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第百十話、最終決戦! ~元凶姫と黒幕達と、ラスボスと~その4



 時間稼ぎをしろ!

 とはいうものの、やることが! やることが多い!

 こっちがやるべきことは世界を守る結界を維持しつつ、ビームを防ぎ、なおかつ攻撃で相手の足止め。


 作戦の目的はお兄ちゃんたちの到着。


 というか、どちらかといえば炎兄の到着が主な目的となっていた。

 炎兄は白銀の魔狼ホワイトハウルおじ様の愛弟子。

 主神たるおじ様は世界を守る魔術――結界魔術の達人、その教え子である炎兄も当然結界を得意としている。


 あたしが満足に動けていないのは、この結界の維持が原因なのだ。

 その結界部分を炎兄に任せるなりすれば!

 一気に戦況はひっくり返る。


 のだが。


 あたしは結界の外にチラリと目をやっていた。

 そこにあるのは、人の群れ。

 ネコ属性もある、あたしの耳には彼らの声が届いていた。


「うわ、マジ! あれ赤雪姫じゃない!?」

「つーか、一年生の日向さんっしょ。なんかマジもんのファンタジー世界の人らしいって有名じゃない」

「異界の姫様なんだってー」


 そう。

 どうせ結界外ならどこにいても同じだからと、ギャラリーが集まっているのである。

 そしてそこにいるのは、大抵が知った顔。


 というか、学校の生徒である。


 暴徒事件を鎮める段階だったときに、ホークアイ君が札束アタックで役に立ちそうな異能力者を集めていたのだが。

 当然、それってウチの学校の生徒が大半なわけで。

 結界の外に見知ったクラスメイトの顔と、直接面識はないが見たことのある生徒の顔が並んでいたのだ。


 政府が多種多様な異能力者を集めていたおかげだろう、ウチの生徒が役に立つ場面はかなりある。

 が、正直これって。

 どうなんだろう。


 生徒の誰かが、いつのまにか異能力で建っていた売店の横。

 購入しただろうアメリカンドッグを齧りながら、あたしの横を指差し。


「で? なんで池崎先生はあんなに邪悪になってるわけ?」

「さあ? でもどうせ赤雪姫がなんかやってるんでしょ? いつものことじゃん」

「あー、わたしー! 動画とっとこう! 池崎先生、ワイルドじゃない!?」


 どう見てもあたしたち。

 本物の異世界人の魔術戦として、興味津々に観察されてしまっているのだ。

 あたしは魔導書をバササササっとゲームっぽく開きつつも、くわっと吠えていた!


「あのねえ! あなたたち! なにかあったら手伝ってもらうけど、遊びじゃないんですからねっ! 絶対に結界の中に入ってこないでよ、冗談抜きで蒸発しちゃうんだから!」

「はい、でたー! 赤雪姫のツンデレ!」


 こ、こいつら!

 異能力者だから、こういう事態にもなれていて。

 神経が図太い。


 まあ巨乳秘書な大黒さんが、生徒たちが危険区域に入ってこないようにしているし。

 実際、彼らの異能が何度かこの戦闘でも役に立っているから、どっかに行けともいえないし。


 池崎さんが、はぁ……っと呆れ顔で言う。


「あいつら、嬢ちゃんが散々学校で暴れてるから。こういう事に慣れて感覚狂ってるんじゃねえか」

「人のせいにしないでよ。異能力者って結構、変人が多いじゃない」


 さて。

 ギャラリーが次々と集まってきているが。

 言い換えればこっちの手札は増え続けているので、勝機はある。


 あたしは戦いに意識を戻す。


 相手の目的は支離滅裂、思考を読めないタイプなのでどこを攻撃するかもわからない。

 ランダムで突如世界崩壊規模のビームをうってくるわけで……。

 戦術を立てることができない相手って、めちゃくちゃ厄介なのよねえ。


 そんなわけで!

 天体魔術を恒常的に降らせ続けるあたしは、赤雪姫モードでキラキラキラ。

 次々と足止めの魔術を連発!


 頭上に浮かべたあたしの本体。

 赤き魔猫が、うにゃぁぁぁぁっと瞳を開き。

 カカカカカ!


「逸話改竄:”《降り注ぐ(ダモクレス)糸剣乱舞(の剣よ)!》”」


 箒星落下だけでは足止めも効かなくなってきた。

 こちらも攻撃を追加!

