明日、世界が滅亡する。
初作品です。
どうか暖かい目でご覧下さい。
「なあ、世界が終わるってなったらお前は何する?」
「うーん…どうせ終わるならドカンと大犯罪でもしてみたいなぁ」
「くだらねぇなw 俺は家族とどっか出掛けたいな」
「いやいや、明日終わるなら好きな人に想い伝えちゃうでしょ…!成功したら幸せなまま死ねるんだぜ?」
「「おお〜ロマンティックゥ〜!」」
どこにでもありふれた普通の会話。
誰もが1度くらいはしたことがあるだろう。
―もし、世界が終わるなら―
まだ終わらないと思っているからこそ大口も冗談も言えるのである。
「こんなこと言ってるけどさ、終わりまで1ヶ月くらいだぜ?冗談ばっか言ってないで何するか本気で考えようぜ。」
だが、世界は残り28日で終わりを迎える。
空が絵の具のような青色になり、地平線にかけて赤く濃く染まる。低い空には雲とは言い難い多くの十字模様、高い空には一直線に進む数個の流星。
これは世界が終わりを告げる合図なのである。
――――――――――――――――――――――――――――
「世界滅亡まで残り14日。2週間となりました。残り1日までは皆さんに穏やかな日常の大切さを感じてほしいと思っております。24時間を切った時にはできる限りの自由を国民の皆様方に約束したいと考えております―――」
政府は24時間を切るまで同じ内容を国民に伝えた。もちろん全員が納得できるわけではなかった。
だが全員が同じ時に終わるということもあり、受け入れざるを得なかった。
そして、
「世界滅亡まで残り24時間を切りました。最後の大切な1日を幸せに過ごせるよう、心からお祈りします。これにて最後の放送を終わりとします。これまで誠にありがとうございました。」
ついに24時間を切ってしまった。
―――――――――――――――――――――
09:02
「結城、もう何するかは決めてあるんでしょうね。」
「うん。11:30までは学校で友達と会ってくるよ。」
僕は遠藤結城。今日は友達と会って、家族と出掛けて、美味しいご飯を食べて、それから…最後に想いを伝えたい。片思いの、梓さんに。
「じゃあ父さんとちょっとだけ出掛けて来るわね。」
「わかった。どこに行くの?」
質問をした途端、横から父が出てきて顔を赤くして言う。
「…父さんと母さんの思い出巡りだ。まあ…つまり…デートってやつだ。」
「ふふっ。まだまだ2人とも若いね〜。じゃあまた、気をつけてね。」
09:08
結城は少しからかいながら学校へ向かう。
少し寒い。もう少し厚着をしてくればよかった。
…そういえば、この道を通るのももう今日が最後なのか。学校で友達と何を話そうか。
そんなことを考え、歩いていると少し異変に気づいた。
結城は24時間を切った時にはもっと世界は荒れるだろうと思っていた。最後を理由にして犯罪が数割か増えてもおかしくないだろうと思っていた。
だが実際はどうだろう。静かだ。すれ違う人々は皆穏やかな顔をしている。
きっと犯罪を起こしたところで手に入るのは「幸せ」ではないということに気づいたのだろうか。
09:36
そんなことを考えていると、
「おーい!えんどー!」「結ー城ー!」
…もう学校か。いつもの道が短く感じた。同じ道を歩いているはずなのに、いつもの何倍も。
友達とはこんなに安心するものだったのだろうか。
声を聞くだけで嬉しくなる程だったのだろうか。
「よ。相田、ヤザキ。」
昔から仲の良い相田と、部活仲間の宮崎。
こいつらとの挨拶もこれが最後だと思うと少し寂しい。
「テメー、最後までヤザキ呼びか。最後くらい普通に呼べ。」
ヤザキに軽く怒られた。宮崎よりヤザキの方が個人的にしっくりくるから気に入ってたんだけどな。
「はは。わりぃわりぃ。もうみんな来てるんだろ?行こーぜ。」
俺たち何気ないくだらない会話をしながらクラスメイトの元へ向かう。
09:43
「おはよっ。大体来てるんだな。」
クラスの皆は…3分の2くらいは来てるか。残りの3分の1はきっとそれぞれで最後を過ごしているのだろう。さてさて梓さんは…
