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第二十五話、ちょっと話が違うじゃない!―銃撃戦(魔力)―



 あたしの鈍感のせいで話がややこしくなったこの事件。

 そこで先走ったのは、あの正義感だけは強い無精ひげ男。

 どっちがどっちとも保護者みたいになっている気がするが、まあ気にしない!


 今回の騒動の一旦は、あたしのせいでもあるし!

 追いかけましょう、どこまでも!


 てなわけで!

 完全に正体を隠せるネコ状態で、あたしはシュヴァルツ公ことクロの能力で影を移動して!

 銃撃戦が始まったらしい指定暴力団に乗り込んだのだった!


 トンネルを潜り抜ける感覚が、あたしのネコの身体を包んでいる。


『ここを抜ければ池崎さんのところに通じてるってわけね! いやあ、便利じゃない、あんた達の能力!』

『お嬢様、影移動の能力の方は――いえ、無用の心配でした。無事に使いこなしておられるようですね』


 共にトンネルを進むクロが毛並みを輝かせ、にひぃ!


『ええ。あなたのおかげよシュヴァルツ公!』

『ぶにゃははははは! クロで大丈夫ですニャ、姫様は小さき頃から、我らをそうお呼びになられていたのですから』

『そう? でもまあ! 状況に応じて使い分けるわ!』


 影から影の移動の能力を使えるようになったのは、主君として、クロからの信頼を得たからだろう。

 猫使いのあたしはこうして更に成長するのです!

 と、自慢げに銃撃戦を制圧しようと思った。


 のだが。

 出口、つまり池崎さんの影と繋がっている場所に異変がある。

 何かがおかしい。


 人ならざるモノの瘴気がある。


『お嬢様、これはいったい』

『異様だって事だけは分かってる、無茶はしないわ』


 あたしたちは頷き、トンネルを抜けた。


『さあ、助けに来たわよ――!』


 クロとあたしが現地に転移すると、硝煙の香りがそこら中に広がっていた。

 そこには既に肩を押さえて、片腕をだらんとさせている公務員。

 池崎ミツルさんがいて。


 え!?

 銃撃戦という話だったのに。

 どうみても敵側の筈の暴力団、極道の連中と協力して何かと闘っている。


 ノイズが酷くて敵のデータが読み取れない。

 こちらを守っているのは――シロと三毛の結界だろう。

 屋敷づくりの廊下を封じて、籠城しているといった様子である。


『ミツルさん!? レベルSSのあなたが怪我をしているって、どういうこと!』

「嬢ちゃんか……っ? 助かったぜ、こいつらただの人間じゃねえっ! 匂いが違う!」

『人間じゃない? どういうこと!?』


 極道の若いのが声を荒らげる。


「おいこら暴走バカ刑事! 増援が来るかもしれねえって、ネコじゃねえか!」

「うるせえ! てめえらの構成員に変なのが混じってたのが悪いんだろうが!」


 結界の隙間から、流れ込んでくる濃い魔力。

 異様な気配がネコ状態のあたしの髯を揺らす。


 クロが肉球を一瞬膨らませ。

 魔力が込められた咆哮、本気の猫威嚇で空気を揺らす。


『我が主には指一本触れさせぬ!』


 クロに反応したのは影に隠れている筈だったシロと三毛。


『おう、シュヴァルツ公よ!』

『すまぬなっ、我らだけでは結界を維持するだけで手いっぱいだったのだ』


 あのシロも三毛もまじめモードの口調である。

 あたしはどくんと鳴る心臓を感じつつも、息を吐く。

 周囲をチェック。


 ここは指定暴力団、急襲だったから名前は知らないけど普通の現代エリア。

 ダンジョンでもない屋敷の中。

 古風な日本家屋なのか、遠くで鹿威ししおどしの音も鳴っている。


 敵は――。

 あたしの猫口は思わず言葉を漏らしていた。


『なによ、あれ……っ』

『人の心の隙間より生まれし魔竜に似ておりますが――未確認の現象ですね』


 結界のバリケードの奥。

 そこにいたのは、いかにもヤクザの鉄砲玉ですといった風貌の男達。

 けれど問題はそこじゃない。


 背後に――ドス黒い何かをオーラの様にまとっているのだ。


 オーラの第一印象。

 見た目のイメージを率直に言葉にするなら。

 悪魔竜……といったところか。


 ウギャギャギャギャ!

