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第二十一話、新たな火種?女子高生は休めない!



 前回までの天才的美少女なあらすじ。

 覚醒モードのあたしの映像が格好いい。


 しかし、そんな冗談を言っている場合でもない。

 この時期に転校してきた人が狙われていたのなら……。


「ちょっと待って。行方不明事件の被害者だった他の子達も、たしか、あたしとほぼ同時に入学してるのよね? あの嫌がらせはあたしだから大丈夫だったけど、ふつうの人間だとちょっと怪我をするでしょう? あの子たちは大丈夫なのかしら」


 きっと、怪我とかしてる人もいるだろう。

 そう考えると。

 あたしはちょっと嫌な気分になっていた。


 思わず気分が沈んでしまう。

 しかし。

 がしがしと自らの頭を掻き、大人の声でミツルさんが言う。


「そりゃあまあな……でも大丈夫だろうよ」

「本当に!? どうしてそう思うの!?」


 自分の事で誰かが傷つくのは、あたしは好きじゃない。

 だから根拠が気になるのだが!


「バ、バカ! 顔が近ぇよっ、とにかくっ。嬢ちゃん以外のヤツが疑われることはねえよ! 男なら、分かるんだよ!」


 はて?

 なんとも不思議な赤面状態なイケオジ未満だが。

 代わりに――大人のお姉さんの声で美人巨乳な大黒さんが言う。


「池崎リーダーはあなたを面と向かって褒めたくないんでしょうけど。ふふふ、あそこまでファンタジーな容姿は普通の子じゃあ、あまりいないから。赤雪姫……レッドスノウの候補から、ほとんどの子は外されるでしょうね」

「なるほど、美人過ぎるあたしのおかげで、他の生徒に被害はでていないってことか」


 ミツルさんの一言が襲う。


「よく真顔でそんなこと言えるな……恥ずかしくねえのか?」


 ここは既にキャットタワーによる魔猫結界、つまり通常エリアの領域外。

 ちょっと髪と瞳を赤くして。

 リップを塗った唇に指を当て、からかうように微笑んでやる。


「あら、どうして? あたしが美しいという事実は変わらないわよ? さっきのあなたがついうっかり、美少女の憂いに反応しちゃうくらいに……ねえ?」

「がぁぁぁぁぁ! 赤髪のおまえさんはっ、甘やかされてやがる猫や犬と一緒で、自分が可愛いって自覚してるからたちが悪りぃな!」


 やはりジト目が襲っているが。

 ともあれ。

 髪を黒髪に戻し、いつもの口調に戻しつつあたしは言う。


「けど、どういうこと? あの時の事は守秘義務があるんでしょう? あたしはそう公安のヤナギさんから聞かされていたんだけど」

「ええ、ちゃんと罰則もある”かん口令”が出されているけれど――皆、まだ若いから。向こう見ずな子達も大勢いるんでしょうね。はぁ……困ったわねえ。履歴書とかにもちゃんと書かれちゃう罰則だって知らないのよ」


 呪印がなくなった胸を大胆に見せている大黒さんの横。

 イケオジ未満なミツルさんが顎をざりっと撫で。


「しかし分かんねえのは、なんでお嬢ちゃんに攻撃を仕掛けているかって事だ。試しているってことなんだろうが――自分より強い相手に喧嘩なんて売りたいか? オレはごめんだね」


 大黒さんが答えを告げるように、微笑みかける。


「うふふふふ。あら、リーダー。理由なんてわかりやすいじゃない」

「ん? 大黒、何か知ってやがるのか?」

「若いからよ」

「はぁ? 意味が分からんのだが」


 少しは自分でも考えなさいと思いつつも。

 弟に講義するお姉ちゃんの顔で、ピっと指を立てたあたしが言う。


「さて問題です。自分は異能力に選ばれた特別な存在だ。そしてこの世で一番強いと思っている。そんな十五歳前後の子供が自分より活躍して、大人のあなたたちと肩を並べて事件を解決した現場を目撃した。あるいは耳にした――そうなると、そんな英雄気質な青少年はどうするかしら?」