「…オイ、梓ちゃん探してるだろ。わかりやすすぎ。」
バレた。相田は相変わらず勘が鋭い。
僕の行動はそんなにわかりやすいか。ちょっと目をキョロキョロさせただけだぞ。
「うっせ。なんでわかるんだよクッソ。わかったとしてもすぐ口に出すのやめ…あ、梓さん!」
見つけた。今日もやっぱり可愛い。
「ゆーきくん、おはよっ。なんか…今日で終わるって考えたら寂しいね。」
話しかけてくれた。しかも名前を呼んでもらえた。嬉しい。
「こんばんは梓さん。今日はいつもより…き、綺麗だね。」
どうせ最後なんだ。少しくらいキザなセリフを言っても許されるだろう。
「えへへ、今日が最後だからって変なこと言っちゃって。らしくないなぁ。」
しっかり見抜かれてた。けど梓さん恥ずかしがってる…?自分の言葉で照れている女子とはこんなにも可愛いのか。女優やタレントなんて比にならない。胸が熱くなってきた。
結城は友達と、今日何して過ごすかや今まであった思い出などを語り合った。時間というものは過ぎるのが早い。
2時間以上も夢中になってしまった。
これでこいつらとも最後なのか。
やっぱり最後は笑顔で手を振ってかっこよく「じゃあな」だよな。そんなことわかってる。わかってるのに、なのに…
「……じゃ、あな…。」
最後に少し泣いてしまった。梓さんに見られてないだろうか。とても恥ずかしい。相田とヤザキが僕以上に涙を流していたのが唯一の救いだった。
そして、結局想いは伝えられなかった。
12:16
世界が終わるまで残り12時間になってしまった。
とても早い。いつもは1日がとても長かったのに。
「ただいまー!ごめん、ちょっと遅れた」
父さんと母さんはもう帰ってきていた。
どこに行って何をしたのか少し気になったが聞かない方が良いと思い、聞くのはやめておいた。
「大丈夫だ。父さん達もついさっき帰ってきたばっかりだ。」
「家族揃ったし、ご飯にしよっか。何がいい?」
もうお昼か。何を食べようか。温かいものならなんでもいいんだけど……あ、
「じゃあ、あったかいうどんが食べたい。」
寒い日はよく母さんの作るうどんを食べていた。母さんのうどんは体だけじゃなくて心まで温まる。母の力というやつだろう。
「わかった。いつもより美味しいうどん作るからちょっと待っててね。」
さっさと準備をしようとした母さんに
「俺も手伝うよ。お湯やっとくから具材切ってくれ。」
と、父さん。さりげなく人を助けることができる。こんなところに母さんは惚れたのだろうか。確かにかっこいい。
………昼食の後はどこに行こうか。出掛けるとは言ったものの何も考えてなかったなぁ。
この辺で楽しめそうな所は…
遊園地?乗り物は運行しているのだろうか。
映画?非現実的な現実の中、作られた物語を楽しめるのだろうか。
とりあえず、ドライブを提案しよう。ドライブの途中で行き先を決めればいいか。
12:37
「うどん、できたよ。お肉いつもより多く入れといたから。」
「ありがとう。じゃあ、」
「「「いただきます」」」
家族で「いただきます」を言うなんていつぶりだろうか。家族で飯を食べることはあっても、いただきますを言うことはほとんどなかった。
「…美味しい」
美味しい。もちろん、いつも美味しかった。けど今日のうどんはいつもより美味しい。肉が多いからか?今日が少し寒いから?なんて考えてみたが多分違う。「家族皆で食べている」と感じているからだ。空腹を満たすだけの飯ではなく、家族皆で食べる飯というものを意識しただけでこんなにも美味しく感じるものなのか。
12:51
「「「ごちそうさまでした」」」
母さんは今日で終わりというのに、しっかり皿を洗う。母さんはどこまでいっても母さんなんだなぁと感じた。
「結城、どこに行きたいかは決まっているのか?」
父さんに聞かれてしまった。結局何も決まってないから…。
「ドライブがいいな。目的を決めずに。けど夕飯までには帰りたいな。」
両親の反応は大丈夫だろうか…?