 やはり、人ではない雄たけびを上げている。

 んーむ……こんなの、初めて見るが……。


 現代日本で生まれた、新種の魔物かなにかだろうか。


 翼をはやしたその手から、うっぐぐぐぐぐぐっと音がして。

 グガガガガガガ――!

 って! 銃撃戦って、魔力弾のことじゃない!


 翼を振るうたびに、魔力の散弾が――散る!


「ちっ――またかよ!」


 高級そうな絨毯を、炎の舌で炙るように舐めあげていく敵の攻撃。

 対抗するのは前よりちょっと練度の上がっているミツルさん。

 そのタバコ結界が、攻撃を弾いている。


 だが。

 あくまでも攻撃をそらしているだけで、壁がドガドガと削られている。

 敵の数は、把握できないほど……!


 焦げた匂いを感じつつもあたしが言う。


『状況を知りたいわ。ミツルさん説明して』

「分からねえ。まず話し合いって事で、ここに通されたんだが――奴らの中の何人かが、急に暴れだしやがって、人間じゃねえみたいな力を出してきやがってな。はじめは罠かとも思ったが、どうやらそういうわけでもねえらしい」


 一呼吸おき、ミツルさんは部屋の片隅で倒れている暴力団員に目をやり。

 息も絶え絶えな彼らをあたしに伝えながら。


「仲間同士で殺し合いみたいなことも始めやがるし、獣が暴走してるって感じなんだよ! とにかく! ヤベエ奴は幽霊みたいな、背後霊みたいな――なんかわかんねえが、竜を背中にたけてるから近づくなよっ。そいつらが敵だ」


 シロと三毛が動けないのは、そうか。


『暴走した敵に巻き込まれて怪我をしたこの屋敷の人間、その傷の治療を優先しているってことか――この子たちは回復魔術は得意じゃないもの。そりゃあ苦手な回復と結界を維持しつつ、足手まといを守って戦うとなると――』

「だ、誰が足手まといだ! い、いや分かってるがっ」


 大型犬のようにガルルルル!

 悪態をつく元気があるミツルさんは問題ない。

 ただ、あっちで今にも死にかけている連中は問題だ。


 冷静になれ。

 たぶんこの場で回復魔術が一番うまいのはあたしだ。

 でも、ネコ化を解いちゃったら。


 日向アカリとしてここに不法侵入したってことがバレちゃう。


 どうするべきかあたしは考える。

 ここでネコ化を解いて治療に回るのはきっと、バカがやることだ。

 あたしに嫌がらせをしていたのは、どちらにしてもここの連中なのはたぶん正解なのだ。


 ……。

 それでも。

 あたしは猫使いとしての声で言う。


『シロ……いえ白刃公はくじんこうヴァイス=ニュ=カッツェ大帝。三闇公ドライファル=ウニャ=キャリコ教皇。交代なさい、その人たちの傷はあたしが治します』


 シロと三毛が、うにゃっと口を開き。


『お嬢様が――』

『我らの名を――』


 白き爪の一閃の鋭さから、公爵の身でありながら大帝の名を頂いたヴァイス大帝。

 キノコタケノコすぎのこ、全てを愛すべきと悟りを開いた教祖、三毛色の賢猫キャリコ教皇。


 瞳を光らせる二公を見て、あたしは続ける。


『シュヴァルツ公と協力して、敵の対処を。応急処置が終わったら、もう一度あたしと交代。敵じゃない連中を連れてあなた達はいったん退避を。大黒さんに事情を話して、怪我人をどうにかして貰って――たとえ暴力団員でもあの人なら臨機応変に動いてくれるはずよ』


 進言の肉球が上がる。


『なれど――』

『申し上げます、お嬢様。お嬢様はネコとしてのレベルは低い状態です、その麗しい御姿では回復魔術をうまく使用できないでしょう。そして、その仮の御姿を解かれては――後に面倒なことになるやもしれませぬが』