 逸話を好きなように改竄して再現する魔術、逸話改竄で剣の雨をザババババ!


 あたしは邪悪で美しい姫様スマイル!


「うふふふふ、あははははは! さあ慈悲を乞いなさい。あなたの終わりを彩ってあげる!」


 圧縮された天体。

 魔力によって生み出された剣。

 二つの魔術が落ちるという共通項を起点に、相乗効果を起こして落下!


 シュシュシュシュ!

 シュシュシュシュ!

 ジャジャジャジャ!


「更に追加よ! 《開門しなさい、死したるノア》!」


 あたしの魔術で割れた空から現れたのは――暗澹とした漆黒色の門。

 開いた扉から死霊の群れが顕現する。


 骨だけのスケルトンやグール、死霊騎士といった面子が行ったのは――上空から即死属性の投擲武器攻撃。

 投げて!

 投げて!

 投げ続ける!

 いわゆる死霊系の召喚魔術なのだが。


 見た目は空に開いた門から、ゴミを投げつけるアンデッドさんの図。

 である。

 やっぱり即死魔術も効かないわよねえ……。


 まあ、とりあえずの足止めはできているか。

 四方を結界で覆われた大海原と、砂浜を想像して欲しい。

 その中では、軽く七度の世界崩壊を起こせるほどの大規模魔術がさく裂している。


 いつかお父様に喧嘩をふっかけるためにストックしていた魔術を、ぶっ放し続けているのだ。


 はっきりと言って、冗談抜きで、中規模な異世界なら跡形もないほどに粉砕できる魔術攻撃なのだが。

 これでまだ動いている相手はどうかしている!

 結界の外でこちらを眺めているホークアイ君の音波の声が響く。


「アカリさん! ヤツの詠唱が始まっています! 来ますよ!」

「オッケー! いやあ! 本当に便利ね、その異能! あなたがいてくれて本当に助かってるわ!」


 ホークアイ君が相手のわずかな声を拾い。

 詠唱のタイミングをこちらに教えてくれているのである。

 生徒の一人が声をあげる。


「日向さーん! 次のタイミングで、そっちにテレポーテーションでハンバーガー送るから!」

「サンキュー! 助かるわ!」


 空間転移の異能を持つ生徒もいて。

 あたしの栄養補給もバッチリ!

 魔力の消耗が結構凄いから、食べ物で回復する必要があると告げた結果である。


 別にあたしが食いしん坊なわけではない。


 ギシリトールの剥き出しの歯ぐきが、グギギギギギギ!


『オデは! オデは! ずっと! ずっと! 一緒に居るううう! 神父、かわいそうかわいそう、かわいそう!』


 ギシリトールがあたしの横で、救世主の異能で浮遊するディカプリオ君を眺め。

 再生し続ける腕を伸ばす。

 折れかけた巨神の腕の先から、骨が伸び――神経と筋肉が再構築され。


 ブシゥゥゥウウウウウウウウゥゥゥ!


 拡散する、シャワーのようなビームが四方八方から飛んでくる!

 すかさず池崎さんが、無精ひげを邪悪な赤い魔力で輝かせ。

 ニヒっと口角を釣り上げる。


「神父を狙うってのが分かってるから、ある意味で楽なんだが――な!」


 発生したタバコの煙から生まれた魔竜が、拡散ビームに噛みつき。

 あぐり!

 むっしゃむっしゃとその腹の中へと飲み込み、消去。


 いつの間にか魔竜を使役する力を得ているようだが……。

 これって……、あの肉のせいなのだろうか……。


「いまだ嬢ちゃん! でかいの一発かましてやりな!」

「言われなくても!」


 あたしは装備した虹色に輝く聖剣を頭上に翳し。

 ニヒィ!

 夜空に輝く白銀の月を示し!


「降り注ぎなさい!」

「って!? おいこら! そんなの落としたら地軸とかがズレるってレベルじゃねえだろう!」


 と、銜えていたタバコを落としかけ、池崎さん。

 そう、あたしが落とそうとしているのは夜空に輝く満月。


「安心して、アレをコピーして現実的なサイズに圧縮して投擲武器:《燃える炎の弾丸星》にするだけよ!」

「だぁあああああああぁぁぁぁ! オレが心配してるのは地球とか月とかがどうなるかじゃねえ! あんなのを落としたら、その反動が――」


 構わずあたしは悪戯猫の顔で、瞳と髪を赤く染め上げ。

 宣言!


