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第二十話、正体を隠せ! 赤雪姫は転校生♪



 これは――天才美少女で非の打ち所がない女子高生なあたし。

 日向アカリことアカリンが、異能力者の集められている高校に転校して、数日。

 正確には一週間後かな?


 季節は桜並木の花も散り始めて、落ち着き始めたころ。

 桜は散っているが。

 あたしの心は散っていない――。


 既に友達も大勢できて、ゲーム配信も順調!

 大物配信者、ジョージ尼崎さんとのクソゲーコラボも終えて、大満足!

 順風満帆な高校生活を送っていた!


 そんなある日の出来事だった。


 異能力者の学校といっても普通の高校とあまり変わらず。

 あたしは普通の女子高生として暮らしていた。


 けれど、新しくできた友達にも言えない秘密をあたしは抱えている。

 そう――もう分かっているだろう。


 正体を隠しているのだ。


 あの騒ぎであたしは一躍有名になってしまったのである。

 もちろん、正体がバレてると問題は多くなるので、それは隠したまま。

 友達にも隠し事をしている状態になっているわけで。


 それがちょっぴり罪悪感なあたしなのです。


 いっそ、語ってしまってもいいかもしれないが。

 でもやっぱり言えないよなあ。

 このあたしが――コラボ配信で一気に人気配信者になったアカリンだって。


 ふふふ、ふふふふふ!

 いやあ! 有名になるってつらいわね~!


「いや、そっちじゃねえだろ……」

「って! ミツルさ……じゃなかった、池崎先生! いきなりなによ!」


 まるで心を読んだような言葉を投げかけてきたのは、三十過ぎの無精ひげ男。

 あたしの担任かつ担当なイケオジ未満。

 その名を池崎ミツルさんという公務員なのだが。


 彼は周囲を見渡し。

 近くに他の生徒がいないことを確認。


 女生徒には人気(笑)らしい長身の彼が、あたしをじっと見ていて。

 声を潜めて。


「あのなぁ、おまえさんが隠さねえといけねえのは、そっちの趣味配信じゃなくて。この間、あのコンテナダンジョンで大暴れした、赤髪のお嬢ちゃんの方だろうがよ」


 サディスティックな一面を持つ、赤髪の異界姫。

 魔の側面としてのあたしの事だろう。


「ていうか、あたし――もしかして口に出してた?」


 配信を続けている癖だろう。

 ゲーム画面につっこんだりするせいで、たまにうっかり心で思っていることを口にしてしまう悪癖があるのだが。

 それが出てしまっていたのだろうか。


「ん? いや、なんつーか。おまえさんが……すげえ分かりやすい顔をしてやがっただけだよ。これでもオレ、捜査とかそっちが本業なんだからな? いかにも、ちょっと一瞬だけバズって人気になった勘違い配信者っぽかったつーか」

「おいコラ、おっさん――ま、まあそうかもしれないけどさあ」


 なによ、夢ぐらい見たっていいじゃない。

 あたしもいつか、ジョージ尼崎さんみたいな。

 人気配信者になってやるんだからっ!


 ぶすーっと、唇を尖らせるあたしも可愛いわね?


「それはそうと嬢ちゃん。聞きたいことがあるんだが」

「ん、なに? 真面目な顔をして」

「今朝なにかあったか?」


 今朝?

 言われてあたしは考える。


「特に大きな事件はなかったと思うけど――」


 朝と言えば――暴走トラックがあたしに突撃。

 けれどもちろん自動反撃で撃退。

 そのまま蹴り返して沈黙させたり。


 野良暴走異能力者の自動散弾銃が、ズダダダダダ!

