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第十二話、とある美人少女の肩透かし



 やって参りました、異能力者の学校!


 と言っても、スキル訓練!

 とか。

 魔術訓練!


 とかがあるわけではないらしい。

 まあ異能力を持つ青少年を野放しにしないための学校。

 という側面があるのだろう。


「なーんだ、帽子をかぶって適性検査とか、そういうイベントはないのね」


 廊下を退屈しながら歩き、黒髪を太陽に反射させ。

 キラキラ~っと輝くあたしも、やはり愛らしいわけだが。

 大股で歩くミツルさんがジト目で言う。


「あのなぁ、もしそういうのがあったら――おまえさん、正体とか秘密とか、色々とまずいんじゃねえか?」

「冗談よ――でも、せっかくなら魔法学校的な場所を想像しちゃうじゃない」


 ま、だからこそ。

 ここは現代日本なのだろう。


「まあ希望申請すればそういう訓練も一応はできるぞ」

「修行ってこと? 一応あたしも毎日やってるけど! ねえねえ! ちょっと興味あるんだけど!」


 体を動かすのは好きだし。

 なによりゲーム配信の前に、軽く魔術をぶっ放すのも気分が落ち着くし。

 それになにより、やっぱり他人と勝負して勝つのは嫌いじゃないのだ!


 あははははは!

 っと、仁王立ちになるあたしに。


「とはいっても、おまえさんのレベルはSSで登録されているからな。訓練にはレベルの提示も必要なんだよ――で、レベルSSっつーと、オレランクの使い手になるわけだからな。対戦を受けてくれるヤツがいるかどうか、怪しいな」

「えぇぇぇっぇえ! せっかくあたしの華麗なる体術を披露しようと思ってたのに!」


 ビシっ――と!

 カンフーポーズを取るあたしに、クロシロ三毛もビシっと決めポーズ!


 そんな会話をしつつも、あたしたちは校舎をぐるっとしているのだが。

 ちょっと高級そうではあるが――。

 本当に普通の高校である。


 それよりも気になるのは、複数の視線である。


 美人で愛らしい女子高生のあたし。

 横を歩く三匹の魔猫。

 そして背の高いイケオジ未満なおじさん。


 人目はそれなりに引いている。

 その中には明らかな恐怖が混じっているのだが。

 はて――。


「なんかあたしたち、悪目立ちしてない? もしかして、危険度SSSって情報が洩れ伝わってるんじゃないでしょうね」


 うざい視線を一瞥しつつもあたしは言った。

 しかしミツルさんは苦笑しつつ。


「安心しな――生徒間での危険度やレベルは基本的に秘匿されてる。無用な生徒同士のトラブルを避けたいからな。さっき言ってた訓練でもすりゃあ情報開示で対戦相手にはバレちまうが、普通にしてりゃあバレねえよ」


 ようするに大人しくしていれば問題ないのだろう。

 楽勝である。

 ミツルさんが、かっかっかっと豪胆に笑いながら言う。


「ま、人目を引いてるのはオレがイケてるお兄さんで、そっちのネコどもが見た目だけは可愛いからだろうよ!」

「なるほど、あたしがイケてる女子で――ウチのネコが可愛いから見られてるってことね~!」


 二人して、ははははは!

 ……。

 二人して、目線をバチリ。


「おまえさん、ちょっと自画自賛が過ぎるんじゃねえか?」

「あら、おじさんが年甲斐もなく、女子高生に対抗意識を燃やしてる方がアレなんじゃない?」


 イケオジ未満のくせに生意気なのだ。


「はぁぁぁ!? 対抗意識っていうがなっ、これでもオレはそれなりにモテるんだぞ! おまえさんは、まったく、これっぽっちも! 尊敬も畏怖もしてねえみたいだが! ”あの”煙の魔術師っていうだけでそれなりに名前の通りもよくて、皆、怖がるぐらいにはだな――」

「あ、あああ、あんたを怖がる!? ぷふふ~! ないでしょうっ! あー、あたし知ってるわよ! こういう時って、嘘乙~っていうんでしょ!」


 ゲラゲラとつい下品に笑ってしまったのである。

 あたしのネコ達も同上。


「がぁぁぁぁ! てめえらは、眷属ともども本当にそっくりだな! 見た目だけは可愛いから質が悪いんだよ!」

「ちょ、ちょっと! いきなり可愛いだなんて、そんな当然なこと言われても……っ」


 美しさって罪である。

 ふふふっと勝ち誇るあたしを、ビシっと指差し。


「いいかっ。老婆心で言ってやるぞ、おまえ、その性格マジで少しはなんとかしとけよ。残念ななんちゃらとか、口を開かなければってカテゴリーだからな?」

「それでも見た目は評価してくれてるって事ね、もう、素直じゃないんだから~♪」


 コントをしているように見えるのか。

 ざわざわざわ。

 更に周囲の目を集めてしまった。


「とにかく、ここを離れるぞ」

「異議なし」


 あたし達はそのまま校舎を進む。


 ◇


 主要施設を案内して貰っても、やはり感想は普通の高校。


 まあ壁のあちこちに結界や、呪殺防止、いわゆる呪い返しの呪詛がかかっていたり。

 目に見えない神獣などが徘徊しているし?