「いっけぇええぇぇぇ!」


 閃光が――夜空を染める。


 月の魔力をコピーした天体が、楕円状の弾丸となってギシリトールの胸を貫通。

 クリティカルヒット!

 今までの攻撃の中では一番の足止めとなっている!


 巨神ともいえるその身体の半分以上が吹き飛んでいるが。

 まあこれでもきっと再生してしまうはず。

 問題は、大地も結界で防いでいるとはいえ、圧縮された月の質量が衝突したことによる影響か。


 それはおそらく、普通なら全世界を巻き込み滅びを齎す現象。

 当然と言えば当然で――。

 世界の滅びに救世主の異能が反応したのだろう――ディカプリオ君が、ぎょっと顔色を変えて糸目を開く。


「結界内全体に反動の衝撃波が来ますよ! あ、あれどうするんですか!?」

「大丈夫よ、月は夜に生きるネコにとって魔力の塊みたいなもんですもの。つまり、三分の一がネコのあたしを含めて、ネコの化生けしょうであるパンデミックも池崎さんも強化されるわ。あの二人が同時に本気で防ごうと思えば、まあなんとかなるでしょう」


 というわけで。


「よろしく~!」


 闇の霧二人が、器用にイカリマークを浮かべて。


「てめえ! ある程度力をぶっ放せる機会だからって、魔術の実験してやがるだろう! 反動を防ぐこっちの身にもなってみろ!」

『うぬぬぬぬ! だから、ファンタジーは嫌なのだっ』


 うわ。

 同一存在だからパンデミックが池崎さんみたいなことを言っている。

 まあそういいつつも、あたしの異能でもある《猫使い》の能力によって強化、使役される二人が瞳を赤く染め上げ――!


 ざざざざ、ざあぁあああああああああぁぁぁぁあああああっぁぁぁぁぁあぁ!


 憎悪の魔性の力を発動!

 衝撃を完全に相殺してみせていた。

 これは月の魔力とあたしの異能による強化、いわゆるバフのおかげである。


 さすがあたし、反動の事まで計算するなんて偉い!


 これでしばらく余裕ができるといいのだが。

 ……。


 あたしの目の前で、半分砕けた肉塊がぐにょり!


 骨が再生され、皮膚の表面に、無数の歯ぐきが生まれ。

 そのまま歯が生え、舌も生え。

 詠唱が始まる。


あなたが、それを望むなら! 永遠。望むなら!』

「うへぇ……まーた再生しちゃったのね。腕からも詠唱できるなんて便利だけど、やっぱり真似したくはないわねえ……」


 見た目って、結構大事だしなあ。

 頬を掻くあたしの横で、ギシリトールを見つめるディカプリオ君が眉を顰める。

 心を痛めているのだろう。


「ギシリトール……」


 いや、だれのせいでこうなってるのよ。

 と言いたいところなのだが。

 この人……妙に改心しちゃったせいか、色々とやりにくいなあ。


「あなたは、わたしのために、こう……なってしまっているのですね。わたしは、本当に、いままでなんということを……して……」

「弱音もいいが、てめえも力を貸せ! 糞神父! 万能な異能を持ってるんだ、こっちにも補助の奇跡をかけ続けろ!」


 池崎さん、本当に何度も神父に邪魔されてゲームオーバーになっているのか。

 めちゃくちゃ辛辣なのよねえ……。


 まあ、ディカプリオくん本人にも、ああいう暴走する素質があったとはいえ。

 今回のルートだとパンデミックに憑依されたのが原因だしなあ。

 あたしはパンデミックにジト目を送るのだが……。


 こっちはこっちで、正当な理由で人類を憎んでいる魔性。

 無関係の人間まで巻き込んでいる点は非難できるが、やられたことの仕返しをしているネコと考えると、やはり正当性は存在する。

 人間不信となった死者たち……魔女の呪いまで吸っているからなおさらである。


 なかなかどうして、あまり責めにくいからなあ。

 結局。

 あの時、人間がネコを不当に迫害したことから全てが始まったのだから。


 大きく俯瞰的な――。

 いわゆる神の視点で見るとだ。

 人間の自業自得なのよね、この事件って。


 ネコだからと殺されたのだ。

 ならば、人間だからと殺されて何が悪い。

 ネコを含んだあたしから見ると、そう思えてしまう部分もある。


 なんて。

 今はそんなことを考えている場合じゃない。

 敵は再生し、既に詠唱を開始している。


「ま、ずっと一緒に居たいと願ったのは確かにあなたよ。けれど、ギシリトールが暴走しちゃってるんだから……それを止めないと世界は終わるわ、本当にね――。悪いけど、手加減なんてできない。こっちは全力でやってこれなんですから」

「はい――理解しています。だから、わたしはわたしなりに、ケジメをつけるつもりです」


 パァァァァっと後光を纏い。

 ディカプリオ君が救世主の異能を再発動!