 あたしに向かって発射され。

 そのまま反射攻撃で、気づかなかったことにしたり。


 行動不能になる呪いの異能が飛んできたので。

 三魔猫が反応。

 三倍ぐらいの呪詛返しで、呪い返したり。


 そんな――なにひとつ変わらない生活をしていたのだが。


 目の前の男はなぜか不機嫌そうな顔をして。

 ぼそりと一言。


「おまえ……命、狙われてね?」

「何言ってるのよ。あんな三歳児だって怪我しない異能力の暴走が、あたしに効くわけないでしょう? 異能力学校ってこれが普通なんじゃないの?」


 そうはいうものの。

 目線はちょこっとそれてしまう。


 そう――。

 あたしはうまい事、普通のネコを三匹使うだけの非戦闘員の生徒として。

 紛れ込んでいた。

 筈なのだが。


 どうみても、なにものかに狙われているのである。


 ◇


 ところ変わって、いつもの応接室。

 すっかりあたしの休憩スポットとなったここには、クロシロ三毛の三魔猫が陣取っていた。

 あたしの眷属兼、護衛兼、監視役の異世界ネコである。


 バターお菓子の香りが広がる部屋。

 ここには空間を魔術で改造した、巨大な塔が立っていて。

 もふもふモコモコな邪悪トリオが、肉球をギラっと輝かせ。


 くははははははは!


『ぶにゃははははは! どうですかお嬢様! 我らの居城でありますぞ!』

『あ♪ 素敵な我が城、我が塔、我が別荘♪』

『やはりこれがニャいと、落ち着きませんからねえ♪』


 うわあ、本気で我がもの顔ね……。

 あたしは黒髪を掻きながら。

 コメントに困りつつもなんとか口を開いていた。


「ねえ、あんたたち――さすがに学校の応接室に特大キャットタワーを設置するのは、どうなの……?」

『んにゃ? ちゃんと政府の許可を取りましたが、何か問題ニャ?』


 と、キャットタワーに取り付けられた爪とぎでジャリジャリしながらモフモフ白が言う。


「政府の許可、取っちゃったんだ」

『ルールは守らないといけませんので当たり前ですニャ?』


 他の二匹もタワーから降りてきて、決めポーズ!


 三毛がカステラを取り出して、お茶をトトトトト♪

 クロがもふもふのしっぽを揺らし、どでーん!

 持ち込んだパソコンを立ち上げて、お気に入りのネコ動画を閲覧し始めていて。


 うん。

 もうこいつらは。

 ここを自分の別荘だと思っているようである。


 まあ実際、ここはある程度自由に使っていいと公安からは言われているのだが。

 これは正直、どーなんだろ。


「って!? この子たちのコントに付き合っている場合じゃないわ!」

「おう、やっと戻ってきたか。おまえさん、考え込むとずぅぅぅっと黙り込んじまう癖。直した方がいいぞ?」


 と、ニヤニヤしながらミツルさんである。


 ん?

 そこまで長い間考えていたわけではないと思うが。

 まあいいや。


「とにかく、問題は決まっているわ! 議題です! なぜあたしが狙われているのか!」

「おう、やっと自覚してくれたか」


 ミツルさんの話によると、あたしが転校してきたその日から。

 すでに攻撃は始まっていたらしいのだが。

 ……。


 みなさんは。

 空を飛ぶ羽虫が。

 塵のような砂粒を、たった一粒ぶつけてきたとして気づいたりするだろうか?


 鋭い人は反応するかもしれないが。

 大抵は気にせず、そのまま通り過ぎると思う。


 それと同じなのだが。


「いったいなんのつもりなのよっ、誰だか知らないけど、ここの生徒ども!」

「気づかねえおまえさんも正直どうかと思うが――。すまねえな、転校一週間で既にこんなことになっちまって」


 下げる頭と謝罪はいっちょ前なイケオジ未満。

 ミツルさんが悪いわけではない。

 おとなのかんろくを見せつけながら、あたしは女神の如き優しさを発揮する。


「まあ仕方ないわよ。あたしの美しさが罪――これはきっと嫉妬ね!」


 ビシっと決めポーズをするあたしに釣られ。

 三魔猫もビシっとドヤポーズ!

