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第十一話、異能力者学校とあたしの秘密!



 強制転校となった異能力者達の学校。

 その応接室のソファーにて。

 紅茶と甘いバターお菓子の香りの中。


 日向ひなたアカリこと、美少女女子高生なあたしはブスー!


 例の二人。

 着崩した高級スーツと無精ひげが特徴的な、三十路を過ぎたおじさん。

 自称、《煙の魔術師》こと池崎ミツルおじさんと。


 嘘を見抜く能力者の巨乳秘書。

 うふふふ微笑の似合う、大人のお姉さんな大黒さんから転校案内を受けていたのだが――。

 あたしの機嫌は悪いままだった。


 そりゃそうである。

 いきなり危険度SSS認定してきてさ?

 強制転校を指示してきたのだから。


 なによなによ!

 あたしはこんなにかわいい女子高生なのにぃぃぃぃ!

 お釈迦様だって眉間にシワを寄せてしまうだろう。


 魔猫三匹を侍らせているあたしは。

 露骨に眉を尖らせ。

 ムスゥっと嫌味なファーストアタック。


「で? どう言い訳をしてくれるのかしらぁ? 女子高生に命を助けられた、ミツルのおじさま?」

「しゃあねえだろ、これでもこっちはお前さんの権利と自由を守るために、けっこう頑張ったんだからな?」


 おじさんが、タバコを吸おうとスーツに手を伸ばすも――こほん。

 お目付け役の大黒さんの咳ばらいで、一蹴。

 大のおとなの、ゴツゴツとした指は止まる。


 ここも禁煙なのだろう。


「まあ、聞け。これはあくまでも仮入学。危険がないと判定されるまでの超法規的措置なわけでだな?」

「ちょう、なんちゃらって言われても分からないし」


 べ、別に勉強不足ではない。


「ごめんなさいね、アカリさん。やっぱりあのダンジョン化した廃墟の監視や、捕まえた異能力犯罪者の件もあったので……池崎さんだけでは庇いきれなかったのよ」


 告げて大黒姉ちゃんが、女子高生のあたしに頭を下げていた。

 大人が本気で子どもに頭を下げる。

 それって、たぶん、まあなかなかできることじゃないとあたしは思う。


「オレもしばらくはおまえさんの監視兼、教師としてこの学校に残ることになってる。まあ、十五歳前後の異能力者失踪事件もまだ続いてるしな。その護衛って意味もある」

「ん? まだ解決してなかったの? あの悪魔信仰者のお姉ちゃんを捕まえて解決したんじゃ」


 手持ち無沙汰の指同士を合わせ。

 くるくるくる。

 落ち着かない様子で回しながら、おじさんが瞳をきつく尖らせる。


「それなんだが――大黒の嘘発見能力を用いた聴取によると、ヤツはただの雇われだったと判明してな。なにも知らないみたいなもんで――そもそも失踪事件を追ってるオレ達を狙ってたのは……って、まあとにかく、行方不明事件はまだ終わっちゃいねえんだよ」

「ふーん、そう。なるほどね、あなたがあたしをこの学校に呼んだ理由も理解したわ」


 ようするに。

 相手は、未成年異能力者の宝庫である学校を直接襲ってくる可能性が、ある。

 それに対抗できるあたしに、力を借りたいのだろう。


 青少年の命がかかわっている可能性もあるから。

 必死、という側面もあるのか。


「それで、今度も依頼料はあるんでしょうね?」

「ええ、今度は池崎さんのポケットマネーからではなく、非公式ですが――ちゃんとした場所から支払われます。あなたを安全で協力的な異能力者として登録したことが、逆にこういう事態を生んでしまった、そういう可能性は否定できません。ごめんなさい、アカリちゃん、あなたを庇いきれなくて」

「まあ、そういうこった……その、悪いな」


 教師としての威厳もあるのだろう、軽く頭を下げた程度だった池崎ミツル氏。

 けれど、その頭を――。

 グググググ!


 大黒さんは上司だろう男に反省を促し。

 にっこり秘書スマイル。


「悪かった、この通りだ!」

「はぁ……――」


 ここはこっちが大人になるか。

 協力をお願いしたいこともあるし。

 アカリちゃんって親しく呼んでくれた大黒さんにも応えたい。


「まあ、あなたたち二人が悪い人じゃないってのは知ってるし、本当に庇いきれなかっただけなんでしょうね。あたしがあそこをダンジョン化させちゃったせいでもある、ってことなら、しゃあないわね」


 二人は目線を合わせて。

 安堵の息。

 あたしは野生の危険生物かい!