「へぇ〜、いいじゃない。ねぇ、父さん。」
「あぁ、結城にしてはいい案じゃないか。」
まったく、母さんはいいとして父さんは僕が何を言うと思ってたんだ。まあドライブが通ってよかった。
1:07
ブロロロロロ……
エンジンがかかる。
車の中はまだ冷えていたが、だんだん暖かくなっていった。
「いやぁ、ドライブなんて何年ぶりだろうねぇ」
助手席の母さんが父さんに問いかける。
父さんは前を見つめながら、
「うーん…。結城が生まれる前、十七年ぶりくらいか…?」
「ということは僕が生まれる前にドライブデートに行ったってことか…。」
僕がニヤニヤしながら言うと運転席から父さんが
言う。
「ドライブデートくらいいいだろ!その頃は近くに大きな店とか映画館とかなかったからドライブデートなんかよくしていたもんさ。」
「へぇ〜。よく行ってたんだ。昔から仲良いんだね」
―――――――――――――――――――――
僕達家族はドライブを楽しんだ。家族とはこんなにも安心できて落ち着くような存在だったのか。終わり間際に気づいた自分が愚かだ。
家族皆でこういう会話をするのもなんだか懐かしい感じがする。
父さんと母さんの学生の頃の話。
父さんと母さんが付き合った頃の話。
父さんが母さんにプロポーズした話。
父さんと母さんの結婚した話。
僕が産まれたときの話。
僕が初めて喋った話。
僕が幼稚園児のときの話。
僕が小学生のときの話。
今の僕の話。
今の父さんの話。
今の母さんの話。
たくさん話をした。今まで知らなかったこと。何度も聞いた同じこと。懐かしいこと。覚えていないこと。ドライブ中、会話は絶えなかった。ずっと誰かが話していて、ずっと誰かが笑っている。幸せだった。どうして今になって気づくのだろう。今ようやく気づけた僕は愚かかもしれない。けど今終わる前に気づいた僕は幸せなのかもしれない。
――――――――――――――――――――
ふと外を見ると大きい観覧車があった。
「ねえ、あの観覧車行きたい」
わかりにくいがゴンドラが動いている。運行しているのか。どうして…?
「いいけど…あ、動いてる。じゃあ行こっか。」
家族は観覧車のある遊園地に車を走らせた。
03:58
観覧車は近くで見るととても大きかった。想像以上だった。この大きさには中学生でも少し興奮する。
近くの駐車場に車を停め、観覧車へと足を運ぶ。
「こんにちは!何名ですか?」
1人のお姉さんがいた。なぜだ。どうして最後の日というのに働いているのだ。
「3人です。なぜまだ仕事を…?」
父さんが聞いてくれた。どうやら同じことを思っていたらしい。
「最後まで…やりたかったんです。最後までこの仕事をしたかったんです。最後の日に何をしようと考えても何も出てこなくて。最後までお客様のためになにかしたいなと思って…!でもでも、結構来て下さる人いるんですよ!ただでさえ大きいのに動いているから惹かれるんでしょうか。」
従業員の人は会いたい人がいなかったのか。やりたいことがなかったのか。この仕事が好きだったのか
。理由を考えてみた。信じられなかったのだ。仕事は辛いものだ、大変なものだと思っていたから。
終わりの間際まで「人のため」か。とても暖かい人だ。世界にはこんな人がいるんだと実感することができた。
「すごい…綺麗。」
母さんは外の街を見て言う。
終わりの街とは、終わりの空とは、世界の終わりとはこんなにも綺麗なのか。不思議な感覚だった。
「俺達の家は…あの辺か?」
「違うわよ。こっちの方よ。ほら見てあの遠くの看板。」
父さんと母さんの会話。
観覧車に乗ったら何故自分達の家を探すのだろう。やっぱり自分の家が恋しいのか。わからない。
疑問を抱えながらも観覧車のゴンドラは上へ上へと登っていく。
観覧車の中では「来世は何になりたいか」なんて話をした。冗談すら出てこなかった。いつもだったら犬や鳥や木になりたいなんて言えているのに。来世、というか今との別れが近いからなのか。来世は何になりたい、よりももう少し今を生きていたい。と感じていた。だけど後8時間もない。
ゴンドラが下へ向かうことには晩御飯の話になっていた。
「そういえば結城、今日何食べたい?」
母さんが僕に聞く。
言葉通りの最後の晩餐だ。最後だからこそ日常的なものが食べたい。