 ふ……っ、決まったわね!


 しかし、本当に命を狙った攻撃だと判断したのか。

 クロシロ三毛がすぅっと二足歩行になり。

 紳士魔猫、いわゆる異界の幹部魔猫の顔になり。


 慇懃に礼をし、ぎしりと邪悪な笑みを作る。


『それではお嬢様。煩わしい羽虫は黒魔公デュークたる我が、撃ち落として参りましょう』

「いや、いいわ――相手はまだ子供よ? 慈悲をかけるのが姫としての度量じゃない?」


 あたしもまた、魔の側面の声で答えていた。

 凛とした皇族の声だったからだろう。

 それを主としての命令と受け取り、黒魔公の名を出したクロも静かに頭を下げ。


 ぶにゃん!

 いつもの顔に戻り。


『お嬢様はあいかわらず、人間にあまあまですニャ~』

「あたしはこっちの法律とか、規則に従ってるだけよ。郷に入っては郷に従えっていうでしょ」


 興味を持ったのか。

 ミツルさんが、こちらのやりとりをじっと見て。


「んだ、その黒魔公ってのは」

「この三匹は、異界の公爵。デュークなんちゃらってゲームとかでもたまにあるでしょ? この子達、まんまあのカテゴリーの魔猫なのよ。それなりに地位が高いって事」


 ドヤチャンスと思ったのか。

 キャットタワーによじ登った我が護衛達が、牙と肉球を光らせ。


『ぶにゃははははは! 愚かな人類よ――我らの偉大さ、やっと理解したか!』

『本来なら、我らとの拝謁すら敵わぬのだぞ!』

『分かったら頭を垂れるといいのニャ!』


 ぶぶぶ、ぶにゃはははははは!

 三魔猫がドヤ顔をしている。


「そんな奴らを護衛に使ってるって、おまえさん、本当に深窓のご令嬢なんだな」


 そんなご令嬢様の頭を、気にせず。

 揶揄うようにポンポンする男がいるのだが。

 はぁ……まあいいけど。


 そんな中。

 ふふふふっと微笑むのは、ビジネススーツ姿の巨乳美女な大黒おおぐろさん。


「話を戻してもいいかしら? 確かにアカリちゃんのかわいさに嫉妬しちゃう人もいるでしょうけど。たぶん原因はこれね」


 言ってクッキーかすの散らかるテーブルに出されたのは、資料の束。

 そしてタブレット端末から選択されたデータファイル。

 そこに記されたタイトル名は。


「校内に広がる赤雪姫の噂? なによこれ?」

「ほら、アカリちゃん。例のコンテナダンジョン事件の時、異能力者の生徒にも協力をして貰っていたでしょう? その時に、赤髪の姫様モードのあなたを見られているから。彼らは姫様モードのあなたを探しているんじゃないかしら」


 動画のファイルがちらっと映っている。


 ファンタジー世界のお姫様のように美しい赤い髪をした。

 雪のような白い肌の美少女異能力者の噂。

 か――。


 当然、そこにはサディスティックモードなあたしがいて。

 特殊部隊相手に無双しちゃってるわけで。


「なるほど、ねえ……それでこのタイミングで転校してきたあたしが、その赤雪姫と疑われているってわけか」


 まあそりゃあ、本人なんだし。

 疑われるのも当然か。


 それにしてもだ。

 正体が判明していない謎の美少女。

 赤雪姫って――。


 えへへへへ~♪ なんかすっごい、主人公って感じよね!

 妙に勘のいいイケオジ未満がこっちをジト目で見ているが。

 あたしは気にしない!


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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりケトス様に似て常識と感覚がずれてるのですねぇ それにしても、ジョージ尼崎さんはなんやかんやでネームドキャラだし何かしらのキーパーソンになりそうな予感……! [気になる点] 護衛の…
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