「すまねえな――その代わりってわけじゃねえが、アカリ嬢ちゃんの要求はなるべく通すように、上にも伝えてある。何か要求があるのなら、オレを通して学校に言ってくれると助かるが。大丈夫か?」


 あたしは頷いた。


「それで学歴とかってどういう扱いになるわけよ」

「ん? 学校資料にちゃんと書いてあったはずだろう?」

「あのねえ、あんな細かいの読むわけないでしょう?」


 言い切ってやったのである。

 ふふふっと微笑みながら大黒さんが言う。


「えーとですね、とりあえず書類上は留学――という形になっていますので、今のアカリさんはまだ前の学校に籍を残している状態となっています。本格的に転校となってしまったらまた話が変わりますが、今のところは学歴も前の学校のままで書類上は判定される筈ですよ」

「今のところはねえ」


 前のように勝手に、ウニャニャニャニャ!

 カステラを取り出し始めたクロシロ三毛を横目に。

 こほん。


「とりあえずあなたたちの顔も立てて、おとなしくするつもりだけど。ちょっといい? わりと真面目な話なんだけど」

「ああ、互いに不信感は残したくないだろうしな。それにどうやら、君は少し常識に欠けているきらいがある。こちらの認識との誤差もあるかもしれねえな。なにかあるなら先に言ってくれるとこっちも助かるよ、お嬢ちゃん」


 ま、もっともな意見である。

 ここで怒ったりしないあたしは大人なのだが。

 ウチの三猫が爆笑してやがるので、後でお説教をしようと思う。


「それじゃああたしの簡単な自己紹介をするんだけど、その前に。まずは他言無用の契約をさせて貰うわ」

「魔導契約書ってやつか」


 齟齬がない限り、一方的な契約破棄を不可能にする魔道具である。


「覚えてるようね――んで、今から語るあたしの話の返答や回答には、ちょっと真面目になって貰いたいの。例えばそうね――冗談でも、おまえは一生政府の犬として縛り付けられるんだぁ――って、本気で思ってなくても冗談で言ったりもするでしょう? それを控えてほしいのよ」

「そりゃ構わねえが、どういうことだ?」


 構わねえと答えた時点で、他言無用の契約は完了。

 こほんと咳ばらいをし。


「もう分かってるかもしれないけれど、あたしは異世界人の関係者よ。とはいっても、こちらで産まれてるし、人間同士の子供だし、お父さんは地球で生まれて地球で転移した存在だから、あたしは自分を地球人だと思ってるわ。戸籍もちゃんとあるしね」

「ま、そんなファンタジーな力があるなら、異世界人の関係者ってのも納得だわな」


 この反応からすると、うん。

 異世界人の存在は知っているようだ。

 まあ、そういう人も含めて監視するための学校なのだろうが。


「で、機密があるから詳しく説明はできないんだけど――」


 ちゃんと前置きをし。

 あたしはまっすぐにミツルさんの目を見て。

 ドシリアスな声で息を吐く


「あたしになにかがあったら世界が滅びるわ」


 広がる沈黙の中。

 あたしと三猫がカステラをもぐもぐする音が響く。


 イケオジ未満な自らの顔に、パンと大きな手を当てて――。

 汗をダラダラダラ。

 ミツルさんが声を絞り出す。


「えーと、さっきの話からすると――冗談じゃねえ、ってことだよな」

「まあ、わりかしガチで世界がヤバいわ」


 ウソを見抜く能力者の大黒姉ちゃんが、あぁ……っとなりながらも肯定するように頷く。

 そう。

 大黒さんがいるので、ウソをついていないと証明されているのだ。


「マジかぁ……そりゃ、大ごとだな」

「大ごとなのよ、だから目立たないようにしてたのに。誰かさんの異能力者釣りで? 表舞台に引き上げられちゃったから? この地球、結構本気でピンチなんですけど、おわかりかしら?」


 ちょっと脅かしてやったのだが。

 相手も、さる者。

 ニヤリとニヒルに微笑み、無精ひげを摩り。


「でも、オレはお前さんを釣り上げたから助かったんだ。んで、おまえさんは新しいパソコンと配信周辺機器を購入できた。悪くはねえだろ?」

「ふふふ、こちらはアカリちゃんに助けられましたしね」


 大黒さんも微笑みである。

 やっぱり悪い人じゃないのよねえ、この人たち。


「前向きな発想ねえ……」

「それが取り柄なんでな。それで、何に気をつけたらいい」


 前向きなおじさんに、こっちも前向きになり。


「まず転校の事をお父さんとお母さんには黙っていて欲しいのよ。お母さんにバレるのは……まあギリギリセーフだけど。お父さんにバレたらアウト。あなたたちの、その後の保証は悪いけどできないわ」

