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第二十四話、成長する乙女、真なる契約



 赤雪姫や、突如窓から飛び出して着地した天使のようなあたし!

 そして。

 謎のファンタジーイケメン(お兄ちゃん)の登場で、校内は騒然としていた。


 あたしたち、おもいっきりこの学校を掻きまわしてるんだろうなあ。

 そろそろ落ち着かなきゃと思いつつ。

 それでも事件は待ってくれないので――進むっきゃない!


 廊下を進んでいる中。

 窓ガラスにあたしと大黒さんの姿が反射して見えるのだが。


「どうしたのアカリちゃん? 外に何か?」

『いえ、気にしないで。ネコのあたしも可愛らしいわって見惚れていただけよ』

「……わりと本気で言ってるわよね、それ」


 事実なのだから仕方がない。

 実際、近所の野良猫がわんさかわんさか校舎に入り込んでいて。

 遠巻きに人の顔を覗き込んで――って、あれは。


『ニャニャニャ! ニャンニャ! あの美人で麗しい美少女ニャンコは!』


 炎兄に今回の事をチクりやがった三魔猫が一柱。

 クロである。

 あたしがあたしだと気づいていないのだろう。


 とててててて♪

 優雅なモデル歩きでやってきて、大黒さんの足元でニヤり♪

 太ももと顔のモフモフを見せつけるように、ポーズを取り。


『やあお嬢さん。ニャーはシュヴァルツ=ニャ=カーター公爵。黒魔公と呼ばれていてね、どうだろうか。ニャーと優雅なランチタイムを……って、その魔力は、どこかで』

『シュヴァルツ公爵、ねえ。そういやクロ、正式な名前はそんなだったわね』


 ちなみに顔のモフモフは猫同士にとっての、イケニャン条件らしい。

 あたしと知らずにナンパしてきたクロは、ががーん!

 さすがに途中であたしと気づいたのだろう。


『そんにゃ……ニャーはロリコンではないというのにっ。一生の不覚……っ』

『は!? 誰がロリよ、誰が!』


 キシャアァァァァっと大黒さんの腕の中で、ついつい威嚇してしまったのである。


『っていうか、そのニャーってのは何よ。一人称?』

『こ、これは――その、お嬢様は猫語をまだちゃんと理解していないのですか?』

『めっちゃ狼狽えまくってるわね。ワタクシはとかそういう気取った時の名乗りって所なのかしらねえ』


 いつもこいつらにはいいように翻弄されているし。

 たまには優位に立ってやるのも悪くないが。


『ともあれイイところで出逢ったわ。こっちはこっちで調査しているから、クロ、あなたは池崎さんの方について行ってあげて。なにかあった時のサポートと連絡をお願いしたいんだけど』

『承知いたしましたお嬢様。それでその、今回の件ですが――』


 じぃぃぃぃっと上目遣いである。


『分かってるわよ、シロと三毛には黙っておくわ。だからお願いね』

『承知!』


 告げてシュンと格好よく消えていくクロ。

 その背を眺め、大黒さんがぼそりと呟く。


「ふふふふ、モテモテね猫アカリちゃん」

『とりあえず、早い所終わらせた方がよさそうね。なーんか、次々と猫で溢れてきてるわよね』


 ミャーミャーっと窓を開け、ネコが入り込んできているのだが。

 そこには見慣れた白猫と、三毛猫もいて。

 同じ流れを二度繰り返したことは、一応内緒にしておこうと思う。


 ◇


 あれから一時間ほどが過ぎている。


 そのままあたし達は怪しい生徒を見て回ったのだが。

 もう既にミツルさんのゲンコツを喰らっていたモノや、魔に魅入られている面白ヤナギさんにお説教を受けた後。

 あたしも知らない、転校生への嫌がらせが数多くあったらしいのだが。


 いやあ、なんつーか!

 あたしだけは、ほとんど気づいていなかったらしい!