「僕は…普通のご飯でいいよ。味噌汁にお米におかずが2.3品。そんな普通のご飯がいいな。」
「そう、わかったわ。お母さん頑張るわね。」
そんなごく普通の会話をしている間にもう観覧車も終わりだ。
04:21
「ご乗車ありがとうございました!本日は誠にありがとうございました!」
従業員のお姉さんは丁寧にお辞儀をした後、元気に手を振った。
「じゃあ帰るか。我が家が待ってる。」
父さんはそう言いながらエンジンをかける。
家まで2時間くらいだろうか。少し眠い。
軽く睡眠をとっておくか。
―――――――――――――――――――――――
「うぅ…。今どの辺だ…?」
随分寝てしまっていたらしい。起きた頃にはもう、見慣れた景色だ。だけど雪が少し降り積もっている。
「もうすぐ着くぞ。母さんのこと起こしてやってくれ。」
母さんも寝ていた。疲れていたのだろう。
「母さん、そろそろ家着くって。」
母さんは目を擦りながら辺りを見回す。母さんも雪が積もっていることに驚いていた。
6:37
家に着いた。
父さんと母さんは夕飯を作っている。
はぁ…後6時間もないのか。
今まで過ごしていた世界が終わるんだ。その思いがどんどん強くなる。
今何をしようと6時間後には世界の終わりと同時に終わる。
そんなことを考えていると、ポケットに入っていた携帯がなる。
相田からのメールだ。
『暇か?時間あったら21時に第3公園集合!!』
暇な訳ないだろ、あのバカ。世界の終わりが近づいているんだ。とは思ったが予定がある訳でもない。
まあ行くか。何すんだろ…。ヤザキもいるんかな。
「ご飯できたわよ。結城好きでしょ?豚のしょうが焼き。」
夕飯ができた。小さい頃、豚のしょうが焼きを食べて一言「美味しい」と言ったことをきっかけに、我が家は2週間に1回くらいは豚のしょうが焼きが出る。小さい頃のたった一言を今でも覚えていて作ってくれるのがとても嬉しかった。
母さんのご飯を食べるのもこれで最後と考えると少し涙が出る。今日のしょうが焼きは今まで食べた何よりも美味しかった。
「ご馳走様でした」
飯の後はいつも決まってお風呂だ。いつもは歌でも歌っているんだがそんな気にもなれない。
結城は風呂の中で今日を振り返っていた。
世界の終わりがこんなに穏やかで暖かくても良いのだろうか。僕の想像する世界の終わりはもっと人が慌てていたり悲しんでいるようなものだと思っていた。だけどそんなのは全く違っていた。
こんなもんなのか…?
「おーい。いつまで入ってんだ。早く出ろー」
父さんだ。僕は40分近く入っていたらしい。いつもの1.5倍くらいだ。考えすぎていたな。
「わりい。すぐ出るよ」
20:46
風呂から出た頃には約束の時間が近づいていた。
だけど別に急ぐ必要は無い。どうせアイツは遅れてくる。
21:04
集合場所の第3公園に着いた。案の定相田はいない。だがヤザキはいた。
「ヤザキー。やっぱお前も呼ばれてたか。」
今は友達1人に会えただけで安心感に包まれる。これが友達の力と考えるとすごいものだ。
「おう。相田のヤローはなんのつもりで呼んだんだろ」
僕とヤザキが話していると、ヤザキの頭に拳サイズの雪玉が飛んで来た。もう見なくてもわかる。
僕は目の前のヤザキとアイコンタクトで示した。
「反撃するぞ」と。
僕が玉を作りヤザキが投げる。ヤザキの雪玉はまるで投げた位置に頭が来たかのように正確だった。
見事なヘッドショットだ。
「俺に勝とうなんざ100年はえーんだよばーか。」
ヤザキが言うと遊具の影からそいつは出てきた。
やっぱりか。
相田だった。まったく、くだらないことをするもんだ。だがそこが相田らしい。
「痛ってーよバカ!どこにそんな完璧な投球フォームで雪玉投げるバカがいるんだ」
「ここにいる。」
やっぱりこいつらバカだ。もうすぐ世界が終わるってのバカのまんまだ。
2人の会話に無理やり入るように僕は言う。
「なぁ相田、わざわざ呼び出してどうしたんだ?」
「は?決まってんだろ。どうせお前ら暇だろ。遊びまくろーぜ」
ツッコミたい気持ちもあったが相田にしては面白いことを考える。乗ってやろう。
「よっしゃ、まずは続きだっ!」
言葉の終わりと同時に雪玉を投げる。それを合図として雪合戦が始まる。中学生らしくはないが子供らしい。
雪合戦、鬼ごっこ、巨大雪だるま大会。