「はは、まるで魔王の娘だな」

「あら、いい線いってるじゃない。色々と事情は複雑なんだけど、あたし、魂の血筋としては魔王陛下の孫なのよ」


 まあ他にも、めちゃくちゃ複雑な秘密が多いのだが。

 とりあえず現代日本人にも分かりやすい部分は、この、魔王の血族という点だろう。

 再び、沈黙が流れる。


 ミツルさんが肺の奥から声を絞り出す。


「あぁ、悪いんだが。魔王っていうと、ゲームとかででてくるあの魔王か?」

「その魔王陛下よ。で、お父さんはその第一の腹心、いわゆる魔王軍最高幹部ってやつで。めちゃくちゃあたしに甘いし、可愛がってくれているから」

「もしアカリちゃんに何かがあると……」


 大黒さんの言葉を肯定するように。

 クロシロ三毛が、ぶにゃははははは!

 くるくるくると尻尾を起点に、ダンシング。


『ま、この世界も無事では済まされにゃいでしょうニャ~!』

『滅びゆく世界を見るのもまた、一興♪』

『ただ、あの御方は、怠惰なりしもいと慈悲深きお方♪ とても優しいお方でございます。あなた方がそれ相応の待遇でお嬢様を扱っていれば、いきなり攻撃をしかけてくる、なんてことはないでしょうニャ~♪』


 脅しをかけているようで悪いが。


「大げさじゃなくて、本当にお父さんはちょっと怖い存在なのよ。あたしにとってはいいお父さんだし、尊敬はしているけど。それとこれとは話は別ってやつね。あたしはまだこの世界に居たい。だってここがあたしの世界なんですもの」


 配信業でまだ成功してないし……っ!

 それに、ニャンターニャンターの結末を見るまでは――。

 ぜぇぇぇぇったいに、残ってやるんだからっ!


「ふむ、現代日本に紛れ込んだ異界魔王のお姫様、か。まるでファンタジーだな」


 そう。

 文字通りあたしは現代日本に花開いたファンタジーなのである。

 ねえねえ! いまのちょっと格好よくない!?


 ミツルさんは、渋く苦笑し無精ひげを摩り。


「この件はオレと大黒だけで止めておく。お嬢ちゃんのその血筋を利用しようとするバカがでても面白くねえからな」

「そうして貰えると助かるわ」


 ふふんとあたしは美少女スマイルである。


「あと、こっちはそれほど大きな問題じゃないかもしれないけど」

「おいおい。まだあるのかよ……」

「あのねえ! こっちはおとなしく、一般市民生活を送ってたのよ? そっちが巻き込んだんでしょうが!」


 事実なので、ミツルさんは、ブスーっと瞳と口を尖らせたまま。

 大黒さんは、ふふふふっと笑っている。


「あー、わかったわかった! オレらが悪かったよ、で? なんだ、その問題ってのは」

「たぶん戸籍も調べてるだろうし、あたしの調査もしてるだろうから知ってるだろうけど。あたしにはお兄ちゃんが二人いるのよ、そっちを怒らせても、たぶん世界がヤバいわ」


 当然、大黒さんの嘘発見能力の判定は真実。


「で、お兄ちゃんたちはあたしと違って、そこまでこの世界に執着がないだろうし。あっちで産まれたらしいから、滅んじゃったら滅んじゃったで、異世界に帰ればいいと思ってるのよね。だから、今のあたしみたいな状況を強制されたら危険だから、気を付けてほしいのよ」


 ミツルさんがジト目で言う。


「おまえさん、歩く核爆弾みたいな家庭環境だな」

「否定はしないわ。だからこそ目立たないようにしてたんだし」


 否定しなかったことが、逆にインパクトとして相手に伝わったのだろう。

 ガシガシと髪を掻き、男は言った。


「すまねえ、今の言い方はオレが悪かったな」

「別に気にしてないし……と、とにかく! 長男の炎兄は、まああたしの考えをたぶん一応は汲んでくれると思うわ。なんだかんだで、あたしの事情を考えてくれてるし。でも次男の月兄は――」


 言葉を選ぶあたしに。


「なんだ、やべえ兄ちゃんなのか?」


 んー、なんつーか。身内の話って難しいな。


「あたしに激アマで、超いいお兄ちゃんなんだけど……それは身内にだけ。ネコみたいな性格で、外部にはすんごい気まぐれなのよ。で、能力もお父さんに一番近いの。何をするのか分からないから、炎兄はともかく、月兄がもし敵に回ったら面倒になるって事だけは、覚えておいてちょうだいな」


 ま、そんなことはたぶん。

 ないとは思うけどね。


 とりあえず直近の注意事項を語り。

 あたしは担任(笑)となるミツルさんに案内され、校内を見回ることにした。

 案内されるだけだから、たぶん。


 トラブルなんてないわよね?



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