 嫌がらせをしている中にクラスメイトもいたらしいが、あたしがあまりにも気づかないので根負け。

 そのまま普通に友達になっていたパターンも多数あって。

 うん。

 さすがの大黒さんも呆れた様子で、ジト目である。


「アカリちゃん……神経が図太いって言われてない?」

『おおらかだって言って欲しいわね。それともなーに、ウジウジしてこの学校破壊しちゃおうかな~って拗ねた方が良かった?』

「ふふふふ。それはそれで面白そう、いえ――騒ぎにはなるでしょうけど」


 やはりこの大黒さんもわりとアレな性格。

 怖いお姉さんである。


『しっかし、肝心のトラックだったり銃弾での攻撃だったり。シャレになってないっぽい攻撃をしてきた連中は見つからないわねえ』

「反撃を受けたって事は、休んでいる生徒が怪しいとも思ったんですけど。誰も休んでいないってのは、ちょっと謎ですね」

『んじゃあ、そろそろ学校の外に行ってみる? あたし、鍵開けのスキルを持ってるからどこにでも入れるし――』


 なぜか大黒さんは複雑そうな顔をして。


「それ、あまり人前で言わない方がいいわよ?」

『ん? どうしてよ』


 わりと真面目な声なので、あたしはウニュっと見上げていた。


「応接室にいるメンバーにならいいですけど、鍵を開けられる能力者っていつも疑われちゃうのよ。本人がどれだけイイ子でもね。出来るって事が問題で――例えば学校で給食費が盗まれたってなったら、誰が疑われると思うかしら?」

『あー、そういうことか。忠告してくれてありがとうね』

「アカリちゃんには、そういう悲しい思いをして欲しくはないもの」


 心からの言葉だというのは理解できる。

 だからこそ、あたしは猫口をニヒヒヒ!


『でも大丈夫よ! あたしもこういう話は信用できる人にしかしないし!』

「あら。一度裏切った者をそこまで信用しちゃっていいのかしら?」

『大黒さんはウソを見抜く能力があるでしょう? なら、嘘か本当かは分かるでしょ。あたしはあなたを信用しているわ。たとえ、もしももう一度裏切られたとしても、そこには絶対! なにか理由があるって考えるほどにはね!』


 一瞬、大黒さんの足が止まった。

 ウソを見抜く能力者だからこそ、あたしの言葉に偽りがないと知っているのだろう。


「はぁ……アカリちゃん。そういうセリフは人間状態の時に言って欲しかったわねえ」

『え? なんで?』

「恥ずかしいから! こうやって。モフモフしたくなっちゃうからよ!」


 あひゃひゃひゃ!

 もふもふされる感覚って、すんごい、こうなんか、こう!

 ウニャニャニャ!

 って感じなんだけど!


 こっちが戯れているところに、なぜかカシャンという音がする。

 あたしの眷属。

 クロである。


『……あんた、なに、にゃんスマホで撮影してるのよ』

『ついにお嬢様がモフられの極意を覚えたと、御父上にご報告させていただこうかと』

『っていうか、ミツルさんについて行ってってお願いしなかった?』


 はて。

 こういう時の命令を破ったりはしないのだが。


『それがその――その件でご報告が』

『なにかあったの?』


 肉球を輝かせ。

 クロが真面目な声で言う。


『はい、偶然我ら三魔猫は同時に、ほぼ同じタイミングであの男と合流したのですが。あの男、入ってはいけない場所に入っていきまして……。残り二名はあやつの影で待機しております。現状、命に別状はないのですが指示を仰ぐべきだと』


 あたしと大黒さんは目線を合わせ。

 彼女がクロに問いかける。


「えーとシュヴァルツ公、リーダーはどこに行っちゃったのかしら?」

『レディ大黒、あなたはこの付近に根城があるとされる不良グループを知っておりますか?』

「ええ、ウチの学校にも何人か在籍しているとは情報が入っていますけど……」


 ……。

 てか、大黒さん。

 クロの事、ちゃんとシュヴァルツ公って呼んでるんかい。

 しかもクロもクロでわりと紳士な口調だし。


『結論から言えば、その不良グループがどうやらお嬢様に喧嘩を売っていたようで。あの男、刑事の勘なのか、鼻がいいのか――その裏にある組織を探り当ててしまったようなのです』


