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第十四話、イケオジ未満、はじめてのダンジョン。



 クロシロ三毛の三魔猫を先行させた、道中。

 あたしとミツルさんは湾岸地帯を、ダッダッダッダ!

 タロットカードの流れを追って、現場を追跡していた。


 潮の香りが、ツンとあたしの鼻を衝く。


「たぶんここよ!」

「鍵が閉まってやがる、ちょっと待ってろ」


 構わずあたしは、強化した回し蹴りで――。

 ダン!

 コンテナを開けると――。


 どうやら、当たりのようである。


「なんだこりゃ!? 空間が歪んでやがるぞ!」

「ダンジョン領域よ――なるほどね、空間を捻じ曲げて現実世界から隔離した空間で悪さをしていたのよ」


 危険がないか周囲を確認すると……。

 既に倒れている人間が複数いる。

 見張りだったのだろうが、あたしのネコにやられたのだろう。


「こんなところでコソコソしていたから、能力者でも行方不明者を発見できなかったのね」


 いやな言い方だが、異能力者の追跡能力ならば。

 被害者の死体を発見することも簡単な筈だったのだ。

 まあ、行方不明になってる人が死んでいるかどうかは、また別の話だが。


「――って、なにそのまま入ろうとしてやがるんだ! 応援を呼ぶぞ」

「待って、足手まといを増やしたくないわ」


 言いながらもあたしは次元のゆがみに足を踏み入れる。

 その瞬間。

 普段は抑えている力が解放される。


 虹色の輝きを纏いながら解き放ったのは――。

 聖剣。


「おいおい、マジかよ……マジでファンタジーじゃねえか」

「だーかーらー。そう何度も言ってるでしょ? これは、どこにでもある聖剣。日本社会じゃ銃刀法違反になるから使えないけど、ダンジョン内は治外法権♪ ファンタジー世界の法則が適用されちゃうからねえ~、あたしもこうしてちょっとは本気を出せるってわけ!」


 勝利のブイサイン!


 あふれる魔力で瞳と髪を赤く染め。

 輝く姿は、さながら変身!

 バチリバチリと魔術波動を纏いながら、ふっと微笑するあたし。


 とっても美少女戦士よね?


「ついてきなさい、そこの人間! 異界の邪神――大魔帝ケトスの娘、なおかつ勇者ヒナタの娘でもあるこのあたし! 日向アカリがハッピーエンドへ――連れて行ってあげるわ!」


 ビシっと決めポーズ!

 いつもならウチの魔猫も同じくポーズを取るのだが、既にダンジョンに潜入しているのだろう。

 まともに顔色を変えて、ミツルさんが唸る。


「ん!? じゃ、邪神の娘で勇者の娘だと!」

「あらそうよ? 言ってなかったっけ?」


 あー、……。

 魔王軍最高幹部だとは伝えたけど、邪神だとか。

 お母さんも勇者だったとか……。


 ……。

 言ってないわ。

 そういや。


「あははははは! まあいいじゃない、こういう女子高生だってたまにいるわよ!」

「しかも、髪と目も赤くなって、別人みたいじゃねえかっ」


 細かい所を、うん。

 しつこい男である。


「安心しなさいってば! 邪神やみ勇者ひかりの力を両方使えるんだから! 現代社会とかいう、面倒な制約を受けなければ、無敵! ガチで強いしぃ~、期待してくれていいわよ?」


 ウインクで誤魔化して――っと!

