第一話、あたしは絶対にやらかさない!
普通に生きる。
それって言葉にすれば単純だけど、いざ普通に生きようとすると結構むずかしいと、あたしは思う。
そもそもよ?
普通の基準、定義をまずは決める必要があるだろう。
基準を定めようとする知的なあたし。
とってもイケてるわね?
そんなわけで!
現在はポカポカ太陽も気持ちいい朝!
登校時間!
詩的で知的でクール美少女なあたしは絶好調!
気分ルンルンでスキップ状態だったりする!
あだ名はアカリン。
本当の名前は日向朱莉!
どこにでもいる普通の女子高生である。
まあ、ちょっと秘密があって、学校のみんなに内緒でゲーム配信をしてるんだけど。
うん。
それもいつかは秘密じゃなくなる。
なぜかって?
そりゃあ大人気になって、隠す必要がなくなる予定だからである!
信号待ちの間。
反射する街のショーウィンドウで髪を整え。
ちょっとだけ塗ったリップをチェック、よーし!
ニコっと美しい笑みを作っていた。
いや、美しい笑みを作っていたと言うと語弊がある。
なぜならあたしははっきりと言って自慢だが。
そう……。
めちゃくちゃカワイイのである。
いやあ? このままついうっかり?
ゲーム生放送の配信中に顔を出しちゃったりしたら?
――ええぇぇええぇぇぇ! アカリンってそんなに可愛かったの!
――モデルになっちゃいなよ!
――いや、女優になるべきだって、絶対にさ!
なーんて、ネットの信者たちが発狂してくれるくらい美人だという自覚はある。
ま、まあ胸はまだ成長途中だけど……。
それは仕方がない。
だってそりゃあ、歳の問題である。
まだあたしは十五歳。
これから成長する余地のある、将来有望な期待株。
顔出し配信ができないのは、胸に自信がないから……ってのもあるけど。
あんまり目立つなと家族に言われているせいもあるだろう。
家庭の事情、というやつである。
と! とにかく、あたしは絶対に配信者として大成功すること間違いなし!
だってあたしはものすごい、ラッキー人間なのだ!
昨日だって、ふふ、ふふふふふふ!
そう!
先輩人気配信者のジョージ尼崎さんにコラボ放送の打診を受けちゃったんだから!
「これはバズるチャンスね……!」
あたしはニヒヒヒっと笑いながら、自らの制服を眺めてしまう。
そう!
制服も滅茶苦茶かわいかったのだ!
「よーし! 胸が成長したらっ、配信用のカメラを買いなおして? 顔出し配信で、大人気間違いなし! 絶対に儲けて、一生遊びながら暮らしてやるんだからね!」
と、将来スイカ並みになるだろう成長途中の胸を張った。
その時だった。
危ない! そんな悲鳴が街の空気を切り裂いていた。
キィィイイイイイイイイィィィィィ!
音がした。
急ブレーキの音である。
よくある暴走トラックのようだ。
「ちょっと、なによ人がせっかくいい気分だったのに……って」
あたしの思考は加速していた。
いわゆる集中状態、ゾーンである。
ここは駅近くの交差点付近。そりゃあ通勤中のサラリーマンや、登校中の学生さん。
お年寄りや子供など、すぐに避けられない存在もいて。
このままだと明日の朝刊の端っこで、交通事故のニュースが載ってしまう。
そんな場面である。
当然、お約束というヤツだろうか。
スーツ姿の男の人……。
神経質そうな眼鏡をかけた、メガネサラリーマンが轢かれそうになっていたのだ。
このままだと異世界転生まっしぐらである。
思わず、あたしの身体は動いていた。
助けなくっちゃ!
そう思ったのだ。
あたしは知っていた。
これはマジで異世界転生してしまうパターンだと。
「だぁああああああぁぁぁぁあ! もっと根性いれて止まりなさいよ、そこの馬鹿トラックっ! あんたも避けなさい、そこのリーマン! 異世界なんて行っても、なにひとついいことなんて、ないんだからね!」
言ってもトラックは止まらないし、メガネリーマンは怯んでいるのか動けない。
あたしは道路に飛び出していた。
「もうっ、しゃあないわねっ!」
「バ、バカか! き、きみは……どうして! くるんじゃない、危険だっ!」
轢かれそうになっていたリーマンが、あたしの背中に叫びだす。
いや、あのさあ。
叫ぶ元気があるなら、ふつうに避けて頂戴よ……。
ともあれあたしはこのままだと機械の塊で、ぺしゃん。
トラックに轢かれて異世界転生。
あわれ、うつくしい女子高生は十五にして見知らぬ土地に放り出される……。
なんてことはない。
走馬灯はよぎらない。
そんなのまとめてキャンセル、返品返金。
クーリングオフである。
あたしはネコみたいに大きくてかわいい目ねって、友達にも羨ましがられる瞳を見開き。
キリリ!
腕を翳して、スカートと髪を靡かせる!
「ざけんじゃないわよっ、この糞トラック! 人がせっかく、良い気分でいたっていうのに! 空気を読みなさい、空気をっ!」
《スキル》と《魔術》と《神の奇跡》を同時発動!
あたしはついうっかり。
力を隠す事なんて忘れていて。
ドン、シュン――ドゲシ!
トラックに、女子高生の麗しい足が突き刺さっていた。
まさに漫画の一ページ。
轢かれそうになっていたリーマンを守りつつ!
回し蹴り!
振り上げた足で居眠り運転のトラックを受け止め、事故を未然に防いでいたのである。
ふっ、決まった!
基本コメディ、たまにシリアス。
異能が発生した現代日本で、別枠である異世界魔術を扱う女子高生(異界の皇族)のお話です。
猫や犬が好きな方も、ぜひ。
【2022/4/23(土)完結】