表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/123

第三話、異能力「もふもふ(猫)」



 逃げ出した先は路地裏。

 監視カメラもなさそうな。

 人気のない場所である。


 繁華街方面に逃げたせいか――ちょっと下水の匂いが気になるけど、これはまあ仕方がないか。


 さっきも告げたけど、あたしの生まれは特殊らしい。

 まあ、お父さんとお母さんがちょっと異世界の偉人ってだけだし?

 あたし自体は極めて普通。


 一般人より強いっていっても、本当に一般人よりは確実に強いってだけの話。


 相手が同じ異能力者だとしたら、あたしも楽勝ってわけにはいかない。

 本当にちょっと異能が使えて。

 神とも戦えるだけの女子高生ってくらいである。


 一応、見たことのある全ての魔術とスキルが使えるっていう、地味な能力があるのだが。

 それっていわゆる物真似みたいなもんだし。

 聖剣も、ありとあらゆる魔導書も使えるけど――それもお母さんとお父さんの真似っこ状態。


 大きな特徴も個性もないのだ。


 あぁ……そういや、あと一つ。

 一応個性ともいえる力があるのだが……。

 これもとっても大問題。


 能力キーワードは《もふもふ(猫)》。


 そう、ネコを使役できるのである。

 ……。

 そこで、はぁ……? とは思わないで欲しい。

 自分でもそう思うのだから。


 まあ実はネコって、十五年前の異変で?

 こっそりと最強種族になっているらしいから、実はけっこう強力な能力なんだけど。

 欠点だらけ。


 ちなみに猫を説明する必要はないと思うが……、まあ本当に、あの猫である。

 フワフワでもこもこで。

 ネコによっちゃ人間よりも配信業界で稼いでいる、あの毛玉生物である。


 あたしには猫使いの素質もあるらしいのだが……。

 まあ、見てもらえばわかるだろう。

 今もこうして、どこからともなくモフモフなネコ達が集まってきていた。


 路地裏の闇の中、にゃは~っと獣の瞳が赤く輝いている。


 こいつらは厳密にいうと、純粋なネコではない。

 あたしの使役する獣ではあるのだが、こことは違う世界で魔猫と呼ばれる異世界生物なのである。

 まあ、見た目はネコそのものなんだけどね。


 三匹のネコが二足歩行になり、踊るように尻尾をヒラヒラ♪


『これはこれは我が主アカリンさま。何かお困りの様子で』

『いやはや、駄目ですなあお嬢様。ここは現代日本、魔術もスキルも異能もないことになってございます』

『なのに、人の目があるところで無双ごっこなど、ぶにゃはははは! お父様にそっくり! 血は争えませんにゃ~』


 黒いのと白いのと三毛猫である。

 ネコに証拠隠滅して貰っていたのだが。

 やーいやーい! と、しっぽを揺らして舞い踊り。


『あ、お嬢様は、短気で損気~♪』

『我らがいなけりゃ、すぐ失敗!』

『さあさ、お嬢様! 我ら、黒白三毛に、こうべを垂れるとよかろうなのだ!』


 ビシっと三匹は決めポーズ。


 こいつらの魔術かスキルなのだろう。

 肉球とモフ毛が、路地裏なのになぜか太陽の下で輝いている。

 足の先をクイっと伸ばしている部分も、なんかイラっとするが。


 くそう、かわいい。


 そう。

 こいつら、自分たちがこの世で最も尊い種族。

 ネコという時点で勝ち組。

 ものすっごく可愛いって事を知っているから。


 めちゃくちゃ生意気で、命令なんて聞きゃあしないのである。


「だぁああああああぁぁっぁあ! 分かってるの! あたしだって、わ、悪かったとは思ってるの!」


 本当に、そういう能力があると知られるとまずいのだ。

 そこを理解しているのだろう。

 ネコ達が恩着せがましく、ふふ-ん!


『もし異能力や魔術の素養があると知られると?』

『政府がこっそりと作ったらしい、専用の学校に送られてしまうそうですからねえ』

『ぶにゃははははは! 愚かなり、人類! 異能力者達を集めても、もう世界に危機など訪れないというのに、いまだに魔術ごっこの真似をしているのですからニャァ!』


 人間もバカじゃないらしく、一応、もうそういう異能的なモノがあるとは把握しているらしいのだ。


 あたしだけが特別ではないという事である。

 ようするに、表ではそんなファンタジーがないというのが常識だが、裏では別。

 確実にファンタジーな能力が、人々の噂にはなり始めているのである。


 ま、こうしてあたしも不思議な力が使えるのだ。

 そりゃあ、政府が気づいていない筈もない。


 当然、政府も異能力者探しには躍起になっているらしい。

 なので! ネコと話をしているこの光景を見られるのもアウトなのだが。

 まあ周囲に気配はない。


 あたしは言った。


「で? どう? 目撃者たちの記憶を消してくれた?」


 気分は三人のおバカ部下を従える女幹部である。


『ええ、我らが猫トイレの砂で、綺麗さっぱりと』

『まあ写真撮影などされていたら誤魔化せんが、たぶん大丈夫でしょう』

『我ら、お嬢様親衛隊の活躍のおかげですニャ~!』


 ネコ達が大丈夫だと言っているのだ、たぶん本当に大丈夫だろう。

 ……。

 どうでもいいけど、ネコ砂で記憶を消すって……なに?