 よく見れば、転移妨害の術式がコンクリートに埋め込まれていたりもする。


 ただ、そういう多少は異能力者っぽい要素もあるが、ほとんど普通。


 拍子抜けした。

 というのが素直な感想だった。

 それよりも、この男の方が問題だった。


 たしかに、この池崎ミツルというイケオジ未満はよく目立つ。

 生徒からかなり畏れられているようだ。

 その反面、女性陣からの好意の目線も複数感じられる。


 まあこの男。

 もしかしたら、多少は顔もいいのかもしれないが。

 ちょっと想像してみてほしい。


 いつも海外系ファンタジーな美形に囲まれている生活を。

 あたし、お父さんもお兄ちゃんも、その周りもみんなガチの異世界系の美形のせいで、慣れてるから。

 あんまり、よその男の人の美醜ってわかんないのよね……。


 ゲームとかアニメの二次元キャラなら、イケメンとかもわかりやすいんだけど。

 このおっちゃん。

 なんか、オジサン系主人公の、ライトノベルの主役みたいな感じっぽいのよね。


「ん? なんだオレに惚れたか?」

「マジレスすると。あと五年はしないと、抽選対象にもならないわよ?」


 ミツルさんが眉を顰める。


「マジレス……って、ああ、そういやゲーム配信やってるとか言ってたな。その影響か」

「まあねえ、ネットの世界ってさあ――ある意味で平等じゃない? あたしみたいな異能力者でも、ネットの中ではそんなこと気にしないで普通にみんなと話ができるし。だからなんか、気に入っちゃってるのよねえ」

「そうかもしれねえな」


 妙に納得してくれたのだが。

 はて。

 あたしが普通に生きたいと思っていると察してくれたのか。


 本当にバツが悪そうに、彼は言った。


「なんつーか、アレだ……巻き込んじまって、悪かったな」

「まだ気にしてたの?」

「あのなあ――たぶんまったく気にしてなかったら、それはそれでおまえさん、滅茶苦茶キレてただろ?」


 よくあたしを理解してきている。

 実によし。


「にひひひひ、そういうところは嫌いじゃないわよ! 好きでもないけど!」

「どっちなんだよ、ったく」


 と、青春の一頁をこっちは送っていたのだが。

 気配があった。

 いわゆる敵意に分類される、ピリピリと刺さる空気である。


 そこには四十台ぐらいの、イケオジがスラっと立っていて。

 メガネをクイっとしていたのだが。

 潔癖そうな弁護士風の男で――どこかで見た顔である。

 

