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第四話、おそろしき魔術戦!



 前回の超かしこいあらすじ。

 事件なんて起こらない。

 そう思っていたのに。


 帰宅したら区役所的な場所から手紙が届いておりました。


 以上。

 って、それだけじゃあ駄目よね。

 分かってる、分かってるのよ?


 このあたし、美少女女子高生の日向アカリは頑張ればなんでもできる子。

 もうちょっと詳しく説明をしようと思う。


 えーと手紙の中身は、最重要事項。

 政府があたしを疑っています。


 異能力発生現象についての大事なご連絡、とのことです。

 あたしは猫と話す異能力を持っていると、鑑定されてしまいました。

 後日、具体的には一週間後に、学校に調査員がやってくるそうです。


 もし本当にばれていたら強制転校です。


 てか!? あの件でバレたにしても、ちょっと早すぎない?

 いや、そりゃあ異能力がこっそり発生している世界なんだから?

 そういう追跡能力者がいたのかもだけど。


 出張しているお父さんとお母さんがいないので、まだ雷は落ちていませんが。

 同居しているお兄ちゃん二人に。

 こうして説教を受けてます。


 そんなわけで!


 ここはあたしの自宅のリビングという名の、通称お説教ルーム。

 二人の兄が睨んでいる。

 あたしの一個上と、二個上なので全員が高校生。


 学校では残念なイケメンとして有名らしいのだが。


 長男の炎舞えんぶ兄は、赤髪を炎の魔力で揺らして、ズズズズーン!

 不良みたいな三白眼をですね?

 滅茶苦茶尖らせていましてね?


 魔力を含んだ熱の吐息を漏らし、炎兄えんにぃがいう。


「で? 説明してくれるんだろうなぁ? おう? 自称天才の、バカな妹さんよ?」

「そうだね……。とりあえず、アカリ……説明は、必要」


 もう一人の兄。

 猫のようにマイペースかつ静かな次男。

 月影げつえいお兄ちゃんこと、月兄つきにぃは、ふつうに話しかけてくれているのだが。


 問題はこっちよこっち。


 熱血暴走バカ炎兄は説得できそうにないだろう。

 これは、月兄を味方につけるしかない。

 それはともかく。


 モフモフのあいつらぁぁぁぁぁあぁ!

 あたしからお菓子代を請求したくせに!

 証拠隠滅失敗してるじゃない!


 渡したお小遣い、返しなさいよ!

 てか、もしかしてあいつらが普通にドラッグストアとかで、あの姿のまま買い物して。

 それでバレたんじゃないの!?


 ぜぇぜぇ!

 ともあれだ。


 正座をしたままだと、可愛い妹の足が痺れてしまうだろう。

 だからあたしは、”兄の”ために正座を崩して。

 ぶすーっと怒られたネコみたいに口を膨らませていた。


 それでも説明はしないといけないだろう。

 あたしはイイ子。

 どんなにバカな兄貴だって見捨てたりはしない。


「えーと実はね……?」


 あたしは説明した。

 長兄の炎舞兄は怒り出しました。


「はぁああぁぁっぁあ!? 知らねえおっさんを助けようとして、能力者だってバレただと!? このバカ、あほ、間抜け! だから気をつけろってあれほど言っておいただろうが」

「そうか……、アカリは転校させられるのか。俺達は一回もバレたことなんてないのにな……」


 次男の月兄は、強者の余裕。


 まるで物静かな黒豹のようなクールさで、淡々と呟くのみ。

 どんな時でも妹を優先させる。

 これがお兄ちゃんのあるべき姿だと、あたしは思う。


 炎兄が兄の勘であたしを睨み。


「って!? おまえ、まーたくだらねえこと考えてやがるだろうっ!」

「いやいやいや、くだらないなんてことはないわよ? お兄ちゃんたちはあたしを心配してくれているんだって、感動してたんじゃない」


 ここで兄を信じる妹の演技である。

 ちなみに、あたしの演技力はそれなりに高い。

 ……と思いたい。


 ちなみに、これは既に魔術戦でもある。


 既にあたしは本来なら商人系の職業が得意とする、スキル。

 《説得スキル》を発動していたのだが、確率判定は――。

 成功。


「そ、そうか――ならよし!」


 炎の力の持ち主で、ちょっとサメっぽい雰囲気な炎兄は、ギザ歯でニヒヒヒと長男スマイル。

 ちょっろ。

 バカな長男である。


 こうした、確率判定のスキルはいわゆる《幸運値》が高いと成功しやすいのだが。

 冒険者をしていたお父さんもお母さんも強運だからか、あたしはそういう確率スキルにめちゃくちゃ適性を持っている。

 だが!

