

「わたしは悪くないぞ! この女が悪いのだ!」


 バカ息子のホークアイくん。

 またしても腕を組んでぐぬぬぬぬ。

 恨みがましくあたしを凝視である。


「困りましたなあ、御曹司。異能で攻撃を仕掛けることが悪くない、と?」

「本当に危険度SSSなら、わたしの攻撃など防いで当然。それを確かめただけだろうが!」


 おいおい、このバカ息子。

 もし人違いだったらどうするつもりだったんだか。

 御曹司はそのままあたしを再び睨み。


「だいたいだ、日本では危険度SSを超えた人間の存在は秘匿されている筈。なのに、この女のことは、学校中の者が知っておったぞ!? どうなっているのだ、この学校の情報管理は! ありえぬだろう!」

「そりゃ、どこかのお嬢様が毎日暴れて下さってるからなあ」


 と、嫌味を受けたあたしが言う。


「問題ないわよ。悪意をもってあたしの情報を喋ろうとしたら、魔導契約が発動して影の中に一生封印されるようにしてあるし。だから、学校中の皆が知っているっていうのは、逆に、全員に強制契約してるようなもんなのよね。いざとなったら三魔猫の力を借りて、個別に影封印も発動できるし」


 そう。

 実はあたしも、何も考えなしに自分の存在を有名にさせているわけではないのだ。

 ……。

 まあ、考えなしヤンキーの梅原君みたいに、悪意がなく喋ると、ふつうに話せてしまう欠点があるのだが。


 そういう考えなしが、この学校に何人もいる!

 という盲点があったのである。

 まさか悪意がなくて口を滑らせただけの人間を一生封印するわけにも、ねえ?


 なぜか池崎さんがあたしをジト目で見て。


「いや、それ学校の人間全員を人質にしてるようなもんじゃねえか? 初耳なんだが?」

「……」


 そういえば、面倒だから説明していなかった気もする。


「それで、オイルマネーを浴びてらっしゃる御曹司さまがあたしに何の用なの?」

「おい、女。いま、話題をそらすためにわたしを利用していないか?」


 今度は鷹の目によるジト目である。


「気のせいよ。わざわざ特例で転入してきてまで危険度SSSに用があったんでしょ? とりあえず話だけでも聞いてあげるから。気が変わらないうちに言ったらどうかしら」

「ふむ、よかろう。それほどに聞きたいのなら語ってやる」


 と、御曹司はドヤ顔のネコのような表情で、ふふん!

 どうしてあたしの周りにはこう、偉そうな奴が近づいてくるんだろうか。


「平民たちに問うぞ。この日本から海外に向け、異能力者が販売されていた事件を知っておるか?」

「まあ、そりゃあね」

「ならば、その誘拐組織のほぼ全てが、一夜にして謎の消滅を迎えた――通称、『死の嵐』事件はどうであるか?」


 ……。


 ああ、あれか。

 あたしと炎兄と月兄が、それぞれ大黒さんに酷い目を遭わせていた連中にムカついて。

 ドカンとやらかした、事件である。


「……ま、まあちょっとは知ってるかな――?」


 まさか、あたしたち三兄妹がやらかしたとは言えない。

 事情を知っている池崎さんは、目線だけをこっちによこし。

 大黒さんは、うふふふふっとお姉さんスマイルである。


 沢田ちゃんはキョトンとしているが。

 ホークアイくんは、少し前かがみになり語りだす。


「知っているのなら話は早い。我らの国でもあの事件を多少把握していてな。わたしが把握しているあの事件の首謀者は、三人……いや、そもそもアレらを人と言っていいのかどうか、正直分からんのだが」


 言葉を切って、親指の爪をガリっと噛みながら。


「一人は三匹の魔猫と死霊の軍団を使った存在。奴らは遊戯のように組織を砂塵で包み、そして死霊の戦車で踏みにじったそうだ。その蹂躙はまさに制圧。どこか遠くで三匹の魔猫と死霊戦車を操っていたのであろうな。こいつ本人は最後まで、その姿を見せることはなかった」


 あたしの事だろう。


「二人目は御伽噺、フェアリーテイルにでるようなランプの魔人を彷彿とさせるイフリート。あるいはジン。いわゆる炎の精霊の姿を持った恐ろしき魔神。やつは全てをその劫火で薙ぎ払い、哄笑をあげ、誘拐組織を文字通り灰塵へと変貌させた。生き残っていたのは罪を犯していないモノだけ……」


 映像でもどこかに残っていて、それを見ていたのか。

 語るホークアイ君の浅黒い肌には、薄らとした冷や汗が浮かんでいる。


「考えてもみよ。これは実に恐ろしきことなのだ。なにしろ全てを燃やす劫火であるのにだ、罪を判別し、無実な者だけは殺されずにいたのだからな――それほどの異能がこの世に存在しているとは、わたしには信じられん。だが事実として、あったことを認めぬわけにはいかぬ」