 指を鳴らし。

 強制的にミツルさんをパーティー加入。


「お、おい! 本当に二人で意味わかんねえダンジョンに行くつもりじゃねえだろうなっ」

「あきらめなさい、あたしを巻き込んだのはあなたなんですから!」


 そのままあたしはイケオジ未満を巻き込み。

 ダンジョンの奥へと向かった。


 ◇


 コンテナの中のダンジョンの構造は、オーソドックスな神殿タイプ。

 邪神祭壇。

 そんな言葉を想像して貰えば、まあわりとそのまんまである。


 しかし、それはいいのだが。


 なぜかあたしの前を慎重に歩くミツルさんが、息をひそめ。

 頬に汗を流しつつ、ごくりと喉を鳴らしていた。


「って、あんた――レベル二百しかないくせに、なに前に出てるのよ?」

「バカ! 女の子を先に行かせるわけにはいかねえだろう」


 ひよっこのくせに、まあ言葉と行動だけはいっちょ前なんだから。


「あのねえ、あなたを連れてきたのはあたしの正当性を証明するため、証人みたいなもんだし。先に死なれちゃったら困るんですけど」

「今のオレの顔に、死相は出てないんだろう? じゃあ大丈夫って事じゃねえか」


 あぁ、これだからファンタジー素人は困る。


「死なないからって無事とは限らないでしょうが。あなた、十年間石化したまま、庭先で季節の移り変わりを観察したい! とか、そういう趣味はないんでしょ」

「だけどな。おまえさんがどれだけ強いのかは知らねえが、危険がないか先に歩く――それが年上ってもんなんだ」


 この男。

 真顔でこれを言っているのだ。

 調子狂うなあ。


 だぁあぁぁぁぁぁ! 良い人だけどっ、こういう時は空気を読みなさいよ!

 仕方ない。


「しゃーないわね、ちょっとその拳銃を貸して」

「いや、一般市民に銃を渡すのは」

「ここは治外法権! もうファンタジーの領分なんだからいいの!」


 奪い取るように銃を受け取り。

 あたしは髪を――ぶわっ!


 ネコ耳、ネコしっぽのように赤く染まった髪を靡かせ。

 赤き瞳を輝かせる。

 手を握り、神に祈るように願いを込めたのだ。


 《聖女の祈り》が発動する。


「主よ――汝の信徒に祝福を」

「んだ、いきなり聖女みたいに祈りやがって――祈祷か?」


 無精ひげを長い指で摩りながら、間抜けな声をあげるバカを無視して。

 ……。

 いや、いつまでも、じぃぃぃぃぃぃと眺めているので。


 諦めたあたしは言う。


「みたいじゃなくて、そのまんま、魔術体系でいうと聖女の祝福。あなたの武器に神の奇跡を授けたのよ」

「祝福って……おまえ、魔王の関係者なんだろう?」


 まあ、そう思われても仕方ないか。


「そりゃそうだけど、ファンタジーな世界では神と魔の戦いなんてとっくに終わってるのよ。こういう言い方もなんだけど、ゲームでいうなら表ステージも終わって、裏ステージも隠しステージもクリア済みの世界。光と闇とか言う分類で差別する、なーんて心さみしい文化もない、平和な世界らしいのよ」


 あたしもちゃんと詳しい話は知らないが。

 この世界よりよっぽど平和な世界なのである。


「とにかく、これである程度はまともに戦えるはずだから、ちゃんと装備しといてね。あと、レベル限界も上げておいてあげるから――ちょっとこれ食べといて」

「なんだこの……なんだ?」


 あたしが差し出したのは、保存しておいたステーキ肉。

 が――乾燥しまくった、物体である。


「ドラゴンステーキよ、みたことないの?」

「ステーキってより、すすだろ、これ……」

「いいから食べなさいっ、それを食べれば、あなたの中途半端なカンストで止まってるレベルキャップが解放されるからっ」


 言ってあたしは男の顔を掴んで、ガガガガガ!


「んげ、ぐお! やめ、ぐわぁぁぁぁぁぁ!」

「よーし食べたわね! それじゃあ行くわよ!」


 噎せ込んでいる男を無視し、引き摺り。

 あたしは上機嫌で先を進んだのだが。

 なぜかあたしの影の中から、先行していた三猫の気配がする。


 ぽちゃんと影から顔をだし。

 紳士な声でクロが猫口を動かす。


『お嬢様、少々お話が』

「行方不明者が見つかったの?」

『いえ、人間に魔竜の肉を与えるのは禁止されているのですが――よろしかったのですか?』


 あ。

 そういや、能力倍増効果があるし。

 突然、変な力に目覚める人もいるから禁止されてるって、たしかにお兄ちゃんも言ってたわ。


 このクロが、いつもの口調ではなく真面目な口調で言ってるからには。

 うん。

 ガチでやらかしたっぽいな、これ。


 あたしは動揺を完全に隠し、勇者としての声で言った。


「超法規的措置よ」

『は、はぁ……まあお嬢様がそう言うのでしたら、ワタシの口からこれ以上は』


 告げて、スゥっと影の中に戻っていくクロ。

 ……。

 よーし、ごまかせた!


 おお、便利な言葉ね!