 周囲に神による祝福を発生させる。


「主よ! 我らが父よ! 我と共に歩む同胞に、神の剣をお与えください」


 まあ単純だが効果の高い、能力強化魔術のようなものと思ってもらえばいいだろう。


 狂ってしまったアレを助けたい。

 そう言いださないのは、正直ありがたい。

 心情的には、まあ、ちょっとアレに同情する部分もあるのだが……。


 さて、相手の詠唱をそろそろ止めないと。

 あたしはネコ使いの異能で、二人を強化!

 闇の霧となっているパンデミックと、闇の霧を纏っている池崎さんが同時に吠える。


『《沈黙せよ(サイレンス)》!』


 巨神となったギシリトールの腕の亀裂。

 詠唱し続ける口に、ジッパーが生まれ。

 キュゥゥゥゥウゥゥゥゥゥル!


 詠唱妨害成功である。

 しかし、それも一瞬だけ。

 ググジュジュジュジュジュウウウウグジュジュジュ――!


 鋼が溶けるような音が周囲に響き渡る。

 これは相手の状態回復能力。

 閉じられた腕の口を、解除しようとしているのだろう。


 闇の霧から人間の姿に戻った池崎さんが、ぐぬぬぬぬっと眉間を尖らせる。


「ったく、キリがねえな」


 まあ、そう言いたくなる気持ちも分かるが。


「分かってはいたけど、凄いわね――。相手はループの分だけ残機があるみたいなもんよ、それも、一回のループで最低でも一個は聖遺物を取り込んでるわけだから。あなたが記録してあるあの攻略ノートの回数分は再生するって考えるしかないわ」

「あ、あの――アカリさんのお兄さん、つまりあの方の息子さんたちが到着したとして、本当になんとかなるのですか。これ」


 ディカプリオ君の心配も分かるが。

 あたしは、エヘヘヘっと笑顔で返答。


「大丈夫よ! あたしのお兄ちゃんたちは最強なんだから!」


 っと、いかんいかん。

 ついついお兄ちゃん自慢をしてしまった。

 ちょっと訂正でもしようかと思った、その時だった。


 あたしの維持していた結界が。

 不意に軽くなった。

 破られたのではない、誰かがあたしの結界を引き継いだのだ。


 これは――。


「ったく、しゃあねえなあ。アカリはよぉ! お兄ちゃんがいねえと、そんなにダメか?」


 あたしの頭を、ポンと叩いたのは――。

 燃える炎の身体を煌々とさせる、不良っぽい見た目の大精霊。

 炎兄である!


 こういう時だけは、本当に格好よく見える兄の、不敵な顔が。

 そこにあった。


「オレ様、参上だぜ! 待たせたな、バカ妹!」

「お兄ちゃん!」


 よーし! これでなんとかなる!

 と思った矢先だった。

 なぜか炎兄は、ツカツカツカと空中を器用に歩き。


 ドスン。


 池崎さんと、ディカプリオ君の前でヤンキー座り。

 頭上に、燃える炎の眉を尖らせる――超特大なネコの幻影を浮かべ。

 めちゃくちゃドスの効いた声で、世界を揺らす。


「事情は全部聞いていたが――てめえら、オレ様の妹に手を出したらぶっ殺すかんな? ああん? 分かってんだろうなぁ!?」


 それはもう、サメのようなギザ歯を尖らせ。

 本体ともいえる巨大猫と一緒に、二人を威嚇なさったのでした。

 ……。


 緊急事態になにやってんのよ……。

 これ、月兄も後で到着するだろうけど……。

 同じこと、するんじゃないでしょうね?



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― 新着の感想 ―
[一言] 黒船騒動の「夜も寝られず」って この手の興奮した野次馬やら 野次馬のやらかしの対応のせいらしいね(目反らし 上も下もシスコンぶりが酷ぇなあw
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