 これは炎兄である。


 軍人風女性の二ノ宮さんのバックにいる裁定の神獣。

 ホワイトハウルおじ様。

 炎兄は、今この世界にも干渉なさっている三獣神の弟子なのだ。


 なので――そういった、罪を判別する能力にも長けている。

 魂の罪と行動を瞬時に見極め、攻撃対象にするかどうか。

 あるいは生き死にを選択できる魔術を行使できると、あたしも聞いたことがある。


 じゃあ、後の一人は。


「ともあれだ、その二人は別に構わんのだ。攻撃対象にしていたのは日本から異能力者を拉致し、他国に販売していた連中のみ。直接的な罪人を狙った犯行で、その時だけの襲撃であったからな。だが、残りの一人は違う」


 バカ息子は顔をシリアスに染め。

 顔の前で指を組み。


「アレは闇の中を這い、夜そのものを纏うかの如き形容しがたき猫。全てを闇の中へと招き入れる混沌。ヤツはいまだに夜な夜な各地を徘徊し、まるで暇つぶしでもするかのように、その誘拐組織と関わった者達を闇の中に喰らって回っているのだ――」


 月兄……なにしてんのよ。

 池崎さんの、説明しろといいたげな鋭い視線攻撃を受けつつ。

 こほん。


「それは分かったけど、なんでそんなに怯えているのよ。別にいいでしょ、あたしはぜんぜん、まったく、これっぽっちも関係してないしよく知らないけど――誘拐組織の残党を狩っているだけなら、むしろ善行なんじゃないの?」

「ま、嬢ちゃんの言うとおりだわな。うちも知り合いが酷い目に遭わされてたんだ。同情する気も浮かばねえが」


 あたしたちが大黒さんを気遣い、コンビでいう。

 しかし、ホークアイくんが複雑そうな顔で唇をぎゅっと噛み締め。


「実は、先月から――わたしの父が行方不明になっている」

「そりゃあ……お気の毒ですけど……どういうこと? 話が見えないんですけど」

「自慢となってしまうが、父は世界でも有数な金持ちだ。そして父は珍しいものが好きだ。人も、道具も、機械も、そして……異能力もな」


 あー、話が見えてきた。

 池崎さんがわずかに空気を変える。


「つまり、御曹司。てめえの父親も、あの誘拐事件に関わっていたって事か?」


 あ、まずい。

 池崎さん、けっこう静かにブチ切れてるかも。

 まあ大人なので、いきなり行動はしないようだが。


「信じたくはないが否定はできない、というのが本音だ。いつのころからだったか――敵の多い父を護衛するかのように、いつのまにか異国の異能力者が増えていたのだ。あたかも以前からの知り合いや、一番の友人であるかのように偽装する能力者の事も自慢げに語っていたしな。父は雇ったと言っていたが――」


 言葉を区切り、苦い顔をし彼は言う。


「実際のところは分からない。けれど、非合法な手段を使っていたという可能性があるのだ。彼らが誘拐されていたと知っていて、それでもなお、人身売買に買い手として加担していたとしても……わたしは不思議には思わない。父はそういう人なのだ」

「なるほど、たしかに――売ってる人がいるのなら買ってる人もいるってことだものね」


 で、月兄が暇つぶしに夜の散歩と称して。

 異能力者を買っていた連中も、ついでに闇に飲み込んで回っている……と。

 ……。

 可能性としてはゼロじゃない……。


 次男の月兄は、ちょっと特殊な生い立ち。

 ドリームランドと呼ばれる夢と現実の狭間に住まい、人にも化けられる猫を母とし。

 ネコと人と魔、三つの魂と心を持つ父との間に生まれた、人間に化ける力を有する魔猫。


 本当に気まぐれなのだ。


 でも月兄の闇に飲み込まれたのなら、死んではいない筈。

 あたしは影空間で、悪魔竜化したヤクザを保存していたが、あれと似た状態になっている可能性もある。

 ま、まあ……既に錬金術の素材などに使っていて、ロストしている可能性も高いのだが。


 ペスの事件もそうだったが。

 最初の事件……。

 いろんなことに絡み過ぎでしょ……。


 だからこそ、だ。

 ロックウェル卿のおじ様はヤナギさんを使い、あたしをあの事件に誘導し、関係を持たせたのだろうが――。

 やっぱり、これも将来の滅びとなんか関係しているのかな。


「で? それと危険度SSSのあたしを探していたってのは、なんの関係があるの?」

「率直に言うと、力を貸してほしいのだ」


 ぐっと奥歯を噛み締め。

 無力さを実感するような顔で、彼は続ける。


「わたしは、父を取り戻したい。あんな父でも父は父。もし罪があったのなら、それは正当で公平な裁判を受け裁かれるべきだ、そう――わたしは考える。女よ、このわたしがここまで頭を下げているのだ、もちろん、協力してくれるのであろうな?」


 頭、下げてないじゃん。

 それはともかくとして、月兄が関わっているのなら他人事ではない。

 その辺は全部隠して。


「それじゃあ御曹司。依頼料の相談、いいかしら?」


 あたしは三魔猫を率いて、電卓を取り出したのだった!



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