 兄たちも同じお父さんの血を引いているので、適性もち。


 勝負は五分五分だったのだが。

 今回は運が良かったと言えるだろう。


 あたしは兄達を見上げる。


 両方とも長身ですらっとした、ちょっとしたイケメンお兄さん。

 顔はまあたぶん美形だろう。

 炎兄は粗暴でうるさい系、月兄は天然物静か系といった感じなのだが。


 そんなことはどうでもいい。


 あたしは反省を示すようにもう一度正座をして。

 ずーん……っと落ち込み中。

 兄二人は別にいいのだ。


 なんだかんだで、ちょろいから。


 お父さんも同上。

 問題はかつて本物の勇者だった、お母さん。

 世界を三つは救っている、ガチの異世界転移経験者なんだけどね?


 怒ると、めちゃくちゃ怖いのだ。


「ど、どうしよう……お兄ちゃん。これ、あたしのお母さんにバレたら、まずいわよね?」


 全員、お父さんの知り合いだった母たちの仲は極めていい。

 腹違いの兄二人も、あたしのお母さんをよーく知っているのだが。


「ああん? いや、てめえの母ちゃんは問題ねえだろうが。あんな良い母ちゃんいないだろうよ」

「ああ、問題は父さんだろう……」


 お父さんを思い浮かべているのだろう。

 二人の兄は、珍しく顔色を悪くさせ。

 炎兄がギザ歯で上唇を噛み、ズーンと重い声を出す。


「あのバカ親父。アカリを虐めるなんて許せないね……とかいいだして、下手すると、ちょっと日本を占領してくるって本気で世界征服とかやらかす可能性もあるぞ。わりと、マジで」

「そうだな……父さんならアカリを含めて、俺達のためだからって、やりかねない」


 あたしたちのお父さんって、ガチで魔王軍の最高幹部なのよね。


 現在もその魔王軍の仕事があって、異世界に一時的に帰っているのだが。

 ともあれ!

 お父さんっ子なあたしは、にへにへしながら頬を掻いていた。


「あたしってば、お父さんに愛されちゃってるからね!」


 あ、炎兄が睨んでる。


「アホかぁぁぁぁぁ! このバカ妹がっ、ざけんなよ! 嬉しがってるんじゃねえよ!」

「お父さんの愛を実感して何が悪いのよ!」


 しまった!?

 反省してるってことにしてるのに、言い返してしまった!

 魔力で浮かべた例の書類を、ベンと叩き。


 三白眼を尖らせ兄が唸る。


「がぁああぁぁぁぁぁ! おまえ! 反省してねえのかっ! この一件のせいで、世界が滅んだらどうするつもりだ、ええ!? あのバカ親父、事情を知ったらヤベエ幹部連中ひき連れて、攻め込んできやがるぞっ!」

「はぁぁぁあぁぁぁあっぁ!? お父さんが世界征服したらあたしは一生左団扇。最新の配信機材を購入して、毎日遊んで暮らしますし~!?」


 兄は、ほほぅっと口元を引き締め。

 しゅびび!

 炎と冷気によるお説教用の魔術槍を飛ばしてくるが。


 あたしは指をくるくると回して、高密度の結界を展開。


「はーい、レジストォォォ! 先に魔術を使ったお兄ちゃんの負け~!」

「あ、汚ねえぞ! てめえ、先に詠唱して対策してやがったな!」


 もはや本格的な魔術戦に移ろうとしている。

 月兄は巻き込まれないように、影の中にちゃぽんと身を溶かし消えて――。

 ちょっと離れた場所に再顕現。


 そう、あたしたちの喧嘩は基本的に魔術やスキルのぶつかり合いなのだ。

 冷静な月兄が言う。


「二人とも……家は壊すなよ。それに、使う魔術は一個で一回だけ。約束できる……?」


 それを合図と受け取ったのだろう。

 ニヒィっとあたしも炎兄も、魔力を纏って。

 ゴゴゴゴゴ!