小学生みたいなことを沢山した。皆がヘトヘトになるまで。
「あぁ〜!もう無理ぃー!」
1番先に根をあげたのは意外にもヤザキだった。こいつが1番にへばるってことはそれほど本気だったのだろう。
そして、ヤザキに続くように僕と相田もダウンした。外は寒いのに体は熱い。
3人が息を切らしている中、相田が質問してきた。
「お前らさ…今日楽しかった?後悔なく過ごせた?」
「んまあそこそこだな。何をしたところでどうせ終わるんだ。いつも通りの日常を過ごしてきたよ。結城はどうだ?」
「俺は………楽しかったよ。1日の大きさがようやくわかった。」
急に振られて少し戸惑ったがそれっぽいことは返せた。こいつらとこんな会話をするとは思わなかった。新鮮だ。
この話のすぐ後に僕達は別れた。今度こそ最後の別れだ。もう話すことも会うこともない。
家に着く頃には23時を少し過ぎていた。
僕は両親と最後の団欒の時間を過ごした。
最初の方は会話が弾んだ。
僕が両親に今までの感謝を伝えた後からは口数が減ってしまった。きっと照れくさいのだろう。
「父さん、母さん、今まで本当にありがとう。15年間、とても楽しかった。幸せだった。この家の家族で良かった。ありがとう。そして、おやすみ」
僕達家族は最後にお互いに感謝と別れを告げた。
23:54
自室にて僕は考える。
僕は今日1日を無駄なく過ごせたのか。
そもそもどの1日にも何かしらの意味があって無駄なんて存在しないんじゃないか。
残り数分となって世界に対して抱く感情が「後悔」ではなく、「感謝」だった。
短い間、幸せをくれてありがとう。
1日というものは長いようで短かった。朝起きてから今まで、話していたことは全て思い出せる。
できる限りのやりたいことはやった。もう思い残すことは
………あ。
そうだ。そうだよ。やらなきゃ行けないこと。あるじゃないか。どうして忘れてたんだ。
梓さんに、想いを伝えなきゃ。
急いで携帯を取り、連絡先から探す。
23時57分、電話をかける。
頼む。出てくれ…。
―――――――――――――――
23:57
机の上の携帯が鳴る。
こんな時間に誰だろう。
最後というのに誰だろう。
…ゆーきくんだ。
「もしもし、ゆーきくん。どうしたの?」
「こんな時にごめん。」
耳元から聞こえてくる声は震えていた。
そして3秒程が空いた。
どうしたの?と言おうとした。でも言う必要はなかった。
「梓さん。ずっと前から梓さんが好きです。学校では伝えられなかった。伝えなきゃって思ってたけど言えなくて…。こんなギリギリなのに電話なんかしたりして…」
告白だった。嬉しかった。けど悲しかった。
「ありがとう。とっても嬉しい。けど…ごめんね」
世界が今日終わらないのなら私はきっとokしていた。だって互いに好きだってことが分かったら、余計悲しくなるから。互いに好きだとわかって迎える終わりはとても、寂しいように思ったから。
――――――――――――――――――――――――
「もしもし、ゆーきくん、どうしたの?」
「こんな時にごめん。」
言葉が詰まる。言うんだ。言わなきゃいけないんだ。大丈夫。どうせ終わるんだ。
そう心でわかっていても言葉が出ない。時間的にはきっと数秒のはずだが僕にはとても長く感じた。
「梓さん。ずっと前から梓さんが好きです。学校では伝えられなかった。伝えなきゃって思ってたけど言えなくて…。こんなギリギリなのに電話なんかしたりして…」
やっと言えた。
だが携帯から聞こえてくる声は僕に安心させる間も無く僕の耳に届く。
「ありがとう。とっても嬉しい。けど…ごめんね」
返事のすぐ後に電話は切られてしまった。
正直わかっていた。無理だろうとだから今まで言えなかったんだ。だから終わる直前まで言えなかったんだ。でも良かった。言えたんだ。
僕は悲しみよりも安堵の方が大きかった。
断られたことはもちろん悲しい。けど良かったのかもしれない。もしokを貰っていたら「もっと早く言っておけば良かった」と後悔していただろう。
縛られていた心が解放されたかのように感じた。
もう、十分だ。
そして、23時59分 僕は布団に入った。
「―――――――――暖かい。」
僕は、布団の中で明日を迎える。
作品を読んでいただき誠にありがとうございます。
もう書く予定はないつもりです。