 やはり彼らはあたしの心配をしてくれている。

 ずっとずっとそうだった。

 あたしはそんなみんなの心配に能天気なまま、気付けないでいた。


『あなた達の懸念ももっともね』


 けれどこれは、前のあたしのようにテキトーな結論ではない。

 考えた末に出した答えなのだ。


 あたしはパァァァァっと光に包まれる。

 ばさりと黒髪を靡かせ。

 美少女な女子高生に身を戻しつつ、魔導書を顕現させ。


「それでも、人の命には代えられないわ。お願い彼らを助けたいの――あなた達の力を、あたしに貸して! ヴァイス大帝、ドライファル教皇!」


 昨日のあたしも同じ行動をしていただろう。

 きっと考えなしに動いていた。

 けれどたとえ同じ結果でも、これはリスクも考えたうえで選択した行動なのだ。


 そこにはきっと、同じ行動だとしても変わってくる未来がある。


 あたしの変化に気付いたのだろう。

 彼らは素直に命令に従い、それぞれ行動に移り始めた。


『御意!』

『承知いたしました、マイマスター』


 ミツルさんも傷口を押さえつつ、銜えタバコから息を吹き。

 タバコの火で魔法陣を描き――。

 詠唱する。


「退け――踊れ、狂乱せよ!」


 異様な影を背負う鉄砲玉たちに魔術を展開。

 しかし、レベル差がありすぎる、おそらく無意味だ。

 案の定、煙による魔術はレジストされていた。


「ちっ、やっぱり効かねえのかよっ――」

『下がっていろ、公務員! この敵は異常、イレギュラーである! レベル二百程度の子供がでていい領域ではない!』


 クロからの子ども発言にはさすがに驚愕したのか。

 イケオジ未満が唸る。


「こ、子どもだと!?」

『三十年と数年しか生きていないのなら、子どもであろう! 我らの二分の一も生きておらんではないか!』


 クロが多少荒い声で言うのも無理はない。

 文字通りレベルが違うのだ。

 ま、まあレベル二百って、魔猫で言ったら子猫ぐらいのレベルだしなあ……。


 怪我人とミツルさんを庇って身動きが取れなくなっていたシロと三毛も参戦し、戦況が動き始める。


 魔術攻撃のクロ。

 物理攻撃のシロ。

 支援の三毛。


 三柱の連携が、爪の乱舞となって敵を襲う。

 結界で覆われた通路は狭い。

 結果的に三体程度しか敵は襲ってこないのだが。


 あたしは敵に《鑑定の魔眼》を発動させる。

 種族は――人間!?


「これって! 待ってシュヴァルツ公! 殺しちゃダメ!」

『シュヴァルツ公。力を抑えよ!』

『何故だ、主よ! ヴァイス大帝よ!』


 吠えるクロに、ドライファル教皇こと三毛が吠える。


『よく見よ――彼奴きゃつらの本体は人間。おそらく苗床にされているか、或いは、その精神を汚染されている存在。本体を殺せば容易いが、それでは人が死ぬ!』


 三毛にも忠告され。

 うにゃ!

 クロが目を見開き、攻撃を中断。


『ちぃ……っ、これでは迂闊に攻撃できぬではニャいか!』

『だから我らも手をこまねいていたのだシュヴァルツ公っ』


 とにかく、あの子たちが時間を稼いでいるうちに動くしかないか!


 人間を逃がすことが先決。

 だが、その前に回復!

 あたしはシロと三毛が守っていた怪我人に近寄り、バサササササ!


 魔導書を開きながらも敵を注視し続ける。


「それにしても、マジでなんなのよあいつら……人間の背中から生えてるのに、人間の領域を超えてるじゃないっ」


 考えをまとめる独り言だったのだが。

 なぜか、すぐ目の前から反応があった。


「俺は知らねえ……っ、知らねえんだよ日向! あ、あいつら、いきなりガクって魂が抜けたみたいに倒れたと思ったら、ああ、あああ、あんな風になったっつーか!」


 と、怪我人のヤンキー崩れが涙目になって訴えているのだが。


 はて。


 日向とはあたしの苗字。

 そして、なぜかこの怪我人はあたしに馴れ馴れしく話しかけている。

 ……。

 これ、たぶん知り合いって事よね……?


 あたしの名推理からすると……ストーカー?


 混乱するあたしに咳ばらいをし。

 補助魔術をレジストされ退避してきたミツルさんが声を張り上げる。


「情けねえ声を出すんじゃねえ、梅原うめはら! おまえが主犯になってクラスメイトの日向に嫌がらせをしてたんだろうが! これはてめえの企みじゃねえのか!?」


 おお! イケオジ未満のナイスフォロー!

 そっか、この怪我人たち!

 あたしのクラスメイトやヤナギさんのクラスの不良連中か!


 いやあ、あたし――二次元でもイケオジでもない男子の顔の区別ってあんまりつかないし。

 ヤンキーってみんな同じ顔に見えるし。

 そもそも覚えていなかった気もするし。


 異能力もそこまで特徴がなかったのだろう。

 ほとんど初対面みたいなもんだから分からなかったのね!