「兄の偉大さを教えてやるよ! このガキんちょが!」

「あぁぁら、殺しちゃいけない戦いの時のお兄様が、あたしに勝てたことがありまして~!?」

「がぁああああぁぁぁぁ! こいつっ、人がいつも手加減してやってればいい気になりやがって!」


 ブツブツブツっと、腕に血管を浮かべて。

 お兄様はお怒りモード。

 すかさず炎兄は、ズジャジャズッジャと指で魔法陣を切り。


「我、炎帝の血族が命じる! きやがりなっ、オレ様の眷属!」


 ずずん!

 魔炎龍と呼ばれる、炎の大精霊が使役する最上位の眷属を召喚したのだ。


 まあ、炎で生成されたドラゴン……。

 細長い方の、アジア圏の龍を想像してもらえばいいだろうか。

 そのままあたしを締め付け、反省しろ! ってするつもりなのだろう。


 だが、あまい!


 あたしはアイテムボックスから魔導書を顕現させる!

 異界魔導書、グリモワールを魔力で自動的に開かせ、バサササササササ!

 ページが捲れる中、あたしも高速詠唱!


「我は日向ひなた! 日向アカリ! 異神蜂ベイチトよ! 我は汝の力を借りしモノ、地球を支える神子たる一柱なり!」


 お父さんの友達の、蜂っぽい神様の力を魔導書から引き出し!

 にやり!

 魔術式と呼ばれる魔導現象で、本来あるべき物理法則を捻じ曲げ!


 あたしが行ったのは!

 アイテム召喚!


「出でよ! 極上のハチミツよ!」

「な……っ、ってこら! ふざけてやがるのか!?」


 そう、異界の蜂さんが育てているハチミツを分けて貰った!

 それだけである!

 魔炎龍の炎の鞭があたしに迫る中、華麗に回避しあたしはフフン!


「ふざけてなんてないわよっと!」


 回避したまま、あたしはズザァァァァァァ!

 土下座っぽいポーズをとりつつ、魔炎龍たちの好物であるハチミツを捧げ。

 ワイロをははぁ!


 ちゃんと魔炎龍を讃えて、頭を下げ。

 チラ!

 上目づかいで、魔力を伴わないチャーム。


「あたし、お兄ちゃんに負けたくないなぁ?」


 スキルや魔術ではなく、ふつうに女子高生の涙目攻撃である。

 ちなみに。

 ネタのようにかわいいやら美人だとか言っていたが――あたしはどうやら本当に、かなりの容姿端麗属性もち。

 しかも人外相手なら、かわいい効果は更に倍増。


 ぼぼぼぼぼぼぼ!

 魔炎龍の瞳がハート型に染まる。


「あ、こら! バカ、魔炎龍! 受け取るんじゃねえっ!」


 頬を赤らめ受け取った魔炎龍が、しっぽの先をしゅるしゅるしゅる♪

 炎兄にごめんをしながら帰還してしまう。

 あたしは、ふっふっふっと仁王立ちになり。


 ビシっと指差し。


「はい、調伏ちょうぶく~! 悪は滅びました~! 魔術は一回だけの約束だから、あたしの勝ち~!」

「なにが調伏だ! ただのワイロだろうっ!」


 本気を出したお兄ちゃんならいざ知らず。

 こうした小競り合いなら、小回りと機転の利くあたしが優位なのだ!

 勝つためなら手段を選ばない、これも立派な兵法である!


 審判状態だった月兄が、静かに唇を蠢かす。


「眷属を魅了で奪われた炎舞えんぶ兄さんの負け……――かな」

「ちくしょぉぉぉおぉぉぉお! 火力勝負なら、ぜってぇに負けねえのにっ」


 ふっ、勝ったぁあああああぁぁぁぁ!


 ドヤァァァァァァァ!

 って!

 こんなことしてる場合じゃないんだった!


 お兄ちゃんたちに知恵を借りないと!

 例の一件がお父さんにバレたら。

 世界がヤバい……!



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