 冷たく低い男の声が、校内に響く。


「煙の池崎、キサマに少し話がある」

「ああん? オレにはねえんだが?」


 ああ、思い出した。

 この間の愉快な悪魔使い事件の時に、待ち合わせをしていた人物。

 あたしの眷属魔猫に救出された公安さんである。


「例の少女はこちらで預かる、そう申請したはずですが?」

「はぁ? 聞こえねえなあ。オレたちに助けられて、おねんねしてた公安様が何か意見をおっしゃってるってか?」


 公安との言葉に。

 ビシっと、イケオジの額にイカリマークが浮かぶ。


「生徒たちの前でその言葉を出すなと言っているでしょう」

「そりゃあすみませんねえ。あんまりにも情けなかったんで、てめえが、公の字だってことを忘れそうになっちまってたんだよ」


 生徒の前、ということはこのイケオジも講師なのだろうか。

 それはともかく、こいつら……。

 たぶん根は仲が良いな。


 犬猿の仲に見えるが、互いを信用しているって空気がバリバリである。


 まあ、そういうのを指摘するとムキになるだろうから、しないけど。

 イケオジとイケオジ未満の口論を眺め。

 あたしのネコが一言。


『こいつら、仲良しだニャ?』


 あぁ……言っちゃった。

 うちのネコ、わざと空気を読まないからなあ……。


「は!? 誰がこんな公安クソ野郎と仲が良いって!?」

「はい? 心外ですね、そこの……――ネコ?」


 ここでようやくあたしの存在に気付いたのだろう。

 イケオジ公安はすぅっと頭を下げ。


「初めましてお嬢さん、君が僕たちを助けてくれたという能力者ですね。あの時は僕と部下を助けていただき、ありがとうございました」

「日向アカリよ、そちら様は?」

「っと、失礼――普段から名乗らない性分でしたので。とりあえず、ヤナギとでも呼んでいただければ」


 あたしの《鑑定の魔眼》の結果と本名が違うが。

 まあそれは仕方ないか。

 レベルは百前後なので、この人たちのレベル基準だとSということだろう。


「僕の顔に何か?」

「あははははは、いえいえ、気にしないでください。イケオジだな~って思ってただけですから♪」

「って、おい、てめえ――なんでこいつには敬語なんだよっ」


 イケオジ未満に、へんと皮肉る顔をし。


「あのねえ、いきなり罠にはめてきた人と。ちゃーんと丁寧にお礼をしてくれたイケおじさまとの差ってやつを、ご存じないの?」

「おまえさん、本当にその性格なんとかしろよ……?」


 こっちをじっと見ていたヤナギさんが、慇懃メガネを光らせ。


「アカリお嬢さん、不躾で申し訳ないのですが。あなたは本当にCとは関係ないのですね?」

「あたしってば。まーだ疑われてるんだ。前にも言ったでしょう、本当に知りませんってば。大黒さんのチェックも受けましたよ?」

「それでも、その時は気づいていなかった、という事もあるかもしれませんので――」


 まあ大黒さんの能力はあくまでもウソかどうかを判定する異能力。

 そういうこともあるが。

 ヤナギさんは考え。


「僕も軽くですがウソを見抜く能力があるのです、試させていただいても?」

「もちろんよ」


 二重でチェックを受ければ、完璧だろう。

 ったく、本当にCとかいう存在は迷惑な奴である。

 ヤナギさんはタロットカードを顕現させ、一枚のカードを自らの額に当てる。


 ジャスティス、正義のカードを使用しているようだ。

 魔道具の代わり。

 媒介の持つ属性を能力として行使する、異能力なのだろう。


「たしかに、真実――ですね。失礼しました。疑うのが仕事でして」


 なぜかミツルさんが、ほっとした様子をみせているが。

 ともあれ、ヤナギさんにあたしは言う。


「疑いが晴れたならいいんですけど、本当になんなんですか? Cって」

「申し訳ない。関わりがないのなら、なおさらキミに語るべきではないでしょう。情報を持っていること自体が、危険になる可能性もあるでしょうし。疑ったこちらが悪かったのです、どうか忘れて下さい」


 危険があるなら、聞くな!

 とは思いつつ、イケオジなので許しましょう。

 うん。


「疑いが晴れたところでもう一つ、ご迷惑をおかけしても?」

「ん? あたしにってこと?」

「ええ、お嬢さん。データ登録されていない、あの廃墟でみせたという――あなたの本当の能力をお借りしたいのです」


 んーむ、やっぱり。

 あの時にダンジョン化させたりとかしたのは、まずかったかなあ。

 てか、たぶんだが――Cの事は話のついでで、本題はこっちだったのだろう。


 すかさずミツルさんが割り込んできて。


「待てよ、この嬢ちゃんはこちらで預かるって上にも約束させたはず。てめえ、そういうのはズルっていうんじゃねえか?」


 対するイケオジも。

 スゥっとメガネの中心を、神経質そうな指で上げて。


「それは僕が寝ている間に、勝手にそちらが決めてしまっただけでしょう」

「てめえが、寝てたのが悪いんですぅぅぅぅ!」

「下品な顔を近づけるのはやめてください、タバコくさい、気持ちも悪い。撃ちますよ」


 バチバチと視線がぶつかり合う中。

 あたしは言った。


「とりあえず話を聞くだけってのはありかしら? で、本当にあたしの力が必要ってことなら、池崎さんも同行するって条件で、受けてもいいわよ」


 まあ事情を聞いて、くだらない事なら断る。

 受ける価値があるのなら。

 池崎さんの顔も立てて、同行するなら承諾する。


 悪くないあたしの意見に、ヤナギさんは頷き。

 声を細め――。


「それで結構です。実は例の行方不明事件で、協力を……っとなんですか、そちらの電卓を取り出してニヤニヤしているネコ達は」

「あ、えへへへへへ! 詳しいお話を聞く前に~、ちょぉぉぉっといいですか?」


 あの時と同じように商談を開始!

 たしかに例の行方不明事件という言葉が聞こえた。

 これは絶対に面倒な依頼!


 ならば! それ相応の対価も必要な筈!

 てなわけで――値段を釣り上げるあたしとクロシロ三毛を見て。

 なぜかイケオジさまは、あたしをジト目で眺めていた。


 その後、内容が内容だけに場所を移し。

 本格的な値段交渉も開始。


 青褪めていくイケオジを見て。

 ミツルさんは爆笑した。


 ◇


 事件を追っていた筈のヤナギさんが行方不明。

 消息を絶った――。

 そうあたしが聞いたのは、翌朝のことだった。


 当然、タイミングが良すぎる。

 彼は何かを掴んでいて――。

 多少強引にでも、あたしに接触を図ってきたのだろう。


 しかし――転校前の学校案内の時点で、いきなり事件に巻き込まれてるし。

 あたしって。

 どうしてこう、トラブル巻き込まれ体質なんだろうか。

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