 まあそれを口にするほど、あたしも無神経ではないが。


「知らないっすよ! 俺は、俺はただっ、いつもつるんでる先輩たちに言われて……っ、日向に影から攻撃してこいって! 小遣いもくれるっていうから、それで! そしたら、こんなことになっちまって、わけわかんねえんっすから!」

「とにかく、今治療するから――あまり動かないで!」


 あたしは魔導書の力を引き出し。

 黒髪をイイ感じにふぁっさ~!

 範囲回復魔術を発動する!


「痛みが……っ、す――、すげえな、おい!」

「だぁぁぁぁぁ! 動くなって言ってるでしょう! あんたを中心にかけてるから、対象が動くと範囲がズレるの!」

「す、すまん!」


 ヤンキー達の腹や腕に浮かんだ裂傷を治癒していく。

 けれど時間がかかる!

 ああ、もう! 勇者としての力の源、聖剣の力も解放できれば……いいのにっ。


 ここはダンジョンじゃないから銃刀法違反にひっかかる……っ。

 ヤンキー達や、極道の一部が目覚め始める。

 まだ喋ることはできないが、あたしが治療をしているという事は理解できているようだ。


 回復能力が珍しいのか、さっきのヤンキーがまともに顔色を変えて。


「日向、おまえ……っ、や、やっぱり、ただ、ね、ネコを使う能力者じゃなかったんだな!?」

「まあ色々とあってね。えーと、あんたは……梅川くんだっけ?」

「う、梅原だ!」


 ミツルさんが折角教えてやったのにって顔をしているが。


「そ、そんな細かい事はどうでもいいわ! あんた達、ダンジョンを作る能力とかない!?」

「そ、そんなファンタジーがあるわけねえだろう!」


 あぁぁぁ、そりゃそうなんだけど!

 目の前にそのファンタジーがあるんだってば!


 異界の姫君――魔族でもあるあたしは制約や規則に大きく縛られる。

 種族は違うが、悪魔が自他ともに契約に厳しいという話を聞いたことがある人もいるだろう。

 それと一緒。

 銃刀法違反というのはけっこう大きな縛りとなって、あたしの行動を制限しているのである。


 聖剣くらい出しちゃえばいいじゃんとお思いのあなた!

 考えてみてほしい。

 あなたの家に女子高生がいきなりやってきて、あたしの意思ですぐに発動できる核爆弾を出しますねって、言われる場面を。


 不法侵入よりも重い。さすがにそれは問題になると思うだろう。


 そういう問題になる規模の大きさが、そのままあたしの行動制限につながるというわけだ。

 ただ、ここがもしダンジョンなら日本ではなくなる。

 治外法権になるので、聖剣も出せるのだが――。


 肩を押さえたミツルさんが言う。


「嬢ちゃん、たしか前にやってただろ。あれじゃあ駄目なのか」

「あれは既にあの廃墟にあった力を利用したからよ。三魔猫による応接室の領域化も、既にヤナギさんの使用許可があったからできたの! 他人が所有者、ダンジョン化能力の使用者と別名義で謄本されている土地のダンジョン化って難しいのよ! それでも、時間を掛ければできるけどっ。回復と同時にはたぶん無理!」

「たぶんってことは、可能性はゼロじゃないんだろ!?」


 そ、それもそうなのだが。

 あたしは次に横たわっている極道達の範囲回復に移りつつ。


「た、試してみてもいいけど……っ。加減に失敗すると日本全部が永続ダンジョン化するけど、いい?」

「いいわけねえだろうっ」

「そ、そうだわ! この屋敷の主はどこ!? そいつに許可を貰えば家の中でも聖剣を出せるから、話が早いわ!」


 ヤンキーの梅原君が指さす先は。

 うがぁぁぁぁぁっと背中に悪魔竜をはやして暴走している敵さんで。

 だめじゃん!


 誰かを守りながら戦うってのが、こんなに難しいなんて……っ。

 でもあたしはまだ、あきらめないんだからね!


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど。 ようやく、切り株と敵対する勢力が掴めました。 すぎのこ勢力ですか。 確かに類似勢力だ。 おそらく、切り株は収穫されなかったすぎのこの成れの果ての姿ですね。 きのこに加勢する勢力は…
2024/01/17 19:57 退会済み
管理
[一言] 銃刀法に引っ掛からん聖剣持ってればねえ 魔剣焼き鳥の櫛とか暗黒剣団子の櫛とか(棒
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