「ねえ、前から聞こうと思ってたんだけど、ネコトイレの砂で記憶を消すって……」

『おや、お嬢様。セクハラでございますか?』


 セ、セクハラなんだ。


 まあ魔術や異能の一種なんだろうけど……。

 あたしの能力はネコの数だけネコの能力が使えるから、まあ便利っちゃ便利なのだが。

 問題はこいつら。


 性格も適当だからぜんぜん何ができるって教えてくれないのよね……。


「まあいいわ。一応お礼を言っておくわ、あんがとね。感謝もしておいてあげる……って、なによその手、クイクイってしてる肉球は」


 もふもふ綿あめみたいなネコ達が、じぃぃぃぃぃぃ。

 あたしを見ながら再度。

 肉球をクイクイ♪


『感謝を示すには?』


 にひぃっとチェシャ猫みたいな顔をして。

 尻尾の先までモフ毛を膨らませていたのである。


「は!?」

『は、じゃありません。我らもオヤツがあれば、幸せな気分になれるのですがにゃー』

「ちょっと脅迫する気!? あんたたち、あたしの使い魔でしょう!」


 黒白三毛は、顔を見合わせて――ぶにゃははははは!

 あたしの言葉に、つーんと目線をそらし。

 ネコ目を細めて、邪悪な笑み。


『このままだとついうっかり、お嬢様の大失敗、通称やらかしを――兄上様の炎舞えんぶ様と、月影げつえい様にご報告せねばなりません』

『ああ、口がグルメで埋まっていれば、この余計な口を塞げるというのに!』

『チラっ、チラっ、あぁ! 口が寂しいですニャー!?』


 ちなみに、炎舞というのは炎にぃ。

 月影というのは月にぃ。

 お母さんは違うけど、お父さんは一緒のお母さん違いの兄である。


 こいつらは猫専用のスマホ、にゃんスマホを肉球でタッチしようとして。

 にゃっはー!


「ちょっと!? ガチで脅す気!?」

『我々も心苦しいのですが』

『甘やかすなというのが、御父上様からのご命令』


 くそうっ、あたしもたしかに猫使いだが。

 お父さんも猫使いで、あっちが超格上。あたしの命令より、お父さんの命令を最優先するのだ。

 こいつらは――っ。


 ようするに、こいつらはお父さんが配置したあたしへの監視でもあるわけで。


 あたしの家族って――食事の取り合い以外では全員、めちゃくちゃあたしに甘いのだが。

 さすがに今の事件をバラされたら怒られる。

 そしてあたしは知っていた。


 口止め料を払わないとこいつらは絶対にバラす。


「ああ、もうわかったわよ! ほら、これで液状おやつのチュー……なんだっけ、まあアレを買ってきなさいよ!」


 って、渡した途端にもういないし。

 まあいいけどね。

 こんな感じで、あたしは本当に一般人よりは明らかに強いが、家族の中では普通。


 かつて、本当の異世界で冒険していたお父さんとお母さん。

 いわゆる異世界転移帰還者のパパママに比べれば、蟻んこも同然。

 お兄ちゃん二人に比べても、明らかに格下。


 夕食のから揚げ戦争でも起こった日には――あたしはいつも、けちょんけちょんに負けてしまうのだ。


 いやあ、魔術とか異能とか。

 ゲームのやりすぎ、昔の言い方なら中二病!

 って、感じなんだけど……今見た通り、真実なのだから仕方がない。


 もし疑うのなら、近所のネコにでも話しかけてほしい。

 人間の言葉で反応してくれるだろうか?

 してくれないわよね? つまりはそういうことである。


 それでも今まではなんとか誰にもバレずに生きてきたし?

 これからもそう!

 あたしは絶対に、自分の強さを隠して生きてやるんだから!


 だって、ねえ?

 あたしは家族の中では、平凡な強さとはいえ。

 もしこんな力があることを知られたら、絶対になんか事件に巻き込まれるもんね?


 せっかく可愛い制服の学校に通えているんだし?

 転校させられるなんて、まっぴらごめん。


 だから、あたしはひっそり静かに、ゲーム配信者として名を上げようと。

 そう思うのである。


 さて、これでこの事件もおしまいよ。


 記憶消去は完了してるし。

 誰にもバレていないんだから。

 これ以上騒動なんて絶対に起こらないからね?






 と、思っていた時期があたしにもありました。

 帰宅したら。

 残念イケメンで有名な長男の炎兄と次男の月兄が、腕を組んで待ち構えていました。


 そう、政府からお手紙がやってきていたのです。

 えぇぇぇぇぇ! なんでなんで!

 あたし、人助けしかしてないっていうのにぃぃいいい!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 猫(=^_^=)使いあかりちゃん( ´艸`) バレちゃって説教コースかな? [一言] ケトス様の猫(=^_^=)ちゃん使いの部分はあかりちゃんが受け継いでるのか。(≧▽≦) まぁ、猫…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