 タバコ代わりのキャンディをぺこぺこしながら。


「なるほど、嫉妬っつーのはそういうことか」

「そーいうこと。どっちが強いとか、そういう話になるでしょうね」


 ファンタジーな世界と違い、ここはまだ魔術発展途上な現代日本。


 そういう異能力が本格的に発現してから十五年ほどで、日が浅い。

 力に目覚めた若者がどう行動するのか。

 そういう部分のケアも、状況シミュレートもできていないのだろう。


「それで嬢ちゃんに対して攻撃してきてる生徒がいるってことか。ったく、生徒間の私闘は禁止してるんだが。まあ、そういう英雄気質の連中には通じねえだろうな」

「ねえ、こういうとき普通の人間たちってどういう風に対応するものなの?」


 聞くことは恥ではない。

 そう思ってあたしは聞いたのだが。


「あたしはなるべく波風を立てないように、きっちり三倍返し程度に加減して反撃するようにしているんだけど――なぜか、相手のヘイトを余計に買っちゃうのよねえ」


 言いながらも、再び飛んできた呪いを呪詛返し。

 三日間、毎日必ず財布を落としてスマホのデータを破壊する呪いをかけてやる。

 呪い解除をしようとすると、三日間延長する追加の呪いをかけて――っと。


 大黒さんが、困った顔をしながら。


「うーん。いじめとは違うし、難しい問題かもしれませんねえ。証拠をつかんで、正式にやめさせるのが手っ取り早いんでしょうが」

「んー、どうなんでしょうね。ああいう連中って、教師にバレるから顔を狙うな、服で隠れる部分を狙え――! みたいに、証拠は残さないようにしてるんじゃないかしら」


 頭を悩ませる美人コンビに、ミツルさんが肩をすくめてみせ。


「アカリの嬢ちゃんよ。おまえ――過剰防衛してねえか? 先に手を出した相手が完全に悪いとして。最初に反撃を喰らったヤツの仲間が復讐で嬢ちゃんに手を出して。また反撃を喰らって……みたいなパターンになってる可能性はあるぞ」

「でもあたしはちゃんと手加減してるわよ?」

「手加減ねえ……」

「だって相手は五体満足だし。これでも本当にかなり加減してるのよ」


 さっきあたしはコントみたいな流れで三魔猫を止めたが。

 あれ、実は止めていなかったら本当にやっていたのだ。

 今頃加害者連中は、存在そのものが”なかった”ことになっていただろう。


「真面目な話ね――異能力で攻撃してるんだから、反撃されるって考えがないのはちょっと危険よ? それに自分で言いたくもないけどさあ……あたしって、本当なら国賓級の扱いだって受けても良いレベルになるわけじゃない? そんなお嬢様を狙うなんて、無謀すぎるわ。第一次世界大戦がどんな理由で起こったのか知らないわけじゃないでしょ」

「訪問していた他国の皇太子夫妻の暗殺がきっかけ……か。怖え事いうなって言いたいところだが、まあそういう可能性もあるって事だわな」


 もう一度、二人の顔をちゃんと見て。

 あたしは異世界から来た姫としての顔で言う。


「異能力が発生しているのなら――たぶん、これからこの世界には異世界からの来訪者が増えると思うわ。友好的とは限らない存在もね。あたしだから手加減してるけど、もし穏便に話を済ますことができない相手にやっちゃったら、英雄気質ってだけじゃあ済まなくなるわよ」