 って、池崎さん。

 異能力を担当しているってのは知ってたけど、刑事だったのか。


『ちょっと! なんであたしが知らないことをあんたが知ってるのよ』

『お嬢様は少々おおざっぱが過ぎるのです。我々の名前であったり、池崎氏の本職であったり。ちゃんと把握もせずに行動をなさる。そういう部分はあまり感心できません』


 あ、わりとガチの説教だこれ。

 こういう部分がきっと、あたしがまだ認められていない部分に直結しているのだろう。


「心配なのはわかるけど、アカリちゃんをあまり責めないであげて。全てを知ろうとすることが必ずしもいい事とは限らないでしょう、シュヴァルツ公」

『レディ大黒。あなたがそうおっしゃるのでしたら……――ともあれお嬢様、あの男は単身で乗り込んでしまいました。ただ、我々も不法侵入は許されておりませんので、ヤツの影と接続した状態で、一度戻ってきたという形になります』


 異界の魔猫。

 いわゆる猫魔獣は基本的に影使い。

 月兄と同じく影を操る能力を得意としているのだが。


『それで不法侵入って、どこに行っちゃってるのよ』

『いわゆる指定暴力団。不良たちの受け皿といった場所になりますね』


 あぁ、そりゃたしかにまずいわ。


『なんでまたそんな連中が不良なんて言う小魚を使って、あたしにちょっかいをかけてたのよ。って、まあ考えられるのは前回の事件……か』


 あの時にあたしやあたしの兄たちは、異能力者犯罪組織を何個か潰している。

 あたしは三魔猫とアンデッドを使い。

 兄たちは直接。


 そして最終的には、月兄の影と闇の空間に呑み込まれ終わり。

 彼らの痕跡は消えたままになっている筈。


 そういった組織の関係者か。

 それとも犯罪者組織を狙った異能力者だとあたしが判断されてしまったか。

 ともあれ、危険人物として赤髪のあたし――。

 赤雪姫がマークされていたという可能性は高い。


 そんな中――あの事件に協力した異能力者の中に、犯罪者組織とかかわりのある不良グループの生徒がいたとしたら。

 赤髪姫の正体を探るべく、行動する。

 その結果が、あの嫌がらせ。


 あたしにちょっかいをかけていた――と。

 まあ実際は、英雄気質な生徒の嫌がらせや嫉妬もあったのだろうが。


 それよりもだ――。

 あたしはハッとしていた。

 ある考えに至ったのだ。


 敵や悪意のある者への警戒心が、あたしには足りない。

 もう少し敏感になった方がいいのかもしれない。

 先ほども大黒さんに鍵開けの事で注意をされたし、お兄ちゃんにも注意をされたし。


 たぶん。

 きっとそうなのだろう。


『ねえ、大黒さん……あたしってそんなに不安定に見えるのかしら』

「アカリちゃん……?」

『お願いがあるの、大人としての意見が欲しいのよ。あたしって、そんなに心配される事ばかりしているのかしら』


 真摯な問いかけだったからか。

 大黒さんはゆったりと瞳を閉じ。


「そうね。急に走り出したり、急に止まったり。アカリちゃんは本当にネコみたいに、自由奔放で、なにより悪意に鈍感で……大人としてはちょっと不安になるわ。シュヴァルツ公爵もそうだし、あなたのお兄さんも、そして池崎さんもきっとそうよ。ヤナギさんだって、あなたの魔に惹かれている部分もあるでしょうけど、根本にあるのはあなたの図太さが原因ね」


 大黒さんは大人の顔であたしの鼻先をつつき。


「人を信用するところも、前向きなところも美徳で利点よ。けれど、あなたは重要人物。いつどこで誰に狙われているのか分からない。個人としてのあなたの好き嫌い以前の問題として、もう一つ問題もあるわ。アカリちゃん、前に言っていたでしょ? 第一次世界大戦のきっかけの話」