 これが学習効果というやつである。


 噎せまくっていたミツルさんが、涙目になりながらも前を向き。


「おい、なんか……っ、前の方から来てやがるぞ」

「この気配、アンデッドね。敵は死霊使いなのかしら」


 通路一面にあふれ返る死霊たち。

 ワイトやグールやスケルトンといった、特筆することもないごく一般的な魔物だった。

 有象無象を赤い瞳で睨み、あたしは告げる。


 声が、ダンジョン内を揺らした。


「まあいいわ、邪魔だから消えなさい」


 相手からすると、魔の姫君が突然赤い瞳を蠢かし。

 顕現。

 消えろと言っているようにみえるだろう。


 宣言がそのまま因となり、魔術が発動する。

 雨のような音が一瞬響き。

 空間が、歪む。


 ザザザ、ザァァァァアアアアアァァァッァア!


 紙やすりで魂を削られるような感覚なのだろう。

 身もふたもないが、敵は消滅。

 完全殲滅である。


「ほら、先に行くわよ。ってなによ、その顔は」

「い、いま、なにしたんだ!?」

「なにって、闇の霧で敵を葬り去る《灰塵かいじん焦土しょうど》よ? 便利な高範囲、無差別殺戮攻撃魔術だけど、知らないの?」


 これ、実はめっちゃドヤってるのだが。

 あえて普通にし、ドヤらないことで、より一層のドヤを得る手法なのだ。

 我が家の家訓である。


「いや、おまえさん……めちゃくちゃ口がぷるぷるしてるぞ?」

「え!? うそ! あんた心を読む能力者なの!?」

「ちげえわ、バカ。そんな分かりやすいドヤ顔をしてたら誰だって分かるっての」


 言って、ミツルさんは苦笑をし。


「なんだかんだで、やっぱりお嬢ちゃんはお嬢ちゃんなんだな。髪も瞳も変わっちまってるが、中身は全然変わってねえじゃねえか」

「なに、オレはちゃんと分かってます~みたいな顔で、なははははって笑ってるのよ!」


 こ、この反応は予想してなかったぞ!

 やはり、人間じゃねえな、とか。

 畏れられるか、逆に狂信し始めるかのパターンだと思っていたのだが。


「それで、今のはオレも使えるようになるのか?」

「まあ、修行すればいつかは使えるんじゃないかしら。レベルアップすればってことね」

「どれくらいで覚えられるんだよ、なあなあ!」


 こいつ、食いつきいいなあ。


「今のあなたがレベル二百を超えたばかりだから、後三百ぐらいあげればたぶん使えるわよ」

「ん? するってーと……おまえさん、レベル五百より上って事じゃねえか」


 余計なことに気付く男である。


「言ったでしょ。あたしは邪神と勇者の娘だって。ファンタジー世界でもちょっと特別なの。さっきも言ったけど、現実世界ならともかく銃刀法違反が適用されないこういう空間なら、本来の力を取り戻せるのよ」

「こんなガキンチョがねえ」


 ペンペンと、ネコの背を撫でるように、あたしの頭を軽く叩いているのだが。

 はぁ……、あんまり怖がられても嫌だけど。

 こう、親戚のおじちゃんみたいな反応も、それはそれでアレね。


 道を進むと次々と死霊軍団が襲ってくる。

 念入りに守りを固めていたのだろう。

 が――。


 合流したウチのネコ達が、にゃっはーっと肉球を伸ばし。

 爪をシャキーン!


『ぶにゃははははは! 控えよ。控えよ! お嬢様のお通りなのニャ!』

『ふははははは! 頭が高いとはまさにこのこと!』

『ニャヒヒヒヒ! 人間ごときに使われる三下死霊どもが! おとなしく輪廻の輪に戻るがいい♪』


 あたしが直接手を下すことなく、邪悪なる魔猫のクロシロ三毛が。

 クハハハハハ!

 天地を唸らす轟雷を纏ったネコタックルや、爪攻撃や、魔術爆撃で一撃!


 モコモコな毛を膨らませた魔猫の影がダンジョンを踊る。

 まさにネコ無双な現場なのだが。

 銃を構えても即終わってしまう戦闘に、ジト目でミツルさんが呟く。


「おまえさんもエグイが、こいつらもエグイな……」

「そりゃまあ、ラスボスの娘とそのガーディアンが、初級ダンジョンに入り込んでるようなもんだし……」


 ちょっと大人げない気もするが。

 行方不明者が出ているのだ、相手に同情する必要もなし。

 こうなんつーか、遠慮せずにぶっ飛ばしていい相手っていいわよねえ。


「おい、悪役令嬢みたいな顔になってるぞ」

「失礼ね。あたしは転生とかはしないわよ」


 ダンジョンを進むと分かれ道が見えてくる。


「どっちにあの公安クソ野郎がいるんだ」

「ちょっと待ってね――」


 あたしはダンジョンマップを表示した。



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