 そう。

 例えばだが――うちの兄貴たち。


 怒らせると怖い次男の月兄は、まあその程度じゃ怒らない。

 あくまでも怒らせると怖いのであって、沸点は高め。

 人間のお遊びか程度で些事にもならず、闇の中に消えていくだろうが。


 問題は沸点が底辺な、あの男。


 長男の炎兄が今回の事件を知ったとしたら。

 ……。

 あのバカ兄貴、なんだかんだであたしに甘いし、大事にしてるっぽいからなぁ……。


 まったく効かない攻撃とはいえ、異能力で攻撃されたとなったら。

 一瞬、未来視に似た何かがあたしの脳裏をよぎった。

 ……。


 まあ、気のせいだろう。

 目の前の二人。

 その顔に、死相が発現したのも気のせい。


 と、思いたい。

 あたしは眷属猫の持つ能力なら使用できるのだが。

 この死の運命が近い者を察してしまうのも、それ。


「おい、どうした? 顔色が悪いが」

「ふぇ!? な、ななななな、なんのことかしら、むしろ顔色が悪いのはそっちというか……」

「アカリちゃん……?」


 心配そうな大人の前で、あたしは落ち着けぇぇぇっと自分に言い聞かせる。

 大丈夫。

 炎兄はこの高校に立ち寄ることなんてないのだから。

 と、思ったその時。


「おぉおぉぉぉぉぉおい! バカ妹! 今日のオレ様は気分がいい! なので! 画像アップ用に作った、スペシャルデリシャスな弁当! 持ってきてやったぞぉぉ」


 なぜか今日に限って。

 仏心を浮かべてしまった、炎兄の、おしかけウーバー的なイーツがやってきてしまった。


 ヤンキーみたいに、校門の外から大声をあげているようなのだが。

 ねえ? これって。

 フラグよね……?


「お兄ちゃん!?」

「兄貴だって?」

「あ、ああぁぁぁぁあ、あたし、ちょっと行ってくるわ! もしかしたら、また世界がヤバいかもしれないからっ」

「おい! 待て! 全然分からねえよ!」


 あたしが焦っている理由が分からないのだろう。

 だが。

 今はそんなことを言ってる場合じゃないんだってば!


 ◇


 五階の廊下を走る影は二つ。

 シュシュシュンシュン――と。

 制服のリボンとスカート、そして大和ナデシコな黒髪を靡かせ駆けるのは、美少女女子高生のあたし。


 生徒たちが何事かとどよめく中。

 人ごみの隙間を華麗に避けて、あたしはひたすら走っていた。

 本当なら空間転移を使うのだが、さすがに人前でそれはまずい!


 ただのダッシュならたぶん……セーフ!

 ソニックブームすら発生しているが、この際気にしてなんていられない。

 慌ててなんとかついてきた三十路男のミツルさんが言う。


「おい嬢ちゃん、なにをそんなに慌ててやがるんだよ」

「って!? この速度についてこれるの!?」

「な、なめるなよ! これでも、あれから、毎日――訓練を、だな!」


 あ、なんとか本当にギリギリ追い付いてきただけか。

 ミツルさんがぜぇぜぇと肩で息をしているので、速度を落とし。

 こっそり回復魔術と速度強化魔術をかけて。


「あのねえ。逆になんでそんなに落ち着いてるのよ!」

「兄貴が来るってだけだろ? おまえさんも言ってたじゃねえか、次男の月兄は敵に回すなって。つまり長男の方は、わりとまともな部類なんだろう?」


 随分とまあ呑気である。

 あたしは美麗なジト目を浮かべ。


「一応言っておくけど、人間状態のお父さんと人間のお母さんから産まれたあたしは比較的、話し合いとか交渉ってもんを大事にするんだけど。お兄ちゃんたちは別。今、おしかけお弁当男になってる炎兄えんにぃのお母さんは、炎帝ってよばれる炎の大精霊で精霊国の女王陛下でね。炎兄って、本当の意味で異界のプリンスなのよ」

「皇子様だぁ!?」

「そうよ。で、お父さんって三つの心と魂がある存在なんだけど。人間状態のお父さんじゃなく、炎兄は邪を司る魔族状態のお父さんの子供だから……人間に対してもわりと厳しめ、感覚的にはいわゆる純粋な魔族なの」


 とはいっても、お父さんの三分の一は人間だから。

 ちゃんと人間でもあるのだが。

 この辺はややこしくなるから割愛。


「その、なんだ! 純粋な魔族だとまずいのか!」


 あぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!