『うん、したわ――』

「あなたにもしなにかがあれば、あなたのお父様は我々を許さないでしょう。だからこそ、みんなあなたを守る義務があるとも思っている。なのにあなただけはちょっと能天気だから――そこでシュヴァルツ公たちもあなたの指示を仰がず、お兄さんに報告されたんじゃないかしら。もうちょっとだけ、自分の立場を考えて護衛についている子達の心も考えてあげると、もっと素敵な女の子になれるんじゃないかしら」


 大黒さんがあたしを抱きしめ。

 心臓の音を聞かせながら言ってくれる。


「きつい事を言ってしまって、ごめんなさいねアカリちゃん」

『いえ、あなたが謝ることじゃないわ。ありがとう大黒さん、うん、はっきり言ってもらえてあたし。ちょっとすっきりしたわ』


 反省も大事。

 だけれど、騒動の解決も大事!

 あたしは気分を切り替え!


『よーし! とりあえず単身で乗り込んだ、あのバカが騒動を起こさないうちに、一旦、引き上げさせましょう! あたしもバカだけど、きっとあの人も同じくらいバカだし。三日のうちになんとかしないといけないっていうタイムリミットつき、そしてあたしを巻き込んだ自責の念で暴走している可能性もあるわ!』


 そう。

 あのお人よしの男はバカだが刑事。


 あたしが思っているより、ずっと大人で、頭が回るのだろう。


 もし、前回の事件で巻き込んだ自分のせいであたしが嫌がらせを受けていたり。

 ましてや指定暴力団なんかに、目をつけられていたのだとしたら。

 表には出していなかったが、かなり心配していたのではないだろうか。

 彼はきっと、なんとしてでも早急な解決を狙うだろう。


 それもこれもあたしが悪意に鈍感なせい。

 自分なら大丈夫と、根拠のない自信をもっていたせいでもある。


 こちらもなるべく早く池崎さんと合流するべき。

 そう思った、その時。

 あちらと影でつながっているクロが、ぶにゃっとモフ毛を膨らませる。


『どうしたの!?』

『あぁ……なんというか、銃撃戦が始まってしまいましたね。いかがいたしますか?』


 そんなもん、答えは決まっている。

 今のあたしは猫としての側面が強調されている、美しい黒猫。


『その中に一匹、美しいネコが紛れ込んじゃっても。問題はないでしょう?』


 赤い瞳をキラキラさせて、猫たるあたしが言う。

 クロは主君を窘める口調で、こほん。


『それは人間の規則を破る不法侵入になるのでは?』

『なにいってるのよ? あたし、ネコよ? ネコちゃんがうっかり入り込んじゃったからって警察でも呼ぶっていうのかしら? 暴力団が?』


 言葉遊びかもしれないが。

 規則違反ではない。


『宜しいのですか? 我々は人間界のルールを守って――』

『ネコが入っちゃいけないって法律はないわ。それにこれは人の命もかかっていること。ルールを破らないのなら、問題ないでしょう? 全ては臨機応変に。優雅に動かないと――ねえ?』


 あたしは息を吸って。


『力を貸して頂戴。我が眷属にして、三魔公が一柱。シュヴァルツ=ニャ=カーター公爵。あなたの力が必要なの。図々しくお願いするあたしに、呆れてしまったかしら? バカな主人じゃ、嫌かしら? それでも、あたしにはあなた達の助けが必要なの。だから、お願い』


 名を告げられた、その時。

 クロは一瞬、ぶわっと全身のモフ毛をぶるり。

 恭しく礼をし――紳士な声であたしに告げる。


『御意。すべては我が主君の御心のままに――』


 ネコはプライドが高い生き物。

 その名にも誇りを持っている。

 なのに。


 あたしはちゃんとその名を告げていなかった。

 それもきっといけなかったのだろう。

 ……。


 でもやっぱり仰々しい名前は可愛くないから。

 普段はクロって呼ぶわ!



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