 一から説明しないといけないのが、きつい!


「精霊って一時期人間に迫害されている時期があるの! それをお兄ちゃんのお母さん、つまり炎帝女王が実力でねじ伏せて、魔王軍幹部になって精霊族の地位を向上させたんだけど。がぁぁぁぁ! もういいわ! ようするに、人間っていう種族にはあまりいい感情を持ってないのよ! そんなお兄ちゃんが、可愛い妹のあたしが学校で虐められてるって勘違いしちゃったら――! どうなると思う!」


 言いたいことが伝わったのだろう。

 ジト目になりつつ、ミツル先生(笑)は頬に汗を浮かべ。


「で……その、炎兄ってのは、つ、つえぇのか……?」

「火力だけなら三兄妹で間違いなく一番よ! 大陸ぐらいなら一瞬で焦土にできる、自慢のお兄ちゃんなんだから!」


 は!?

 しまった、いつもはそんなこと思っても口にしないのに。

 つい、兄自慢をしてしまったあぁぁぁぁぁぁぁ!


「はぁぁあぁぁぁぁ? ぷっつん暴走お姫様のてめえより火力が上だと!? き、聞いてねえぞ!」

「当たり前でしょう! 言ってないし!」

「そういう事は早くいえ!」

「はぁ!? そっちが聞かなかったのが悪いんでしょう!」

「他にも言ってないこととか、あるんじゃねえだろうな!」


 言われてあたしは考えて。


「炎兄は魔道具マスタリー。精霊族の種族能力でね……! ありとあらゆる魔道具を自在に操る能力を持っているわ。そこがちょっと問題なんだけど――!」

「だけど、なんだ!?」


 あとで文句を言われても嫌だし。

 やっぱり一応伝えておこう。


「いやあ、パソコンってさ? 見ようによっちゃ魔術みたいな不思議な道具に見えるでしょう? スマホとかもそうだけど」

「それはまあ――って、まさか」

「そのまさかよ、全世界のパソコンを同時に乗っ取ることも可能よ! やろうと思えばでしょうけど!」


 現代社会に生きる者なら。

 それがどれだけの事件になるか、理解してもらえると思う。

 たった一日、大手の検索エンジン会社がトラブルを起こすだけで、病院や鉄道まで機能を停止してしまう可能性まであるのに。

 全部が止まるのだから。


「おま、おまえ! ふざけるなよ! 世界が乗っ取られるようなもんじゃねえか!」


 やっと理解して貰えたようである。


「そうよ! だから焦ってるんでしょうが! あたしにちょっかいかけてるバカたちのせいで、世界がヤバいのよ!」

「だぁぁぁぁぁぁ! どーして、おまえの周りはそういうのしかいねえんだよ!」

「あのねえ! だからあたしはちゃんとひっそりと生きていたでしょうが!」


 このままじゃあお兄ちゃんが、校舎に入っちゃう。


 いつのまにか並走していたクロシロ三毛が、ニヤニヤしながら窓を指さす。

 いや、肉球だけど。

 ともあれ、よし!


「その手があったわね!」


 そのままあたしは、ミツルさんを魔力で持ち上げ。

 五階の窓を開けてっと。

 文字通り首根っこを掴み、ニヒィっと悪戯猫の顔をする。


「おい、おまえ――なにをするつもりだっ」

「ショートカットよ!」

「いやいやいやいや! さすがに、心の準備がぁぁあああああぁぁぁっ」


 あたしはそのまま、ジャンプした。


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